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第十七話 「解呪師」


「で、解呪師に依頼するにはどうすればいいの?」


「そのことなんですけど、私もまだ詳しくは調べていないんです。解呪師さん当ての手紙を特定の飛脚さんに渡すとか、町の空き家の扉を五回叩くと出てくるとか、曖昧なことしか聞いていなくて……」


 解呪師に依頼することに決めたのはいいが、その方法がわからない。

 僕も噂で聞いたことがあるだけで、実際に依頼をしたことはないし。

 困り果てて立ち尽くしていると、玄関の方で話を聞いていたテラさんが声を掛けてきた。


「解呪師ロータスに依頼するなら、冒険者ギルドの掲示板に待ち合わせの場所と時間を書いた紙を貼ればいいんだよ」


「えっ、そうなんですか?」


「うちのギルドでも何回か解呪師当ての依頼用紙が無断で貼り出されたりしててね、悪戯でやる人たちも多いから毎回引っぺがすのが面倒なんだよ」


 テラさんはうんざりしたように言う。

 なるほど、ギルドの掲示板か。

 確かにそれならわかりやすい。

 でも解呪師ロータスはどうやって掲示板の依頼用紙を確認しているのだろうか?

 全国でも冒険者ギルドは山のようにあるし、その依頼用紙を一枚一枚確認して、相手が指定した時間に間に合わせて登場するなんてどんな超人でも不可能だ。

 それに悪戯で貼り出す人もいるらしいから、いちいちそれらにも対応したりしているのだろうか?


「それで本当に解呪師ロータスを呼び出せるんですかね?」


「なんか噂だと、悪戯目的の依頼は全部無視されて、本物の依頼を出した人だけがロータスに会えたみたいだよ。ほぼ同時刻にまったく別の町のギルドで依頼が出された例もあるみたいだけど、ロータスはそれにも対応したって」


「……なんか、不気味な話ですね」


 まるで幽霊や妖精の話を聞いているみたいだ。

 解呪師ロータスとは、本当に何者なのだろう?

 とにかく、ギルドの掲示板に依頼を出せばいいのはわかった。

 僕たちは急いでギルドに向かうことにする。


「……もしかして、この期に及んで『掲示板の無断使用は禁止』とか言って止めたりしないですよね?」


「ギルド職員としては止めに入りたいところだけど、テラ・ブルーヌとしては早くローズちゃんのお母さんに元気になってもらいたいから、今回は見なかったことにするよ。これでロゼ君への貸しは無しになるからね」


「それで無しになるのはおかしくないですか?」


 冗談冗談、と言って微笑むテラさんも混じえて、僕たちはギルドへと急いだ。




 冒険者ギルドに到着して、すぐに僕たちは依頼用紙の準備を始めた。

 紙はなんでもいいらしく、ロータス当てということが記載されていればそれでいいらしい。

 待ち合わせの時間も自由で、自分たちに都合のいい時間を書いていいそうだ。

 ただ場所に関しては人目につかないところの方が好都合らしく、大勢の目がある場所を指定した際、現れてくれなかったことがあるらしい。

 というわけで依頼用紙には、一時間後に僕の自宅を指定して、それをギルドの掲示板に貼り出す。

 ちなみに掲示板の使用に関しても、テラさんからギルドに話を通してもらって、少しの間なら好きにしていいということになった。


「よし、すぐに僕の家に戻ろう」


「は、はい」


「じゃあ私は誰も依頼用紙を剥がしたりしないように掲示板見ておくよ」


 ということになって、僕とローズは出戻る形で自宅へと向かう。

 本当にこんなやり方で来てくれるのだろうかという不安を抱えたまま、自宅にまで戻ってくると、僕たちは時間になるまで大人しく待つことにした。


「こ、これで本当に来てくれるんでしょうか?」


「正直わからないけど、今はこれに賭けるしかないからね。祈りながら待つことにしよう」


 そして、依頼を貼り出してからちょうど一時間が過ぎた時――

 僕の自宅の扉が叩かれた。

 否、扉が叩かれることはなく、なんと家の中に直接何者かが侵入してきた。


「ご依頼ありがとうございます」


「「――っ!?」」


 僕とローズは咄嗟に声のした方を振り向く。

 すると部屋の窓際に謎の黒い渦が発生していて、その中から一人の人物が出てきた。

 フード付きの黒いローブを身に纏った黒ずくめの人。声と体格からしておそらく女性だろうか?

 ていうか今、どうやって家の中に入って来たのだろう?

