第七十四話 「競売会」
競売会。
出品された品物に、買い手たちが値を付けていって競り落とす形の品物販売会。
しかも武器防具を専門にしたもの。
そんなものがパーライトの町で開かれていたなんて知らなかった。
まさに鍛治師の晴れ舞台とも言えるその競売会に、フランさんも自作の武器を出品しろってことか?
「俺よりも鍛治師としての才能があるんだろ? ならそこで才能を証明してみろよ。もし俺の出品した武器より高値が付いたら、その時はてめえの腕を認めて『出て行け』って言葉は取り消してやる。そいつらの武器でもなんでも、この工房で好きなように作ればいいさ」
「……」
ブルエはさらに余裕そうな笑みを浮かべて続ける。
「ついでに俺が工房長になってからも、ここの工房で鍛治師を続けることを認めてやるよ。何なら率先して依頼を回してやってもいい。俺に勝つくらいならそれくらいの待遇は当然だからな」
競売会は多数の客で賑わうはず。
そこで自作の武器に高値が付けば、まさしく鍛治師としての腕を大衆に認められるのと同義だ。
工房から追い出す理由も確かになくなるだろう。
けれど……
「だがその代わり、俺が勝った時は今度こそ潔くここから出て行けよ。名実ともに無能な鍛治師はここにはいらねえからな」
ブルエは交換条件のように、フランさんにそう提案した。
武器防具を専門にした競売会に出品して、ブルエよりも高値が付いたら工房に残れる。
しかし負けたら今度こそ正式に工房を追い出されてしまう。
生死を分けるようなその提案に、フランさんは戸惑って淡褐色の瞳を泳がせた。
対してブルエは余裕の表情を貫いている。
「別にこの勝負は受けなくてもいいぜ。ババアの善意だけで工房の雑用として雇われてるてめえは、どうせ俺が工房長になったら真っ先に追い出すからな。だから言い換えればこれは、“最後のチャンス”ってことだぜ?」
「……」
「てめえみてえな無能にも依頼者が現れたってことで、せめてもの情けをかけてやろうってんだ。競売会で俺に勝ちさえすればこの工房に残れるんだ。どうするよフラックス・ラン?」
問いかけられたフランさんは、思い悩むように黙り込んでいる。
一見するとフランさんにとって有利な提案のように思える。
フランさんはどの道この工房から追い出されてしまう身。
しかし競売会に出てブルエに勝てば、まだこの工房に残ることができる。
しかも今後の依頼も率先して回してもらえるという好待遇付きだ。
負けた際の罰則も潔くここを出て行くだけなので、それだけを見ればこの勝負は受けるだけ得だと思う。
だがよくよく考えたら、これはとんでもなく大きな“罠”だ。
競売会は武器防具を専門にしたもので、多くの鍛治師たちの晴れ舞台となっている。
皆に注目されたその場で、自作の武器にまったく値が付かなければ、その時点で鍛治師としての人生を完全に閉ざされることになるのだ。
ブルエはそこで、今度こそ完全にフランさんの鍛治師生命を絶つつもりでいる。
大勢の前で赤っ恥をかかせて、二度と鍛治師として活動できないようにするために、わざわざこんな提案を……
フランさんの武器にまったく値が付かないと確信しているようだ。
この子もこの提案が危険だとわかっているのか、躊躇するように唇を噛み締めていた。
対してブルエは、静かに不敵な笑みを浮かべる。
「ハッ! どうせてめえにはそんな度胸ねえよな! 所詮てめえも三流鍛治師の無能親父と同じで、誰にも認められねえただの臆病者だからな!」
「――っ!」
明らかに挑発するようなその言葉に、フランさんは瞳を潤ませながらもブルエに向ける。
そしてフランさんは、売り言葉に買い言葉と言わんばかりに、震えた声を漏らした。
「や、やります……! ボクも競売会に、出品します……!」
「フランさん……」
「きちんと、値が付くような武器を作って、周りから実力を認めてもらいます……! そうしないと、鍛治師として胸を張って、この方々の依頼も引き受けられませんから……!」
見るからに臆病そうな子が、勇気を振り絞ってブルエに言い返している。
さらにフランさんは、これまでで一番芯の通った声を、工業区に響かせた。
「何よりも、ボクに鍛治師の基礎を教えてくれたお父さんが、無能なんかじゃないってことを…………競売会で証明してみせます!」
なんとも男らしいその宣言に、僕も自然と熱くなった。