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第百三十三話 「暴力の権化」


(にん……げん……? しかも、ただのガキじゃねえか……)


 恐怖心の正体を改めて見て、ガルゥは言葉を失う。

 いまだに肌を刺すような威圧感を放っている存在が、まさかただの人間の少女だとは思いもしなかった。

 なぜこんな子供から、これほどまでの圧を感じるのか。


「て、てめえは、さっきの――!」


 赤髪の少女が現れて、エリンジュが目を見開きながら驚愕をあらわにする。

 この反応からすると、おそらく顔見知り。

 どのような関係かはこの時点では判断ができないが、エリンジュのしかめた面を見るに良好な関係だとは言いにくそうである。

 それはひとまず置いておき、ガルゥは少女を警戒しながら声を掛けた。


「なんだよガキ。まさかこいつらを助けに来た仲間ってわけじゃあねえだろうな」


 いまだに少女の存在感に気圧されているため、僅かに声音に動揺が滲んでしまう。

 しかしその戸惑いが気取られることはなく、少女は平然とした様子で答えた。


「いいえ。私は別の冒険者パーティーのメンバーです。仲間たちが休息を取っている間に、近場で“水”を汲もうと思ってたまたまここに来ました」


「あっ?」


 言われてガルゥは横に視線を振る。

 そこには確かに、近くの山から流れて来ている大きめの川があった。

 そして少女の手にも四本の水筒が握られている。


「高めの木の上から辺りを見渡して、手頃な水場がここだけしかなかったので。でも、魔族の生息地の川は口に入れても大丈夫なものなのでしょうか?」


 少女は“うーん”と眉を寄せながら川の方を訝しそうに見つめている。

 少女がここに来た理由を聞いて、一応は納得できた。

 確かにこの辺りには、ここくらいしか水場がないから。

 しかしどうして彼女は今、“川の方”を不安げに見つめているのだ。

 目の前に、魔王の内の一人である、森王ガルゥが立っているというのに。


「……ハハッ! だったらてめえは相当運がなかったな! 水汲みに来ただけで、こうしてオレに出くわすことになっちまったんだからよォ!」


 ガルゥは威厳を示すために強気な態度を見せる。

 この少女の威圧感は本物だ。

 しかしそれが実力に直結しているかどうかは、また別の問題。

 存在感そのものは強大だが、実際の戦闘能力はこちらの方が優っている可能性は充分にある。

 そのためガルゥはいまだに余裕の笑みを崩さずに、エリンジュの首を強く掴み続けていた。


「そ、そこの、てめえ……!」


「はい?」


「い、今すぐに、ウチを助けろ……!」


「ムッ」


 そんな中、エリンジュが苦しみながら少女に助けを乞う。

 本能解放(リベレーション)の状態のガルゥに締め上げられて、まったく身動きが取れない状態になっていた。

 しかしそのエリンジュの懇願は、膨れっ面の少女に虚しくも一蹴されてしまう。


「見たところ、かなり危険な状況のようですから、元から助ける気ではいましたよ。でもそういう言い方をされると、助ける気がなくなると言いますか……」


「な、何言ってやがんだ……! こんな時に、冗談言ってんじゃねえ……! 殺されそうになってんだぞ……!」


 エリンジュは腕の先でもがきながら少女を睨みつける。

 ガルゥとしてはいつエリンジュの首元を掻っ切ってもよかったが、人間同士のいざこざを面白がってしばらく見守ることにした。

 いや、ガルゥ自身、この状況でどう動くのが正解なのか、いまいち判断がついていなかった。


「は、早くっ! 私たちに手を貸しなさいよっ!」


「金なら、後で払いますから!」


「エリンジュを、助けろ……!」


 ガルゥの魔獣特性によって、行動不能に陥っている仲間の三人も、少女に対して強めな口調で命じる。