 壁を抜けてやって来た、というよりかはどこか別の場所から転移してきたような。


「私は解呪師ロータスの助手を務めております『転移師』ハスです」


「転移師……」


 そういえば聞いたことがある。

 別の空間と別の空間を繋ぎ合わせて、瞬間的な長距離移動を可能にする『転移魔法』の使い手がいると。

 確かその使い手の天職が『転移師』だったような。

 まさか今のがその転移魔法というやつだろうか。

 驚いて声を失くしていると、ハスと名乗った女性が淡々とした声音で続けた。


「あなた方が解呪の依頼者でお間違い無いでしょうか?」


「は、はい。そうです」


 呆気にとられながらも返事をすると、ハスさんは続けて問いかけてきた。


「解呪の対象者のお名前と場所は?」


「えっと、それは……」


 ローズの方を一瞥して、答えるように促す。

 すると彼女は突然現れたハスさんに驚いて、体が石のように固まっていた。

 視線を感じたローズは、遅れてハッとなって答える。


「ベ、ベイス村のカメリア・ベルミヨンです! 霊王軍の魔族に呪いを受けてしまって……」


「承知いたしました。ベイス村におられるカメリア・ベルミヨン様ですね」


 やはり淡々とした調子のハスさんは、いよいよ本題をぶつけてきた。


「では、500万フローラになります」


「……」


 噂通りの金額。

 それを要求されたローズは、チラッとこちらを一瞥してくる。

 彼女はとても申し訳なさそうな顔をしていて、それだけで何が言いたいのか理解できた。

 僕は今一度『いいよ』と言うように首を縦に振って、支払うように促す。

 するとローズは意を決したように表情を引き締めて、手元の巾着袋をすべてハスさんに渡した。

 ハスさんは中身を確認することもなく、その巾着袋を黒い渦の中に入れて消し去ると、小さな頷きを見せてくる。


「500万フローラ、確かに頂戴いたしました。それでは解呪を開始いたします」


 あまりにもあっさりそう言うと、その後ピタリと静止してしまう。

 まるで人形のように固まってしまったハスさんは、何も言わずにその場に佇み続けた。

 あれっ、解呪は? なんて疑問に思っていると、二十秒ほど経った後でハスさんが口を開く。


「解呪が完了いたしました」


「えっ!?」


 聞き間違い、ではないだろうか。

 確かに今、ハスさんは『解呪が完了した』と口にした。

 今のたった二十秒ほどで。


「では、ご依頼ありがとうございました」


「えっ、ちょ……!」


 そう言うや、ハスさんは黒い渦の中に入って行ってしまう。

 体が完全に渦の中に溶け込むと、その渦も次第に小さくなって、やがて完全に消滅してしまった。

 再び沈黙に包まれた部屋で、僕とローズは唖然して固まる。


「い、今ので解呪が終わったんでしょうか?」


「わ、わからない。でもハスって人は確かに終わったって……」


 ただ金を持ってかれたような感じもするけど。

 それだったら最悪と言えるけれど、今の言葉が偽りではないという可能性もある。


「今の力、噂に聞く転移魔法だったよね?」


「転移魔法?」


「簡単に言うとどこにでも行ける瞬間移動の魔法だよ。その使い手の転移師が解呪師と手を組んでいるとしたら、今の一瞬でベイス村に解呪師を送って解呪することも可能、だと思うよ」


 それにテラさんが言ってた、同時刻に別の町の依頼に対応したって話も辻褄が合う。

 瞬間移動できるならどの町にいようと解呪はできるからね。


「そ、それじゃあ、お母さんは今……」


 僕たちがここで固まっている間に、解呪師ロータスに解呪してもらった可能性が高い。


「わ、私、村に戻って確かめてきます!」


 ローズはそう叫びながら家を飛び出してしまう。

 そして馬車乗り場の方に向かって走っていき、僕はその背中を呼び止めた。


「待ってローズ!」


「……?」


 すかさず右手をかざして唱える。


「【敏捷強化(アクセル)】」


 瞬間、ローズの全身に緑色の光が迸る。

 不思議そうに首を傾げる彼女に、僕は今の魔法の意図を話した。


「今の君の脚なら、馬車よりも自力で走った方が断然早い。敏捷強化の支援魔法も掛けたから、早ければ半日もせずに着けると思うよ」


「あ、ありがとうございます!」


 ぺこりと頭を下げたローズは、恐るべき早さで街路を駆け抜ける……ということはなく――

 建物の上を軽快な調子で飛び移っていき、走るよりも早く町を出て行った。

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