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第25話 弟子 一生ついていきます。

教会でヒナに同行を拒否された後、俺は、涙を拭いながら走って逃げた。


アキトに魔法を打たれたことも、リュウヤに蹴られたことも、清江にぶたれたことも、それほどのダメージは無かった。


 ただ家族であり、恋する相手であるヒナに拒絶されたことが相当な痛手で、心を深く傷つけられた。


(もうヒナ達の事は放っておこう。諦めよう。)


とも思ったが、ヒナが死んだダニクのような末路になるかもしれないと考えると、完全に決別するわけにもいかなかった。


 複雑な心境だ。


奴隷長屋に帰ると、ドルム達が待ち構えていた。


「ソウ、うまくいったな。見ろ、これ。」


ドルムは腕を突き出し、入れ墨の消えた手首をソウに見せた。


「兄ちゃん、やったね。オイラもう奴隷じゃないよね。」


ピンターが抱き着く。


(そうだ、俺には、まだピンター達が居る。まずピンター一家を探そう。)


俺の心が少し和らいだ。


「ドルムさん、準備いいですか、ダニクが死んだからすぐ騒ぎになります。今すぐ逃げますよ。」



「ダニクをやったか?」


「いいえ、俺じゃないです。詳しいことは後で話しますから、今はすぐに逃げましょう。」



俺は、鉄格子を大きく破壊し、奴隷全員を外に出した。


「いいか、皆、街への門は門番を眠らせてあるから通れるが、街から郊外への門は閉じている。奴隷の証は消えているから街で一夜を明かすか、海沿いに街を出るかだ。」


複数の奴隷が俺に近づき


「ありがとうございます。ソウ様」


と口々に礼を言う。

俺は、5軒ある長屋の牢を全て破って奴隷全員を解放した。


最後の長屋の牢を破壊した時、老婆がよろよろと出てきた。

奴隷の飯を作る、飯炊き婆さんだ。


その婆さんがよろけた時、俺が抱きかかえたら、懐に仕舞っておいた青い球が震えたように感じた。


 ダニクの球だ。


その球を懐から取り出したところ、淡く輝いていた。

飯炊き婆さんは、俺が取り出した球を見て一言


「ダニク・・・」


と、つぶやいた。


青い球も、その言葉に反応して輝きを増した。


俺は、その婆さんにダニクの球と金貨を何枚か渡した。


婆さんはその場に泣き崩れた。


俺は、婆さんを門の外まで連れ出した後


(ダニク成仏しろよ。)


心の中で念じた。


婆さんを門の外へ出した時、奴隷長屋の方から声がした。


「誰も、いねーぞ。どうなってんだ。」


ジグルの声だ。


 ジグルとその部下は、管理者の建物で寝ていたので俺が更に深く眠らせていた。


大勢が逃げる物音で、目が覚めたのかもしれない。


 俺は、ゆっくりとジグルに近づいた。


「テメーか、ソウ、オメーがやったのか。鞭打ちだけで済むと思うなよ。」


ジグルが顔を真っ赤にして怒っている。


「やぁジグルさん、あんまり怒ると血圧上がるよ。寝てればよかったのに、わざわざ見送りに来てくれたの?見送りのお礼は、しなきゃね。」


俺はジグルとその部下3人に次々とドレイモンをかけた。


 ダニクからコピーしたスキルだ。


熟練度は低いが、ジグル程度なら大丈夫だろう。


「あ、う・・い・な、なにした。」


ジグルの顔が苦悶にゆがむ。


「お礼だよ、お礼。さてジグルさん、あんたは今までに合計278回、俺を鞭打ったね。それは全部返すよ。」


俺は、ドレイモンをかけたジグルの部下に命じてジグルを鞭打たそうと思った。

しかし、不意にダニクのことを思い出した。


(これじゃ、グンターと同じだな)


