表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/273

第76話 セプタ蹂躙

エリカのおばあさんに会い、バルチの村を出てから、目的地のセプタに到着する直前、ナビの警戒警報でウルフを停車させた。


ナビの警戒警報の内容は、進行方向、つまりセプタに大量の魔物や魔獣が発生しているというものだった。

偵察用ドローンを飛ばしたところ、セプタの街は魔物と魔獣に占領されていた。


更には上空にブラックドラゴンの姿があった。

これでは安易にドローンを飛ばすわけにはいかない。


「連絡要員が音信不通になった原因はこれだな。」


そもそも、今回の任務は、セプタの街に居るはずのラジエル公爵の連絡要員との音信が途切れた原因を調査することにあった。

連絡要員から連絡が無くなったのは、おそらく魔物や魔獣に殺されたか、地下深く潜っているかだ。

後者の可能性は非常に薄いと思うが・・・


「そうですね。セプタは獣人に占領されています。しかし、このようなことは過去にもありませんでした。いったいどうしたのでしょう?」


俺には少し心当たりがあった。

あのブラックドラゴンだ。

俺が出会ったブラックドラゴンは、人間によって操られていた。


操っていたのは教会関係者だ。

今回のブラックドラゴンが、フォナシス火山に現れたブラックドラゴンと同一のドラゴンなら、ある程度の説明はつく。

教会、いやヒュドラ教国が、なんらかの意図をもって魔獣を操っている可能性が高い。


偵察に出していたドローンはなんとか回収できた。

俺達は一度安全な場所まで後退することにした。

ドローンを回収した時には既に辺りは暗くなっていたので、ドラゴンに発見される可能性は低いが念のためにセプタからバルチ方向50キロの地点まで下がり、林の中にウルフを隠して、エリカをウルフ内に残した。


俺は遠話でドルムさんを呼び出した。


『ドルムさーん。』


『はいよ。交代だな。何か収穫あったか?』


『収穫と言うかなんというか、セプタは、壊滅状態です。・・・』


『え?』


『詳しいことはエリカに聞いてください。俺はラジエル公爵に報告です。』


『わかった。』


俺は、ドルムさんと交代してキューブへ戻った。

すぐにキューブを出て、ラジエル公爵邸へ走った。

馬車を呼ぶ暇が惜しかったので、自分の足で走ったのだ。

走った勢いのまま、貴族街と平民街を隔てている高さ5メートル位の塀を飛び越えた。


ラジエル公爵の屋敷に来たが、たまたまなのか正面の門に門番がいなかったので、その門さへも飛び越えた。

正面玄関へ近づこうとしたところ、左右から殺気がしたので身構えたら、キノクニ情報部の人間だった。


これは、門を飛び越えた俺が悪い。

すぐにサルトさんを呼んでもらった。

サルトさんの案内で屋敷一階の応接室に入った。

ラジエル公爵は寝間着姿で現れた。


「どうした、シン。まだ出発せぬのか?」


ラジエル公爵から命を受けてまだ3日も経っていない。

ラジエル公爵は俺がまだ出発していなかったと思っているらしい。


「いえ、もう行ってきました。連絡員、音信不通の原因もわかりました。」


「なんと、下命してから3日も経っておらぬぞ。それなのにセプタを往復したと申すか。」


「はい。往復しました。嘘は申しません。」


ラジエル公爵は目を丸くしている。


「にわかには信じがたいが、シンがそのように申すのなら、間違いなかろう。で、結果は。」


「はい。まことに残念ではありますが、セプタは壊滅状態です。」


俺は、先ほど自分で見てきたことをありのままに伝えた。

状況を説明するにしたがって、ラジエル公爵とサルトさんの表情が険しくなる。


「4,000人以上が殺されたと申すか・・・」


サルトさんが何か聞きたそうにしている。

ラジエル公爵が黙っているのを見て、サルトさんが言った。


「シン殿、壊滅状態と言うのは間違いないのでしょうか?」


「俺が見た(ナビが数えた)生存者は800人程度です。壊滅状態といっていいでしょう。しかし城壁の外にいる人や地下に隠れている人までは把握できていないので、もっと多くの生存者がいる可能性はあります。」


サルトさんは青ざめた。


「そうですか・・・」


ラジエル公爵はサルトさんを見た。


「シュガルの事が気になるのだな。もし生きておれば何とか救出の手立てを考えようぞ。」


シュガルさんと言うのは、サルトさんの知人か家族だろうか?

サルトさんには悪いが望みは薄いと思う。


「シンよ。すまぬがもう一度セプタへ走ってくれぬか、そして魔獣の動きを逐一報告してくれ。ワシは宮中で対策を講じる。」


「わかりました。偵察任務に戻ります。」


俺が腰を上げて部屋を出ようとしたところ、サルトさんが俺を制止した。


「お待ちください。遠話の加護を持つ者を連絡要員として同行させるのは無理でしょうか?」


全く無理ではない。

むしろ助かるくらいだ。

報告の度に俺がセプタとここを往復するのは間尺に合わない。


「いえ、問題ないです。こちらとしても助かります。」


「ありがとうございます。すぐに呼びますので、少々お待ちを。」


俺はもう一度ソファーに腰かけた。

4~5分待っていると、サルトさんが、中年の男を二人連れてきた。


どちらも痩せぎすで、頭はバーコード。

顔は皺だらけで、態度はオドオドしている。

少し年齢差があるようだ。

おそらく兄弟だろう。


「サンダとガイダです。遠話の加護を持ちますが、見ての通りで機動力は無いです。この二人のどちらかをシン殿に同行させたいですが、大丈夫でしょうか?」


サンダさんとガイダさんの何れかを連れて行く前に、俺の遠話とリンクできないか試してみたが、やはり、うまくいかなかった。

以前ドルムさんが言ったように、遠話は心が繋がらないと通話が困難なのだ。


「大丈夫です。どちらでも、お連れします。ただしこれから先の出来事はラジエル公爵とサルトさん以外に口外しないと約束してください。」


ポータブルゲートやウルフの事はできるだけ秘密にしておきたかった。


「わかりました。サンダ、お前シン殿について行け。」


サンダと呼ばれた若い方、(といっても50歳は過ぎているだろう。)は俺に向いてお辞儀をした。


蚊の鳴くような声で

「サンダです。おねがいします。」

と言ったようだが、よく聞き取れなかった。


「サンダさん。急ぎます。これからいろいろな事が起こりますが、身体的な危険はありませんので驚かないで下さい。それと説明をする暇もないので、質問には答えません。よろしいですか?」


