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第250話 ヒナの心

オオカミ本部ビル13階。

ベランダに天使が舞い降りた。


天使はウタに抱きつく。


「ヒナ?」


ウタの声に天使が涙ぐむ。


「ウタ。会いたかった。」


ヒナは再度ウタに抱きついた。


その姿を見たキリコは少し微笑んだがすぐに思い直して魔力をヒナに伸ばした。

キリコの魔力はヒナの体に入る前に弾きかえされた。


弾き返したのは神族の魔力だと言うことをキリコは感じ取っていた。

キリコの顔が険しくなる。


「こんなところじゃなんだから、中へ入りましょう。いろいろと話さなきゃならないこともあるから。」


ウタの言葉にヒナは頷く。

ベランダから部屋の中に入る際にヒナの大きく白い羽は背中に吸収されて見えなくなった。

その様子を驚きながらルチアが見ている。


ルチアがキリコの服の袖を引っ張る。


「だれ?」


「アタイ達の同級生だよ。元同級生と呼ぶことになるかも知れないけどね・・・」


そう言いながらキリコはルチアに耳打ちをした。

ルチアは、そっと玄関から出て行った。



ウタの部屋の居間のテーブルを囲むように全員が座った。

その場にいるのはヒナ、ウタ、キリコ、エリカ、ブルナ、ヒュナの6人だ。


ヒナの前のテーブルには湯気の出るコーヒーが差し出された。

ヒナは一口すする。


「おいしいわ。ウタ。ありがとう。」


ヒナが微笑む。


「いいえ。どういたしまして。それにしてもよく帰ってこれたわね。とても心配していたのよ。」


「うん。なんとか帰ってこれたわ。でもすぐに帰らないといけないの。」


ヒナはコーヒーカップを置いた。


「え?帰るってどこへ?」


「あそこ。」


ヒナは青い月を指さした。


「え?何?どうして?せっかく帰ってきたのに。何がどうなってるの?」


ウタは少し混乱した。


「ウタ。気をつけろ。そいつはヒナじゃない。少なくともライベルでアタイ達と別れる前のヒナじゃない。」


その言葉にヒナは悲しげに目を伏せた。


「ウタ。全部正直に話すけど驚かないで。」


「う、うん。できるだけ驚かないようにする。」


「私に対する疑問や質問はたくさんあるでしょうけど、まず私の話を聞いて。質問はそれからにしてくれる?」


「うん。わかった。」


ウタは立ち上がっていたキリコとエリカに目配せをして座らせた。

キリコもエリカもソファーに座ったが深くは座らずにいつでも動き出せる態勢をとった。

キリコもエリカも知っていたのだ。

ヒナの背中の白い羽が何を意味するかを。


「もうわかっていると思うけど。私ヒュドラ様の使徒なの。昨日ヒュドラ様からの恩恵で使徒になることができたわ。」


そう言いながらヒナは微笑む。

微笑みながらヒナは思った。


(私は・・・何を・・・違うの本当は・・・でも・・ヒュドラ様・・・)


ヒナの言葉を聞いてキリコとエリカの表情が険しくなる。

エリカは懐にクナイがあることを確かめた。


ウタは・・・

涙ぐんでいる。


「ヒナ・・・」


「私ね。とても幸せなの。ヒュドラ様のしもべとして働けることが。そしてソウちゃんも同じよ。ヒュドラ様の下で幸せに暮らしているわ。だから貴方達も・・・」


と言いかけた時、エリカが懐からクナイを取りだし素早くヒナの後ろに回り、クナイの刃先をヒナの首筋に当てた。


「ソウ様がどうしたって?ソウ様がなんだといったの?」


エリカの手に少し力がこもりヒナの首から一筋、血が流れた。


「この方は?」


ヒナは慌てずウタに問うた。


ウタは手でエリカを制しながら答えた。


「エリカさん。ソウ君の婚約者よ。」


ウタの言葉にヒナが青ざめる。


「え?婚約者?ソウちゃんの?ソウちゃんとこの人が結婚するの?」


「そうよ。貴方が誰だか知らないけど、私はソウ様の婚約者、だから誰よりもソウ様のことを知っている。ソウ様がヒュドラの下で幸せに暮らしているだなんて、そんなことは絶対にないわ。絶対によ。あなたここへ何をしに来たの?偵察?それとも誰かを暗殺に来たの?」


