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第54話 ガンドール遺跡

龍神の泉を復活させてから、キャラバンへ戻ったところ、昨日ブンザ隊長が言っていたキノクニキャラバンの「キンタ隊」が到着していた。


キノクニキャラバンはいくつかのルートを行商しているが、首都~ブテラのルートはブンザ隊とキンタ隊が任されている。


二つの隊が首都からは油や食器等、生活必需品を、ブテラからは塩や魚介類の干物を仕入れて、各町や村に卸している。


二つの隊は時期をずらして出発するので、ブテラへは一か月交代で商いに行くのだ。

キューブへ戻ると、アヤコが玄関先に居た。


「あ、ちょうどよかった。シン副隊長。ブンザ隊長がお呼びです。」


「わかった、すぐ行く。」


俺はキューブへ入らずに、その足で、キューブの隣にあるブンザ隊長のテントへ向かった。


「ブンザ隊長、シンです。」


「あ、シン副隊長。どうぞ、お入りください。」


ブンザ隊長の声だ。


テントの中に入ると。

身長160センチ位、筋肉質な体で黒髪を刈り上げた男が立っていた。


「シン副隊長、キンタ隊、隊長のキンタ・キノクニです。」


ブンザ隊長がキンタ隊長を紹介してくれた。


「おう、あんたが、姉御お気に入りのシン副隊長かい。キンタだよろしくな。」


キンタ隊長が、自分の拳を胸に充て、兵隊式挨拶をしてきたので、俺も返礼した。


「シンだ。ブンザ隊長には、お世話になっている。よろしくお願いする。」


最近、獣化している時は、その姿に合ったしゃべり方を心がけている。


ブンザ隊長とは


『砂漠で魔物に襲われた時に援助してくれた旅人をスカウトした。』


という話にしてもらうことをあらかじめ話し合っていた。


「腕が立つんだってねぇ。」


「いや、それほどでもない。持っている道具が良いだけだ。」


キンタ隊長が歩きながら俺を見る。


「その道具を使いこなす技量がなければ、姉御が気に入るはずも無いよ。なんせ、姉御は女ながらキノクニの次期総領だからな。」


次期総領と言うことは、日本風に言えば、キノクニ総合商社の次期社長ということだ。


「そりゃ、まだまだ先の話だ。それより、立ってないで座れ、茶を入れてやろう。」


ブンザ隊長の勧めで畳へ上がった。


ブンザ隊長が出してくれたのは、「湯呑」だった。

中身は、日本茶だ。

俺の茶碗には茶柱が立っている。


久しぶりに日本のお茶を飲んだ。


「ふー・・」


思わず声がでてしまった。

懐かしさと美味さで出た声だ。

ブンザ隊長とキンタ隊長がその声に反応した。

ブンザ隊長が問いかける


「美味しいですか?」


「ああ、美味しい。昔は毎日このお茶を飲んでいた。母が毎朝入れてくれていた。」


(母さん、どうしているだろうか・・)


「そうですか。お母さまはご健在ですか?」


「多分、元気だろうと思う。今は連絡が取れない場所にいるから。」


ブンザ隊長は何かを察したようで、それ以上のことは聞かなった。

それから、ブンザ隊長とキンタ隊長の情報交換が始まった。


各集落の物価に関すること。

砂漠のスタンピートの件

首都の最新情報


等だ。


キンタ隊長の話によると、首都ゲラニでは大掛かりな戦争準備が始まっているようだ。


ゲラン国は今までも各地で小さな紛争を起こしていたが、ここ最近、各地の紛争は戦争に発展しつつあるらしい。

正確な情報はまだ入っていないが、どうやらゲランは本格的な侵略戦争を開始するようだ。


「話の腰を折ってすまない。ゲランの戦争目的は何だ?」


キンタ隊長が顔を俺に向ける。


「おそらく、ヒュドラ教の浸透作戦だろうな。政府のお偉方が「聖戦」を大きく前に出して国民をあおっているからな。」


ブンザ隊長が割り込む


「キンタ、国の徴兵が始まってるって本当かい?」


「ああ、今のところ、志願兵の募集にとどまっているが、うちの情報部の話では、近々、貴族はもちろん、一般家庭へも徴兵がかかるらしい。とりあえずは奴隷の召し上げから始まると思う。」


