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侵略勇者 ブレイダー  作者: テスタロッサ
2/16

初めての変身

          A


「副隊長! 起きてください! ……副隊長!」

「んん……」

  ウェールズの声で目を覚ます。あれ? 私、何してたっけ?

  自分のいる場所を確認する。外だ。そして山だ。


  ……そうだ、私は洞窟で岩の下敷きになったんだった。


  今度は自分の姿を確認する。ものすごく汚れているけど、怪我はまったくしていない。


  ……どういうこと?


  時刻を確認すると、まだあれから三十分も経っていない。

「現状は? 他の二人はどうしたん?」

「まだ調査を続けていると思われます。自分は地震の後で副隊長のことが気になったので様子を見に来て、今ようやく見つけたところです」

  つまり、あの黒い騎士のことは見ていないということか。

「副隊長、何があったか説明できますか?」

「ああ、実はな――」


  ウェールズに説明しようとしたところで、再び地面が揺れ始めた。

「な――また地震!?」

  しかも今度のはさっきよりも大きい。

  いや、これは……。

「これ、地震やない! 山自体が揺れとる!」

 そして、地面がボコボコと大きく盛り上がり、膨れ上がって盛大に土が舞い上がる。


  中から現れたのは――


  巨大生物。いわゆる〝怪獣〟と呼ばれる存在だった。

  全長は約三十五メートル、二足歩行で太い手足と長い尻尾。恐らくパワータイプの怪獣だろう。

  私は基地にいる隊長に連絡をする。

「隊長、長門山に怪獣出現!」

『八神とウェールズは周辺住民の避難を! レーベとティーレはソーシャーク一号、二号で怪獣の注意を引け!』

「はっ!」


  急いで山を降りる。その途中――


『…………るか、……』


「ん?」

  何か聞こえた気がしたが、どうやら気のせいみたいだ。

  気を取り直して今度こそ山を降りて、周辺住民の避難誘導を開始した。


  約一時間後、周辺住民の避難が終わり、隊長の指示で私とウェールズはグレートホワイト号に乗り、ソーシャーク一号と二号と合わせて三機で怪獣に攻撃を開始した。

  ミサイルやレーザービーム等で攻撃する。ダメージは与えているようだが、決定打にはならない。このままじわじわと弱らせていくしかないか。だとすると長期戦になる。交代で基地に戻り燃料と弾薬を補給しなければならない。


『ソーシャーク一号、二号、共に弾薬切れ、さらに燃料もありません! 基地に一旦帰投します』

  レーベから通信が入る。避難誘導の間も怪獣の相手をしていたのだ。基地に戻るのは当然先になる。

「さぁ、こっからはしばらくうちらだけや。気張るで!」

「はい!」

  怪獣の腕や尻尾による攻撃を掻い潜ってミサイルを放ち、すぐさま離脱する。対怪獣戦での基本となるヒット&アウェイだ。相手が肉弾戦しかできない以上距離をとってしまえばこちらに攻撃はできない。


