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異世界修学旅行で人狼になりました。  作者: ていぞう
遭難編
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第5話 救助 現地の言葉がわからない

作中、現地民が登場して、現地語を話しますが、これは、作者の友達の母国語を参考にしました。

友達よ、怒らないでね。

どれだけ時間が経過したのか判らないが、薄い意識の中、人の声が聞こえた。


「ヒドゥ、ヒドゥ」


誰かに衣服を掴まれて持ち上げられ、下ろされると固いものが背中に触れた。

船の中のようだ、少し安心すると再び意識を手放した。


次に目が覚めた時、そこは何かの建物の中だった。


建物というよりは、小屋といった表現の方が近いが、それでも遭難以来、初めての人工物だ。

俺は、建物内中央付近で敷物の上に寝かされていて、天井を見上げている。


起き上がろうと試みるが難しい。


両足の感覚はあるが全く動かせず、激しい痛みを持っている。

右腕も同様で反応しない。

残る左腕を支えに、起き上がろうとした時。

男が近づいてきて、俺を支えてくれた。


「アパカムバイク?」


何と言っているのかは、判らないが俺のことを心配してくれているようだ。


その男は南方系の顔立ちで、質素な布を体にまとって腰付近を縄で縛っている。


まるで縄文時代人のようないでたちだ。

俺は猛烈な渇きを覚えていたので、その男に訴えた。


「水、水を下さい。」


男は顔をかしげて


「アパ」


と言った。


(ああ、言葉が通じないのだな。)


自分の左手で何かをすくって飲む仕草をした。


「アイラ!」


男はうなずき、木製のコップに入った水を運んできてくれた。

一気に水を飲みほした。


「ハー!!」


思わず声に出してしまうほど美味かった。


「もっと下さい。」


コップを男に差し出した。


意味が通じたのか男はおかわりをくれた。

落ち着いてきて、あたりを見渡すと小屋の中には、男の妻らしき女性と7歳位の男の子、そして、俺の方を不思議そうな顔で見ている14歳位の少女がいた。


「スクヤン、マナ」


男は俺に話しかけたが、理解できない。

他にもいろいろ話かけてきたが、意味が通じないので男は会話をあきらめたようだ。


男に替わって女性が俺に近づき、何かの器を差し出した。

良い匂いがする。


「イニディア」


と笑顔で語りかけてくれた。

たぶん「どうぞ」という意味だろう。

女性が差し出してくれた木製の器の中には、温かいスープが入っていた。


何かの野菜と肉のスープだった。


体に染みた。

体が潤い、空っぽの胃に食べ物が入ると心も落ち着き、なぜだか涙がこぼれた。

生きているのが嬉しかったのだろうと思う。


「バイク?」


女性が心配そうな表情で、こちらを見ている。


「大丈夫です。」


という意味のつもりで、精いっぱいの笑顔を作って何度か頷いた。

すると女性も笑顔を返してくれた。


(言葉が全くわからなくても、意思は通じるのだな。)


食事後、女性が俺の体を支えて横になるように促してきたので、それに従い横になると、すぐ眠りに落ちた。

翌朝、男に起こされると、目の前には男性老人がいた。


その老人は、体中に入れ墨をしていて、顔も赤と青の染料で化粧をしていた。

頭には、動物の骨で飾った鉢巻きが巻かれ、手には杖を持っていた。


何かの物語に出てくる祈祷師、マジナイ師のようだ。

男は俺の壊れた右腕に自分の手を添えて、


「ブラン、ブリ、アクケカタン・・・」


と何やら呪文を唱え始めた。


おそらくマジナイで、俺の怪我を治そうとしているのだろう。


(気持ちは嬉しいけど、マジナイで骨折は治らないでしょ。)


