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第八話 「見習い戦士の育て方」


 火鹿(フレアバンビ)を倒した後。

 僕とローズは魔獣討伐のために森の散策を続けた。

 そして日が暮れる手前まで狩りを続けて、最終的にローズは七体の魔獣を討伐することができた。

 火鹿(フレアバンビ)一体。鉄鳥(アイアンフェザー)四体。針兎(ピンラビット)三体。

 長いとは言えない時間でこれだけの数を狩れたのは、駆け出し冒険者にとしてはかなり上出来である。

 その成果は天啓にもあらわれて、ローズは紙面に目を落としながらブルブルと体を震わせていた。


【天職】見習い戦士

【レベル】7

【スキル】

【魔法】

【恩恵】筋力:E110 敏捷:F70 頑強:F95 魔力:F18 聖力:F18


「し、信じられません……! 今日一日だけで、こんなにレベルが……」


 一年間でたった二つしか上げることができなかったレベルが、一日だけで四つも上がってしまった。

 驚くのも無理はない。


「こ、これがロゼさんの応援スキルの力……! とても心強いお力ですね!」


 そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。

 ただ、今回の成長に限って言えば、応援スキルのおかげだけではない。


「まあ、応援スキルの効果もかなり大きいと思うけど、それ以上に初討伐神素が急成長の糧になってるんだと思うよ」


「初討伐神素?」


 耳慣れない言葉だったようで、ローズは見るからに不思議そうな顔をしていた。

 まだ冒険者登録から一年しか経過していない駆け出しならば、知らないのも無理はない。

 というか熟練の冒険者でも知っている人は僅かだと思うし。


「“神素”って魔獣討伐の成果に応じて、天界にいる神様が僕たちにくれる“栄養”でしょ?」


「は、はい。そう聞いていますけど……」


「この“魔獣討伐の成果”っていうのは、言い換えれば“どれだけ頑張って魔獣を倒したか”っていう意味にもなるんだ。つまりは神様に『すごい』とか『偉い』とか思わせた分だけ神素をもらえる仕組みなんだよ」


 “一撃で倒す”とか“無傷で倒す”とか“鮮やかな連携”で倒すとか、そういった理由でも神素取得量は上昇したりする。

 ちなみに支援魔法でローズを手助けしていた僕にも、ほんの少しだけ神素は振り分けられている。

 それらを踏まえた上で、初討伐神素について説明をする。


「だから討伐した魔獣が、まだ倒したことのない種族の魔獣だったら、その“挑戦心”を称える意味で神様がいつもより多くの神素をくれるらしいんだよね」


「だから、『初討伐神素』って言われているんですか?」


「そそ」


 まだ未討伐の魔獣を初めて倒した場合、通常よりも多くの神素を得ることができる。

 ゆえにそれは初討伐神素と言われていて、駆け出し冒険者たちのレベルが上がりやすいのもそれが理由の一つだったりする。

 そしてローズから話を聞いたところ、彼女はまだこの森で粘魔(スライム)という低級の魔獣しか倒したことがないという。

 だから今日初めて討伐した魔獣が三種類もいて、そのすべてに応援スキルが反映されたことでここまでレベルを急成長させることができたのだろう。

 という説明をしながら森の出入り口に向かっていると、ローズが感心したように笑みを浮かべた。


「ロゼさんはすごいですね。色々なことをご存知で」


「まあ天職柄、こういうことには嫌でも詳しくなるからね」


 他人の成長を手助けする役割の天職。

 神素のことについては計らずも詳しくなってしまうものだ。


「それにしても私、てっきりロゼさんはただ冒険者の育成に詳しいだけの方かと思っていました。それなのに天職そのものも育成師で、他人の成長を手助けできる力も持っているなんて……」