 それによってますます頬が膨らんだ赤髪の少女は、こちらとしてはややわかりかねる交換条件を出した。


「では、王国軍の方々に、迷惑を掛けたことを謝罪すると約束していただけるなら、あなた方を守るとお誓いしますよ」


「……」


 エリンジュたちと王国軍に何かあったのか。

 その事の真相をガルゥは知る由もない。

 ただ、その言葉はエリンジュたちに相当効いているようだった。

 躊躇うような、どこか悔しがるような様子を彼女たちは見せる。

 しかしそれは一瞬だけで、すぐにエリンジュは折れた。


「絶対に、後で謝る……! 迷惑掛けたこと、心から詫びる……! だ、だから……」


 ガルゥの腕の先で、エリンジュはもがき苦しみながら、瞳の端に涙を滲ませた。


「だから、助けてください……!」


 あの強気だったエリンジュが、他人に弱さを見せた。

 仲間たちもその様子を見て唖然としている。

 対して、再び助けを乞われた少女は……


「……少しだけ、やる気が出てきたかもです」


 ふっと、満足そうに微笑んでいた。

 ピリッと空気が張り詰める。

 赤髪少女がやや前のめりになったことで、ガルゥは微かな緊張を感じていた。

 だがそれでも平静を装い、鼻で笑いながら首を傾げる。


「で、どうやってこいつを助けようってんだ? オレがこの右手に力を入れた瞬間に首がもげるってーのによォ」


 その気になれば、一秒も掛けずにエリンジュの息の根を止めることができる。

 むしろあの少女が動いた瞬間を見てからでも、余裕を持って首をへし折れる自信があった。

 しかし少女は慌てる様子もなく、水筒を地面に置きながら笑みを浮かべる。


「どうぞやってみてください。私は“いつでも”動けますから」


「……へぇ」


 まるでこちらを挑発するような物の言い方。

 これにはさすがに、ガルゥも激しい憤りを感じた。

 森王は怒りのままに咆哮する。


「だったら! 助けてみやが……!」


 ゾクッ――!

 手に力を込めようとした、その瞬間。

 凄まじい寒気が背中に迸り、同時に視界の端に“赤い髪”が靡いた。

 ガルゥは咄嗟にエリンジュの首から手を放して腕を引く。

 直後、自分が腕を伸ばしていた場所に、赤い刃がストンッと落ちて来た。


「――ッ!」


 危機感に従って、すかさずその場から後退する。

 見ると、自分が立っていたすぐ近くに、あの少女が立っていた。


「あっ、結構速いですね。腕を切ったと思ったのですが」


「……」


 それはこちらの台詞だと思わず返したくなる。

 いや、結構どころではない。

 この少女は、恐ろしいほどに速すぎる。

 いったいいつ自分の懐まで潜り込んでいた。

 いつ腰から剣を抜いていた。

 動き始めの一歩すらまるで見えなかった。

 気が付けば、隣で赤い髪が揺れていた。


(んだよ……このガキは……!)


 そのあまりの速力に、エリンジュたちも目を見張って驚愕している。

 そして遅れて、ガルゥは一つの真実に気が付く。

 少女があれほどの余裕を見せていたのは、事実“いつでも”エリンジュたちを助けられる自信があったから。

 こちらが何かしらのアクションを起こしても、その気配を悟った瞬間に止めに入れることができる間合いだったのだ。

 ガルゥの額に一筋の汗が流れる。

 そんな彼に対して、赤髪の少女は再び火種になる一言を発した。


「やめておきますか?」


「……」


 やめておきますか。

 何を、と聞き返すまでもない。

 戦うのをやめておくかどうか、それを問われているのだとガルゥはすぐに察した。

 同時に脳裏に燃えたぎる憤怒が湧き起こる。

 いったい誰に対してそんな口を利いているのか。

 冷や汗の一つを滲ませたくらいで勝ったつもりか。


(オレは、森王ガルゥだぞ……!)


