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異世界修学旅行で人狼になりました。  作者: ていぞう
遭難編
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第8話 ピンター 逝くな

ブラニに助けられて13日目、老人の治療のおかげで、ゆっくりと散歩できる程度には回復していた。


「兄ちゃん、遊んでよ。」


あいかわらずピンターが、俺にまとわりついてる。


「ピンター、俺なんかと遊ぶより、友達と遊んだほうが楽しくないか?」


ピンターは少し困ったような表情をして。


「友達は年上ばかりで、俺のこと、チビ、チビって、からかうから楽しくない。兄ちゃんみたいに背が高ければいいのに。」


この村は、さほど大きくない。

人口もおそらく200人程度だろうか。


子供もいるにはいるが、俺の見た限りでは、ピンターと同じ年頃の子は少ないようだ。


「ピンター、背が高くなりたいのか?」


「うん、けど、直ぐには高くならないでしょ?小魚たくさん食べると早くおっきくなれるって、父ちゃん言ってた。」


「ちょっと待ってろ。」


俺は、あることを思いついた。


ブラニさんの鉈を借りて竹林で竹を何本か切ってきた。

その竹を使って俺がソレを作り始めた。


 俺の作業をピンターは目を輝かせてみている。


「ナニナニ?兄ちゃん何作ってるの?」


「出来てからのお楽しみだ。」


小一時間でソレは、出来た。


「ピンター、プレゼントだ。」


「何これ?」


俺は、自分で作った「竹馬」に乗って、ピンターの周囲を歩いて見せた。


「ウワー、オイラもやる。オイラもやる!!」


ピンターは最初うまく乗れなかったが、俺が補助をしてやると、運動神経が良いのか、すぐ乗りこなすようになった。


よほど嬉しかったらしく、竹馬に乗ったまま、村中を走り回っていた。


ピンターが竹馬に乗っている姿を見た村の子供たちは、ピンターにむらがり、好機の目を向けていた。


後からピンターに聞いたところによると、その日ピンターは子供達の憧れの的になったそうだ。

翌日から、竹馬製造作業に追われることになったのは、言うまでもない。


竹馬を通じて村の子供たちと親しくなったおかげで、村の大人たちとの関係も良好になった。


大人たちといろいろ話す機会も増えて、特に子供たちの母親から話しかけてくれることが多くなった。


それに何となくだが、村の娘たちからの視線を多く浴びるようになった。


「ソウ、君、もててるそうだな」


夕食時にブラニさんから言われた。


「なんです?もててるって?俺16年生きてますけど、女性にもてたことなんて一度もないですよ?」


「何言ってる、君ほどの男前が持てないはずないじゃないか、なあブルナ」


ブラニさんが可笑しなことを言って娘のブルナに顔を向けた。


するとブルナはなぜだか恥ずかし気に下を向いた。


「そうだぜ兄ちゃん、隣のルバナねえちゃんも、村長とこのテルマ姉ちゃんも、兄ちゃんのこと格好いいって言ってたよ。オイラ兄ちゃんのこと、いろいろ聞かれた。」


「へ?」


俺は、何のことだか、さっぱりわからなかった。


「ソウ君は女の目から見たら、千人に一人っていう位の男前よ」


ブラニさんの妻ラマさんが言った。


「ええー、それ言いすぎ。というかそんなことあるはずないでしょ。」


「言い過ぎじゃないわ、実際に村中の噂よ。ブラニの家にいる外国人はすごい男前だなって。」


ラマさんは、そう言うが、俺はどうしても信じられなかった。


もしラマさんの言うことが本当なら、間違いなくここは異世界だ。


翌日散歩をしていると、やはり女性の視線を感じる。

昨日の話を聞いて、俺が変に意識しているからかも知れないが。


竹馬に乗ったピンターを、お供に散歩していると、俺と同年くらいの少女が近づいて来て


「お見舞いの品です。」


と言って、植物のつるで編んだ籠に入った果物を差し出した。


「えーと・・」


俺が戸惑っていると


「テルマと言います。苦労されたそうですね。」


と言ってホホを赤らめた。


テルマは身長150センチくらい、肩までの黒髪で、ブラニ家の人々よりは上等そうな服を着ている。

同級生のウタに顔立ちや雰囲気が、なんとなく似ている。


「何かお困りでしたら、私が父にお願いしてあげますから、頼ってくださいね。」


「はい・・、あ、果物ありがとうございます。」


「ではまた。」


テルマは立ち去った。


「兄ちゃん、モテる~、村一番の美人に告白された~」


ピンターが笑ってる。


告白された?村一番の美人?テルマが?

やはり、ここは異世界だ。






「あなた、あなた。」


早朝、ラマさんの声が響いた。


「どうした?」


「ピンターが、ピンターが」


どうしたのだろう?

