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第230話 時間沈降

魔族院内に設置されたゲートに向けて5つの大きな火の玉が放たれた。

3つの火の玉はドルムが防いだが残り二つは真っ直ぐゲート方向に向かう。

その先には怯えて動けない子供や老人がいる。


火の玉が子供達を襲う直前、一人の悪魔が立ち塞がり両手を広げる。

男の両手の先には透明なバリアーが敷かれていて火の球はそのバリアーにぶつかり大きな火柱を上げた。


「魔王陛下!!」


ドルムが思わず叫んだ。


「ま、魔王だと?」


アキトが一瞬ひるむ。


「ドルムさん。こっちはまかせて戦いに集中しなさい。」


魔王はそう言いながら腰にぶら下げていた剣をドルムに放り投げた。


「ありがたい。」


ドルムは剣を受け取り晴眼に構えた。

ドルムの体からゆっくりと魔力が立ち上り剣芯をも被う。


さっきまでのドルムとは迫力が大きく違う。

ドルムの立ち姿は剣技を極めた達人のそれだ。


「新手かよ。魔王ってい言っても、お前と一緒だろ。どってことはない。」


アキトは懐から何かを取り出して掌に集中した。

掌から青い光が迸り、アキトを被う。

疲弊してきたかに見えたアキトの全能力が復活した。


(この球、神石さへあれば誰であろうとも負けるものか・・・)


ドルムが先手を打った。


地面を蹴って火の玉を繰り出そうとするアキトの籠手を狙う。

間一髪でアキトがそれを避ける。

頭上に生まれかけた火の玉が消滅する。


ドルムはアキトとすれ違いざま、自分の尻尾でアキトの腹部を狙う。

アキトはこの攻撃も避けたかに見えたがドルムの尻尾は少し軌道を変えてアキトの脇腹をえぐった。


アキトの横腹から鮮血がほとばしる。


「ぐうゥ」


アキトは横飛びに逃げて致命傷は避けた。

逃げた先に重力魔法が待っていた。

まるでアキトの逃げる場所を予想したかのように。


重力魔法の効果によりアキトの敏捷性が著しく低下した。

重力魔法の発動元はゲートの周りを守護する魔王のようだ。


(二人がかりかよ。いいよ、やってやるよ。二人でも三人でも。)


アキトの動きが鈍くなったのを見てドルムがたたみかける。

傷口を押さえるアキトの左肩から袈裟懸けに剣を振り下ろす。

剣先が傷口を抱えるアキトの腕をかすめた。


更にドルムの尻尾がアキトの顔面を狙う。

ドルムの尻尾は顔面をかすめて左耳を引きちぎった。

アキトの顔が血だらけになり悪魔の形相をも上回る恐ろしい顔になった。


「ドランゴの仇だ。受けとれよ。くそ野郎。」


ドルムの抜き胴がアキトの腹を浅く切り裂いた。

更に魔王のはなつ重力波がアキトを襲う。

アキトはよろめいた。


「くそ。こんなところで・・やられてたまるか。・・」


ドルムが剣を晴眼に構えなおして地を蹴った時、アキトとは違う方向から神経魔法と火の魔法がドルムを襲った。


神経魔法はドルムも経験したことのある「ドレイモン」だった。

ドレイモンがドルムの心を支配しようとしたが、ソウがドルムの心に植え付けたドレイモンへの魔法抵抗が効果を発揮してドレイモンに捕らえられることはなかった。


昔、ソウがドルムのドレイモンを解除するとき二度とドレイモンにかからないようにと魔法抵抗のルーチンを埋め込んでいたのだ。

いわばワクチンのようなものだ。


火の魔法はアキトほどでは無かったが相当な威力がありドルムは避けるのに精一杯でアキトに止めを刺すことはできなかった。


ドルムが魔法の繰り出された方向を見ると、そこには二人の見慣れぬ女が立っていた。

一人の女は片腕がない。


もう一人の女は黒装束をまとっていて片腕のない女とよく似た顔立ちだ。

ドルムがひるんだ隙に黒装束の女がアキトに対して何かを放り投げた。

アキトがそれを受け取り何かを念じると青い光が生じてアキトをほぼ回復させた。


「何やってるのアキト。」


黒装束の女がアキトに語りかける。


「ああ、エレイナさん。すみません。けっこう強くて。あいつ。」


「そうじゃないわよ。偵察だけという話だったでしょ。」


「そうですが、先に攻撃されたし、それに、ほら、あのゲート。あのゲートからグリネルのバカ共が逃げ出しているんですよ。あのままにしておくと、誰も居なくなりますよ。グリネル。」