 舐め切った台詞を投げかけられて、ガルゥの怒りは頂点に達した。


「ブチ、コロスッ――!」


 ガルゥは肉食獣のごとく手足を地面につけて、思い切り蹴飛ばした。

 閃くような速さで疾走し、少女に右手の爪を突き込む。

 その迫力に気圧されたようにエリンジュたちは小さな悲鳴を漏らしていたが……


「よっ!」


 赤髪の少女は、ガルゥの高速の一撃を、正確に目で捉えて剣で弾いた。

 ガルゥの額にさらに青筋が刻まれる。

 その気迫に怯えて、エリンジュは仲間たちを引っ張って遠方に避難し、直後にガルゥと少女の斬り合いが始まった。

 ガルゥが獣の爪を突く。少女が剣を振り上げてそれを弾く。

 反対に少女が剣を振る。ガルゥは鋭利な爪を盾にしてそれを防ぐ。

 傍から見れば両者一歩も譲らない激戦。しかし実情はまったく違っていた。


(んだよ、この重さは……!)


 ガルゥは少女の一撃を受け止める度に奥歯を噛み締めていた。

 速力だけではなかった。

 この少女は膂力においても遥かに高い次元に到達している。

 今はなんとか踏ん張ることができているが、気を抜けば一瞬で森の彼方まで吹き飛ばされてしまいそうだった。


「ガキが、調子に乗ってんじゃねえッ――!」


 ガルゥは堪らずに少女を“睨みつける”。

 魔獣特性を使用して、エリンジュの仲間たちと同じように体を拘束しようと企んだが……


「ほっ!」


 なぜか赤髪の少女は止まらなかった。

 軽快な動きをそのままに剣を振られて、ガルゥは驚愕しながら紙一重で躱す。

 僅かでも動きを阻害した感覚がない。魔獣特性がまったく通用していない。

 この能力は、かなりの精神力を持っている者には効果が薄いが、それでも少しばかりは動きが鈍るものである。

 それがまるで通用していないということは、少女は精神力の方も計り知れない強さのようだ。

 それに……


(さっきから、んだよあの剣は……)


 緑色の柄に真紅の刃。

 見た目の美しさもさることながら、異常なほどの耐久力を感じる。

 並大抵の武器ならば、ガルゥが爪を立てた瞬間に砕け散り、名匠の一振りでさえも傷だらけにするというのに……

 あの剣は、ただの一つも傷が付いていなかった。


(何かタネがあるのか……)


 かなりの鋭さもあり、下手に受ければこちらの体が斬り裂かれる可能性もある。

 並の刀匠の仕業ではない。

 そのため早いところあの剣を破壊できれば戦闘が楽になるのだが、それは叶いそうになかった。


(あぁ、クソ、めんどくせえなァ……! だったら……)


 ガルゥは攻撃の手を止めて、一度少女から距離を取る。

 その行動に少女も訝しみ、すぐに距離を詰めることはしなかった。

 僅かにできた一瞬の隙に、ガルゥは全身に渾身の力を込める。


「ウ、ガアアアァァァ!!!」


 ガルゥの獣に似た肉体が、さらに獣に近づくように変化を見せる。

 上位種の魔獣には、本能解放(リベレーション)という特別な力が宿されている。

 さらに、上位種の中でも選ばれた魔獣にのみ許されている、もう一つの奥義が存在していた。

 本能解放(リベレーション)を超える超覚醒現象――【本能暴走(デストラクション)】。

 魔獣としての本能を呼び覚まし、身体能力を向上させる本能解放(リベレーション)とは別種の力。

 本能を暴走させて理性のほとんどを犠牲にすることで、本能解放(リベレーション)を超越する身体強化が発生する。


「グルルルゥゥ……!」


 人間に近かった姿は遠い昔のように、ガルゥはその身を“巨大な白狼”へと変貌させた。


「な、んだよ……あれ……!」


 エリンジュたちの恐怖の感情が風に乗って伝わって来る。

 ただでさえ本能解放(リベレーション)の段階で圧倒されていた彼女たちには、本能暴走(デストラクション)の状態のガルゥは恐怖の塊そのものにしか見えなかった。

 ガルゥは微かに残された理性で喜びを感じる。


(これ、ダヨナァ……! この強さを、オレは求めてたんダヨナァ……!)


