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侵略勇者 ブレイダー  作者: テスタロッサ
18/19

死者の殺人

          A


「死体が殺人を犯した?」

SHARKの通信指令室。その真ん中の円卓で私は、隊長の「不思議な事件が起こったようだ。なんでも死体が殺人を犯したらしい」という発言に疑問の声を上げた。いや、疑問というより呆れた声になっていたと思う。SHARK始まって以来、一番わけがわからないことを聞いたのだから。

「その発言もよくわかりませんけど、とりあえず殺人事件ならまずうちは関係ないですよねー? しかもなんでORCAの方がいらっしゃってるんですかー?」

ヘレナも不思議に思ったようだ。いや、この場のみんなが思っていることをお喋りな私とヘレナが代表して発言しただけというべきか。

「オレもまだちゃんとは聞いていない。詳しい話はORCAの方からするとのことだ。一同、傾聴!」

隊長からそう言われてしまっては聞くしかない。あまり非科学的な話は御免だが、その時はブレイダーに代わりに聞いておいてもらおう。

隊長から促されたORCAの隊員は一歩前に出た。少し前の喫茶店の事件の時に会った人だ。

「ORCAの犯罪捜査担当、ジャベリンです。今回、私の担当している事件が他星からの侵略者によるものである可能性があり、SHARKの皆様にご協力を仰ぐために説明に参りました。もし侵略者による事件の可能性が否定できなければSHARKの皆様と合同で捜査をする許可ももらってきています。どうぞよろしくお願い致します」

ORCAのジャベリン隊員が挨拶をする。なんか話し方的に物凄く真面目な人っぽい。ブレイダーと気が合いそう。

「今回お話ししたい事件は三件、どれもここ一ヶ月の間に同じ街の中で起こっています。

一つ目は住宅地区の中の民家で起こった事件。被害者はこの家の家主である男性で、胸を刃物で複数回刺されて死亡していました。そして、現場には犯人と思われる包丁を握った女性の死体がありました。

二つ目は工業地区の工場で起こった事件。被害者は生産ラインの一工程でリーダーを任されていた従業員。頭を工具で殴られて死亡していました。これも同じく、犯人と思われる凶器となった工具を握りしめた男性の死体が現場にありました。

三つ目は商業地区のショッピングセンター裏にある駐車場で起こった事件。被害者はこのショッピングセンターで働く従業員で、首を紐で絞められて死亡していました。これもまた同じく、現場に犯人と思われる凶器となった紐を持った女性の死体がありました」

スクリーンに地図を表示してそれぞれの事件が起こった現場の場所を示しながら説明してくれる。地区はバラバラだが、それぞれの場所は割と近いようだ

「何も不思議なことはないでしょう。いずれも犯人は犯行の後にその場で自殺しただけでは?」

ウェールズが口を挟んだ。ここだけを聞けば確かにそう考えるのが自然だが。

「それはありえません。犯人と思われる死体はどれも被害者と同じ手段で殺害されていました。つまり、自殺ではありません」

「つまり、それぞれの現場にはもう一人誰かがいた?」

今度はレーベが発言する。うん、今のところ私もそう思う。

「それもありえないんです。犯行時刻の前後で現場や付近の防犯カメラには犯人と被害者以外の人物は映っておらず、第三者がいた痕跡もまったくありませんでした」

「それなら相打ちでは? まず一人が相手を襲い、今度はその相手が息絶える前に凶器を奪って自分を襲った相手を殺害した」

ティーレの意見はさすがに無理があるだろう。第三の事件の場合、被害者は首を絞められて窒息死してから反撃したことになってしまう。案の定、ジャベリンは首を横に振った。

「被害者の傷などを見る限り、三人とも凶器を奪えるような状態ではなかったと考えられます。

そしてこれが最大の謎なんですが、検視の結果、どの事件でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが判明しました」