サンダさんはヘコヘコと頭を下げる。


「わかりました。」


ラジエル公爵亭からは馬車でキューブまで戻った。

キューブに戻り、ドランゴさんに簡単に事情を説明してから、地下室のゲートの前に立った。

サンダさんは何も言わず俺に付いて来る。


初めての人がこのゲートをくぐるには勇気がいるだろう。

エリカの時は、補助として俺がエリカの手を握ったが、サンダさんと手を繋ぐ気にはならなかった。


「怖くないですから、俺に付いて来て下さい。」


俺が先にゲートをくぐるとサンダさんは意外とすんなり、俺の後に続いてゲートをくぐった。


ゲートを出た先は、セプタの手前100キロ地点の林の中だ。

サンダさんはキョロキョロとあたりを見回しているが動揺はしていないようだ。


(このオジサン、意外と度胸あるかも・・)


ゲートを出たところにウルフがあるが、ウルフにはドルムさんとエリカが待機していた。


「ドルムさん、ありがとう。交代だ。」


「俺も残ろうか?」


ドルムさんがそういってくれたが、今のところ戦闘をするつもりもないので、ドルムさんにはキューブへ帰ってもらった。

俺はサンダさんをウルフの後部座席へ乗せ、エリカを助手席に座らせた。


「ナビ、ウルフの使用権限を、助手席の女性に与える。」


「了解、新規使用者の手をタッチパネルに載せてください。」


俺は助手席に居るエリカの手を取り、俺の体の前から運転席の右フロントに回し、タッチパネルに載せた。

いざと言う時にエリカでもこのウルフを使用できるようにしたのだ。

子供達以外の仲間は、すでに登録してある。


エリカの右手を俺の前に回した時、自然とエリカの顔が俺に近づいた。

エリカの髪の毛の香りが俺の男心を少し刺激した。


(けっして鼻孔は広がってないぞ・・)


『新規使用者エリカ様、確認しました。』


「運転交代、運転手エリカ」


『了解』


「エリカこの馬車に命令してみろ。」


「え、え、私が運転ですか?」


「そうだ。命令内容を発声するだけでいい。命令の前に必ず『ナビ』と付けろ。」


エリカは狼狽えているが、音声命令の運転なので難しくはない。

それに武器使用の命令は俺と仲間しか出せない設定にしてあるので、万が一何かミスをしても危険なことは無い。


エリカが命令した。


「ナビ、ゆっくり走って。」


『エラー03、進行方向の指示をお願いします。』


「え、え、どうしましょう。」


エリカが慌てる。

俺がアドバイスをした。


「エリカ、命令を出す時には、できるだけ具体的に。そうだな、うちのピンターに何かお使いをさせるような感覚で、わかりやすく。」


「はい。ナビ、前方へ人が歩くくらいの速さで1分間走って。」


『了解』


ウルフはエリカの命令通り時速10キロくらいの速度で1分走った。


「うわー、言うことを聞きましたよ。シン様」


エリカはうれしそうに俺を見た。


「うん、その調子だ。しばらくは運転を任せる。」


エリカはウルフの運転にすぐ慣れた。

時速やキロメートという俺達の感覚もすぐ身に着けた。

もう少し慣れてくれば武器の使用権限も解放しようと思う。

俺とエリカの様子を後部座席のサンダさんが見守っているが、何も言わない。


俺が「質問するな」といってあるからだろう。

俺達はセプタの街の手前10キロの地点まで、ウルフを進めた。

この場所が、ウルフのレーダーで街を見張れるギリギリの位置だった。


「ナビ、装甲をカモフラージュできるか?」


『了解。外装を漆黒にします。よろしいですか。』


「ナビ実行しろ。」


ウルフの外装の色は元々緑に近い迷彩色だが、今は上空からドラゴンに発見されるのが怖い。


この辺りには灯りが無いので、ナビの判断により、外装が漆黒になった。

「ナビ、セプタの街をモニター表示」


『了解』


モニター上には灰色のブリッツが13,023青色のブリッツが3、131と表示された。

青色のブリッツは人族の凡例だ。

つまり3,131人の生存者がいるということになる。

夕方見た時には青いブリッツは、807しかなかった。

2000人位はレーダーの検索範囲外の何処かへ移動させられていたのだろう。


青色ブリッツは街の中央に固まって表示されていて、その周囲を灰色のブリッツが取り囲んでいる。

一か所に集められて監視されているのだろう。


「サンダさん。生存者約3、000名と報告して。」


「は、はい。」


俺はドルムさんを呼び出した。


『ドルムさん、出番です。』


『よっしゃ。』


ゲートからドルムさんが出てきた。


俺は運転席から降りて、エリカに告げた。


「エリカ、元の位置。ここから50キロ、バルチ方向へ後退だ。」


「はい。」


そして俺は、ウルフに乗車しなかった。


「街の様子を見てくる。エリカ、ドルムさん後頼みます。」




次回投稿は12月14日火曜日午後9時頃を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