(キノクニに情報部ってあるんだ。・・)


後からブンザ隊長に聞いてわかったが、ゲラン国には徴兵制が敷かれていて、国民は15歳の成人を迎えると、男は3か月、女は1月の軍事訓練を受けるらしい。


そして軍事訓練を終了した者は、戦時下になれば、いつでも招集に応じる義務があるそうだ。


奴隷の召し上げ、というのは、自分の家族が招集されて、その招集対象が病気など、なんらかの理由で、招集に応じられない場合、奴隷を身代わりに差し出すことで、徴兵を免れることができるそうだ。


奴隷は金で買える。

どの世界でも金持ちが得をする制度があるものだ。


「姉御、ここへ来る前にガンドール遺跡の傍を通ってきたが、100人規模の調査隊がきていたよ。


調査隊の中に俺の知り合いがいて、食料と水を売ってやった。遺跡へ寄っていけば、小さな商いにはなるぜ。」


キノクニは商社だ。


キャラバンは、俺達の世界で言う移動スーパーマーケットだ。

キノクニキャラバンは隊員の統制が取れていて軍隊のようだから、ついついそのことを忘れてしまう。


「わかった。少し多めに水と食料を仕入れて行くよ。」


俺は、キンタ隊長に挨拶をしてテントを出た。

翌日の早朝、キャラバンは村を出発した。

村を出る時に、村長以下多くの村人が俺達を見送ってくれた。


「龍神の使徒様、この村を救っていただきまして、本当にありがとうございました。次回おいでるまでに使徒様の銅像を立てておきます。」


銅像は恥ずかしいのでやめて欲しいと断ったが拒否された。

しょうがないので一つだけ注文をつけて許可した。


村長が俺に挨拶する姿をブンザ隊長が不思議そうな顔で見ている。


ブンザ隊長には、心配をかけたくなかったので、「龍神の杖」の件は報告していなかった。


「シン副隊長、龍神の使徒様って何です。?」


「あ、村の人達が勝手にそう呼んでるだけで、・・アハハ。今度ゆっくり話します。」


キャラバンはいつものようにブンザ隊長を先頭、俺が殿を務めてゆっくりと行進した。

殿を務めるウルフの中は、遠足気分だ。


「キュイキュイ」


「キャウキャウ」


「あ、テランそのジュースオイラのだぞ。」


「リーザ、イイコイイコ。」


「そんでだなー、アウラ様がよー、可笑しかったよな。」


「いや、あんときのイリヤ様の顔ったら。おかしくて転げおちそうだったでやんす。」


「リーザちゃん。パン食べる?朝焼いたのよ。」


「キュイキュイ♪」


ウルフ内でのアルコール摂取は原則として禁じているが、大人はノンアルコールビールでも酔えるようだ。(しらんけど)