ブラニさんと一緒にピンターの寝床を覗くと、ピンターが真っ赤な顔をして、うなっている。


ブラニさんがピンターのおでこに手を充てると


「まずいな、すごい熱だ。」


ピンターは、ラマさんが呼んでも


「ううう・・」


と、うなるだけで返事ができず、意識が混濁しているようだった。

ブラニさんは


「クトカン様を呼んでくる」


と言って家を飛び出ていった。

クトカン様というのは俺を治療したマジナイ師のようだ。


2~3時間ほどで、クトカン様が到着した。

クトカン様は、ピンターに自分の手をかざして


「月の神よ、我は、あなたの忠実な僕、ピンターを病から救う力を我に与えたまえ。」


と言うと意識をピンターに集中した。

今度はマジナイの言葉が判った。


クトカン様がしばらく集中すると、クトカン様の手が、わずかに光り、ピンターの息が少し楽になったように見えた。


「どうでしょう、クトカン様、ピンターは。」


ブラニさんが、心配そうな表情でクトカン様に尋ねる。


「そうじゃのう、なんとも言えんが、ピンターはドゥマンだろう。ピンターの生きる力が強ければ助かるが、そうでなければ・・・」


クトカン様は言葉を濁した。


「おそらく、何時間かすれば、また熱が出るだろうから、その度に冷やしてやるがよい。明日また様子を見にこよう。」


クトカン様はそう言って家を出た。

俺はブルナに尋ねた。


「ドゥマンってなんだ?」


ブルナは、


「ドゥマンは、高熱が周期的に出る病気で、毎年何人かは、この病気で亡くなるの。大人でも助からないことが多いのに、ピンターは・・・」


というと、涙をこぼした。


(定期的な高熱?)


昔、両親と共に海外旅行をする時に「マラリア」の予防接種を受けたことがある。


その時


「マラリアは蚊を介して人に感染し、3日間位、波状的に高熱が出る。早期治療が重要で、対処が遅れると死に至る。」


という説明を受けた記憶が蘇った。


(死に至る・・・ ピンターが死ぬ?)


絶対に嫌だ。


ピンターの病気はマラリアかもしれない。


クトカン様の治療は俺の骨折も、またたく間に治したのに、病気は治せないのか?

ブラニさんに尋ねたが、クトカン様の治療は、怪我にはかなり効果的だが、病気を根本的に治療することは出来ないそうだ。


クトカン様の治療が終わって、少しの間は、ピンターの症状も和らいでいたが、時間の経過と共に病状が悪化していった。


「ピンター・・」


ラマさんがピンターの額の汗をぬぐう。

ブルナは水桶の水を何度も交換している。


(俺にも何かできることはないだろうか?)


俺の科学知識でピンターを救う方法はないだろうか、いろいろと考えているうちに


「マラリアには特効薬がある。」


ということを思い出した。

特効薬の名称は思い出せないが、「抗生物質」が効果あるような気がする。

しかし、抗生物質なんて、この付近にはないだろうし・・・



あった。


『飛行機』



CAの前田さんによると、飛行機には常備薬や蘇生キットが2セット搭載されている。

1セットはヒナ達一行が持っているが、もう1セットは、飛行機後部の沈没部分にあるはずだ。


わずかに希望が見えた。


(待っていろよ、ピンター)


「ブラニさん、ピンターの病気を治せるかもしれません。」


俺は、不時着した場所に、ピンターの病気に効果がある薬があることをブラニさんに説明した。


「本当か?それならすぐに船を出す。準備するから。」


ブラニさんと俺は、ブラニさんの丸太船に乗って島を出た。

二人で船を漕いで2時間程すると、銀色に輝く飛行機の機体が見えた。


「何だ、あれは?」


飛行機を見たブラニさんが驚きの声を上げる。


その時、進行方向の海面が盛り上がって大ウミヘビが一度海面に顔を出し、すぐ海中へ戻った。


「ウララウトだ!」


ブラニさんが、そう叫ぶと船に積み込んでいた麻袋の中身を海中に放出した。

何かの灰だ。


「何ですか、それ?」


「ウララウトの嫌う、ムクエという草の灰だよ。」


船の上でしばらく様子をうかがっていたが、大ウミヘビは襲ってこない。

船を飛行機に近づけて、俺が機内に乗り込もうとした時にブラニさんが、


「これを体に縛り付けていけ」


と、先ほどの麻袋を渡してくれたので、それを胴体に縛り付けて飛行機に乗り込んだ。


「死体があったら嫌だな・・」


同級生達の亡骸と遭遇しないか心配しながら、飛行機に乗り込んだが、飛行機内は荷物が散乱しているだけで死体は無かった。


(喰われたのだろうか?)