「まあ、この手の天職って他にいないから、まさか育成特化の能力を持ってるとはさすがに思わないよね」


 テラさんもそこまでは話していなかったらしい。

 ローズはギルド受付嬢のテラさんから僕のことを聞いたらしいけど、ただ育成に詳しいだけの人物だと伝えられていたみたいだ。

 そこまで言うくらいなら、もう育成師の天職持ちだってバラしちゃってもいいのに。


「こんなにすごい天職でしたら、どこのパーティーからも引く手数多ですよね。これからどこのパーティーに入るとかご予定はあるんですか?」


「えっ? いや、僕は誰ともパーティーを組む気は……」


「あっ……」


 ローズはハッとした様子で頭を下げた。


「そういえば、天職のせいで色々あったって仰ってましたよね。無神経なこと言ってごめんなさい」


「い、いいよ別に。大して気にしてないし」


 そういえばローズには天職のせいで色々あったとだけ伝えていた。

 彼女はそれをうっかり忘れていたらしい。

 だから申し訳なさそうに謝ってくれたけれど、本当にそこまで気にしていない。


「い、色々あったって言っても、今は気楽に過ごせてるわけだからむしろこれでよかったって思ってるよ。この静かな日々を大切にするために、今はパーティーを組みたくないって話だから」


「そ、そうですか」


 パーティーを組むことにトラウマがあるから、という話ではない。

 始めはそのつもりだったけど、今は単純にこの穏やかな生活を邪魔されたくないから、パーティーを組みたくないということだ。

 だから重く捉える必要はない。


「……ですけど、やっぱり少し申し訳ないって思っちゃいます」


「申し訳ない? 別に僕は気にしてないんだけど……」


「あっ、いえ、そっちのことではなくて、こうしてロゼさんに成長の手助けをしていただいているのが、なんだか申し訳ないと思いまして」


「……?」


 どういう意味だろう?


「だって、どこのパーティーからも必要とされる人に、一対一で手助けしてもらっているなんて、なんだか私がロゼさんのことを独り占めしているみたいだなって」


「……」


 思いがけない台詞を掛けられて、僕はつい放心してしまった。

 そんな僕を置き去りにするように、ローズは続けてお礼の言葉を口にした。 


「改めて、ありがとうございますロゼさん」


 彼女の笑顔を見て、こちらこそお礼を言いたくなってしまった。

 “独り占め”だなんて、僕にはもったいない言葉だ。

 彼女のその言葉に答えられるように、明日からも精一杯成長の手助けをしてあげるとしよう。

 ここまで順調に魔獣討伐ができているし、きっと目標としているパーティー加入もすぐにさせてあげられると思うから。

 ただ、一つだけ気になることがあるんだよな。

 “失礼します”と内心で断りを入れてから、僕は神眼のスキルを使ってローズの天啓を確かめる。


【天職】見習い戦士

【レベル】7

【スキル】

【魔法】

【恩恵】筋力:E110 敏捷:F70 頑強:F95 魔力:F18 聖力:F18


 確かにローズのレベルは上がった。

 でもやっぱり、成長がとても遅いように感じる。

 一年かけても二つしか上げられなかったレベルを、今日だけで四つも上げることができた。

 そう聞くと充分にすごい結果のように思えるけれど、僕が育成の手助けをしているのはまだレベル10にも満たない駆け出しの冒険者だ。

 火鹿(フレアバンビ)や他の魔獣の初討伐神素に加えて、応援スキルで取得量も上昇している。

 いくら成長速度が乏しいからと言って、もっとレベルが上がってもおかしくない気がするんだけど。

 それに『見習い戦士』っていう天職も聞き覚えがないし、恩恵の上昇値も平均以下なのはどういうわけなんだろう?

 これだけ成長が遅いなら、何か特別なスキルや魔法が発現するか、恩恵の数値だけでも高くなければ割りに合わない。

 単純に『見習い戦士』っていう天職が弱いのだろうか?


「あれっ? どうしたんですかロゼさん?」


「あっ、ごめん。なんでもないよ」


 つい立ち止まって考え事をしてしまい、急いでローズの後を追いかける。

 とりあえずは明日も魔獣討伐に同行させてもらって、それで改めて成長速度を確かめてみることにしよう。

 少しの違和感を残しながらも、僕たちはその日の特訓を終わらせて町に帰ったのだった。

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