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第261話 防衛システム

オオカミ本部ビル前でアキトがガラクめがけて大きな火の玉を放った。

火の玉がガラクに到着する寸前、青い光の束がアキトの放った火の玉にぶつかり、火の玉は消滅した。


青い光の束はそのままアキト達を襲う。

アキトもヘレナ姉妹もあわててその光の束を避ける。


ガラクの傍にはアウラが立っていた。

アウラはガラクを支え本部ビルに向かい歩き、ガラクをピンターに預けた。


「ピンター。」


「はい。」


「ガラク達と一緒にビルに閉じこもっとき。何があっても扉を開けたらアカンで。」


「うん。わかった。アウラ様は?」


「ワイは・・・そこのゴミ共をかたずける。」


アウラの目はいつもより激しく赤く燃え上がっていた。


「うん。お願い。」


ピンターはエリカとウタの助けを借りてガラクを本部ビルに運び込んだ。

ピンター達がビル内に入ると同時にビルの出入口は固く閉ざされた。


「さて。待たせたのゴミ共。」


アウラがアキト達に向き合う。

アキトが巨大な火の玉を数発アウラに向けて放った。

アウラは鼻息だけで火の玉を弾き飛ばした。


「ふん。なんじゃその花火は。」


アキトは焦りの色を隠せない。


アウラがブレスを放つ。

アキト達は、それをかろうじてよける。

ブレスの通った後は地面が深くえぐれている。


「くそ~。ドラゴン相手じゃ分が悪いな。」


アキトはブレスから逃げ回る。


「ふん。動きだけは早いの。せやけどな・・・」


アウラは人型に戻った。

人型に戻ったアウラの敏捷性はアキトのそれを遥かにしのぐ。


青い光をまとった剣でアキトを攻撃する。

アキトはアウラの剣先をかわすが雷属性の魔法がアキトを追撃する。


「ソウの作った魔法剣や。とくと味わえ。」


アキトには魔法耐性があるため雷を受けても致命傷とはならない。

しかし、連続に攻撃を受けて体力は落ちてゆく。


ヘレナとエレイナがアキトをサポートするが、アウラの攻撃はそれを上回る。

アキトは徐々に追い詰められてゆく。


ヘレナとエレイナは必死にアキトをサポートするが、まずはヘレナ、続いてエレイナがアウラの雷に打たれて悶絶した。


残るはアキトのみ。

アキトが自ら自分の体を火で包みアウラの雷を自己の火属性の魔法で相殺しようとするが、アウラの物理攻撃は次々とアキトにヒットする。


そしてとうとうアキトが地面に伏した。

アウラがアキトの側頭部を自己の足で踏みつけ逆手に持った剣を振り上げた。

「あの世でドランゴに詫びてこい・・・」


アウラの剣がアキトの背中に突き刺さる寸前・・・

アウラの動きが止まった。


「ホンマ、役に立たんなぁ。・・・」


ヒミコだ。

ヒミコの傍にはソウがいる。


アキトがアウラの足の下から抜け出した。

アウラは片足を上げたまま静止している。

まるでブロンズ像のようだ。


アキトはアウラの腹部に蹴りを入れる。

きれいにヒットしたがアウラにダメージは無いようだ。


「無駄よ。無駄。そいつの時間を止めたけど、ダメージ入れるなら一瞬、術を解かないとダメなんよ。こいつ手ごわいから一瞬でも術を解くと反撃されるで。それよりも早うにあのビルを占領せんかいな。」


