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第二十六話 「汚れた血」


「怒らせた? 弱い天職を授かって、それを父親が気に入らなかったから怒らせたってことか?」


 それも少し無理があると思ったけど、ここまでの話を総合するとそういう風に聞こえる。

 しかしコスモスはかぶりを振った。


「正確に言うと少し違うわ。そもそも、私の天職が判明した段階だと、まだ強いか弱いかなんてわからないじゃない」


「あっ、そっか」


 と納得した反応を見せると、またもローズが袖をちょいちょいと引っ張ってきた。


「あ、あの、何度もごめんなさいなんですけど、どうしてこの子の天職がわかった段階だと、強いか弱いかわからないんですか?」


「あぁ、そういえばローズはコスモスの天職知らなかったね」


 さっき一緒にコスモスの天啓見ればよかった。

 勝手に見せるのもあれだと思って控えておいたんだけど。

 ローズにも教えていいかどうか、コスモスに視線を送って確かめると、彼女は無言で頷いてくれた。

 すでにコスモスから預かった天啓は僕の手元から消えてしまったので、改めて口頭で説明をする。


「ローズには説明してなかったんだけど、コスモスの天職は『星屑(ほしくず)()』っていうんだ」


「ほしくずし?」


「僕も聞いたことがない天職で、たぶんコスモスの天啓を見た全員が、今のローズみたいな反応をしたと思うよ。だから強さとか能力とかが、最初の段階では何一つわからなかったんだ」


「そ、そういうことですか」


 世界には同じ天職を有している人が大勢いると言われている。

 有名な天職で言えば『剣士』とか『魔術師』とか『武闘家』とか。

 そういった見聞きしたことがある天職ならば、どれほどの力を宿しているかはすぐにわかる。

 しかしコスモスの『星屑(ほしくず)()』みたいな珍しい天職だと、そういうわけにもいかない。

 天職が判明した段階では強さや能力が曖昧で、いったいどれほどの力が秘められているのかは成長させてみなければ何一つわからないのだ。

 だから天職がわかった時点で父親から見限られたというわけではないらしい。

 というかむしろ、その逆だった。


「父様は私に期待してたわ。二つ歳が上の兄様もそれなりに優秀な天職を授かったけど、それ以上に父様は私の天職に夢中になって、色々と手を尽くして私を育ててくれたの」


「なんで、そこまでして……?」


 言ってはなんだけど、コスモスの天職は珍しいというだけだ。

 とりわけ恩恵の値が高いわけでもなく、強力なスキルや魔法を最初から持っているわけでもない。

 それだというのに天職主義の父親が、コスモスに入れ込む理由がいまいちわからなかった。

 その疑問の答えを、コスモスはお茶を啜りながら教えてくれる。


「天職の“能力”と“希少性”は比例するって話、聞いたことないかしら?」


「能力と希少性? あれっ、どこかで聞いたことがあるような……?」


「主に天職に関する研究を行なってた、研究者ジャスマン・ブティが提唱した考えよ」


「あぁ……」


 なんかそんなのあった気がするなぁ。

 本当にぼんやりとだけど聞き覚えがある。

 視界の端に、またもローズが不思議そうな顔をしているのが映ったので、僕は簡単に説明してあげることにした。


「簡単に言うと、『珍しい天職ほど強い能力が秘められているんじゃないか』っていう考えのことだよ」

 

「珍しい天職ほど……。本当にその考えは当たっているんでしょうか?」


「正直それは誰にもわからないよ。確かに珍しい天職の方が、強い能力を宿してるような気もするけど、単純に希少な力ってだけで戦いに適してるかどうかは別の話だから」


 それに“強さ”の定義も曖昧だ。

 単純に戦闘能力のことだけを指しているのか、それとも経済的利益を生み出せるかという点も加味されているのか。

 具体性のない主張だとして、ジャスマンの考えはあまり世に定着してはいないけれど……


「一定数その考えに同調してる人たちもいるからね。ある地域では昔、能力に関係なく、天職が珍しいってだけで持てはやして、果ては神の化身として信仰対象にすることもあったみたいだから」


