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第89話 救済

ルチアを探しにジュベル国の首都『オラベル』に向かう途中ルチアの出身地ネリア村へ立ち寄った。


ネリア村は宣教部隊の襲撃により、若い村人が虐殺され、働き手を失い、村としての機能を果たしてなかった。

崩れかけた建物、枯れ果てた農作地、生気なく飢えた人々。何よりも子供達の表情が暗い。


生き残った老人子供が国からの救援物資でなんとか生き延びているだけだった。

村長は言った。


「このままでは、田畑は朽ち果て村は滅びるしかねぇわな。春まで生き延びることができたら移住するしかねえだで。」


俺は、村長宅で、一杯のスープをご馳走になった。

ほんの少しの野菜が入った塩だけで味付けしたスープだ。

そんな粗末なスープでも村人にとっては貴重な食料だったはずだ。


その貴重な食料を『ルチアの知り合い』だという理由だけで俺に分け与えてくれたのだ。

ならば、俺のやるべきことは決まっている。

ルチアの仲間を助けよう。


この村に足りない物、それは


1 働き手

2 水、食料

3 来年の春に作付けするための種


「村長さん。」


「何だね?」


「俺の故郷には、『一宿一飯の恩義』という言葉があります。」


「どういう意味にか?」


「縁の薄い人からでも、施しを受けたなら、その恩義を忘れてはならない。恩を返しなさい。という意味です。」



村長は首をかしげる。


「ワシらは大したことしてないだによ。それに恩は子供達に返してくれたじゃないかね。」


「いえ、それだけじゃ足りないです。ルチアは俺の家族です。その家族の隣人が困っているのだから、少しでも手助けがしたいです。食料と水、それに来年作付けするための種は俺がなんとかします。」


村長も、他の村人も驚いている。


「なんとかするって言ったって。まだ300人は、この村に残っているだでよ?その全員分の食料を持ってきてくれるっつうのかね?それに種も?」


「ええ、俺なら用意できます。ただし、何をどうするかというのは聞かないで下さい。それさえ守ってくれたら、近日中に村人300人が来年の春まで飢えないですむ食料と水、それに種も用意します。」


「そりゃぁ、あんた。食料を用意してくれるなら、何の注文も付けないし、何もいうなっつうなら、何も言わねぇでよ。でけんのかね?そげなこと」


「はい。できます。やります。」


俺は村長に案内してもらって村の食料貯蔵庫へ案内してもらった。


倉庫の中はほぼ空だった。

本来食料は各個人が自宅で保管するものだが、この世界の大抵の農村には、公共の非常食や、来年の作付けの種や飼料を保管するための大きな倉庫がある。

この村にも、その倉庫が3基あった。


「今日から3日以内に、この倉庫に食料と種を入れておきます。赤の他人が倉庫へ入るのは心配でしょうから、倉庫の周囲に人を配置してもらってもかまいません。ただし、俺が良いというまで、倉庫へは誰も入れないで下さい。」


