表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265/273

第265話  俺が神になれば良い



シスター内部


「ラグニア様、どうか、どうか姉の蘇生を・・・お願いします。」


ラグニアの前にボロボロの女が立っている。

半身がケロイドに覆われ髪の毛もほとんどが消失している。

昔エリカがヘレナの火球で大怪我をした時の状況とそっくりだ。

その女の腕の中にはもはや人間とは呼べない焼け焦げた肉塊が抱かれている。

ラグニアが鼻をつまむ。


「なんですか?それ、そんな汚らしいモノをシスターに持ち込むなんて、何を考えているのでしょうね。まったく。」


エレイナがの表情が曇る。


「そんなモノって・・・これは私の姉、ヘレナです。ヒュドラ教司祭のヘレナです。敬虔な信徒です。ヒュドラ様のために命を落としました。ですから・・・どうかご慈悲を、蘇生を・・・お願いします。」


ラグニアは眉をひそめて言った。


「信者がヒュドラ様のために命を懸けるのは当たり前、至極当然のこと、何を恩着せがましいことを言っているのでしょうね。そんな肉の塊のためにヒナの大切なエネルギーを浪費するわけにはまいりません。少し考えればわかることでしょうにね。オホホ。」


立ち去ろうとするラグニアのローブの裾にヘレナがすがりつく。

ラグニアがエレイナを足蹴にする。


「ええい、うっとおしい。私は忙しいのです。邪魔をしなさんな。!!」


廊下の片隅にうずくまるエレイナ。

ようやく立ち上がり肉塊をかかえて立ち去ろうとした時、アキトがとおりかかった。


「アキト!!」


「なんだエレイナ生きていたのか。運が良い奴だな。」

アキトは薄ら笑いを浮かべる。


「アキト、てめぇ!!」


「使徒様に向かってなんて口の利き方だ。俺に恨みがあるようだが、戦場で自分の身も守れないやつが文句を言うな。戦場のど真ん中で味方の爆弾が落ちたからって文句言うやつはいないだろ?よけられない方が間抜けなのさ。逆恨みすんな。」


「それでも、それでも・・・お前が姉を殺したことは間違いない。このことは・・このことは忘れないからな。」


「ああ、しっかり日記にでも書いておけ、間抜けな姉が逃げ遅れて焼肉になりましたとな。アハハ。」


エレイナが懐からナイフを取り出した。

アキトが反撃のための火の玉を作ろうとした時


「やめなさい。エレイナさんも、アキト君も。ここをどこだと思っているの。ここで争えば二人とも放り出されるわよ。シスターの外に。」


ヒナが二人の間に入って叫んだ。


「ちっ」


アキトはエレイナに一瞥をくれてから立ち去った。

ヒナがエレイナの腕の中の肉塊を見つめた。


「ヘレナさんなの?」


エレイナが無言で頷く。


ヒナが目を伏せて立ち去ろうとした時、エレイナがヒナの前にひざまずいた。


「ヒナ、いえヒナ様。お願いです。姉を蘇生してください。・・・いままでのことは私がいくらでもお詫びします。今後ヒナ様の言うことはなんでも聞きます。ですから・・どうか・・どうか・・・姉を・・・」


ヒナは再度ヘレナだった肉塊に目をやった。

表情は暗い。

ヒナはヘレナに対してよい感情を持ってなかった。

それは当たり前だ。

この世界へ来てヘレナに騙され、死刑囚になり仲間たちと引き離され、こんなところまでやってきた。

全てはヘレナの企みの結果なのだ。


(おばぁちゃんだったらどうするだろう・・・)


しばしの沈黙ののちヒナは視線をエレイナに向けた。


「わかったわ、エレイナさん。できるだけのことはやってみます。でも・・・」


ヒナの言葉が終わらないうちにエレイナが顔を上げた。


「お願いします。お願いします。」


「でもね、私の能力にも限界があるの。死後に多く時間を経過した人や、体が大きく損なわれた人などは、蘇生できない場合が多いの。それでもやってみろというのならやってはみますが・・・」