「そ、それはさすがにやり過ぎな気が……」


 ともあれコスモスのお父さんもその考えに寄った思考をしているということだ。

 そして聞いたこともない天職を授かって生まれたコスモスに、多大な将来性を期待したと。


「……何となく、コスモスが実家を追い出されちゃった理由がわかってきた気がするよ」


「まあ、さすがにここまで材料が揃えば誰でもわかるわよね。私は父様に期待されてた。そしてあらゆる手を使って私を育ててくれた。それで、結果的に出来上がったのが……」


「……()()()()()()()()()の魔法使い、と」


 キッとコスモスから睨みを頂戴してしまう。

 だってそう言ってくれと言わんばかりの前振りだったじゃん。

 そう心中で泣き言をこぼしていると、コスモスは再び表情を曇らせて続けた。


「期待がすごく大きかった分、私が石を飛ばすことしかできない魔法使いだと知った時、父様は私に激しく失望したわ。そしてそれは大きな反動となって私に返ってきたの」


「もしかしてそれで実家を追い出されたってことか?」


「えぇ。『汚い血はいらない』ってね。他の家族からも白い目で見られて、一気に立場が変わっちゃったわ」


「……」


 自嘲的にそう語るコスモスに、なんて声を掛けたらいいのかわからなかった。

 追い出されたのは天職だけが理由じゃないのはわかった。

 けど結局、理不尽なことに変わりはない。

 コスモスのお父さんが勝手に期待を寄せて、勝手に失望したってだけの話じゃないか。

 コスモスは何も悪くない。

 天職は自分で選べるものでもないし、血筋が良ければ確実に高い能力を秘めた天職を授かれるわけでもない。

 何より、今の話の中にコスモスの意志はどこにもなかった。

 改めて理不尽な話だとわかって、密かに心を痛めていると、意外にもコスモスが前向きな姿勢を見せてきた。


「てなわけで、実家を追い出された私は、こうして冒険者になってあのバカ親を見返してやろうと思ったの」


「ぼ、冒険者になって見返す?」


「話によれば、一級冒険者の中から宮廷近衛兵として宮廷に招かれることもあるって聞くし、宮廷近衛兵になればその時点で男爵位らしいから。そこから政界に切り込んで、何とかしてバカ親父に一発仕返ししてやるのよ」


 先ほど僕が思い出した近衛兵の話が出てくる。

 確かに一級冒険者として活躍すれば、その優秀さを買われて宮廷に招かれることもある。

 そしてさらに何か大きな功績を上げることができれば、陞爵するのも夢ではないとどこかで聞いた。

 コスモスはそれで、自分を見限った実家を見返してやろうと思っているみたいだ。


「うーん……」


 正直、かなり難しい話だとは思う。

 ていうか本当にそんなことできるのだろうか?

 政界については詳しく知らないけれど、そもそも一級冒険者になるというのが大きな鬼門。

 そこから宮廷に呼ばれるというのもかなり希少な例だし、さらに出世して、どうにかして実家に仕返しをするのは困難なのではないだろうか。

 まるで雲を掴むような話だ。具体的にどうやって実家に復讐するのかも曖昧だし。

 まあ、今僕の目の前にいるローズみたいに、規格外の才能を宿しているのなら、その野望も地に足が付くのだろうけど。

 とりあえずコスモスの望みは承知した。


「……わかったよ。それなら目標は一級冒険者を目指すってことでいいのかな?」


「さすがにそこまで面倒掛けるのもあれだし、ずっとこの町にいるつもりもないもの。とりあえずは次の昇級試験まで手を貸してもらうってことでいいわよ。そうすればレベルも結構上がると思うし、そこからは自力で一級冒険者を目指してみるから」


「よしっ、依頼成立だな」


 色々な不安を抱えつつも……

 こうして僕は、育て屋としての初仕事である、星屑(ほしくず)()コスモスの手助けをすることになった。

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