「わかった。どうせ倉庫にはろくなもんがない。子供達に弁当をくれたあんたを信じてみるだによ。」


村長は半信半疑だろうが、俺の提案を受け入れてくれた。

俺は一度村から出てウルフへ戻って、事情をドルムさんとピンターにうちあけた。

それから、ゲートでアウラ神殿へ向かった。

食料調達の資金を得るためだ。


「こんちわー」


「お、ソウ。獣人国へ向かっているんだってな。一言いえば乗せてってやったのに。」


「ありがとうございます。でもアウラ様に飛んでもらうと襲撃とまちがわれるかもしれませんので。ご厚意だけいただいておきます。」


「ほーけー。」


めずらしくアウラ様が自室に居た。


「父ちゃん、お帰り~」

「父様、おかえりなさい。」


ツインズも出迎えてくれた。


「まぁ、ソウさん。また逞しくなったわね。」


イリヤ様が俺の肩を触る。

俺は自分ではわからないが、身体も魔力も日に日に成長しているようだ。


忙しくて何も訓練はしていないが、よく考えれば、四六時中、獣化していて魔力を消費しているので、獣化しているだけで、訓練になっているのかもしれない。


「かあちゃん。気安く独身の男に触れたら、アカンやろ。」


「まぁ貴方、妬いているの?ウフフ」


アウラ様が少し慌てる。


「ちゃうわい。ソウが迷惑やと、いうとるんじゃ。」


「あら、ソウさん。迷惑?」


イリヤ様は人妻で、すごくなまめかしい。


「いえ、迷惑だなんて。そんなこと全然ないです。ハイ。」


「オイ!」


アウラ様が冗談めかして俺を睨む。


「ホンデ、なんの用かいの?」


「宝物庫のお金、少しもらっていきます。いいですか?」


「おう、あれは、全部お前にやったもんじゃ。好きに使わんかい。・・・でも何につかうんぞ?」


俺はネリア村での出来事をアウラ様達に話した。


「ほうか~。ソウは優しいの。いずれ神様になれるかもしれんな。」


アウラ様が突拍子もないことを言う。


「神様になんて、とんでもないです。そんなこと考える事すら恐れ多いです。」


イリヤ様が俺を見て微笑む。


「あら、ソウさん。アウラだって、最初は小さな村を救ったことがきっかけで信仰対象になったのよ。ソウさんだって同じ道を歩むかも知れないじゃないの。」


アウラ様は何万年も生きてきた末に人々から崇められて龍神になった。

それと俺では比べようもない。


「それは無理ですよ。俺はアウラ様みたいに何万年も生きられないし。」


イリヤ様がアウラ様を見た。


「貴方、言ってないの?」


アウラ様が首をかしげる


「言うとらへんかったかな?」


何のことだろう?


「何です?」


「ソウ、お前、龍神丹飲んだよな?」


「はい。いただきました。おかげで、このとおり、足も生えてきました。」


俺は左足をポンポンと叩いた。


「ワイ、龍神丹飲むと、寿命が1000年に伸びるてソウに言うたよな?」


え?


・・・・・・・俺の寿命が1000年?


「・・・俺の寿命のことですか?俺の寿命が1000年になるってことですか?」


「ああ、そうや。お前が飲んで他の人に効果がでるわけないやろ。アハハ」


初耳だが『寿命が縮むのではなく、寿命が延びるという話』なので、驚きはしたが、困る話ではない。

それにしても、寿命が10倍以上に伸びるなんて、長生きしたいとは思っていたが、それが1000年にもなると考え物だ・・・どう反応してよいのかわからない。



その話は今度ゆっくりしてみよう。


俺は宝物庫から適当に白金貨や金貨をマジックバッグへ放り込んだ。

この世界に自分で欲しいと思う物が無いせいか、最近、物欲、金銭欲と言ったものが全くない。

欲しいのは仲間の安全と自由だけだ。


「それじゃ、頂いて行きます。」


「おう。近いうちに遊びに行くから、アレたのむぞ。」


「はい。美味いの見繕っときます。」


「「いってらっしゃーい。」」


「またね。ソウさん。」


俺はアウラ様の神殿を後にして、キューブへ戻ってからキノクニ社屋へ向かった。

ブンザさんに会うためだ。



「ブンザさん。相談があります。」


「あら、シン相談役、お久しぶり。苦労されているようですね。」


「はい。お久しぶりです。さほどの苦労ではないです。」


「それで、相談って何です?」


「はい。キノクニが備蓄してある食料を大量に買い付けたいのですが、誰に相談すればいいでしょう?」


キノクニは現代風に言えば総合商社だ。

保存食も大量にかかえているはずだ。


「そんなことですか、それなら、私で用が足ります。なんなりと」


ブンザさんは前回のキャラバンを終えてから、隊長役を元副隊長のケンタさんに譲り、今は営業部長の職に就いている。

いずれは、このキノクニを背負って立つ人物なのだ。


「それじゃ、お言葉に甘えて、300人が来年の春まで生き延びることができるだけの食料と、来春作付けをする為の苗や種をできるだけ多く売ってください。言い値で買わせてもらいます。使い道は聞かないで下さい。あくまでも私とキノクニの商売です。伝票もしっかり残してください。」