ヒナにはわかっていた。

ヘレナは全身が炭化するほど焼け焦げて原型をとどめていない。

それにオオカミ襲撃からは3日以上経過している。

ヘレナからは腐臭が漂っている。

それでも(もしおばぁちゃんが私の立場なら・・・)

と考えると先ほどの答えに行きついてしまう。

ヒナの行動の原点はここにあるのだ。


「はい。もしだめでも絶対文句は言いません。蘇生できなくても貴方に忠誠を誓います。ですから・・・ですから・・・どうか・・・」


「わかったわ。ついてきて。」


ヒナはエレイナとヘレナだった肉塊をつれて自室へ入った。

エレイナが見守る中、ヒナは精神を集中してヒナの固有スキル「蘇生」を発動した。

ヒナの全身が金色に輝き、その輝きがヒナの手のひらに集中する。

集まった金色の光をヘレナだったモノにそそぐ。


何度か同じ行為を繰り返したがヘレナの肉塊はなんの反応も示さない。

ヒナの疲労が重なるのが目に見えてわかる。


「ヒナ様・・・」


ヒナがエレイナを振り返る。


「どうしたの?」


「ありがとうございました。・・・・」


「え?」


「もう、ダメなのでしょう?私にもわかります。姉はもう戻らない。ありがとうございました。」


肉塊を抱いて立ち上がろうとするエレイナ。


「まってエレイナさん。あなたも大けがをしているでしょう?治療します。治療には少し時間がかかりますが、私がなんとかします。」


「でも、私はここに・・シスターに滞在する権利がありません。戦果の報告という名目でようやく立ち入ることができましたが、長居することはできないのです。ヒナ様もご存じでしょう。」


「大丈夫。私はヒュドラ様を蘇生させた功労者、なんとかなります。私の部下として貴女を迎え入れることにします。安心しなさい。ここに居なさい。せめて怪我が治るまでは・・・」