「それは駄目ね、なんとかしましょう。」


「はい。ヘレナさん。」


ドルムはしかめっ面だ。


(なんだかしらないが、やっかいだな、あの球。・・)


女二人が同時にドルムを襲う。

その間にアキトがゲートに向けて火の玉を放つ。

火の玉はバリアーに弾かれて大きな火柱を上げる。


女二人は悪魔化したドルムより相当格下だったが、体技が得意なドルムにとっては遠距離攻撃をしかけてくる二人は苦手なタイプだった。


特に片腕のない女がしかけてくる精神魔法はやっかいだった。

ドレイモンだけではなく知覚作用が発達しているドルムに対する幻惑や神経麻痺系統の魔法はドルムの敏捷性を低下させた。


そこへもう一人の女がしかけてくるファイヤーボールやアイスジャベリンなど威力は小さいが速度の速い魔法は、じりじりとドルムの体力を奪っていった。


ドルムが魔王から受け取った剣も一応魔法剣だが、ドルムがソウからもらった雷鳴剣にくらべれば遙かに威力は落ちる。


ドルムは雷鳴剣を携帯してなかったことを悔やんだ。

魔王も隙をみては加勢してくれるがゲートとその側の住民が足かせになって、思うように動けない。


一進一退の攻防が続く中、アキト側に更なる応援が現れた。


「なにやっているの?こんな雑魚相手に・・」


少女、いや幼女とも言える女の子が、その姿には似合わない死闘の場所に現れた。

幼女の側には黒装束の男が控えている。

「「ヒミコ様、ラグニア様も・・・」」


女二人が戦いの手を止めてその幼女にかけよった。


「なにやっているのって聴いているんだけどぉ・・」


片腕の女が答えた。


「はい。あそこにあるゲートが避難路になっているようで、既に多くの住民が逃げてしまいました。ですから、私達はあれを壊そうと・・・」


幼女が女を睨む。


「だったらさっさと壊せばいいでしょ。何やってんの?」


「それが、あの悪魔達が手強くて・・・」


「ヘレナもエレイナも役に立たないのね。」


「あ、いえ、その、・・」


「いいわよ。私がやるから。」


幼女はそう言うと手に持った杖を頭上にかざした。


極大の雷がゲートを被うバリアーを直撃した。

雷はドーム型のバリアーの一部を突き破りゲートを破壊した。

その衝撃でバリアーを張っていた魔王は倒れ避難民は気絶した。


魔王が起き上がりヒミコに向かってくる。

ヒミコは自ら魔王に近寄ると杖を魔王に突き出した。


魔王は反撃することも無くその場に倒れた。

あれほど勢いよく走ってきた魔王はヒミコの直前で停止し棒立ちになった。

ヒミコはなんの苦労も無く杖を魔王にあてるだけで魔王は、その場に倒れた。

見ようによっては魔王の時間だけが止まっているようにも見えた。


「魔王陛下!!」


ドルムは呆然と立ち尽くす。


「はいはい。おっさん。仲間がいなくなったよ。終わりだね。あの薄汚いドワーフに再会できるよ。よかったねぇーアハハ。」


アキトがドルムに襲いかかる。

エレイナもヘレナも同時に魔法を放つ。


ヒミコとラグニアは黙って見ている。

戦いを観戦するヒミコにラグニアが語りかける。


「ヒミコ様。」


「なに?ラグニア。」


「差し出がましいようですが、『時間沈降』は控えめになさったほうが良いのでは。ヒミコ様また若返りました。このままでは赤子にまで戻ってしまいます。」


ヒミコがラグニアのすねを思い切り蹴った。

ラグニアが片足でピョンピョン跳ねる。


「何よ。あんたらが役に立たてへんから、アタシが働くしかないんやないの。ええかげんにしいや。そんだけ文句言う暇があったら、自ら動いたらどないやねん。アホ!!」


ラグニアが深々と頭を下げる。


「も、もうしわけございません。」


そう言ってラグニアもドルムと闘うべく動こうとした。

