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1.ローゼンとエスメエルデの日常

新しい連載を始めました!

楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

 ボクの15歳の誕生日は、いつもと同じようにやってきた。


 なんとなく気配を感じて瞳を開けると、頭は猫耳、目にはサングラスをかけたメイド服姿の幼女が目に映る。

 湯気の立つタオルを握りしめてボクの顔を覗き込んでいる彼女は──ボクの専属メイド兼助手であり唯一無二の宝物でもある〝生体人造体ホムンゴーレム″のエスメエルデだ。


「おはようエスメエルデ」

「パンナコッタ」


 意味不明な単語を口にしながら、エスメエルデがいきなりタオルを投げつけてくる。

 ボスンという音と共にボクの顔面に命中したタオルは、温もりだけを残してゆっくりと顔からずれ落ちてゆく。

 ボクはため息混じりにタオルを掴み取ると、軽く顔を拭きながらエスメエルデに抗議の声を上げる。


「……相変わらず手荒いね、もう少し優しく渡してもらえないのかな」

「ボージョレヌーボー」


 なぜか自慢げに胸を反るエスメエルデ。

 やっぱりこの子、中枢機能に何か致命的な不具合を抱えてるんじゃないのかな?


 エスメエルデは国内に数体しかいない自律行動型の〝生体人造体ホムンゴーレム″だ。

 超古代文明時代の失われた工芸品ロストアーティファクトであるホムンゴーレムは、ダンジョンから偶然発掘されることでしか手に入らないとても貴重な存在だ。

 特に自律行動型は発見例が少ないことから、本来であれば計り知れない価値があるはずなんだけど……エスメエルデはご覧のとおり訳あり・・・なせいでイマイチありがたみを感じない。


 もっとも、だからといってボクにとってはかけがえのない宝物であることに変わりはない。

 ボクのメイド兼助手として、エスメエルデは欠かすことのできない大切な存在なんだ。


 温めたタオルで顔を拭き終えると、今度はエスメエルデがガラスの小瓶を突き出してくる。中身は化粧水や乳液といった美容系のポーションだ。


「パンチェッタ」

「肌のケアをしろっていうんだね、分かってるよ。だからガラス瓶は投げないでね」

「ブルスケッタ」


 様々な用途目的で製作されたホムンゴーレムの中でもエスメエルデは特別製だ。なにせボクが趣味と実益を兼ねて無秩序に魔改造しまくってしまったから。

 その結果、エスメエルデは元々持ってた機能以上のものを備えている。

 その機能のうちの一つが──美容エステ機能だ。


 いや、別にボクはエステになんて興味ないよ?

 だけどめったに手に入らないホムンゴーレムの強化パーツが見つけてしまったら、後先考えずに購入してしまうのも仕方ないと思うんだ。


 買ってしまったからには使わないと宝の持ち腐れになってしまう。それがたとえ女性向け強化パーツであるエステ機能だったとしても……。

 こうしてエスメエルデは、やたら美意識が高い唯一無二のホムンゴーレムと化している。


 エルメエルデは決められたケアをこなすまで、決して逃げることを許してくれない。 毎朝こうして無理やり美容を押し付けてくる。

 ボクも機能をつけてしまった手前、彼女の申し出を無碍にするわけにもいかないので、仕方なく受け入れることにしている。


 結果──ボクはやたらと肌艶が良くなったんだ。まったく誰得なんだろうか。


 ぐりぐり、ぐりぐり。

 エスメエルデの手が二つのボール型となり顔をほぐされながら、ボクは今日の予定を思い出す。


 あぁ──そういえば今日はのところに出向かないといけないんだった。


「うーん、顔を出すのは面倒臭いなぁ……」


 正直、呼び出しなんて無視したい。

 ちょうど珍しい魔草が手に入ったから、新しい魔法薬(マグメド)作りに没頭したいところだったのに。


 ……だけど、彼の元に行くことがボクの仕事なのだから仕方ないか。

 ましてや成人を迎えて正当な男爵家の当主となってしまったボクに、彼の呼び出しを断ることなんてできない。お給料が貰えなくなったら、エスメエルデを動かすための動力源──魔石を買うお金も無くなっちゃうからね。


「仕方ない、か。エスメエルデ、用意よろしく」


 エステを終えたエスメエルデが、ボクの指示に従い持ってきてくれた服に着替える。

 朝食がわりのフルーツを一つ摘んで口に入れると、鏡の前で長く伸びた髪を首の後ろでキュッと絞ってひとまとめにする。

 ピンク色の髪にピンク色の眉、ピンク色のまつ毛は今は亡き母さん譲り。随分伸びたものだけど、なぜか切る気にならないんだよね。


 昨日、途中まで終わらせていた合成実験中の魔法薬マグメドを手早く片付けると、最後に、丁寧に包装された荷物を手に取る。

 そうそう、こいつを彼に渡すことが今回の仕事の目的の半分くらいを占めているから、忘れないようにしないとね。


「じゃあ行こうか、エスメエルデ」

「ビーフストロガノフ」


 相変わらず意味不明な言葉を発するエスメエルデを連れて、ボクは邸宅を出る。

 今日これから向かう先は、王都グランヒルの中心に鎮座する王城グランファフニール。通称【白竜城】だ。


 館を出てしばらく歩くと、白竜城の関係者用入口にたどり着く。入場確認をしている衛兵に入場許可証を見せ、身体チェックを受ける。

 エスメエルデもボクに付き従うメイドのふりをして大人しくしている。彼女には特別制の許可証が必要なんだけど、衛兵も慣れたものなのか、気にした様子もない。


 白竜城グランファフニールでは、政治や経済、軍事といった国の中枢を司る多くの人たちが汗水流して働いている。まさに国の中心と呼ぶに相応しい場所だ。

 だけどボクたちは彼らが働いている執務エリアへとは別の方向へと向かって歩いていく。

 たどり着いたのは──後宮だ。


 後宮は王族が暮らす居住空間で、特別な許可が無ければ中に入ることができない。そんな特殊な空間を、ボクは案内係の侍女に引き連れられて進んでいく。

 しばらく歩いて辿り着いたのは、後宮でも端のほうにある部屋。顔馴染みの騎士の一人がボクに片手を上げる。

 騎士に会釈を返しながら扉をノックをすると、ボクは躊躇なく中に入った。


 一緒に室内に入った侍女が、ハッと息を呑むのが伝わってくる。

 それもそのはず、部屋の奥にある椅子に座っていたのは──まるで高名な画家が描いた名画から飛び出してきたかのように整った顔立ちをした人物。

 後光を背負いキラキラと輝く金髪がまるで炎のようだなと思いながら、ボクは頭を下げ挨拶を口にする。


「ローゼンバルト・ヴァン・アガスティ=ライブラリアン、ただいま参りました」

「よく来たな、アガスティ男爵──いや、ローゼン。中に入りたまえ。侍女の君、ここまで案内ありがとう」


 声をかけられた侍女は目をハート型にしたまま退出していく。たぶんのあまりの美しさに当てられて・・・・・しまったんだろう。

 それも仕方ないと思う。太陽の光を反射して輝く黄金色の髪に、切長で繊細な宝石のような瞳を持つ彼は──。


「殿下のご指示とあらばいつでも。グラウリス・バーラト・ファフニール・エル・グランバルト第三王子殿下」


 ボクがそう口にして片膝をつくと、王子殿下は──神の彫刻のように整った口元を、ぐいっと吊り上げたんだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] エスメエルデの目の前に食べ物の写真とか絵とか差し出して「これは?」って言ってみたいw
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