  ――はずだった。


  グレートホワイト号が尻尾での攻撃範囲外に出た途端、怪獣は口から熱線を吐いて攻撃してきた。

「な――!?」

 突然の熱線攻撃にこちらの対応が遅れてしまう。急いで舵を切りなんとか直撃は免れたものの、右側の尾翼に掠ってしまった。

  もちろん、かすり傷だから大丈夫! なんてことにはならない。

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

  操縦不能になり、高度を保てなくなる。

  さらに最悪なことに、緊急脱出レバーを引いても前も後ろも脱出できない。こちらも衝撃で壊れてしまったようだ。


  これ、詰んでるなぁ……。


  せめてウェールズだけでも助けてあげたかったけど、どうすることもできそうにない。

「……ウェールズ? ウェールズ!」

  やけに静かだと思ったら、後ろに座っていたウェールズが攻撃の衝撃で気を失ってしまっていた。恐怖や苦痛を感じることなく死ねることがせめてもの救いか。

  そんなことを考え始めていたときだった。


『……い、…………るか、に……』


  まただ。また何か変な音声のようなものが聞こえた。


『おい、聞こ……るか、にん……』


  また聞こえた。今度はさっきよりも鮮明に聞こえる。


『おい、聞こえるか!? 人間!!』


  ついにはっきりと聞き取れるようになってしまった。

「な、なんやこの声!? 頭の中に直接響いてくる!?」

『ようやく繋がったか。完全にリンクするのにこんなに時間がかかるとは思わなかったぜ』

  何を言ってるのかはよくわからないが、それよりも私には気になることがあった。


 この声、最近どこかで聞いたような……。


「って、この声さっきの侵略者やんけ!」

『んなもん今はどうでもいいだろ! せっかく助かったのにこのままじゃ死んじまうぞ!』

「そんなん言われても、この状況でどうしたら助かるねん」

『助かる方法は一つ、死にたくなかったら俺にかわれ!』


  ……は?

  かわれ? 代われ? 変われ?


「どういうこと?」

『〝フラッシュ・スター〟を使って俺に変身しろ! そうすれば俺がどうにかしてやる』

「フラッシュ・スターって何やねん」

『お前の首にぶら下がってるだろ! 気付いてねえのか!?』

  自分の首元を確認してみる。確かに何かある。私は装飾具の類はまったく身に付けないのだが、それは宝石のようなものが嵌め込まれたペンダントのようだった。

「いつの間にこんなもんが……」

『そいつを起動させて俺に変身しろ!』

「起動って……こんなもん、どないせえと?」

『握って、強く念じろ。何か自分なりの掛け声があるといいらしい』


  らしいって、伝聞かいな。

  しかし、掛け声ねぇ……。


『おい、早くしろ! このままじゃ後ろのやつも一緒に死んじまうぞ!』

  そうだった。悩んでる時間はない。

  あの黒い騎士に変身するように強く念じる。すると、ペンダントが光り始めた。

  うん、なんかいけそう。

  あとは何か掛け声。起動させるんだから、そんな感じの言葉を言えばいいかな。

  そしてこのペンダントの名前は確か……。

「フラッシュ・スター、スタート・アップ!!」

  その瞬間、私の身体が光に包まれた――


          B


  光が消えたとき、俺は外に立っていた。

  手にはさっきまで自分が乗っていた戦闘機がある。なんとか間に合った。あと少しで人間たちが俺もろとも死んでしまうところだった。


  戦闘機をそっと下に置く。こんな物を持っていては危ない。

『なんやこれ!? これ、あんたの視界なんか!?』

  俺と一体化したあの人間が騒いでいる。戦闘機の中からいきなり視界が切り替われば驚くのも無理はない。

「ああ、そうだ。俺たちは五感を共有しているから、俺が見ているものはお前も見れるし、音や匂いも感じられるはずだ」

『へぇ、これすっごいなぁ。どういう仕組みなんやろ』

  好奇心に満ちた声が聞こえてくる。五感は共有してても感情とかはわからないはずなんだけど、この人間は声からものすごく伝わってくる。

「それよりも目の前のアレをどうにかする方が先だろ。まだまだ興奮状態みたいだぞ」


  目の前の巨大生物――人間たちの会話から〝怪獣〟と呼ぶらしい――はこちらを威嚇しながらじわじわと近づいてきている。

『せやったな。あんたに変身できたら、あんたがなんとかしてくれるんやろ?』

「ああ、こいつは俺がどうにかしなくちゃならねぇ」

  そう言うと俺は、左腕に装着してた盾を腕から外し、しっかりと前方に突き出して構えた。


  怪獣が迫ってくる。俺も盾を構えながら近づいていく。

  そして怪獣の間合いに入った途端、怪獣の攻撃ラッシュが始まった。

  豪腕を振るい、尻尾を叩きつけ、突進の勢いを利用した頭突きがくる。それらをすべて盾で防いでいく。


  防ぐ。とにかく防ぐ! ひたすら防ぐ!!


