異世界園芸店は花言葉で無双する、と思ったら助手のお陰でちがうムソウになりそうです
魔界には植物を育てるという概念がなかった。弱肉強食の魔界に放たれた植物は異形と化した。カブを抜けばつんざく叫びを轟かせ、大輪の花は人を食い、顔がある樹木が森を走る。
異形の植物は人々に忌み嫌われ、魔族ですら手を余し、専ら駆除の対象とされていた。
そんな所に異世界転移してしまった園芸店員はピンチだった。
「ウ、アア……」
雌しべが女性の形をした異形の大輪花アルラウネ。
花の甘い香りに誘われ、その異形に近づいていく園芸店員。その様子は、アルラウネのいつもの食事の風景になるかと見えたが……
◇
「ほんと、あの時は店員様の事が神に見えましてよ!」
「うう、こんな所に来てまで職業病が出ちゃうなんて……」
「とはいえ、魔界の植物達は店員様のお陰で随分元気に、穏やかになりましたわ!」
「水と肥料をやっただけです……。【花言葉】は予想外でしたけど。アハハ」
私は苦笑しながら、【助手】のアルちゃんからお茶を貰います。あの時、葉の萎れと黄変を見て、持っていた水と肥料をあげたら、アルちゃんはあっという間に元気なりました。でも、問題は何となくつけてしまった【花言葉】です。
他の魔界の植物にも水や肥料をやっている時に、アルちゃんがツルで器用に手伝ってくれたので、
「アルちゃんに花言葉があったら【助手】が似合いそうだなあ」
と何となく言ったら、その【花言葉】通り【助手】になってしまいました。
魔界の植物には【花言葉】はありません。私が付けた【花言葉】は、植物を【花言葉】通りにしてしまう様です。なんて大それた能力……。私はお花を育てたいだけなのですけど……。
「そういえば、魔界でも雑草はあるんですね」
「あら、あの生命力だけは抜群の植物達ですわね」
お茶を一口飲み溜息をついてしまいます。アルちゃんの蜜の甘さが効いてて美味しい。
「実は花壇に雑草さんが居ると、お花の方の栄養が雑草さんに取られてしまって……」
「それでしたら、雑草に移動してもらえばよろしいのですわ。それと雑草に一つ、【花言葉】を店員様から頂けるかしら?」
そう言ったアルちゃんが、早速花壇の雑草さんにお話をしてくれました。
「雑草さんはどこに行ったんですか」
「まあ、ちょっとした悪戯ですわよ」
◇
その日、人の王の城が【根深い】雑草で覆われた。
魔界の森は雑草一つ一つが名を持ち、【花言葉】を持つ様になっていく。植物がただの草と扱われる事が無い、園芸店員の『無草』は始まったばかりだった。