「「「「「「はぁ?」」」」」」

SHARK全員が思わず変な声を出してしまった。しかしそれも仕方がないだろう。もはや完全にオカルト話だ。

「な、なるほど。死体が殺人を犯したというのはそういうことか」

最初に立ち直ったのは隊長だった。さすが、メンタルが誰よりも強いだけのことはある。

「はい。それで、この常識ではありえない事件が侵略者によるものではないか、SHARKの皆さんの意見を伺いたいのです」

「八神、どう思う?」

「ぱっと思いつく可能性は三つです」

隊長から指名されたので思いつくままに答える。

「一つ。単なる検視ミスで、本当は犯人の方が後で死んだ場合。

二つ。検視は間違うてへんけど、偶然が重なったか何らかの小細工によって犯人の死体の方が前に死んだことになってしまった場合。

三つ。ジャベリン隊員の推察通り他星からの侵略者による事件の場合」

他にも考え出せばいろいろありそうだが、大まかに言えばこの三つのどれかだろう。面倒くさいので三つ目でないことを願うばかりだ。他星の科学なりオカルトじみた能力なりが絡んでくるとこちらの想定の範囲をあっさり超えられてしまう。


……まぁ、往々にして三つ目のパターンが多いんだけどね。


「やはり侵略者による事件の可能性は否定できんか。よし、今回は特例としてORCAとの合同捜査とする。八神、ウェールズはジャベリン隊員と共に事件の捜査に向かえ。何かあれば応援要請をするように。それ以外は要請に備えて各自待機だ。ーーSHARK、出動!!」

「「「「「フォー・リント!!」」」」」


ウェールズ、ジャベリンを乗せたタイガーシャーク号でまずは第一の事件である住宅地区の民家に向かう。ジャベリンに案内されて着いたのはまだ建てられてからそう経っていない民家だった。新築というほどではないが、まだリフォームや建て替えを考えるような状態でもない。築五~十年といったところか。

「被害者とみられる男性はこの家の家主で、凶器の包丁を握って亡くなっていたのはその奥様でした」

「つまり、その奥さんの方が前に亡くなっていたってことですか」

「はい。奥様の方が三日ほど早いとのことです」

それぞれの死体があった場所にはテープで印が付けてあり、どちらにどの死体があったか教えてくれる。

部屋の中はテーブルと椅子が二脚、空気清浄機、テレビとテレビ台、キャビネットが置いてあるだけのシンプルなものだった。

一応死体発見時の現場の画像も見せてもらった。その中で気になった点について訊いてみる。

「なんや奥さんの死体は随分と汚れとるなぁ。草や泥まみれやん」

「草や泥は近くの山のものだと鑑定結果が出ています」

「うーん、そこでなんかあったんやろか?」

「後で調べた方が良さそうですね」

「せやな……奥さんの死体をどけた後に残っていた液体は?」

しかしジャベリンは首を横に振るだけだった。

「まだわかっていません。この星に存在するあらゆる液体と照合していますが、まだ結果が出ていないとのことです」

つまり、この星に存在しない未知の液体である可能性もあるわけか。

「それと、凶器の包丁はこの家にあったものだと思われ、付着していた指紋は奥様のものだけでした」

他に犯人がいるなら自分の指紋を拭き取ったか手袋をしていただろうけど、前者なら拭き取った痕跡が残るはずだし、後者なら手袋の繊維が残っているはずだ。それが出ていないなら凶器を触ったのは奥さんだけなんだろう。

「一応旦那さんが被害者と仮定して、奥さんが殺したってことみたいやけど、夫婦仲は悪かったん?」

「少し前までは非常に仲の良い夫婦だったようですが、ここ最近になって急に喧嘩が絶えないようになり、怒鳴り声や何かが壊れるような音が頻繁にあったと近所の方々が証言しています。離婚するのは時間の問題だと思われていたようです」

「死体を発見してORCAに通報したのは?」

「その証言をした近所の方々の一人です。朝になっても電気が点いたままなのを不審に思い訪ねたところ、呼び鈴を鳴らしてもドアをノックしても返事がなく、鍵が開いてることに気付き中に入ったところ死体を発見したとのことです」

「その人めっちゃ怪しくありませんか? 普通、鍵が開いていたからって勝手に入ったりしませんよ」

「割と仲が良かったんちゃう? よく家にお邪魔してたらその辺の敷居はぐっと下がるで。……因みに、その近所の人が犯人である可能性は?」

「ありません。ご主人が亡くなったと思われる時間も奥様の方も、共に仕事中でアリバイがありました」

その人が何かしらのトリックを使って夫婦を殺害したという可能性もなくはないが、さすがに違うだろう。そこまでする理由がちょっと思いつかない。

「とりあえず、次行ってみよか」


次に向かったのは第二の事件の現場である工業地区の工場。かなり古そうな工場ではあるが、なかなか広い建屋の中に大人数が働いていた。

「死体を発見したのはここの工場長で、出勤して工場内を一通り見回っていたら人が二人倒れているのを見つけたそうです。一人は先程お伝えした通りこの工程のリーダーを任されていた男性で、凶器である工具を握っていたのはその男性の部下ですが、現在は休職中だったとのことです」