ゲランの敵国ジュベル国の住民の為だとは言えない。

もし、このことがゲラン国に知れると、明らかに反逆行為だ。

だから、もしもの時には俺一人が責任を取るつもりでいた。


「そんなに沢山・・・何かわけありなのでしょうね・・ソウさんのことだから。フフフ」


ブンザさんは女ながら肝が据わっている。

詳しく話さなくても、ブンザさんならわかってくれるだろうと思っていた。


「ありがとうございます。」


「西の第三倉庫に穀物が大量にあります。好きなだけ持って行って下さい。後で在庫を調べて、差額を請求致します。種苗については第5倉庫に小麦類や野菜の苗があるはずなので、それも好きなだけ持って行って下さい。」


「話が早くて助かります。あ、それと力仕事に慣れた人を何人か貸してください。勿論日当は払います。」


「いいですよ。あくまで、ソウさんとキノクニの商売ですものね。」


ブンザさんは勘もいい。

俺の思おうところを既に察しているようだ。


俺は何人かの従業員の力を借りてキノクニの倉庫にゲートを設置し、ネリア村の食糧庫へ、小麦粉やイモ、乾燥魚介類、乾燥肉を大量に運んだ。


荷物運びをしてくれた従業員のほとんどは顔見知りで、ブテラからのキャラバンを共にした人達だった。

おそらくブンザさんが気をまわしてくれたのだろう。


従業員には平均日当の倍の賃金を支払った。


「シン相談役、いつもありがとうございます。あんた神様みてぇな人だ。アハハ」


古参の従業員が挨拶してくれた。


「神様だなんて、少し多めの賃金を払っただけだよ。」


「いや、キャラバンで、命を救われ、帰って来てからは、美味い酒を飲ましてもらい。今は給金まではずんでもらっている。あんたは神様だよ。な、みんな。」


「「「オウ」」」


「俺達はシン相談役の役に立てるのが嬉しいんだ。なんかあったら、次も俺達に声かけてくれよ。」


「ああ、その時には、また頼むよ。ありがとう。」


従業員は口々に礼を言いながらキノクニへ帰って行った。


人手も多かったせいか食料等を運び込むのに半日もかからなかった。

食料の他には医薬品や日常雑貨も運び込んだが、キノクニの雑貨品倉庫で良い物を見つけたので、それも運び込んだ。

後で子供達を喜ばせてあげようと思っている。


荷物を運び込み、従業員たちが帰ってから、村長達を倉庫へ招き入れた。


「こりゃぁ・・・・・あんた。ええのかね?」


村長は驚きの目をして食料の山を見上げている。

うまく言葉にならないようだ。


「いいですよ。ルチアの故郷のためだ。何も惜しくない。」


他の住人達も食料の山を見つめて喜んでいる。

中には涙を流す者もいた。


「これで、子供達が餓死することもねぇだに。」


そういって一人の男が手を合わせて、俺を拝んだ。

その後、村の広場で焚火と大鍋を並べて炊き出しを行ったところ、村人ほぼ全員が集まった。


村人の多くは老人と子供で若者は少なかった。

宣教部隊との戦いで多くの若者が戦死したそうだ。


「こちらは、ライエン夫妻の子、ルチアの保護者ソウ・ホンダ殿だでや。ワシらの困窮を見るに見かねて、食料の支援をしてくださった。この冬は間違いなく無事越せる。子供がひもじい思いをしなくても済む。一日2食はくえるだでよ。みんな安心するがええだによ。」


村長が俺を紹介してくれた。


村人に笑顔が戻ったようだ。


次回投稿は1月28日金曜日を予定しています。

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