思わず手を合わせた。


散乱する荷物を乗り越えて、飛行機最後尾の水没している部分まで来た。

何度か水に潜って、常備薬を探したが、何処にあるのか分らなかった。


飛行機後部は、尾翼部分が胴体から外れるように折れていて、直径1メートルほどの空洞ができていた。


海水は、そこから入ってきている。

潮流による影響もあって、潜るたびに体が揺れる。

何度目かに潜った時、機体に開いた穴から、こちらを覗いている目に視線が合った。


大ウミヘビだ。


肺から大きく空気が漏れた。


俺は、あわてて浮上し体に付けた麻袋を絞って、灰汁を海中に流した。

一度機首方向まで避難してしばらく様子を見たが大ウミヘビは追いかけてこない。


様子を見ている間に、大ウミヘビに下半身を呑まれた同級生、池本のことを思い出してしまった。

怖くて引き返したかったが、熱でうなされるピンターのことを想うと、逃げられなかった。


もう一度、勇気を出して潜ると、大ウミヘビの姿はなかった。


海中で浮遊する毛布をかき分けていると、赤く塗られた小さな扉が目についた。

その扉を開けると、ビニールで密封された銀色のケースが三つ収められていた。


ケース三つを持ってブラニさんの元へ戻り、ケースの中身を確認する。


一つは解熱剤等の入った常備薬、もう一つは注射器等の医療器具が入ったドクターキット、最後の一つは、AED心肺蘇生キットだった。


常備薬の中には、解熱、鎮痛作用、抗生物質「カロナーレ」と書かれた薬品があった。


「これだ!」


俺とブラニさんは、すぐ島へ引き返した。

島へ引き返す途中、ブラニさんから、


「あの銀色の大きな物は何だ?」


と問われたが、飛行機だと説明するのは困難な気がしたので


「難破した自分たちの船です。」


とだけ答えた。


島に戻ると、すぐにピンターに「カロナーレ」を飲ませた。

カロナーレの用法上の注意書きには


『小児の場合は一日3回、2~3錠投与』


と書かれていたので、ピンターには3錠を飲ませた。

すると、すぐに効果が表れた。

熱が下がり始め、ピンターの顔色も良くなってきた。

しかしカロナーレの説明書には


『本品は、解熱、鎮痛の効果がありますが、対症療法のための薬品です。根本的な治療には、医師の診断が必要です。』


と書かれていた。

だが、俺にはこれ以上打つ手がない。

ピンターが発症してから、3日目、解熱剤の効果が薄れてきた。


最初のうちは効果があったカロナーレも、繰り返す発熱に対応するうち、その効果が薄れてきたのだ。


ラマさんは寝ずに看病をしている。

ピンターの症状はこの日、最悪で顔色は土気色を通り越して青白くなっている。


解熱剤の効果も薄れ、朝から高熱が続いていて、意識はほとんどない。


そして、その夜。


「ピンター!!ピンター!!!」


と、叫び声に近いラマさんの声が家中に響いた。

家の中の全員がピンターの寝床に駆け寄る。


「ピンター!!」


ブラニさんがピンターを揺り起こそうとするが、ピンターには何の反応もない。


「おおおお、ピンター」


ブラニさんがピンターを抱きしめて、大粒の涙をボロボロと溢れさせる。


「どうしたのお父さん、ピンターは?ダメなの?」


ブルナも目いっぱいに涙をためてブラニに問いかける。

ブラニは無言で首を振った。


「あああー」


ブルナもラマさんもその場に泣き崩れた。

俺も声を出して泣きそうだった。

嫌だ、ピンター死ぬな


そんな時、常備薬のケースの隣に置いてあったAED心肺蘇生キットが俺の視野に入った。


高校の授業で、心肺蘇生の模擬訓練があった。

その時にマウスツーマウスとAEDの使用方法を習っていたので、それを試してみることにした。


「ブラニさん、最後にピンターを治療してみます。何も言わないで見ていて。」


ブラニさん達に心肺蘇生方法を説明している暇はない。


 まずAED。


AEDの操作方法は、さほど難しくない。


AEDのフタを開けると、音声自動案内が始まるからだ。

フタを開けると電源が入り、赤と青のパッドを右胸付近と、心臓下のアバラ付近にセットし、ボタンを押して電気ショックを与えるだけだ。


俺は、手順通りセットして、ピンターに電気ショックを与えた。


『ビクン!』


とピンターが仰け反った。

しかし心臓は動いていない。


次にマウスツーマウスで人工呼吸を行い、更に電気ショック。

ピンターは生き返らない。

だめなのか?本当にピンターは死ぬのか?同級生が目の前で死んだ時には


「トラウマになるな。」


などと冷静に他人の死を見つめていたが、今はピンターの死の間際で、心が張り裂けそうだった。


俺になついて、竹馬で走り回っていたピンター、そのピンターが、この世から消えるなんて絶対に嫌だった。



「ピンター!!まだだ、まだ逝くな、戻ってこい!!」



涙が溢れてきた。


もう一度ピンターに電気ショックを与え、更には自分の両手をピンターの胸に添えて押した。


「ピンター生きろ、甦れ!!!」


心の底から、そう思った時、俺の両手が眩く光った。


「ヒュィー・・・」


ピンターが息を吸った。


「ピンター!!!」


ブラニさん、ラマさん、ブルナ、みんな同時にピンターに手を伸ばし触れた。


ピンターが生きていることを自分の手で確認するように。


「母ちゃん・・」


ピンターの意識が戻った。


その時


『治療スキルを獲得しました。』


と例の声がした。


「誰?」と声を出したが、誰も答えなかった。



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