殺害現場まで案内したジャベリンが説明してくれる。

「つまり、犯人と思われる工具を握っている男性の方が先に死亡していた、と」

「はい、こちらはリーダーより一週間ほど先に亡くなっていたようです」

「凶器と付着していた指紋は?」

「凶器はバールです。指紋は握っていた男性の物だけでした。この会社では一人一人に工具一式を支給しているようで、犯行には自分の工具を使用したようです」

犯行現場は工場内の一区画で、周りには金属加工に使う専門の機械の他、小型のスポットクーラーや空気清浄機が置かれていた。

「その二人は仲悪かったん?」

「他の従業員の話だと少し前までは普通だったようですが、ここ最近は仲が悪かった、というよりはリーダーの部下への当たりが強くなって、パワハラまがいの言動が多くみられるようになったとか。部下が休職する数日前にはエスカレートし過ぎて直接的な暴力もあったそうです」

「……それ、この会社では問題にならへんかったん?」

「一応他の従業員からの報告で工場長の耳には届いていたそうですが、出来の悪い部下の教育なんてそんなものだと言って問題にしていなかったそうです。……実際には、そのリーダーが優秀なので辞められると困るためあまり強く出られずにいただけのようですが」

「……僕、自分がどれだけ恵まれた職場にいるのかよくわかりました」

「そう言ってくれるんはありがたいけど、うちは別の方向にブラックやからなぁ」

侵略者との戦闘の最前線に立つ部隊なので正直いつ死んでもおかしくないし、少数精鋭の部隊なので休みは少ない。恵まれているのかどうかは難しいところだ。ーーそれはともかく。

「その部下の休職の理由はリーダーからのハラスメントや暴力が原因と思ってええのかな」

「おそらくはそうだろうとのことです。というのも、休職の際に本人がそう言っていたわけではなく、一週間ほど前に工場長が出勤すると机の上に休職願が出されていて、本人とは連絡が取れなかったから仕方なく事務的に処理したとか」

「死亡したのと同じ頃ですね。休職願を出した後に何かあったのでしょうか」

「わからんなぁ。それに、なんで休職中の部下はわざわざ職場までやって来たんやろなぁ」

「確かに。パワハラや暴力が原因なら職場なんて絶対に来たくない場所のはずなのに」

ここでも死体発見時の現場の画像を見せてもらった。

「こっちも凶器を握ってる方の死体は泥だらけやなぁ」

「はい。こちらも先程の事件の死体に付着していたものと同じ山のものであるとわかっています」

「ますますその山が怪しいなぁ」

「ですね」

こちらも凶器を握っている方の死体をどけた後には謎の液体が残っていて、先程の現場にあったのと同じものだったそうだ。

「因みに、死体を発見した工場長や他の従業員のアリバイは?」

「リーダーの時と部下の時、それぞれにアリバイがある人は少なかったですが、どちらかの死亡推定時刻にはアリバイのある人ばかりでした」

「そっか」

念のために訊いてみたけど、付近の防犯カメラに他の人物が映っていない以上、第三者の可能性は低いだろう。

「ほんなら、最後の現場に行こか」


第三の事件現場は商業地区のショッピングセンターの裏、従業員専用の駐車場だった。

「被害者とみられる男性はここの従業員で、シフトを終え帰宅するためにこの駐車場に来て、車に乗り込もうとしたところを襲われたと思われます」

ジャベリンの説明を聞きながら現場を観察する。男性の車はまだそこに停めたままだった。

「犯人と思われる凶器の紐を握っとった死体は?」

「その女性もここの従業員で、この男性の元交際相手です。同僚の話だと交際期間はそれなりに長くこのまま順調にいけば結婚も近いと思われていたそうですが、少し前からうまくいかなくなっていたようで、死体が発見される前日に『五日ほど前に別れた』と男性が証言していたそうです。そして女性はその頃から無断欠勤が続いていたようです」

