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第八十一話 「宝剣」


「無事に武器を作れてよかったですね、フランさん」


「う、うん。素材取りに行ってくれた二人のおかげだよ」


 王都近くにある森。

 その場所で今、僕たちはある魔獣を探して歩いている。

 ネモフィラさんから聞いた話だと、どうやら最近この森では『悪羊(デモンシープ)』と呼ばれる魔獣が大量発生しているらしい。

 見た目は角の長い黒毛の羊らしく、特殊な音波が宿った鳴き声で対象を眠らせる力があるとのこと。

 王都からも討伐を推奨されるほどの獰猛な魔獣なので、僕たちはその悪羊(デモンシープ)の討伐のために森へとやって来た。

 目的はもちろん、“神器の強化”のためである。


「こうして無事に武器は作れたけど、まだこれで完成じゃないから、ちゃんとボクが鍛えてあげないと。どれくらいまで鍛えられるかは、わからないけど」


「ロゼさんがいるので大丈夫ですよ。緊張せずに行きましょう」


 そう言ってローズとフランは同時に微笑む。

 正直、僕がいることよりも、ローズとコスモスがついて来てくれたことの方が心強い気がするけどね。

 ただ僕も全力で支援させてもらうので、フランには思い切って戦ってほしいものだ。

 本音を言うと、ヒューマスの町の周りにある、比較的安全な場所で経験を積ませてあげたかったけど。

 ただ、万が一神器を壊してしまった時、また城内工房で作り直さなければならないので、この森で魔獣討伐をする方が都合がいいのだ。


「でも、本当にこれで何か変わったのかな? 前に打った剣と、そんなに変わってない気がするんだけど……」


 フランは今回新しく作った剣を手にして、不安げに呟く。

 それは確かに、フランが以前に作ったというボロボロの剣と、ほとんど変わらない一品だった。

 どこか刃こぼれをしたような、あるいは錆びついているかのような、銅色のなまくらな剣。

 使った素材は、岩山の鉱石を主食とする鉱竜(マインドレイク)の鋼鉄のような骨で、最高級武器素材の一つとしても数えられている代物だ。

 僕が見ていた限りでも、フランの鍛治作業には一切のおかしな点はなかったので、普通ならば高品質な剣を作成できるはずなのだが……

 仕上がった品は、以前と何ら変わりないように見えるボロボロの剣だった。

 フランが不安に思ってしまうのも仕方あるまい。


「大丈夫。ちゃんと前の剣から変わってるよ。性能はまだまったく変わってないけど、今回作った神器の名前は『眠りし竜骨』になってるから」


 僕の目に映っている神器の天啓は、ちゃんと以前の剣とは別物になっている。


【名前】眠りし竜骨

【レベル】1

【攻撃力】10

【スキル】

【耐久値】50/50


 性能に違いはないが、これでおそらく発現するスキルや成長率なんかも変わっていると思われる。

 正直まだどれくらい性能が上がるかはわからないけど、泣いても笑ってもこれが今のフランの全力の一品というわけだ。


「前の剣も、ちゃんと魔獣討伐でレベルが上がることも確認できたし、どっちを鍛えても上等な武器になると思うよ。一応比較のために、こっちの剣をローズに鍛えさせてもいいかな?」


「うん、こっちこそお願いするよ」


『儚げな一振り』の神器をローズに託して、僕たちは悪羊(デモンシープ)を探すために森の奥へと進んでいった。

 フランも覚悟を決めてはいるようだが、やはりまだ怖いのか微かに肩が震えている。

 その怖さを紛らわせてあげるために、僕は雑談のつもりで話を振った。


「確か、お父さんが鍛治師で、素材採取をしてる時に魔獣に襲われたって言ってたよね? お父さんは用心棒とかを付けずに、一人で素材の採取に行ってたのかな?」


「う、うん。ボクのお父さん、鍛治師としての稼ぎが少なかったから、護衛とか付ける余裕がなかったんだ。やる気と情熱はすごかったんだけど、武器の造形がかなり“独特”で、なかなか売れなくて」


「……それは少しだけ見てみたいな」


 フランは少し気を楽にしたように、頬に僅かな笑みを浮かべる。

 それからお父さんのことを思い出しているのか、空を見つめながら嬉しそうに語った。


「ボクはお父さんの武器、すごくいいと思ってたんだけど、誰にも認めてもらえなくてさ。それでもお父さんは夢を諦めずに、鍛治師として武器を打ち続けたんだ」


「お父さんの夢?」


「……というか、鍛治師なら誰でも一度は夢に見ることだよ」


 何のことだろうかと思っていると、フランはくすりと笑って教えてくれた。


「『宝剣』って、聞いたことないかな?」


「ほう……けん?」


「簡単に言うと、その時代において“最高の武器”のことだよ」


 最高の武器……?

 それって、いったいどんな基準で決めるのだろうか?

 あまりパッとしない表現だったため、疑問符を浮かべて首を傾げると、フランはやや熱量を上げて説明をしてくれた。


「十年に一度、ピートモス王国で開催される『剣麗会(けんれいかい)』。そこには腕利きの鍛治師たちが集まって、作り上げた渾身の作品を競い合うんだ。武器の性能はもちろん、見た目の美しさまで。鍛治師の技術力と独創性が試される至極の晴れ舞台なんだよ」


「……ヒューマスの町で開かれてる武器防具専門の競売会と、似たようなものかな?」


「うーん、どっちかって言うと、剣麗会に似てるのが競売会って感じかな。剣麗会は昔からあるものだし、武器職人が現れ始めた時代に、職人たちが実力試しのために始めたものらしいからさ」


「へぇ、そうなんだ」


 ヒューマスの町で行われてる競売会は、あくまで後発のものなんだな。

 もしかしたらその剣麗会を参考にして、武器防具専門の競売会が開かれるようになったのかもしれない。


「その剣麗会で“最高の武器”と認められたものが、『宝剣』って呼ばれてるんだよ。ボクのお父さんはその宝剣に憧れて、いつかそれを作ることを夢に見てたんだ。でも、素材採取のために森に入ったところを、魔獣に襲われて……」


「……」


 その先の言葉は、フランの悲しげな顔を見るだけで、言われずともわかった。

 ゆえに何も返さずに黙っていると、フランが熱のこもった声で宣言した。


「だからボクは、いつかお父さんの代わりに宝剣を作って、一流の鍛治師として認められたいなって思ってるんだ。それがボクにできる唯一の、お父さんへの罪滅ぼしだから」

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