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第212話 災厄

ドルム家でしばらく談笑し、夕食をご馳走になってから、ドルムさんを残してオオカミに帰ってきた。


自分の部屋に入る前にピンターとルチアを連れてオオカミ内を散歩した。

とっくに日は落ちていたが、オオカミの町中は明るい。

ドランゴさんの設計による街灯があちこちにあるからだ。


オオカミは今も拡大中だ。

キューブ型の建物は、もう在庫が無いが、新しく入った住人が自らの手で家を建てている。

リンダも工作機械、建築機材を使って家づくりの手伝いをしている。

外壁は伸縮自在のようで、オオカミの敷地の広さに合わせて壁も広がっている。


壁の上には警備ロボットが動き回っている。

食糧事情はあまり良くないが、既に農耕や牧畜が始まっているし、自然の恵みは多い。

ピンターが周囲を見渡す。


「随分街が大きくなったね。兄ちゃん。」


「そうだな。もう街じゃ無くて国だな。」


「ニイニの国。うふふ。」


ルチアが嬉しそうだ。


俺がルチアを見ながら言った。


「うれしいのか?」


「うん。ニイニが王様。ワタシがお姫様。うふふ。」


「そんじゃ、オイラは王子様だ。エヘン。」


「王子様はオイラっていわないもん。アハハ。」


「いいだろ。オイラとしかいえないもん。」


俺は二人と手をつないだ。

人影はまばらだが、すれ違う人は皆会釈をして通り過ぎる。

みな笑顔だ。


(あと、ここにヒナがいて、この平和がずっと続けば良いのに。)


そう思いながら自宅のあるビルに入った。


「「「おかえり」」」


仲間が俺を待ち構えていた。


(何かあったな・・・やれやれ・・・)