「別れ話がもつれての犯行でしょうか?」

「さあなぁ。とりあえずこの現場も犯人っぽい女性の方がずっと前に死んどったんやろ? いずれにせよその謎が解けへんとなぁ」

「死体を発見したのはここの同僚で、開店準備のために朝一番に出勤したところ死体を発見したとのことです。この同僚にはどちらの死亡推定時刻にもアリバイがありました。それと、妙なことが一つ」

「なんやろ?」

「ショッピングセンターのバックヤードの床の隅に犯人と思われる女性の血液が付着している箇所がありました。おそらく付着してから一週間ほど経過しているとのことですが、かなりわかりにくいところだったので誰も気付かなかったようです」

「ふーん、そうか」

ここでも死体発見時の画像を見せてもらう。案の定、女性の死体の方は草や泥でかなり汚れていた。

「やはりこの草や泥は……」

「先の二件と同じ山の物だそうです」

「当然その山はもう調べてますよね?」

「はい。ですが、これといった手掛かりはまだ見つかっていません。……ただ、一つ気になることが」

「何でしょう?」

「付近の住民に聞き込みをした際、妙なことを聞きました。その山、正式にはユニコーン山という名称なのですが、地元の住民は別の呼び方をしているのです。……“屍山(しかばねやま)”と」

「なんでまた?」

「本来なら一時間もあれば頂上まで登れる程度の小さな山なのですが、個人の所有している山ではないせいでろくに管理されておらずすっかり荒れ果てていて人が立ち入ることは滅多にないようです。そのせいで、昔から『人知れず死体を捨てても誰にも気付かれない場所』と言い伝えられていて、大昔は死体がたくさん遺棄されていたとか」

「なんていうか……いかにもって感じの場所ですね」

「せやなぁ」

そして女性の死体をどけた後にはやはり謎の液体が残っていて、これも先の二件と同じ物だろうとのことだった。

「凶器の紐はどこにでも売っているロープですね」

おそらくこのショッピングセンターでも売っているだろう。凶器の出処はあまり重要な手掛かりにはならなさそうだ。

念の為にバックヤードも確認する。パソコンが載った業務机に従業員用のロッカーと空気清浄機、そして商品の在庫がたくさん置かれた普通のバックヤードだ。血液は机の隅の方の床に一滴落ちたような跡があった。確かにぱっと見ではわからない場所だった。


「犯行現場はそれぞれこのような感じですが、何かわかったことはありますか?」

ジャベリンに確認されるが、私は首を横に振るしかなかった。

「まだ何とも。ただ、検視の結果が間違っていないのなら、この星の科学では不可能に思えるなぁ。もし侵略者の仕業なら何らかの能力や独自の科学力で死体を操って事件を起こした可能性はあると思う。気になるんはどの現場にも残されていた謎の液体。そしてどの犯人とみられる方の死体も同じ山の草や泥で汚れとったこと」

「とりあえずその山に行ってみますか? 何か手掛かりがあるかもしれませんし」

「せやなぁ」

ORCAが既に調べたものを我々が調べたところで新しい発見があるかどうかは怪しいと思うが。

「……しっかし、この辺は虫が多いなぁ。どこに行っても虫がおるわ」

特にバッタのような虫が多い。まぁそこそこ自然の多い場所だから仕方がないのかもしれないが、虫嫌いのヘレナを連れて来ていたら大変だった。

「うちの妹は大の虫嫌いなのでもしこの街に来たら大変なことになりそうです」

ウェールズが苦笑しながら言う。虫嫌いな人はやはりたくさんいるものだ。

「これから向かう山ですが、そこに虫が多く生息しています。その山が近いせいでこの街にも虫がたくさんいるようです」

ジャベリンが補足してくれる。所轄のORCA隊員でもないのに詳しいのは、この事件の調査の為にまずこの街について調べたからだろうか。

ーーそんなことを考えた時だった。


「お姉さーん!」

山に向かおうとタイガーシャーク号を停めた場所へ歩き出した瞬間、少し離れたところから少女の可愛らしい声が聞こえてきた。

声のする方へ向いてみると、私が休日に利用している喫茶店“アリシア”の従業員、リシアがこちらに手を振りながら走ってくるところだった。

『喫茶店の嬢ちゃんじゃねえか。相変わらず元気なこった』

ブレイダーが久しぶりに発言した。あまりにも静かだから今回は話が難しくて寝てしまったのかと思った。

リシアの後ろから姉のアリアも追いかけるように走っている。二人とも大きな買い物袋を両手に持っているのによく走れるものだ。

「こんにちは。二人とも買い出しか?」

「うん、そうだよ。あ、お姉さん防衛軍の格好してる。じゃあ今日はお仕事? でも普段見かける防衛軍の人とは色が違うね。あれ、この前のORCAのお姉さんも一緒だ」

「うん、今日はORCAのお姉さんと一緒に仕事やねん」

「リシア、いきなり走り出したら危ないじゃない。それにお仕事の邪魔したらダメでしょう。……妹がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「かまへんかまへん。ちょうどええ息抜きや」

