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第四十話 「釣り合う相手」

 

 昇級試験の翌日。

 改めて四級冒険者となった僕は、だからと言って冒険に出掛けることはせず自宅にいた。

 そしていつものように育て屋としてお客さんを待っている。


「…………誰も来ない」


 さすがに翌日から昇級の恩恵を感じることはできず、相も変わらず育て屋は閑散としていた。

 やっぱり四級に上がった程度じゃ、大した宣伝材料にはならないよね。

 試験の結果もトップだったからって、別に何かあるわけでもないし。

 まあ、あったにはあったけれど、それも試験後にちょっと勧誘の声を掛けられたくらいだ。

 どうしたもんかなぁ、と思って机で頬杖をついていると、不意に傍らから声が上がった。


「“誰も来ない”って、私が来ているじゃないですか」


「いや、そういうことじゃなくてね……」


 席に腰掛けて控えめにお茶を飲んでいるローズが、きょとんと首を傾げていた。

 確かにローズはお昼下がりのあたりからうちにやって来ていたけれど、僕が望んでいるのは育て屋としての来客だ。

 いや、ローズが来てくれても嬉しいし、何なら会話とかで暇な時間が潰せるからいいんだけどね。

 最近、もはやここは、ローズかコスモスとただお茶をするだけの場所と化している。

 二人と過ごす時間は穏やかなもので、個人的にはとても好きだけれど、やっぱりお客さんが来てくれないと稼げないからなぁ。

 という旨を話すと、ローズも難しげな顔をした。


「私も随所で、育て屋さんの宣伝はしているんですけど、やっぱり私一人の声だけでは大勢を動かすことはできませんね」


「宣伝って、具体的にどんなことしてるの?」


「パーライトの町で依頼を終わらせた後、最近はよくパーティー勧誘の声を掛けてもらえるので、断りついでに育て屋さんのことを宣伝しています。先日のロゼさんみたいに、『今はヒューマスの町で育て屋さんの手伝いをしているので、パーティーには入れません』みたいな感じで」


「へ、へぇ……」


 露骨すぎず、それでいて印象に残るような宣伝をしてくれているようだ。

 前に僕が、あまり大々的に宣伝するのも嫌だと言ったので、そのような宣伝方法に落ち着いたのではないだろうか。

 これなら変に注目を浴びることもないし、必然的に冒険者活動に行き詰まっている人たちに育て屋を知らせることができる。

 そう納得すると同時に、一つの疑問が湧いてきた。


「そういえば、ずっと疑問に思ってたんだけど……」


「はいっ?」


「なんでローズは誰ともパーティーを組もうとしないの?」


「えっ……? えっと、それは……」


 すでにローズには、あの『見習い戦士』時代の弱々しい面影は残されていない。

 規格外の潜在能力に伴った確かな実力が、今の彼女にはある。

 だからその実力を見た冒険者たちから、パーティー勧誘の声をたくさん掛けてもらっているはずなのに、どうしてローズはいまだにどこのパーティーにも入っていないのだろうか?


「『見習い戦士』の時と比べて、今は『戦乙女』として大活躍して、色んなパーティーから声を掛けてもらってるんでしょ? パーティーを組んだ方が受けられる依頼の幅も広がるし、今のローズなんてどこからも引く手数多だろうから、気が合う人とかすぐに見つかるんじゃないのかな?」


「……」


 その問いかけに、ローズは複雑そうな表情で目を逸らす。

 何かいけないことでも聞いてしまっただろうかと思っていると、彼女は辿々しく答えてくれた。


「そ、その、今パーティーを組んでしまうと、ロゼさんに立て替えていただいた解呪費を返しづらくなってしまいますので、少なくともその返済が終わるまでは単独でいようかなと……」


「あぁ、それがあるのか」


 確かにそれは、パーティーを組む上でこの上ない妨げだ。

 言ってしまえば“莫大な借金”と同じだし、それを抱えたまま誰かとパーティーを組んでしまうと色々と不便がある。

 パーティーでの活動にはある程度のお金が掛かるし、場合によっては単独でいる時より出費が増えることもあるだろう。

 いち早く僕への返済を終わらせようと思っているローズにとって、それは望ましくないことのはず。

 僕としては早急に返してもらいたいわけでもないので、思うがままに冒険者活動を楽しんでもらいたいと思っているけどね。


「それにパーティーを組んでしまうと、必然的に活動場所を決められてしまいますし、ある程度時間も縛られてしまいますからね。自分のやりたいことができなくなってしまうような気がして……」


「そういえばローズは、しばらくはヒューマスの町で活動したいって言ってたもんね。どこかのパーティーに入ったら、活動拠点も移さないと行けないし。あとは、この町で知り合った人たちとも会いづらくなっちゃうもんね……」


「そう! そうなんですよ!」


 ローズはびっくりするぐらい前のめりになって頷いてきた。

 知り合った人たちに会いづらくなる、という部分に強烈に反応したようだ。

 やっぱり、ヒューマスの町に帰りづらくなるのは困るよね。

 せっかくこの町でたくさんの人たちに知り合えたのに、その人たちに会いづらくなってしまうのはすごく寂しいし。


「ま、ローズの場合は、他の同級の冒険者たちと違って実力がかけ離れ過ぎてるから、そこもパーティーを組む上で不都合になりかねないもんね」


「えっ、そうなんですか?」


「ローズだけが飛び抜けて強いと、ローズにばっかり負担が掛かっちゃうし、何より他のパーティーメンバーたちがローズ頼みになっちゃわないかが不安だよ。もしローズと離れ離れになることがあって、それまでローズ頼みで魔獣討伐をやって来てたとしたら……」


「私がいないせいで、パーティーが崩壊……」


「極端に言えば、そういうことになっちゃうかもね」


 ローズばかりに頼り過ぎてしまうと、自分たちの実力が定かではなくなってしまう。

 端的に言うと、自分たちが強くなった気になってしまわないか心配ということだ。

 自分たちの実力をきっちりと自覚していないと、いざという時に足をすくわれることになってしまうから。

 あとは単純に、ローズばかりが先行して魔獣を討伐してしまって、他のメンバーたちが“育たない”んじゃないかという不安もある。

 ていうかそうなる可能性が一番高いんじゃないかな。


「だからローズが誰かとパーティーを組む時は、なるべく実力が近い人の方がいいと思うよ。お互いのためにね。……って言っても、たぶんそんな人いないと思うし、ましてや同じ階級の冒険者の中にいるはずもないけどさ」


「実力が近い人、ですか……」


 もしそんな相手を偶然見つけることができたとしたら、その時にその人とパーティーを組めばいいと思う。

 今の段階で無理をして相手を探す必要はないということだ。

 まあ、僕の方からこの話を振っておいて、こんな結論にしてしまうのはあれなんだけど。


「あっ、その、私もロゼさんに聞きたいことがあったんですけど……」


「んっ?」


 パーティーの話が終わったと思いきや、次はローズの方から僕に尋ねてきた。


「最近、随分と仲良しではないですか?」


「えっ、仲良し? 誰と誰が?」


「……ロゼさんと、コスモスさんです」


 いったい何について尋ねられるのかと思ったら、予想外にもコスモスについてのことを聞かれた。

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