 相手を恐怖に誘なう超越した強さ。

 戦うことすら憚られる圧倒的な迫力と威圧感。

 あの竜王ドランに覚えさせられた恐怖という感情で、自分も他者を支配したい。

 恐怖の象徴とも呼ばれるような魔獣になりたい。

 その願いを形にするかのように、ガルゥはエリンジュたちに重圧のような絶望感を与えてみせた。


 しかし、赤髪の少女は……


「おぉ、そんなこともできるんですね」


 終始、平然とした様子を貫徹していた。

 まるで驚く様子も慄く気配もない。

 感心したように間抜けに口を開けている始末。

 どこまでこちらを舐めれば気が済むのか。


「すぐにその余裕を、掻き消してヤルヨッ……!」


 ガルゥは四つ脚に力を込めて地面を踏みしめる。

 完全に獣化したことでさらに鋭利になった爪を、全力で突き立てる。

 純白の獣毛が風に揺られる中、ガルゥは瞳を細めて少女を睨みつけた。

 ……一瞬で、終わらせる。


「グラアッ!」


 ガルゥは地面を蹴り、一瞬の風となって疾走した。

 巨大な狼の右前脚を、佇む少女に鋭く突き出す。

 あまりの素早さにエリンジュたちがガルゥを見失う中、それでも少女は獣の姿をしかと目で捉えていた。


「――っ!」


 ギンッ! と甲高い音が森に響く。

 少女はまたも右手の剣で爪の一撃を弾いたが、先ほどのような余裕はなさそうに見えた。

 本能暴走(デストラクション)を使ったことで、戦闘能力が著しく向上し、力強さにそこまでの差がなくなったようだ。

 ガルゥは内心で獰猛な笑みを浮かべて、続けて少女を追撃する。

 巨大な狼の爪で絶え間なく攻撃し、少女はその一つ一つを紙一重のところで弾いていた。


(これが、森の王の力だッ! オレこそが、恐怖の象徴となる最強の魔獣だッ!)


 強者が激しくぶつかり合い、強烈な衝撃が突風となって四散する。

 森全体が揺れるようにざわめく中、エリンジュたちも息を飲んで行方を見守っていた。

 その時、ガルゥの一撃を弾いた少女が、一瞬だけ体勢を崩す。

 瞬き一つの時間にも満たないほどの、ほんの僅かに見えた小さな隙。

 ガルゥはそれを、見逃さなかった。


「グラアッ!」


 左前脚の爪を立てて、全力でそれを振り回す。

 狙う先は、少女の華奢な首元。

 一撃で首を飛ばすべく爪を振ったが、彼女はそれを寸前のところで剣で防いだ。

 だが、歪な格好で受け止めたため、『ガンッ!』と甲高い音と共に直剣が“弾き飛ぶ”。

 これで武器はなくなった。攻撃を防ぐ手段もない。

 高々と打ち上がった剣を見て、ガルゥは不気味に微笑んだ。


「これで終いだッ! クソガキがァァァ!!!」


 無防備な状態で立つ少女に向けて、巨大な白狼は右脚の大爪を突き込んだ。

 刹那――




 ゴトッ。




 ガルゥの足元に、何かが落ちる。

 釣られて地面に視線を落とすと、それは……


 たった今、突き込んだはずの、自分の右の“前脚”だった。


「ハッ……? アッ……? グ……アアァァァァァ!!!」


 遅れて激痛が迸り、ガルゥは獣の呻き声を轟かせる。

 鮮血を撒き散らしながら慌てて後方に飛び退り、半ばから失われた右前脚を見て激しく混乱した。

 脚が落ちた。血が止まらない。激しく動揺しながら、同時に大量の疑問符が浮かび上がってくる。

 前脚には鋭い傷口が残されていた。

 まるで鋭利な刃物で斬られたような傷が。

 しかし少女の手元に剣はないはず。武器を隠し持っていた様子もない。

 何で斬った? 何で自分は斬られた? 他所からの不意打ちでも受けたのか?