先日の喫茶店の事件以来、私とこの姉妹は気楽に話せる間柄になっていた。とはいえ普段店に行くときは私服なので仕事の格好をしているのを見られるのは初めてだ。

因みに防衛軍の服は基本的に深緑色だが、SHARKの服は濃い青色だ。あまり人前に出ることのない仕事なので一般の人が見ることは滅多にない。

「ORCAのお姉さんとどんなお仕事してるの?」

「不思議な事件の捜査やで」

詳しく説明するわけにもいかないのでかなりぼかした言い方になったが、素直なリシアはそれで納得したようだ。

「私もこの前お客さんから不思議なお話聞いたんだよ。もしかしたら関係あるかな」

「ちょっと、リシア」

「へえ、どんな話?」

さすがに関係ない話だろうとは思うが、正直あまりにも手掛かりが少なすぎるのでどんな話でも聞いておきたい。リシアを止めようとするアリアを片手で制して私は話を促した。

「えっとね。二週間前に学校からの帰りに行方不明になってた十七歳の女の子が少し前に帰って来たんだって。でもその時は体中泥だらけで、両親が病院へ連れて行こうとしてもどうしても嫌がって、それでこう言ったの。『お腹すいた。カレーが食べたい』って」

「ほう」

「仕方がないからカレー作って家族で晩ご飯食べて、その日はゆっくり寝かせて、次の日に落ち着いたら何があったのかお話を聞こうってなって。でもその女の子、次の日にお昼になっても起きてこないから様子を見たら、ベッドの上で死んじゃってたんだって」

「うわ、ホラーやなぁ」

「でしょー? しかもその女の子が死んだのって、行方不明になった二週間前ぐらいだったらしいよー。つまりつまり、その女の子は死んじゃった後に動いて家に帰ったってことなんだよー」

「ほんまに不思議やなぁ」

「これ、お姉さんたちのお仕事と関係あるかなぁ?」

「どうやろなぁ。因みにその女の子が死んだ原因はなんやったん?」

「なんか頭の後ろを何かで殴られてたらしいよ」

「……他殺か」

先程の三つの殺人事件も犯人とみられる死体は明らかに他殺だった。この四件に共通するのはこれだ。

さらに、三つの殺人事件だけならば『死体が殺人を犯した』という共通項でくくれるが、リシアが話してくれた一件を加えるとそれは『死体が自ら動いて行動を起こした』に変わる。つまり、死体は何者かに操られたわけではないということだ。

殺人事件はいずれも殺害された被害者による復讐。リシアが話してくれた一件は……まあそういうことだろう。

問題は、何故死体が一時的に生き返ったのか。

この星の科学ではおそらく不可能。では他所の星人の仕業か。

だとしたら、何の為にこんなことをしたのか。

いろいろ考え出せばキリがないが、私に思いつく中で最も妥当なのは……。

「ありがとう。なかなかおもろい話やったわ。ほな、またな」

「うん。またお店で待ってるね、お姉さん!」


アリシア姉妹と別れタイガーシャーク号に乗り込んだ私たちは、死体に付着していた草や泥があった山へと向かった。

「十七歳の女の子か……」

「なんや、それぐらいの歳の子がタイプなんか?」

「いえ、妹がいなくなった時もちょうどその歳だったもので」

ウェールズがつぶやいた言葉にからかうような口調で訊いてみると、ツッコミではなく神妙な答えが返ってきた。

「ウェールズの妹さんってさっき話してた? ……あ、もしかしてーー」

「ええ、三年前に。生きていれば二十歳になっているはずです」

「そっか、ごめん」

「気にしないでください。まだ完全に諦めたわけではありませんが、最悪の場合に備えて覚悟はできています」

あの時は多くの人が大事な家族や友人を失った。中には生死不明のまま今に至っている人もいる。その悲しみが癒えることはないが、それを乗り越えて今も何とか生きている。

もうあんな悲劇を繰り返してはいけない。あんな理不尽な思いはしたくない。


そのために防衛軍、そしてSHARKが結成された。


死体に付着していた草や泥がある山は、三件の事件現場からすぐ近くだった。歩いてもせいぜい十五分から三十分といったところだろう。おそらくリシアが話してくれた女の子の家も近いはずだ。