ヒミコが顎をしゃくる。


「こいつをずっと止めるのはキツイ。早よしいや。」


ヒミコは額に汗をかいている。


「はい。すみません。」


アキトがあわててビルに向かう。

アキトにヘレナ姉妹が追従する。


アキトがビルの入り口に到着したがビルの入り口は白く輝く壁でおおわれていて出入口がわからない。


右往左往するアキト達を見たヒミコ。


「ちっ。ホンマにあかんたれ共。」


ヒミコはソウを振り向く。


「ソウ。お前なら入れるやろ。扉開けてきて。」


「はい。聖なるヒミコ様。」


ソウはゆっくりとビルに近づく。

ソウは石像のようになったアウラの横を通るとき、目玉だけを動かしてチラリとアウラを見たが、そのまま通り過ぎた。


ソウがビルにたどり着く。

アキトがソウの尻を蹴る。


「早くしろ。馬鹿。」


ソウは何も反応をしない。

ソウはビルの壁に少しだけ出っている場所に自分の手のひらを当てた。


ビルの壁が音もなく開いて頑丈なドアが出現した。

ソウがドアの横の白い板に手を当てるとドアが横開きに開いた。


アキトを先頭にビル内へ入った。


その途端アキトの顔めがけてクナイ(ナイフ)が飛んでくる。

アキトは素早くかわした。


アキトがクナイの飛んできた方向に火の玉を放つ。


顔に包帯を巻いた女がバック転の要領で火の玉をかわす。

すぐに反撃しようとして新たなクナイを取り出すが投げる寸前に動作を止めた。


「ソウ様・・・」


エリカが戸惑った表情でアキトの後ろに立っているソウを見つめた。

その隙にアキトがエリカの顎を蹴り上げた。

エリカはもんどりうって倒れる。

アキトに顎を蹴られた拍子に顔に巻いていた包帯がほどける。


顔にはケロイドが残っているもののエリカの金髪と青い目は以前にもまして魅力的だ。


「あの時の女ね。」


ヘレナが一歩前に出る。


「あの時の女って?」


アキトがヘレナに問う。

ヘレナは肘関節から先のない自分の右腕を左手で摩る。


「私をこんな目に合わせた女よ。・・・どうしてくれようかしら・・・」


ヘレナがエリカに近寄る。

エリカは床に腰をつけたまま後ずさる。


「まて、ヘレナ。」


アキトの声にヘレナが歩みを止める。


「そいつにはいろいろ聞きたいことがある。殺すのは後からにしろ。」


アキトの言葉にヘレナがしぶしぶ頷く。


「おい。女。名前は?」


アキトは右手のひらの上に小さな火球を携えてエリカに近づく。


「お前に教える名など無い。」


エリカの言葉にアキトがにやりと笑う。


「そうかい。そうでなくちゃ。フフフ。もっと逆らってくれよ。逆らえば逆らうだけ痛めつける甲斐がある。」


アキトはソウを振り向いた。


「おい。ソウ。こいつは誰だ?」


「エリカ。」


「何者だ?」


「キノクニ諜報部員・・・エリカ。俺の婚約者です。」


その場にいた全員がソウを振り向く。


「へぇソウの婚約者ねぇ。フフフ。」


ヘレナ姉妹も一緒に笑っている。


「いたぶった後に殺すんでしょ?その時は私にとどめを刺させて。」


ヘレナがアキトに言った。


「ああ、もちろん。でも、それはずっと後の話だ。俺がオモチャにしてからだよ。俺が遊ぶのに飽きたら、お前にやるよ。」


「絶対ですよ。」


「ああ、必ずいたぶって、お前に下げ渡す。ただし殺すのはソウの目の前でやれ。僕はソウを殺さないと誓わされている。だけどソウの婚約者を殺すなとは言われていないからね。ふふふ。」


