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プロローグ

キーンコーンカーンコーン


「み~つ~は~!教科書貸して!」


授業終わりを告げる鐘が鳴り終わると同時にA組の教室に飛び込む女子生徒。

パタパタと小走りで窓際の一番後ろの席へ向かう。

何事かと視線をよこした生徒たちだったが自分に関係のないことだとすぐに察して各々友人とお喋りを始めたり次の授業の準備にとりかかったり読書に勤しんだり。いつも通りの休み時間だ。


飛び込んできた少女の名は宮崎(みやざき) 希乃葉(ののは)

B組に通う彼女がA組を訪れた理由は冒頭の通り友人に教科書を借りるためである。

しかし目当ての友人の姿がない。


「…あれ?」


「篠原さんなら朝から来てないよ。」


首を傾げた希乃葉に声をかけたのは目当ての友人、篠原(しのはら) 美月葉(みつは)の隣の席の男子生徒であった。


「休みってこと?なんで?風邪?」


「理由までは知らないよ。」


「そっか…。教えてくれてありがと。」


分厚い本に視線を落としたまま答える男子生徒。

彼の答えに休むときはいつも連絡くれるのに、と友人の身に何かあったのではという考えがよぎる。

とりあえず後でメッセージで聞くことにして今は教科書だ。


「あの真面目ちゃんめ…。」


美月葉は置き勉はしない主義のようで机の中は空っぽだった。

私が頼れるのは美月葉だけだというのに…と希乃葉が項垂れているとあまりの絶望っぷりに居心地が悪くなったのか隣の席の男子生徒が本から視線をあげた。


「次の授業って何?」


「へ?…数学だけど。」


「あ~松村先生か。確かに忘れ物なんて出来ないな。…その、俺のでよければ貸すけど…。」


きょとんと彼の顔を見つめる希乃葉。

彼の長い前髪に隠れたレンズの向こうの瞳が気まずそうに泳ぐ。


「い、いや、ごめん急に。嫌だよな俺の教科書なんて…。」


「いいの!!??ありがとう!!!!超いい人!!恩人!!メシア!!」


「えっ?」


ごにょごにょと小さく呟く彼を遮り希乃葉は彼の手をとった。

今度は彼がきょとんと呆ける。


「あ、ごめん遮っちゃった。何言いかけてたの?」


「な、何でもない。」


手を握ったまま顔を覗き込む希乃葉にたじろぎ狼狽しながら空いている手で机をまさぐり数学の教科書を取り出した。

随分近い希乃葉の鼻先に押し付ける勢いで教科書を差し出す。


その教科書は水に濡れ乾いたようによれていた。

雨にでも降られたのかなと別段気にすることも無く希乃葉は少し滲んだ彼の名前を見る。


佐倉(さくら) (みなと)


「さくらくん、で合ってる?」


「え?あ、ああ。」


「よし!それじゃあ佐倉くん今度お礼にジュース奢るね!」


「は!?いや、大したことじゃないしいらないよ。」


「遠慮しなさんなって!なんなら購買のチキンでもコロッケで、も?」


希乃葉の言葉が止まる。


教室の床が強い光を放ち始めたからだ。


「えっ、えっ!?なになになに、何事!?」


「わ、分からない!」


教室内はパニックとなった。扉や窓は開かず光は段々と強まっていく。

スマホも圏外でただただ床を見つめるしかない。

ほんの数分か数十秒かの短い間のことだったがやけに長く感じられた。


誰かが魔法陣…?と呟き全員が床に浮き出た魔法陣のような模様を認識した瞬間、視界が白に染まり一瞬にして見知らぬ大広間が現れる。


生徒たちを取り囲むのは黒いローブや甲冑姿の集団であちこちから成功だという歓喜の声が聞こえる。


状況を飲み込めない生徒たちは友人や恋人に寄り添い集団から距離をとる。

しかし、一部の者は何やら目を輝かせ興奮した様子を見せていた。


「おお、異世界より来たりし勇敢なる子らよ!どうか我らをお救いください!」


黒ローブの中で一番豪華な装飾のローブを着た背丈よりも長い大きな杖を持った老人が叫び跪いた。

続くように黒ローブたちが跪き甲冑の兵士たちも膝をつく。


生徒の反応は2つ。困惑し警戒するか、興奮し喜びをあらわにするか。


希乃葉と湊は前者であった。


本の虫である湊も同じく本の虫である美月葉の友人である希乃葉もこういった状況に陥る小説や漫画を読んだことがあるが当事者になり手放しに喜べるほど楽観的ではなかった。


「異世界からはるばるよくぞ参られた。私はこのシャウネット王国の王、クロウ・カルツ・シャウネットである。」


頭上から降ってきた声に全員が顔を上げた。

この広間は吹き抜けになっているようで一階層上には貴族らしき着飾った者たちがずらりと並びさらに上の階に声の主である王は居た。傍らには美しい女性に少女や少年が数人。王妃に姫や王子たちだろう。

王は煌びやかな玉座から立ち上がり仰々しく腕を広げた。


「我らは諸君の力を借りるべく古の召喚術を使用した。我らの世界は今、魔王により滅びの危機に陥っている。どうか魔王を討ち滅ぼし世界を救ってはくれないだろうか。」


二階層も離れていて声を張っているようには見えないのにはっきりと声が聞こえた。

魔法だろうか。


「無論援助は惜しまない。衣食住は保証する。腕の立つ師もつけよう。装備品も一級品を揃えるし要望があれば極力応えよう。」


「はっ、俺らのこと拉致っといて何言ってんのおっさん。都合のいいことばっか言ってさ~。世界の危機ぃ?知ったこっちゃねぇよ。俺たちまだ守られるべきお子様なんだけど?てめえらの世界はてめえらで何とかしろよ。大体さあ頼る世界間違ってるって。俺ら刃物なんて調理用の包丁とか文房具のカッターくらいしか扱ったことないし鈍器も工具のトンカチがせいぜい。魔法なんてもんは存在もしねえ世界の平和ボケしたガキ何百人集めたって世界なんて救えやしねえよ。」