 しかしエリンジュたちは遠方から動いていない。他に刺客がいる気配もない。

 そもそも、自分の強固な前脚を一瞬にして斬り落とせる武器なんて……

 その時、ガルゥは目の前の少女の異変に気が付く。


(手……?)


 彼女の“右手”に、血が滴っているのが見えた。

 おそらくは、こちらの前脚から流れ出ているものと同じだろう血が。


(まさ、か……)


 ガルゥの背筋に再び悪寒が走る。

 硬質な魔獣の皮膚を……

 その中でも指折りの硬度を持つ森王ガルゥの前脚を……

 本能暴走(デストラクション)の力を解き放っている最高状態の肉体を……


 この女は、素手による手刀(・・・・・・・)で斬り裂いたというのか?


「剣がなければ、斬れないとでも思いました?」


「……」


 赤く染まった右手を少女が構えて、ガルゥは思わず体を震わせた。

 剣を弾いたことで完全に油断していた。

 向こうからの反撃はないと思って前のめりになってしまった。

 しかし誰が予想できるというのだろうか。

 ただの素手だけで、ここまで手痛い反撃を食らうことになるなんて。

 加えて少女からはまだ絶大な余力を感じる。

 力の底が、まるで見えない。


(なん、だよ……! この化け物はッ――!)


 竜王ドランと対峙した時以上の絶望感に支配されて、ガルゥは強く歯を食いしばった。

 そんな中、少女は引き攣った顔のガルゥに、何気ない様子で声を掛ける。


「あの、勝負がついてしまう前に、一つだけお尋ねしておきたいことがあるのですが……」


 こんな時に、何を……?

 ガルゥがそう訝しむ中、少女は真っ直ぐに、濁りのない表情で、純粋な疑問をぶつけてきた。




「森王ガルゥという方は、どちらにいるのでしょうか?」




「…………はっ?」


 一瞬、何を聞かれたのか、まったく理解ができなかった。

 その問いかけを聞いて、エリンジュたちもぽかんと口を開けている。

 森王ガルゥはどこにいるのか? 目の前にいる白狼の魔獣がそうだと言いたげな表情だった。

 ガルゥは遅れて、その問いかけの意味を悟る。

 少女はここにいる魔獣が森王ガルゥだと気付いていない。

 ということは、つまり……


「ク……ソガッ……!」


 自分も、そこらにいる魔獣の一匹だと、彼女に思われているということだった。

 森の中で冒険者パーティーを襲っていただけの、取るに足らない魔獣の一匹。

 その程度の魔獣としか思わせることができなかったのだ。

 悔しさ以上に、恐怖を感じる。


(んだよ、こいつ……! こんなのいったい、どうすりゃ……)


 計り知れない実力の差を感じたガルゥは、今一度目の前の少女に恐れを抱く。

 こんな人間、今までに出会ったことがない。

 ガルゥは絶望感のあまり、逃げ去るように後方を振り返る。

 それと同時に、少女から強烈な殺気を感じ、先刻の素早い一撃を思い出して首が飛ばされると覚悟した。

 だが……


 ドボンッ!


 ガルゥが一歩踏み込んだところに、ちょうど“川”が流れていた。

 身を投げる形で川へと落ちたガルゥは、深い川底に沈んだまま流されていく。

 少女は水の上からそれを見下ろしてくるだけで、さすがに潜ってまでは追って来ないようだった。

 ガルゥは思わず安堵する。同時に安心している自分に腹が立つ。

 森王と呼ばれているこの自分が、まさかこんな大敗を喫することになろうとは。

 水の中で怒り狂うように歯を食いしばる中、ガルゥは最後にくぐもった少女の声を遠くに聞いた。


「この水は、もう飲みたくありませんね」

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