「そうですわね。うふふ。」


ヘレナがエリカに近づき小声で言った。


「ドレイモン。」


エリカに変化はない。


もう一度、今度は少し大きな声で呪文を唱える。


「ドレイモン!!」


やはり何も起きない。


ヘレナが魔力の出力を高め、エリカの心に伸ばす。


「どうした?」


アキトがヘレナに問う。


「それが・・・ドレイモンが効かないの・・・何か強いプロテクトがかけられているわ。」


「ちっ、仕方ないな。ロープか何かで縛っておけ。この場で殺すのはもったいない。」


アキトの言葉にエレイナが反応して壁に掛けられていた何かのモニターの電気コードを引きちぎり、それでエリカの手足を縛った。


「おい女。他のやつらはどこにいる。あの現地人のガキとウタたちはどこにいるんだ?」


エリカはそっぽを向いた。

アキトは平手でエリカのほほを思い切り拳骨で殴った。


「殺さないとは言ったが、殴らないとは言っていないぞ。ははは。」


エリカは大量の鼻血を流しながらアキトをにらみつけた。


「まぁいいさ。隠れて不意打ちを狙っているんだろうが、いつでも返り討ちにしてやる。その時はお前も手伝うんだぞ。ソウ。」


アキトがソウに向く。


「はい。聖なる使徒様。」


ソウの言葉を聞いたエリカの両目から涙があふれ出る。


「ソウ様・・・」


「さてさっさと仕事を終わらせよう。屋上のバリアを解いて他の使徒たちを呼び込むぞ。魂集めを進めよう。」


アキトの言葉にヘレナ姉妹がうなずく。


「ソウ。このビルの制御システムはどこだ?」


「こっちです。」


ソウが一階会議室へアキト達を案内した。


会議室へ入るとタイチのフォログラムが立ち上がった。


「なんじゃい。お前ら。」


「お前こそ何だ?ジジイ。」


アキトがフォログラムの台座を蹴る。

タイチの立体画像がゆがむ。


「若造。乱暴をするな。何の用だ。さっさと要件を言え。」


「ふん。こんな泥臭い世界にフォログラムかよ。どうなってんだ?この世界は。」


アキトが近未来的な設備の整った会議室を眺める。


「ソウ、ソウ、コントロールされているのか?ソウ。」


タイチがソウに呼びかけるがソウは反応しない。


「無駄だよジジイ。ソウの馬鹿はヒュドラ様と僕たち使徒にしか反応できないように命令されているんだ。何を言っても無駄。何をしても反応しないよ。」


アキトはそう言いながら後ろ手に縛られているエリカを殴った。

エリカはその場に倒れる。


「おい。乱暴するな。女性は労われと習ってないのか?小僧。」


「この女はナイフを投げて、僕を殺そうとしたんだ。そんな女を労わるわけないだろう。お前、馬鹿なの?」


「ぐっ・・」


「それより、この町の警備システムを解け、このビルのシステムもだ。」


アキトの言葉にタイチの表情がゆがむ。


「できるもんか、そんなこと・・・」


「うん。良い返事だ。」


アキトは笑いながらエリカを殴った。

倒れたエリカをさらに蹴る。

腹を蹴られたエリカは悶絶した。


「で?返事は?」


アキトが笑いながらタイチに問いかける。


「それは・・・できない。」


「どうして?」


「ワシは単なるオペレーションシステムの端末に過ぎない。ルート権、命令権を持つもののオーダーにしか応えることができんのじゃ。」


「やっぱり。そうだろうね。当たり前だよね。アハハ。」


タイチの顔がさらにゆがむ。


「それを知っていて、どうして・・・」


「どうしてこの女をなぶるかって?そりゃ楽しいからに決まっているだろう。なにしろソウの婚約者だっていうじゃないの。ソウが正気になったとき、もだえ苦しむのを見たいからさ。アハハ。愚門だよ。愚門。」


アキトはエリカの包帯をすべて解いたうえでエリカの顔を踏みにじった。


「どうだ。ソウの婚約者になんてなるから、こうなるんだ。アハハ。」


アキトの表情は恍惚とした表情から狂気のそれに変化していった。

ソウは表情を変えない。


「さて、遊んでばかりいられないな。ソウ。この街の警備システムを解け。このビルもだ。」


ソウはタイチの前に立つ。


「タイチさん。全ての警備システム解除。」


「しかし・・・」


「命令です。警備システム解除。」


「わかった・・・」


オオカミの防空システム、本部ビルの警備システム、クモ型ロボット、全ての警備システムが解除された。


「散々逆らいやがって。この馬鹿。」


アキトはタイチのフォログラムを台座ごと焼き払った。


「さて上に上がって魂を集めよう。他の使徒たちにも連絡してくれ。」


「はい。聖なるアキト様。」


一行は大怪我を負ったエリカを引きずりながら屋上へと繋がるエレベーターに乗り込んだ。








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