王の言葉に目つきの悪い金髪の男子が噛みついた。

周りの黒ローブや兵士がざわめく。


「とっとと元の世界に帰しやがれ。」


臆せず睨みつける彼の言葉を聞き喜んでいた一部の生徒も顔を曇らせた。


「それは無理だ。」


睨まれた王は意に介さずぴしゃりと答えた。

金髪の男子が再び口を開く前に王は続ける。


「この世界の者で解決できるならばそうした。だが、不可能なのだ。諸君のような異世界の者でなければ魔王を討つことはできない。」


「根拠は?」


「どんな歴戦の戦士も功名な魔術師も魔王城に辿り着くことすらできなかった。…いや、辿り着いても踏み入ることができなかったのだ。魔王城には強力な結界が張られている。その結界を通れるのは勇者のみ。そして勇者は異世界からの召喚でなければこの世界に現れることはないと伝えられている。」


「チッ、結局昔話かよ。んなもん根拠でもなんでもねえ。大体俺らの中にその勇者とやらがいんならそいつだけいりゃいいんだろ?だったら他は帰せよ。」


王はゆっくりと首を振った。


「見たほうが早いだろう。『ステータス』と唱えてみなさい。」


「は?」


「すっ、ステータスっ!」


王の言葉に瞬時に行動に移したのは小太りの男子生徒だった。

何が起きるのかと視線が集まる。

しかし、傍目には一向に変化は現れない。


「す、すげぇ…まじだ…。おいっ、山中!唱えてみろ!本当に出るぞ!ステータスが!」


一点を見つめていた小太りの男子生徒は興奮した様子で友人だろうおかっぱ頭の男子生徒に叫ぶ。

それを聞いたおかっぱ頭の男子生徒が唱え、続いて一人、また一人と唱える。


湊も唱えたので希乃葉も続いた。

パッと目の前に現れる文字列。


種族:人間


名前:宮崎 希乃葉 年齢:16 性別:女


状態:健康


ジョブ:傍観者 Lv?


スキル:鑑定 傍観 蜃気楼


称号:勇者



(HPとかがでるわけじゃないんだ…。)


確かにステータスのようだが想定していたものと少しばかり異なっていた。

ゲームのように体力や力が数値化されるわけではないらしい。


それよりも気になるのはジョブと、称号の勇者の文字。


周りの生徒の呟きを聞くに希乃葉が選ばれしたった一人の勇者、というわけではないようだ。


(ジョブが傍観者って何?どう考えても職業じゃないじゃん…。それに横のLvがハテナって…他の人に聞きたいけどこのクラスに友達は美月葉だけだし…。このスキルの鑑定とかで見えたり…)


しないかな?と考えた瞬間、視線を向けた人の横にパッとステータスが現れた。


「えっ…。」


思わずきょろきょろと視線を動かす。

この場の全員のステータスが見える。

見た所全員に勇者の称号があり、ジョブは魔術師や格闘家、剣士といった如何にもファンタジーなものばかり。

Lvは大体が1で最高が22。いずれにしても?なんてふざけた記載は希乃葉ただ一人のようだ。


「どうかした?」


挙動不審な希乃葉に湊が声をかける。

反射的に顔を向けると他と同じように彼のステータスが見えた。


種族:人間


名前:佐倉 湊  年齢:16 性別:男


状態:健康


ジョブ:執筆家 Lv14


スキル:校閲 執筆


称号:勇者



(執筆家…?佐倉くんも変わったジョブだな。)


「大丈夫?」


「え?あっ、うん!こんなこと本当に現実なのかなって、ぼーっとしちゃって!」


「そうだね。馬鹿げた夢を見てるみたいだ。」


髪が影になり彼の横顔の表情を伺うことは出来ない。

なんだか落ち込んでいるように感じて希乃葉がかける言葉を探していると再び王の声が降ってくる。


「これで分かっただろう。諸君は全員が勇者であり全員が魔王に立ち向かうことができると。だが、何も全員で挑めというわけではない。数ヶ月の訓練を経て諸君の中で特に優秀な者数人に頼みたいと考えている。勿論選ばれなかった者たちも送還の儀まで王国で世話をする。どうか魔王の討伐に協力してはくれないだろうか。」


「んなの信用でき「お受けします!」…は?」


またしてもくってかかろうとした金髪の男子生徒を遮り熊のように体格のいい男子生徒が答えた。


熊谷(くまがい)てめえ、頭湧いてんのか。あいつらの言いなりになって死ぬ気か?」


柳田(やなぎだ)、君こそもう少し冷静になるべきだ。今僕たちを囲んでいるのは兵士と、おそらく魔法使い。交渉が決裂したとき不利なのは間違いなく僕たちだ。君の一言でクラス皆を危険にさらしていると理解しろ。」


「ッ…!」


金髪の男子生徒…柳田はぐるりとクラスメイトを見渡した。

向けらているのは非難の目ばかり。


「分かっただろう。不安なのは皆同じ。君の言い分は尤もだが今はこの国に従うのが賢明だ。」


「…チッ。」


体格のいい男子生徒…熊谷に諭され柳田は下がった。


「協力してくれる、ということでいいのだな?」


「はい。ただし、先程までの言葉を違えないと約束してください。そして必ず全員を元の世界へ帰すことも。」


「ああ、約束しよう。」




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