ヒミコはそのラグニアの服の襟元を杖で引っかけてラグニアを止める。


「アホ、あんたはワタシの護衛とちゃうのん?自ら動けちゅうても、もうちょっと頭をつかったらどないやねん。アホ、ポンコツ、ボケ!!」


「あ、あ、まことに、まことに申し訳ございません。」


ヒミコは再び戦いに目をやる。


「へぇ、あの悪魔。割とやるやん。格下とはいえワタシの配下二人に・・それと、あのなんちゅうたかな。あの子。・・・」


「はい。ヘレナ達が連れてきた「アキト」という子ですね。ヒナと同級生だとか・・」


「アキトね。覚えとくわ。ヒナちゃんに関係ある子やからね。」


俺は火柱の上がった方向、魔族院へとソラで急いだ。

ソラで魔族院へ向かうと中、魔族院のゲートが設置されている場所付近で何度も火柱があがった。


ゲートにはドルムさんと魔族何人かが護衛をしているはずだ。


「兄ちゃん。ドルムさん・・」


「ああ、ドルムさんなら大丈夫だよ。なにしろあの人悪魔だからね。悪魔に勝てる人なんてそうそう居ないよ。それに魔王様も近くにいるはずだし。」


「そうだね。でも急ごうよ。」


「うん。」


最高速でソラを飛ばした。

眼下に魔族院が見えた。

そして驚いた。


「兄ちゃん。ゲート!!」


ゲートが燃えている。

その側には何人かの人が倒れている。

息をしていない人もいるようだ。

そして何よりも驚いたのはゲートの前に悪魔が一人横たわっている。


(ドルムさん?・・・)


違った。

よくよく見れば頭に三本の角がある。

ドルムさんの角は二本のはずだ。


(魔王様?)


ゲートから少し離れた場所では誰かが闘っている。


悪魔姿のドルムさんと女二人、そして・・・

見間違えるはずはない。


「アキト!!」


思わず声に出して叫んだ。

その声に反応したのか女二人とアキトがこちらを見上げた。

ドルムさんもこちらを見上げる。

女二人は因縁のヘレナとエレイナの姉妹のようだ。


「ピンター。ここで待機していろ。」


「うん。」


俺はピンターをソラに残し獣王化しながら地上へ飛び降りた。


「ドルムさん。大丈夫?」


ドルムさんは三人を相手に闘ってかなり疲弊しているが重傷は負っていないようだ。


「ああ、なんとかな。でも魔王陛下が・・」


ドルムさんの視線の先には地面にうつ伏せている悪魔が居る。

遠目からだが生命感はない。

「やっぱり魔王様ですか・・」


「ああ。」


三人から放たれる魔法攻撃を龍神の盾で軽く弾き飛ばす。


「ソウ。やっと来たな。待っていたぞ。」


アキトが笑いながら言う。


「俺もだ。会いたかったよ。アキト。約束しよう。今日こそ、お前の息の根を止めるよ。ころしてやるよ。」


「へー、あのお優しいソウ様が、怖いねぇ。環境がお前を変えたのか?それとも元々殺人狂だったのか?・・・どっちでも良いけどね。アハハ。」


「さあね。どっちか知らないけど。確かに俺は変わったよ。たぶん。お前を殺しても何の呵責もないはずだ。お前を殺したくてうずうずしている。昔の俺からは考えも及ばないよ。ふふ。」


「俺もだよ。もっとも俺の場合はお前が変わるずっと前からだけどね。誰かを殺してでも自分は生きながらえたい。それが生物の根源だろ?そこの悪魔にも言ったが、弱い者を助けてどうするの?自分が損するだけだろ?あの薄汚いドワーフみたいにね。」


俺の心の中の何かに火がついた。

それまでは穏やかに燃えていた炎が急激に勢いをまし、エネルギーともなった。

俺の体から魔力と怒気があふれ出た。


怒気は周囲の草木をなぎ倒し、砂や小石を空中に巻き上げた。


「行くぞ。アキト。」


「来いよ。ソウ。」



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