エレイナは力なくうずくまり、涙をこぼした。


時は少しさかのぼる。


地上キノクニ内キューブ


「ふぃ~」


キノクニ倉庫内におかれた、元々ソウたちの住居だったキューブ地下のゲートから二人の男が、はい出てきた。


二人とも髪の毛が焼けて縮れている。


「あはは、お前の髪。ツネオ笑える。あはは」


リュウヤが焼け焦げたツネオの頭をみて笑い転げる。

「何笑ってんの、リュウヤだってチンピラやくざのパンチパーマになってるし。アハハ」


リュウヤが自分の頭に手を充てる。

「ホントだ。アハハ」


笑いながら涙を流す二人。

笑いながら抱き合う。


「良く生きてたな。ツネオ。」

「リュウヤこそ・・・」



オオカミの戦闘でアキトの計略にはまりウルフは落とし穴の中でさかさまにひっくり返った。

身動きできない二人にアキトが灼熱の炎を浴びせかける。

車内の温度が急激に上昇する。

酸素が欠乏する。

遠ざかる意識の中、身の細いツネオがシートベルトから抜け出した。

リュウヤの体にからまったベルトをツネオが外す。


ツネオがリュウヤを見る。

リュウヤもツネオを見返す。

「ツネオ、悪かったな。」

「何が?」

「今までのこと、それに今の状況。どうしようもねぇすまん。」

「いまさら何を、それより助かる方法を考えよう。」

ウルフは動かせない。

外は灼熱地獄、八方ふさがりだ。

「困った。困った・・・どうしよう・・」

二人が目を合わせた。


「「困った時の・・・」」


ツネオとリュウヤは人狼族ではないので、本来はマザーと意思疎通ができない。

しかしウルフを運転している時は別だ。

主権限を持つソウからウルフの使用権限を与えられている者はウルフのインカムを介してマザーと意思疎通できる。


「「困った時のマザーさん!!」」


『はい。』


「「助けて!!」」

『はい。現状は把握しております。一つだけ現状を打破する方法がございます。これからわたくしの指示に従ってください。』

「「はい!!」」


『後部座席シートをめくると、銀色のトランクが収納されております。それを急いで取り出し蓋を開いて起動させてください。』


「「はい!!」」


リュウヤが力任せに後部座席を開こうとするが開かない。

その時ツネオがシート下のボタンを押した。

シートが開き、なかから銀色のケースが出てきた。

スーツケースのような大きさ形状だ。

どこかで見たような形。


『それを開いて起動して。』


「「はい。」」


スーツケースを開けると赤いボタンが見えた。

ツネオがボタンを押す。

1メートル四方くらいの銀の枠ができた。


『私が使用権限を与えます。それに魔力を注いで。』


「「はい。」」


ツネオが魔力を注ぐと「ブーン」と音がしてゲートが現れた。


『飛び込んで』

「「はい。」」


オオカミ本部ビル。


ヒミコたちが引き上げて数時間後、オオカミ本部ビルに主要メンバーが集まり対策会議を開いていた。


ソウが立ち上がりメンバーに向かって深々と頭を下げた。


「皆、すまなかった。本当に申し訳ない。今回のことは全て俺の失策、俺の責任だ。俺が自分の力を過信し、ヒュドラの力を甘く見積もり自分の勝手な判断で動いてしまった。本当にすまない。」


ガラクが椅子に腰かけたままソウを見返す。


「そうだな。今回のことはソウにも責任はある。しかし、それを言うなら俺も自分の務めを果たせなかった。オオカミの守備隊長でありながら、オオカミに敵の侵入を許してしまったのだからな。」


ドルムも口を開く。

「そうだな、今回の作戦は失敗したが、それはソウ一人の責任じゃない。敵が狡猾すぎた。特にあのアキトってやつが・・・あいつさえいなければ、これほどの被害にはならなかったし、ドランゴだって・・・それより、今後のことを考えよう。これから先のことだ。」


ガラクが再度口を開く。


「まずは、現状確認だ。リンダ、被害状況を報告してくれ。」


リンダが立ち上がる。


「はい。今回の戦闘によるオオカミの被害状況を報告します。オオカミ防衛システムは損傷無し、いくつかの建造物とバリアシステムを補修する必要がありますが復旧可能です。ウルフは全損、今のところ復旧の見込みはないです。続いて人的被害、旧オオカミ住人の死者28名、魔族の死者57名合計85名名です。魔族は旧オオカミ住民を守ろうとして犠牲になった方が多いと分析されます。」


あの大規模攻撃からすれば被害軽微といえるかもしれないが、誰もそのことは口にしなかった。


リンダが報告を続ける。


「死者85名中外部損傷の著しい方を除いて78名のご遺体はご指示通り、元々建物を収納しておりました無時間倉庫に安置されております。」


メンバーの何人かが顔を見合わせる。

ソウが立ち上がった。


「ご遺体安置の件については俺が説明する。一度死んだ者を生き返らすことができるスキル『蘇生』が存在することは皆も承知の通りだ。そのスキルは現時点でヒナのみが使用可能だ。だからこそ俺はヒナを取り返そうとしたが、それは失敗に終わった。でも、おれはあきらめない。ドランゴさんはもちろんだが今回の戦闘で犠牲になった人たちも俺はあきらめない。」


「どうするんだ?」


リュウヤが発言した。


「ヒナがだめなら俺がやる。『蘇生』のスキルは固有スキルでコピーすることはできないが、マザーの鑑定によると、俺にはすでに『再生』のスキルが発生しており、この再生スキルをさらに進化させれば『蘇生』に至るらしい。簡単ではないだろうが俺は必ず成し遂げる。」


「どうやって?」

リュウヤの問いに答える。


「俺が神になればいい。」


今週内にあと1~2話UPします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