『っておい! あんたさっきから防いでばっかで全然攻撃してないやん! その盾に付いとる剣なんで抜かへんねん!』

 人間の言う通り、俺の盾には剣が納刀されている。本来はその剣で戦うのが俺の戦闘スタイルなのだが……。


「悪いがこいつに剣を抜くことはできない」

『はぁ?』

「こいつは俺がこの星に落ちてきたときの衝撃で目を覚ましちまって、それで不機嫌になっているだけなんだ。そんな奴に攻撃はできねぇ」

 そう。こいつは俺が来なければあのまま山の中でずっと眠っていられるはずだった。安眠を妨げられて機嫌が悪くなるのは全宇宙共通だ。

「だから俺にはこいつの怒りを受け止める義務がある。こいつの怒りが収まって、また山に戻って眠りにつくまで、俺は耐え続ける!」

『……ふうん、なるほどなぁ。まぁ筋は通っとるし、そういう考え方は嫌いやないで』

  どうやら人間は納得してくれたらしい。

『けどさっき基地に帰投した私の仲間がそろそろ戻ってくるで。そっちはどないするん?』

「なにぃ!?」


  それは考えていなかった。まずい。


『あんたが怪獣の攻撃を引き受けてくれとるから、私の仲間はこれ幸いと怪獣に攻撃すると思うで』

  人間はこの後に起こるであろう事を淡々と説明してくれる。

『あ、言うとる間にほんまに来てもうたわ。どないするん?』

「ちっくしょぉぉぉっ!!」

  俺は怪獣を倒したくない。この人間の仲間が怪獣を攻撃するのを黙って見ているのも嫌だ。


  だったら、やることなんか決まっている。


  小型の戦闘機が二機やって来る。そして怪獣に接近すると、ミサイルやレーザービームを発射した。

  俺は怪獣に背を向け、それらの攻撃を盾で防ぐ。

  すると当然、怪獣に背中から攻撃される。

「ぐっ……」

『いったぁ』


  俺と人間が同時に呻く。

『なんやこれ。痛覚も共有されとるんか』

「だから言っただろ。五感を共有してるって」

  どうやらこの人間にも事の重大さがわかったようだ。

『なぁ、私痛いの嫌やし、攻撃くらうのやめてもらえる?』

「俺だって好きでくらってるわけじゃねぇ! ……できるだけ努力する」


  そこからは戦闘機から怪獣への攻撃を防ぎつつ、怪獣からの攻撃も可能な限り防御するというかなりハードな時間が始まった。


『……なぁ、まだ終わらへんの?』

「んなこたぁこいつに聞いてくれ!」

  なんて会話を交わしつつ、ひたすら攻撃を捌き続ける。


  ――しばらくして怪獣の方も少しずつ冷静さを取り戻し、俺が攻撃してこないこと、戦闘機の攻撃から自分を守っていることに気付き、俺への攻撃をやめて大人しくなった。

  怪獣が再び眠りにつくために山へと戻っていく。二機の戦闘機も攻撃をやめて旋回しながら様子を見ているようだ。


「終わったぁ」

『終わったぁ』


  俺と人間の声が重なる。肉体の主導権を握っていたのは俺だが、攻撃をくらうと痛い思いを共有する人間の方も気を張り詰めていただろう。


  というかこの人間、洞窟の落石で死にかけるわ、戦闘機の墜落で死にかけるわ、今日は散々な一日だな。

『まぁ、ほんまはいろいろ聞きたいことがあるけど、今日はもう疲れたし、細かいことは明日でええわ』

  そう言うと人間は、少し改まった感じでコホンと咳払いをする。

『私は八神あおい、呼びやすいように呼んでくれたらええよ。あんたのことはなんて呼んだらええ?』

「ああ、俺は……」

  そこで俺は言葉に詰まってしまった。


  あれ? なんで?


『俺は?』

「俺は……わからない。自分の名前が、思い出せない」

なんとかキリのいいところまで書けました。次からはもう少し短いのをさくっと書けたらいいな。

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