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第百四十六話 「昔の夢」


 懐かしい夢を見た。

 父さんと母さんが生前、冒険者として活躍していた時のことだ。


『また冒険に行っちゃうの?』


『あぁ、竜王軍の侵域への道がようやく開けたんだ。たくさんの冒険者たちが頑張ってくれてな』


『この好機を逃すわけにはいかないの。アロゼには寂しい思いをさせてしまうけれど、大人しくお家で待っていてね』


 二人はすごい冒険者だった。

 当時、そこまで人数が多くなかった一級冒険者として、最前線で活躍をしていた。

 父さんも母さんも天職に恵まれたというわけではなく、修練と研鑽を重ねて実力を身につけた努力の人たちだった。

 五歳の頃、初めて魔獣討伐に同行させてもらい、素人目ではあったけど、両親は誰よりも強い冒険者たちだと思った。

 今、父さんと母さんの戦いぶりを思い返してみても、二人の実力は全盛期の勇者ダリアと遜色はないように思える。

 だからこそ、二人が竜王ドランに殺されたと聞いた時は、本当に信じられなかった。


『アロゼ君、君のお父さんとお母さんは……!』


『竜王軍との戦いで、竜王ドランに命を奪われたんだ……!』


 当時のパーティーメンバーの人たちが家まで来て、涙ながらに二人の死を伝えてくれた。

 僕の手元に戻ってきたのは、二人がお揃いで愛用していた二本の剣だけだった。


『すまない、俺たちが不甲斐ないばかりに……』


『きっと俺たちが二人の仇をとってみせる。同じパーティーメンバーとして……!』


 その後彼らも、竜王軍の返り討ちにあって命を落としてしまった。

 よくうちに来ていた冒険者たちで、度々僕の遊び相手になってくれた人たちだった。

 だから彼らもドランに殺されたと聞いた時は、心底落ち込んだし、子供ながらに竜王ドランが果てしなく恐ろしい存在であると思った。


 竜王ドランは、僕から大切なものをたくさん奪っていった悪魔で、僕にとっての恐怖の象徴だった。




 そこで昔の夢は終わり、僕は自室で目を覚ました。


「うぅん……」


 寝ぼけ眼を擦りながら、気怠げに体を起こす。

 久々に両親の顔を見られたのはよかったけれど、あまり気持ちのいい夢ではなかった。

 そのため寝覚めの気分はあまりよくない。


「竜王ドランか……」


 両親の仇であり、僕が冒険者を志した最大の目標。

 けど結局その悲願を果たすことができず、勇者パーティーを追い出された僕は現在はじまりの町で育て屋として活動をしている。

 いつか誰かが竜王軍を壊滅させてくれると信じているけれど、その気配は今のところ微塵も感じない。

 そういえば森王軍と霊王軍から竜王軍の情報を聞き出そうと思っていたけど、それも叶わなかったんだよね。

 竜王軍が討伐される日は果たして来るのだろうか?


「まあいいか、シャワーでも浴びよ」


 気分の悪い夢を見たため、寝汗をそれなりにかいていて若干の気持ち悪さがある。

 僕は朝にシャワーを浴びるタイプの人間ではないけれど、さすがにこれはさっぱりしておきたい。

 そう思ってベッドから下りた僕は、ついでに時計を一瞥して思わずシャワーへ行く足を止めた。


「やばっ、もうこんな時間か」


 育て屋には決まった始業時間がない。

 育成の依頼を引き受けて、依頼人との合流時間を決めている場合には話が別だが、今日は特にそういった予定も入っていないため時間を気にする必要はないのだ。

 しかし今日はまた違った予定が入っている。

 絶対に時間に遅れるわけにはいかない予定が。


「遅刻したらコスモスに殺される……!」


 森王軍と霊王軍の計画を阻止し、平穏な日々を取り戻してから一ヶ月。

 くだんの戦いに赴く際、戦力不足の関係で、僕は仲間を集うことにした。

 そして一番最初に思いついた心強い仲間が、星屑師のコスモス。

 彼女には協力してもらう形で森王軍の侵域までついてきてもらった。

 その協力を取りつける時に、無償でついて来てもらうのは申し訳ないと思ったので、僕は見返りとしてコスモスにこう提案したのだ。


『じゃあ、今回の旅が上手くいったら、僕が“なんでも”言うこと聞く……ってどうかな?』


『な、なんでも!?』


 その約束はもちろん生きていて、先日コスモスから例の見返りの内容が思いついたと言われた。


『あ、明日、町で買い物する予定なの。それについてきてくれないかしら』


 というわけで今日は、コスモスと買い物に行く予定がある。

 その集合時間まで、残り二十分。

 随分と余裕を持った集合時間にしたつもりだけど、変な夢のせいかいつも以上に遅い時間に起きてしまった。

 シャワーを浴びている時間はない。

 いやでも、このまま行くのはさすがに気持ちが悪いよな。


「そうだ、こういう時の魔法だ……!」


 僕の天職は育成師。

 人の成長を手助けできる力をたくさん持っている。

 その中には戦闘の補助をする支援魔法もあり、足を速くできる【敏捷強化(アクセル)】という魔法だって使える。

 それで敏捷力を著しく増強させて、町の通りを駆け抜ければ、集合場所の東区の中央広場まで自宅から三分とかからないはずだ。

 なんとか間に合わせることができるとわかった僕は、寝汗を落とすために急いで浴室へと向かった。

 お知らせです。

 この度、『はじまりの町の育て屋さん』のコミカライズが決定いたしました!

 ここまで応援してくださり、誠にありがとうございます!

 4月30日(火)配信予定のコミックライド5月号より連載スタートです。

 作画は『(さかき)』先生に担当していただきます。

 よろしければご覧になってみてください。


 追加の情報がありましたら、活動報告にてお知らせさせていただきますのでよろしくお願いいたします。

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