考えを新たにして、ジグルとその部下に命じた。


「お前ら、これから先、一生、自分の稼ぎの3分の2を街の孤児や困っている人に寄付しろ。お前たちが飢えても、それは続けろ。必ずだ。」


ドレイモンも使い方ひとつで良い魔法になるな・・うん。

その様子を傍で見ていたピンターが、俺の袖を引っ張った。


「ん?ピンターどうした。」


ピンターは俺の腕を引っ張り、俺の耳元で囁いた。

俺は、ピンターの囁きに顔を縦に振って応えた。


「お前ら、追加の命令だ、これから先、一生、このピンターくらいの子供に会ったら、『ごめんなさい』と手をついて謝れ。ピンターこれでいいか?」


ピンターは頷く。

試しにピンターがジグルの前に立ったところ、ジグルとその部下は、ピンターの前に土下座して


「「「ごめんなさい。」」」


と、声を揃えてあやまった。

ピンターはキャッキャと笑いながら、俺の周りを走っておどけた。


俺は、海岸を後にして、街の西側の繁華街にある鍛冶屋へ向かった。


「オヤジ、いるか?」


灯りの消えた鍛冶屋のドアを無理にこじ開けて勝手に中へ入った。


「誰でがんす?こんな夜中に。」


ドワーフのようなオヤジが店の奥から出てきた。


「なんだ、魔剣の兄ちゃんでがすか、なんの用でやんすか、こんな夜中に。」


「オヤジさん、頼みがある。言うことを聞いてくれたら、魔剣の作成者を教える。」


眠そうな顔つきの親父の背筋が伸びた。


「本当でがんすか?教えてくれれば、イヤ、紹介してくれれば、なんでも言うこと聞くでやんすよ。」


「ああ、必ず教える、紹介もする、だから、金貨を出来るだけ多く用意してくれ、それに2~3日寝泊まり出来る場所と馬車を用意してくれ。」


グンターの追手から逃走する資金と乗り物が欲しかった。


それに、ブルナの居所を探すまでの隠れ家も必要だった。


「金なら、こないだの魔剣の売り上げが300ほどあるし、納品できる品物があれば、その代金を先払いしてもいいでがすよ、寝泊まりできる場所なら、むさくるしいが俺んちに泊まるといいでやんす。」



オヤジとは短い付き合いだが、オヤジが正直者の職人だということ、魔剣を作りたいという真摯な気持ちは俺にも通じていた。


だからオヤジを頼ってみることにしたのだ。


「先に言っておくが、俺は元奴隷だ。いろいろあって逃げ出したが、今も追われている。それでもいいか?」



「奴隷だろうが、なんだろうが、そんなことワッシには関係ないでがんす。ワッシは一生に一度でもいいから魔剣を打ってみたいんでやんす。それだけでがんす。兄ちゃんが奴隷だろうと王様だろうと関係ないでやんす。」


オヤジは笑いながら答えた。


「そうか、わかった。オヤジさんを信用する。魔剣を作ったのは俺だ。」


「やっぱりでやんすなぁ。師匠、弟子にしてくだしあ。」


オヤジは俺を見返して頭を下げた。


俺は、少し悩んだ。


弟子にすることに問題は無いが、「肝心の魔剣を作る技術」をオヤジに教えることができるのだろうか?


困った時のマザー


(マザー、魔法剣の作り方、教える事ってできるの?)


『教える対象の能力にもよりますが、理論的には可能です。それにソウ様の物質変換スキルで補助具を作成すれば更に容易になります。』


「補助具って、何」


『ソウ様のエネルギーを蓄えた金床とハンマーとかですね。』


よくわからないが、なんとかなりそうだな。


「オヤジさん、わかった、弟子にする。ただし俺の要件が落ち着いてからだ。」


「本当でがすか?本当でやんすな?」


「ああ、本当だ。」


「よ、よろしくお願いするでやんす。師匠。」


オヤジさんは、深々と頭を下げた。

どうやら泣いているようだ。

泣かなくてもいいのに・・・


「ところで、お連れさんは、どちら様でやんしょう?」


「ああ、身内のピンターとドルムさんだ。おれの家族と思ってもらいたい。」


おれの言葉にドルムさんが反応した。


「家族って、いいのか?俺みたいなのが、お前の身内で。」


「いいもなにも、もうとっくに家族でしょ、俺達。」


ドルムさんの目はウルウルしていた。


言葉に出すまでも無く奴隷として同じ屋根の下で寝起きし、苦労を共にし、スキルまでコピーさせてもらったドルムさんは、間違いなく俺の家族だ。


ピンターは、


(そんなのあたりまえだろ。)


とでも思っているのか何も反応しなかった。


「あ、そうだ。口だけでは信用しずらいだろうから、初めてのお弟子さんに何か贈り物をしよう。オヤジさん、オヤジさんが打った剣、一振りかして。」


「ええ、ようがす。」


オヤジさんは店の奥から、一振りのロングソードを持ってきた。


俺は、オヤジさんの差し出すロングソードを両手に持ち、頭の中で暗闇に瞬く稲妻をイメージして、そのイメージをロングソードに注ぎ込んだ。


ロングソードから緩やかにオーラが立ち上り、やがてそのオーラは、バチバチと音を立て始め、最後には眩い光を放ちながらロングソードに吸収された。


「ほい、オヤジさん。雷鳴の剣だ。」


俺は、昔、ゲームのイベントで手に入れた魔剣の名前を、そのロングソードに付けて、オヤジさんに渡した。


「おお、おお、おおおおお。」


オヤジさんは髭面を涙と鼻水でクシャクシャにした。


「師匠、師匠、ワッシは、ワッシは、師匠の弟子でやんすよね。いや、今更弟子じゃないと言ってもだめでがんすよ。ワッシは、あんたの弟子だ、一生ついてくでやんす。」


(一生ついてこられるのはイヤなんですけど。)



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