子供たちはジュースを飲みながらはしゃいでいる。

このところ、テルマさんの表情が明るい。

良い傾向だ。


俺達は2日後、キンタ隊長が言っていたガンドール遺跡へ到着した。

遺跡の近くには調査隊のテントがいくつも並んでいた。


ガンドール遺跡と言うのは10年ほど前にゲラン国の歴史学者「ガンドール」という人が発見した古代遺跡の事だそうだ。


遺跡は荒野の中の小さな丘に埋もれていて、小さな建物のいくつかは発掘したが、遺跡の奥には大きな建物がありそうだとのことだ。

キャラバンを停止して、水や食料を調査隊に売っている。


ピンター達がウルフから出てきた。


「兄ちゃん、遊んでいていい?」


「ああ、いいけど、キャラバンから離れるなよ。」


「うん。わかってる。」

「「キュイキュイ」」

「ハイ、ニイニ」


子供達が竹トンボで遊び始めた。


遠くで、ブンザ隊長と軍服の男が何かを話している。

俺が、二人に近づいて、軍服の男に対し、軍隊式の礼をしたところ、返礼してくれた。

ブンザ隊長が俺の事を紹介してくれた。


「ベルン様、こちらは、シン副隊長です。よしなに願います。」


「シンです。よろしくお願いします。」


俺は、礼儀正しい人には礼儀正しく対応する。


「ご苦労である。吾輩は調査隊隊長「ベルン」である。食料調達、感謝する。」


「いえ、商売ですから、こちらこそ、ありがとうございます。」


ベルン隊長の話によれば、最近この遺跡に新しい構造物が発見されて調査しているが、入り口のドアがどうしても開かないそうだ。


遺跡をできるだけ保存しようと10日くらい周囲を掘り返したりして、他の入り口を探したが見つからず、今日魔法で入り口を破壊する作業をするそうだ。


ベルン隊長の説明で、100メートルほど先の遺跡を見ると、丘が掘り返されて、遺跡の建物の一部が見えている。


見えているのは建物の角で、白くツヤツヤしている。

キューブの材質に似ている。


「今日、破壊するのですか?」


「ああ、もうすぐ始まるのである。昨日、首都から魔法に長けた術師が到着したから。まもまく作業を開始するのである。」


俺は嫌な予感がした。


俺の予感は良く当たる。


ドゴーン!!!


遺跡の方向から爆音と共に土煙が盛大に上がった。


「始まったのである。」


その後少し間をおいて、再度、爆裂音がして土煙があがった。

何秒かして、土煙が落ち着いた頃、それは始まった。


ウーウーウー


遺跡からサイレンのような音がけたたましく鳴った。

遺跡の建物の両側から俺達のキューブを小型にした建物が地上にせりあがって来た。


小型キューブの正面扉が、開いて中から、巨大な蜘蛛が出てきた。

正確に言うと、生物の蜘蛛ではなく、多足型歩行機械だ。


8本の脚は銀色に輝いている。

その足の上に胴体が乗っている。

胴体には機銃数本が見える。

機関銃に足が生えて動いているようなものだ。


その蜘蛛は見かけよりかなり速く動作できるようで、素早く動きながら、調査隊員を見つけては機銃掃射している。


蜘蛛の数は10体くらいだ。


そのうち5体ほどが、俺達に機銃を掃射しながら近づいてくる。


(やばい。)


俺は、ベルンとブンザ隊長の前に立ちはだかり、マジックバッグから、アウラ様の宝物庫から持ち出してきた盾を持った。


すると盾の周囲に半透明のシールドが勝手に張られて、俺とブンザ隊長、ベルンを守った。


カンカンカン


盾は銃弾を跳ね返した。

しかし、このままでは防戦一方だ。


「ブンザ隊長、これ持って」


俺はブンザ隊長に盾を渡し、蜘蛛向けて走った。

懐から雷鳴剣2を取り出し。

遠間から、蜘蛛に切りつけた。


剣は蜘蛛に届かなかったが、剣先から出た雷が蜘蛛を直撃すると、蜘蛛は動かなくなった。


あちこちで悲鳴がしている。

その悲鳴の方向へ走って逃げ惑う調査隊をカバーしながら、蜘蛛を壊していった。


調査隊の魔法部隊も応戦しているが、雷系の魔法を撃てる者がいないのか、金属に雷攻撃が有効なことを知らないのか、ファイヤーボール攻撃のみで、あまり効果は出ていない。


「雷系で攻撃しろ」


俺は大きな声で叫んだ。

後方でまた、悲鳴がした。

その時思い出した。


(ピンター達が外だ。)


ドルムさん達がいるから大丈夫だとは思うが・・・

目の前で殺されそうになっている調査隊を見捨てることが出来ず、戦っていたところ


ドルムさんから緊迫した声で、遠話が届いた。


『ソウ、やばい。すぐにウルフへ戻れ!!』


(なんです?)


『ピンターがやられた!!』


俺は心臓が止まりそうだった。

焦りを抑えて最後の一体を倒しながら、ウルフへ戻った。


「ソウ!!」


「ニイニ!!」


ドルムさんとルチアが蒼白な顔をしている。


(何があった?)


ウルフの中には血まみれのピンターが居た。




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