俺の勘は良く当たる。


「何があった?」


俺は説明が一番上手なイツキに尋ねた。

イツキは真顔で答える。


「グリネルが沈むそうです?」


俺は自分の耳を疑った。


「なんて?」


「グリネルが海の底に沈むそうです。」


俺はキリコを見た。

キリコは無言で頷く。

キリコが本当だと言えば、それは間違いなく真実だ。


グリネルが海の底に沈むという災厄を知ることになったいきさつは混乱しながらも理解できた。


俺とピンターが助けた親子の未来予知スキルによるものだと。

俺自身も微弱ながら未来予測のスキルを持っているので予知スキルというものが存在することは間違いない。


親子のそれは俺のスキルのはるか上位のものなのだろう。

俺は親子に会うことにした。


親子は落ち着いていて、ウタ、ブルナやヒュナと打ち解けているそうだ。

俺はブルナとヒュナ、それにキリコに手伝ってもらうことにした。


会議室に親子を呼んだ。

不安がってはいけないので他のメンバーは外してもらった。


「こんばんは。ソウと言います。この街の代表者です。」


軽く頭を下げると母親も会釈した。


「レンカと申します。この子はリリア。今朝はありがとうございました。親子共々助けて戴いて感謝しています。」


「いえ、礼には及びませんよ。たまたま通りかかっただけ、そして俺もピンターも救命技術をもっていただけのこと。偶然が重なっただけですよ。」


レンカは再度頭を下げた。


「ところで、グリネルが海に沈むというのはわかりましたが、それは何時ですか?そしてなぜ沈むのですか?」


レンカは少し興奮しているようだ。


「失礼を承知で私から先に質問させて下さい。なぜ見ず知らずの私の言葉を信じるのですか?それともう一つ、貴方様は神様なのですか?」


無理も無い。

グリネルが海の底に沈むだなんて、突拍子のない話をなんの証拠もなしに信じる者などいない。


それでも俺にはキリコという読心術を持つ強い仲間が居る。

俺はキリコを全面的に信頼している。

だからキリコが「レンカは嘘を言っていない。」と言えば、それは間違いなく真実だ。

それに俺自身が未来予測のスキルを持っているからね。


「まず一つ目の質問に答えます。僕も未来予測ができるからです。」


「え?」


俺は懐からコインを出して少女の方を向いた。


「あなた、お名前は?」


「リリアです。」


リリアにコインを渡した。


「俺が後ろを向くから、そのコインをどちらかの手で握って。」


リリアがレンカを見上げる。

レンカは頷く。


俺は二人に背を向けた。

二人に背を向けるときにはリリアが右手にコインを握り込む未来が見えている。

二人に背をむけたまま言った。


「いいかな?」


「はい。」


俺は振り向いてリリアの右手を指さした。

リリアが開いた右手にはコインがあった。


同じように今度は左手のコインを当てた。

三度目に背を向けたとき、レンカがリリアからコインを取り上げて自分の手で握り込む映像が見えた。


俺は振り向いてレンカの右手を指さした。

レンカは驚いている。

リリアは嬉しがっている。


「本当でしたね。未来予測。」


「はい。それともう一つの答え。」


俺はレンカの手をとって俺の胸に添えさせた。


「レンカさん。今から俺の心を見せますから魔力を伸ばして下さい。」


「え?」


「何も危なくないです。魔力をのばすだけでいいです。」


「はい。」


俺はレンカの掌から出る魔力を自分の内側に引き込んだ。

導く先は『神の種』だ。


神の種は俺の心の中心で、クリスタルのように輝き回転している。

以前と少し違うのはその大きさと輝きがましていることだ。

すこしずつ成長しているのだ。


レンカの魔力を俺の中にある『神の種』に触れさせたとたん、レンカはその場に跪いて涙をこぼし始めた。


「おかあさん?」


リリアが心配そうにレンカをのぞき込む。


「おお、神よ。どうか、どうか、私達家族をお救い下さい。夫を助けて下さい。神様・・・」


俺がレンカの魔力に触れたとき、すぐにわかった。

レンカの魔力は相当なものだ。


俺はレンカの腕を取り、椅子に座らせた。


「できることはなんでもやりますよ。レンカさん。だからあなたも協力して下さい。」


レンカは涙をぬぐいながら俺を見た。


「確かに貴方様が神であることは確認いたしました。お助け戴いたにもかかわらず、数々の無礼をはたらいたこと、お許し下さい。」


「無礼だなんて。何も失礼なことはされていないですよ。」


「いえ、貴方様のこと、皆様のことが信じられず、何の礼もせずにこの場を立ち去ろうとしました。それだけでも失礼極まりないことです。」


「いいですよ。それより、もう少し詳しく話して下さい。未来のこと。」


皆が固唾を呑んで俺達を見つめている。


「はい。グリネルは間違いなく海の底に沈みます。それもこの一月以内に。」


「グリネル全体が?」


「はい。私達の住んでいたネッダという島も一緒にグリネル国土の半分、とくに首都近辺は深い海の底です。」


「原因は?」


「わかりません。この子に見えるのは国土全体が斜めに傾いて海に沈んでゆくということだけです。どうして沈むのかは、わかりません。」


「この子と言うことは、未来予知ができるのは、リリアちゃんなのですか?」


「はい。部族の中でこの子だけです。」


「グリネルには知らせないの?」


「知らせると殺されます。たぶん。」


「どういうこと?」


「大昔大きな災厄がありました。空から星が落ちてくると言う災厄でした。」


隕石のことだろう。


「当時の三ツ目族はそのことをグリネルの住民に知らせましたが『星が降るなんて・・』と誰も信用しませんでした。その数年後にも大きな地震や津波を予測しましたが誰も信じてくれませんでした。結局三ツ目族は助かり、グリネルの民の多くが死にました。何度かそんなことが繰り返されるうちに、グリネルの人々は三ツ目族を忌避しました。忌避するだけならまだしも、三ツ目族は災厄を呼ぶ民族として虐待され始めたのです。」


「だから話しても無駄だと・・・」


「そうです。」


「わかりました。そっちは俺が何とかします。それとあなたの夫は?」


「私の夫はサリオンと言います。クラーケンに襲われて離ればなれになりましたが、強い男です。どこかで生きているはずです。探します。」


「いいでしょう。サリオンさんの捜索も行います。まずどこら付近を探したいですか?」


「はい。グリネルの海岸ぞいか、私達の島ネッダ周辺です。」


リリアが俺を見上げる。


「お願い神様。」


俺はリリアの頭をなでて微笑んだ。


「皆、聴いただろ?避難と捜索を同時進行だ。忙しくなるぞ。」


皆が俺の顔を見る。


「「「おう!!」」」


・・・・・・・・


時は3千年遡る。


この頃のグリネルは、いくつかの種族が平原に集落をつくり平和に暮らす場所だった。


まだグリネルという地名さえ出来ていない混沌とした時代だった。

人口の多くは後に蛮族と呼ばれる人族と魔族で、少数の三ツ目族がいくつかの集落を形成していた。


三ツ目族は魔法に長けた種族だが、温厚な性格で魔法を用いて他部族を侵略することも無かった。


それどころか、土属性の魔法や、火属性の魔法を用いて他部族の集落建設を助けたり、魔物から非力な人族を守ったりしていた。


現在のグリネルの基礎は三ツ目族の協力の元に成り立っているとも言える程だ。


三ツ目族には他の種族に無い特殊なスキルを持った子が生まれることがあった。

いわゆる『未来予知』のスキルだ。


この世界の一般スキルに『未来予測』というスキルはあるが、それはほんの数秒先が予測できるだけのことで、遙か未来を見通せる『未来予知』とは大きく違う。


『未来予知』は『未来予測』の上位スキルと言えるだろう。


三ツ目族の間では『未来予知』を持つ子供は数百年に一度生まれると言われていた。

そしてそのスキルを持つ子が生まれる世代に大きな災厄が起こるとも言われている。


つまり大きな災厄から種族を守るために、その子が生まれてくると信じられていた。


そして約3千年前、その子は生まれた。


時の三ツ目族、長老の子として生まれた女の子は言葉が使えるようになってすぐに言い始めた。


「お星様が落ちてくる。」


三ツ目族は未来予知の能力により過去に多くの災厄を避けてきた歴史が語り継がれており、一族はその子の言葉を信じた。


そして、そのことを隣人達に伝えた。

しかし隣人達は、三ツ目族の言葉を信じなかった。


「空の星が落ちてくるって?そんなバカな事があるものか。星は空にあるものだ。地上には降りてこない。」


隣人は三ツ目族を信じないばかりか、「地域に不安をもたらすな」と怒る者さえ居た。

しかたなく三ツ目族は山間部から海岸地帯へと移住した。


その数週間後、三ツ目族が暮らしていた地域に巨大隕石が落下した。

三ツ目族は未来予知のおかげで難をまぬがれたが、三ツ目族を信じなかった隣人は滅んだ。


三ツ目族が海岸へ移住してから10年後、今度は大きな地震と津波が三ツ目族の集落を襲った。


しかし、三ツ目族の人々は未来予知のおかげで生き延びた。

三ツ目族は近隣に住む魔族にも危難が訪れることを告げたが、一部の者を除いて三ツ目族の予言を信じること無く多くの犠牲者が出た。


三ツ目族の予言で生き延びた人は、その事実を後世に伝えたが、その情報は、いつしかねじ曲がり、三ツ目族が災いを呼ぶ種族と言う評価が定着してしまったのだ。


そして三ツ目族に対する迫害が始まり、三ツ目族は大陸を追われて島に移住し他民族との接触を断った。


その三ツ目族が言う。


「グリネルは沈む。」


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