現代科学の発展した日本に生まれた俺は、マジナイや魔法等、信じていなかった。

老人が何度か呪文を唱えて汗をながしていると、老人の両手がほんの少し輝いた。


それと同時に俺の右腕に、心地の良い風が当たったような感覚が生じた。

そして痛みが和らいだ。


「!!!」


老人は俺の両足にも同じような治療を施してくれた。


『治療』


と言ったのは、その意味通り、治療と呼べるほどの効果を俺が体感できたからだ。

現代医学でも治療効果を体感できるような施術はめったにない。


しかし、この老人のマジナイは驚異的なものだった。

俺の右腕、両足は間違いなく骨折していて青黒く腫れ上がり、常時痛みを伴っていたが、老人の施術が終わると、腫れは殆ど引いていて、痛みも和らいでいた。





老人の治療は毎日続き、日毎に俺は回復して、驚いたことに1週間後にはゆっくりとではあるが歩行ができた。


治療を受ける間に俺を助けてくれたであろう男の一家のことが、少しずつわかってきた。

もちろん会話をしたわけではないが、家族の会話を横耳で聴いて家族構成は理解できた。


俺を助けてくれた男は


ブラニ 30歳代 

身長180センチ位で筋肉質、精悍な面構えだ。


ブラニの妻

   

ラマ 20歳代

長く美しい黒髪、目鼻立ちが整ったかなりの美人


長女

   

ブルナ 14歳位

肩までの黒色の髪の毛

身長150センチ位

母親似で整った顔立ち、特に黒眼が大きく神秘的だ。

   

長男 

   

ピンター7歳くらい



ブルナは控えめの性格のようで、最初の頃はチラチラと俺を見るだけで何も話しかけてこなかった。


それでも、水や食事を俺に運んで来る時には、ニコニコと明るい笑顔を向けてくれた。


ブルナと正反対にすぐ俺と親しくなったのは、長男のピンターだ。


ピンターは7歳位で、物おじしない性格のようだ。

俺が救助された初日こそ、「何々?」みたいな態度で戸惑っていたが、俺が最初の治療を受けて以降は、積極的に俺に近づいてきて、いろいろと話しかけてくれた。


他人と共同生活をするうえで、最も大切なのはコミュニケーションだと思うが、俺は現地の言葉が判らなかった。


それでも家族の会話に聞き耳を立てているうちに、それぞれの名前くらいはわかった。

現地の言葉を覚えたいが、教わる方法がわからない。


昔、金田一という人が北海道でアイヌの言葉を収集する時、最初に覚えたかった言葉が


「何?(What)」


だったということを、何かの本で見た覚えがある。

そこで「何」という言葉を覚えるために、家族の名前を順次呼んでみた。


「ピンター」


と呼びかけたところ


「アパ?」


と答えた。

ブルナにも同様に


「ブルナ」


と呼びかけたところ


「アパ?」


と答えてくれた。


こうして俺は、現地語の


「何」


を覚えた。


「何」を覚えてからは、ピンターが俺の先生になった。


俺が空のコップを指さして


「ピンター、アパ?」


と尋ねるとピンターは、はじける様な笑顔で


「チャンギ♪」


と答えてくれた。


俺は、ありがとうの意味でピンターの頭をなでて、精いっぱいの笑顔を返した。


ピンターは初めて見る外国人の相手をし、その外国人の先生的立場になったことがうれしいようで、俺が質問しなくても、小屋の中の色々な物を持ってきて、その物の名称を教えてくれた。


10日もすると、簡単な会話ができるようになった。


ピンターは、外国人の俺のことが、気になって仕方ないらしく、いつも俺のそばにいて、甲斐甲斐しく世話をしてくれている。


こんな状態なので、風呂にも入れず、一日に一度ピンターが運んでくる桶の水で、体を拭いたところ、ピンターが俺の背中を見て


「アパ?」


と言った。


実は、俺の背中には、剛毛が生えている。

生まれながら、背中に


「タテガミ」


と言っていいほどの毛が生えているのだ。


いわゆる


「先祖還り」


という症状らしく、特に弊害もないが、体の一部が大昔の人間の形質を受け継いで生まれてくることがあるらしい。


この背中のタテガミのせいで、水泳の授業をさぼったり、温泉旅行を嫌がったりしたのは、俺の嫌な思い出の一部だ。


 ピンターに


「背中の剛毛は何よ?」


って問われた気がしたので、俺は


「ガオー!!」


と言って両手を広げ、熊の真似をしたころ、ピンターは


「キャー」


と笑いながらおどけて、そこいらを走り回った。

ピンター可愛いな


 

作者にはピンターのような元気な親戚がおります。



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