エリカのクナイを持つ手に力がこもる。


「まって。エリカさん。もう少しヒナの話を聞きましょう。お願い・・・」


エリカは少しためらったが、クナイをヒナの首筋からはずしクナイをもったままヒナの後ろに控えた。


「ソウちゃんが婚約だなんて・・・そんな・・・・・」


ヒナはシスターにいるソウに思いを巡らせた。

幼なじみでヒナの側にはいつもソウがいた。

ソウのヒナを想う心はヒナにも届いていた。

しかしヒナはソウのことを恋愛対象として見ることはできなかった。

ソウのことは好きで、家族のような愛情をもってソウに接していたが、ソウのルックスや行動は恋愛対象としては不十分だったのだ。


しかし、この世界に来てからソウは変化した。

男らしく優しく、我が身を犠牲にしてでも誰かを助けようとした。

その心にヒナは惹かれ強くなったソウは外見も好みの男性となっていた。


(ソウちゃんは私の事が好きだから、これだけ努力をしている。いつか私も振り返ってあげなければ。)


ヒナの上から目線の勝手な妄想だった。


「ソウちゃんはエリカさんと婚約した。そのことはここにいる人達ならだれでも知っているわ。ヒナにとっては残念なことでしょうけど・・・」


ウタの表情にも少し陰りがある。


「遅すぎた?・・・うううん、そんなことないわ。だってソウちゃんは今・・」


「人の旦那を奪う計画話は後にしろ。ヒナ。お前何しに来たんだ?お前自分でいったようにヒュドラの手先なんだろ。そうなればお前は敵だ。その敵がここへ何しに来たんだ。さっさと要点を話せ。」


キリコの目は敵意に満ちている。


「キリちゃん・・」


「気安く呼ぶな。アタイのことをキリちゃんと呼んで良いのは友達だけだ!!」


キリコはもう一度魔力をヒナに伸ばすがやはり弾き返された。


「キリちゃん、・・キリコさん、無駄よ。何をしても私にはヒュドラ様の加護があるから魔力は通じないの。そういう体なの。」


ヒナの背から白く大きな羽が生えた。


エリカが後ずさる。


「そうなのね。私はみんなの敵なのね?わかっていたけど・・・でも、これだけは言わせて。みんな逃げて、もうすぐ総攻撃が始まるわ。各国の軍隊が押し寄せるし、他の使徒達の攻撃も始まる。だから私はウタ達みんなを守りたいの。ヒュドラ様の元でみんな平穏に暮らせるのよ。ねっ、ウタ。」


ヒナがウタの手を取ろうとしたがウタは自分の手を引っ込めた。


「ウタ・・・」


「ヒナ、あなたヒュドラに操られているの?」


ウタはヒナの腕を見た。

そこには奴隷の印、二重のわっかの入れ墨はなかった。

ウタがもう一度ヒナの顔を見る。


「ウタ。ごめんね。私は奴隷じゃないわ。でもヒュドラ様のしもべよ。ヒュドラ様はウタ達が思っているほど残忍じゃないわ。私がここへきて貴方達を助ける機会をくださったのもヒュドラ様よ。だから、ねっ。私と一緒に来て、ここから逃げて。」


ウタはヒュナを見た。

ヒュナは少し成長していたがやはり幼い。


「この子達を置いて?私達だけで逃げる?この子だけじゃないわ。ここにはお年寄りや子供。先の戦争で怪我した人。たくさんの弱者がいるわ。その人達を置いて自分だけ逃げるの?ヒナ・・・どうしたの?貴方の言葉とは思えないわ。」


