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第百三十八話 「枯れた花」


【種族】骨兵(スカルナイト)

【ランク】B

【神素取得量】15000


 剣や槍や盾を身につけた骸骨騎士たち。

 それらが迫って来る景色を見て、ネモフィラさんは前に踏み出して唱えた。


「【障壁(プロテクション)】」


 半透明の膜のようなものが球体となってネモフィラさんを包み込む。

 直後、骸骨騎士たちの武器が、『ガガンッ!』と甲高い音を立てて障壁に叩きつけられた。

 障壁は、傷一つ付いていない。


「ほう、かなり強固な防護魔法ですね。しかし守っているだけではこの墓場から抜け出すことはできませんよ」


 骸骨騎士たちの攻撃を、ただひたすらに障壁で防いでいるネモフィラさんを見てスカルは笑う。

 そんなスカルの台詞にかぶりを振るように、ネモフィラさんは手を構えて瞳を細めた。


「【判定(ジャッジメント)】――【不敬罪(ネメシス)】」


 瞬間、『カ、カカッ!』と周囲からスカルナイトたちの苦しそう声が聞こえてくる。

 見ると、先ほどネモフィラさんに刃を突き立てた骸骨騎士たちが、次々と地面に膝を突いていた。

 これは姫騎士が持つスキル【判定(ジャッジメント)】の効果の一つ。

 攻撃してきた者に対して衰弱効果の呪いを付与する力だ。


「なるほど。攻撃した者に対して呪いを返す力ですか。死霊族の魔獣にも浸透するほどの呪いとは、なかなかに厄介ですね」


 それを見たスカルは、すぐさま次の手に打って出る。


「では、これでいかがですか?」


 スカルが“J”を逆さまにした形の杖を、地面でトンッと小突くと、突然僕とダリアの傍らから新しいスカルナイトたちが飛び出して来た。

 たった今地面から這い出てきたばかりの魔獣たち。

 それは真っ直ぐに僕とダリアの方にやって来て、手にした武器を全力で振り回してくる。

 ネモフィラさんに攻撃すると反撃をもらうから、まずは僕とダリアを始末してしまおうという考えらしい。


「【障壁(プロテクション)】」


 だが、その目論見は、ネモフィラさんの一手で潰えることになる。

 彼女がこちらに向かって手を構えると、今度は僕とダリアにも障壁魔法が展開された。

 同時に『ガンッ!』と障壁が叩かれて、攻撃を行ったスカルナイトたちが揃って地面に跪く。


「他人に張った障壁に攻撃した場合でも、あなたの呪いの対象になってしまうというわけですか。本当に小賢しい連中ですね」

 

 ネモフィラさんの持つスキル【判定(ジャッジメント)】は、相手が犯した罪に応じて発動効果が変わるようになっている。

 一定距離に近づいてきた者を僅かに弱体化させる『侵入罪(クリミナル)』。

 攻撃をしてきた者に衰弱の呪いを掛ける『不敬罪(ネメシス)』。

 攻撃によって傷を負わせてきた者に、頑強値を基準にした魔力の一撃を叩き込む『反逆罪(リベリオン)』。

 これらはすべて、ネモフィラさんの体だけではなく、展開した障壁魔法に攻撃した場合でも効果対象に含まれてしまう。

 そのため僕たちに張られた障壁も、ネモフィラさんの体の一部のようなもので、攻撃してきた者たちは軒並み呪いに苦しむことになるのだ。

 姫騎士には触れることすら許されない。加えて身内に怪我をさせることも重罪となる。

 自分と仲間の身を完璧に守る、絶対の守護神と呼ぶに相応しい天職だ。


「な、なんなのよ、この人……! こんな天職持ち、冒険者の中でも見たことが……」


「この人は冒険者じゃなくてお姫様だよ。まあ、もうすぐで女王様になるけど」


 改めてネモフィラさんの強さを目の当たりにして、ダリアは唖然としていた。

 にしても、スカルの洞察力にも恐れ入った。

 まさかここまで早くネモフィラさんの能力を見極められてしまうとは。

 ネモフィラさんの【姫騎士】の天職は、守りに特化した力だ。

 ローズやコスモスのような殲滅力のある天職ではない。

 そのため、あくまで向こうに攻撃をさせてから反撃をするという戦い方を強いられる。

 早いうちにそのことがスカルにバレてしまったせいで、奴は自ら攻撃を仕掛けて来ることはなかった。


「さあ行きなさい、スカルナイトたち!」


 骸骨騎士を呼び出して代わりに攻撃をさせている。

 これではネモフィラさんの反撃の力が上手く機能しない。

 このままでは、こちらの障壁とネモフィラさんの魔力だけがジリジリと削られていく一方だ。

 向こうの骸骨騎士にも限界があることを祈るしかないが、スカルの余裕綽々な様子を見るに望みは薄いだろう。

 僕たちは一刻も早くここから抜け出して、霊王ヴァンプと戦っている二人の援護に行きたいのに。


「ど、どうすんのよ、アロゼ……!」


 為す術なく障壁を攻撃されているダリアが、焦燥した様子で僕に問いかけてくる。

 むしろこちらの方がそれを聞きたいと返したいところだったが、僕は考えることに注力することにした。

 この墓地、無理矢理に抜け出そうとしても、周囲に透明な壁が張ってあって出られないようになっている。

 壊せる気配もなく、おそらくはスカルが作り出した特殊な空間なのだろう。

 考えうる脱出方法は、空間生成主のスカルを倒すか、奴の力が切れるまで待つしかない。

 いずれにしろ、今ここで奴を無力化するのが、この場での最善策となるだろう。


【種族】骨帝(スカルエンペラー)

【ランク】A

【神素取得量】120000


「……よしっ」


 僕はナイフを構えて、静かに呼吸を整える。

 今この場でスカルに立ち向かえるのは僕しかいない。

 ネモフィラさんの障壁魔法だってあるし、向こうから攻撃をしてくる心配はないから。

 だから……臆せず行け!


「――っ!」


 僕は息を鋭く吐いて、墓場の地面を蹴飛ばした。

 骸骨騎士たちの間を縫うように駆け抜けながら、自分の胸に手をかざして唱える。


「【筋力強化(ブースト)】! 【敏捷強化(アクセル)】!」


 直後、僕の全身に赤と緑の光が迸る。

 それと同時に体が羽のように軽くなり、内側から湧き水のように力が溢れてきた。

 二種の支援魔法によって力強さと敏捷力を向上させた僕は、勢いづいてスカルに肉薄する。

 間合いまで踏み込むや、振りかぶったナイフを真一文字に一閃した。


「カカッ!」


 ガンッ!

 その一撃は、スカルが構えた杖によって受け止められてしまう。

 筋力強化をしているというのにまるで押し込める気配がなく、僕はすぐに力比べを諦めて一歩引いた。

 すかさず地面を蹴って横に潜り込もうとする。

 しかし目覚ましい反応速度でスカルは杖を構え直し、こちらの二撃目を容易く防いでみせた。


「くっ――!」


 ここまでの近接戦闘だけで痛感させられる。

 育成師の僕では、この骸骨魔獣には勝つことができない。

 やはりスカル自身、かなり強い魔獣のようだ。

 支援魔法を最大限に活用しても、押し切れる気がまるでしなかった。

 ネモフィラさんに支援魔法をかけて一緒に戦ってもらうか?

 いや、それをしてもスカルに刃は通せないだろう。

 ネモフィラさんに宿っている恩恵の数値は、頑強と魔力が飛び抜けて高いだけだ。

 筋力は僕と変わらないくらいの数値だし、敏捷に至っては魔法で戦う星屑師のコスモスと同等となっている。

 何より実際の戦闘経験が乏しい中で、このスカルと渡り合うことはまず難しい。

 ネモフィラさんの力は、あくまで強い味方がいてこそ真価を発揮するものなのだ。

 僕がもっと強ければ……


「あっ……」


 …………いいや。

 一つだけ、あるかもしれない。

 スカルを倒せるかもしれない方法が。

 ネモフィラさんの方を振り返った僕は、最後の可能性をその目に見た。

 その後、スカルとの交戦をやめて、即座に後方へと飛び退く。


「おや、もうおしまいですか? そちらの青髪の女性の力は厄介ですが、他のお二人は存外……この場には力不足だったようですね」


 そんなスカルからの挑発も右から左に聞き流し、僕は元いた場所まで素早く後退する。

 そしてそこにいた“東の勇者ダリア”に向けて、囁くように声を掛けた。


「おい、ダリア……」


「な、何よ? こんな時に……」


 戦闘の最中に声を掛けられて、ダリアは激しく困惑している。

 その彼女をさらに戸惑わせる言葉を、僕は投げかけた。


ダリアからの依頼(・・・・・・・・)、今ここで引き受けてやる」


「えっ……?」


「『強くしてくれ』って、育て屋に来た時に言っただろ。また育成師の力を貸して強くしろって。その依頼、今ここで引き受けてやるって言ったんだ」


「……」


 ダリアとユーストマが僕の育て屋を訪ねて来た時、成長の手助けをするように依頼を持ちかけてきた。

 最初はその依頼を断らせてもらったけれど、今ここで改めて引き受けることにする。

 ダリアが元の力を取り戻して、僕が支援魔法で援助をすれば、このスカルにだって勝てるかもしれない。


「嫌でも協力してもらうぞ、勇者ダリア。ダリアだって、枯れた花のまま死にたくはないだろ」


 育て屋の僕も、初めての試みだけど……


 今この場で、即座にダリアを成長させて、戦場を切り開く刃になってもらう。

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