ウタは大粒の涙をこぼした。


(ウタ・・・違うの・・・本当の私はここにいるわ。でも・・・)


ヒナの心は揺れ動いていた。

本来の優しいヒナとヒュドラの絆に縛られているヒナがヒナの心の中で領土争いをしている。


オオカミへ来る前には五分五分だった勢力が、ソウの婚約話を聞いて本来のヒナの勢力が大きく削がれた。


ヒュドラの絆は強く、本来のヒナは領土の片隅においやられ身動きが取れなくなっていた。

このままでは全ての領土を失い、ヒナは真からヒュドラの使徒になる日がくるだろう。

「ウタ、貴方に死なれたくないの・・だから・・」


と言いかけたとき部屋のドアが開きルチアと数人の男が入ってきた。


ドルム、アウラ、ガラクの三人だ。


三人とも少し酒臭い。


「ほほう。このねえちゃんがヒュドラの使徒け?」


アウラがヒナを睨んだ。

ヒナはアウラに睨まれただけで硬直した。


(何?この人、みかけはただの酔っ払いだけど・・・動けない・・・ヒュドラ様の加護があるはずなのに。)


「無駄やで姉ちゃん。龍族の魔力は神族の加護さえ突き破る。ねぇちゃんに争うつもりは無いようやが、ヒュドラの使徒となればただで返すわけにはいかんがな。なぁドルム。」


ドルムが頷く。


「どないする?この場で殺すか?それとも・・・」


アウラが一歩前に出たところでウタが間に入った。


「待ってください。アウラ様。殺さないで。ヒナはヒュドラに操られているんです。だからだから・・・」


アウラがヒナの手を取る。


「ドレイモンはかかっとらんようやが?姉ちゃん。お前操られ取るんか?」


「いいえ。私は操られていません。ヒュドラ様の寛大な心を伝えにまいりました。」


ヒナのその言葉を聞いてアウラは眉間にしわを寄せた。


「ヒュドラが寛大やと?本気でいうとるんか?自分の欲望のために戦争や災厄を起こし、罪もない女子供を何万人も殺した奴が寛大やと?・・・」


アウラの口元から青い火が漏れた。


「ここじゃ駄目ですよ。ブレス漏れてますよ。」


慌てたドルムがアウラの前に回った。


「そうですよね。寛大とは言えませんよね。・・・」


(ヒュドラが寛大?私は何を言っているのだろう?・・・)


一部残った本来のヒナが自分自身に疑問を投げかける。


「わかっとるわい。ここじゃブレスなんぞ吐かんわい。そんでどないするんぞ。このねぇちゃん。」


「捕らえるしかないでしょう。お前ヒナだよな?」


ドルムがヒナに問いかける。


「はい。貴方は?」


「俺はドルム。ソウの相棒だ。奴隷時代からずっと一緒だ。だから知っている。ソウはお前のことを大切にするあまり自分の命まで失いかけた。何度もだ。そのことを知った上で聞く。お前、今度もソウに迷惑をかけているんじゃないのか?」


ドルムの問いにヒナは黙った。


(そういえば、ソウちゃんは、なぜいとも簡単に捕まったのだろう?)


ヒナはヒュドラからの魔力を得て強くなった。

強くなったが故にわかる。


ソウは強い。

ヒュドラ以外の誰よりも。

ラグニアごときに負けるとは思えないのだ。


(もしかして・・・私を助けに?・・・)


「わからないです。もしかしたら私を助けるためにシスターに来たのかも知れません。ソウちゃんは今ドレイモンで支配されています。ヒュドラ様の使徒になりかけましたが、なぜだかヒュドラ様の眷属にはなりませんでした。だから・・・」


ヒナは話の途中で硬直した。


「ん?なんや?どないした?」


ヒナは一度気を失い再び目を開けた。


「みなさん、はじめまして。ヒュドラと申します。」


ヒナの口から男の声が発せられた。



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