タイガーシャーク号を降りた私は積んであった機械の準備をする。目に見えない光線や気化した薬品などを検知する、こうしたフィールドワークでは御用達の検査機器だ。

「うーん、薄くてわかりづらいけど何かしらの薬品みたいなもんがこの山から街の方まで流れとるわ。短期間に妙な殺人事件が続いたんはこれが原因かもなぁ」

「どういうことですか、副隊長?」

「調べてみんと何とも言えんけど、たぶん人をイライラさせるような成分が入っとるんちゃうかな。そんで今まで特に悪くなかった関係がだんだんと悪ぅなった。事件にまで発展したんは今んとこ三件だけやけど、仲が悪くなった人たちは他にもあの街の中におるんやないかな」

「そんなことが可能なんですか?」

「少なくともこの星の科学では不可能や。そんな成分を含んだ薬品なんて聞いたことあらへん」

「我々も先程まであの街にいましたが、何ともありませんよ?」

「少量ずつ、ゆっくりと流してるんや。せやから少しの間滞在したぐらいでは何の変化も起こらん。それに薬品なら人によって効き具合も違うしな」

もしかしたらさらに原因となっているものがありそうなのだが、それは後で調べてもらえばいいだろう。

「しかしこの山、本当に誰も管理していないんですね。ろくに人が来ないせいで人が通りやすい所が全然ありません」

「それだけ死体を遺棄するにはうってつけの場所ってことやな。とはいえこんな麓からすぐの所に捨てる人はおらんやろうから、もっと奥まで行ってみよか」

獣すら通らないような非常に険しい道なき道を登っていく。高く生い茂った雑草や倒木に行く手を阻まれつつも私とウェールズはSHARKの装備を、ジャベリンはORCAの装備を駆使して何とか進んでいく。……いや、なんで犯罪捜査担当のORCA隊員が山登りの装備を持ってんねん。

「犯罪捜査を担当する前は“OSR”にいましたから。いついかなる時もこうした装備を身に着けておく習慣がまだ抜けていないんです」

私の表情から心の声を聞き取ったのか、ジャベリンが説明してくれた。

OSRとはOrca Super Rescueの略で、遭難や災害などの被害にあった人々を救助するORCA救急部隊の通称だ。ありとあらゆる危険な場所へと向かわなければいけないため、多くの試験を突破した者しか選ばれないエリート集団である。そこに所属していたということは、ジャベリンはORCAの中でも相当な有望株ということだろう。


しばらく山を登ったところで、高く伸びた雑草だけが広がる開けた場所に出た。まるで頂上のような景色だが、そこはまだ先のはずでここはせいぜい七合目といったところのはずだ。

こういう地形の山もないわけではないが、何か怪しい。

「二人とも、ちょっと下がっといて」

私はシャークガンを腰から抜き、実弾モードにセットすると辺り一面に乱射した。

地面や木の幹、山の斜面に弾が当たるなか、十発ほど撃ったところでバキンと金属製の物に当たる音がする。

すると、今まで雑草が生えているだけだった空間に一軒の建物が現れた。これは、研究所……だろうか。

「これは……MADの時と同じ……?」

「いや、あれは幻覚作用のある霧を使って存在する建物を隠しとるだけやったけど、これは違う。さっきこの建物があった場所を撃ったとき、弾は確かに向こう側の木や斜面に当たってた。たぶん、空間が歪められとる」

「空間を歪める……?」

「詳しく調べてみな確かなことはわからんけど、なんにせよこの星の科学力を上回ってることだけは確かや」

現れた建物を警戒しつつそんなことを話していたら、入り口のドアがゆっくりと開いた。中は薄暗くてよく見えない。が、人影がぼんやりと見えるので何者かが出てくるのだけはかろうじてわかった。


「随分と乱暴なお客さんね。空間歪曲装置を破壊して挨拶するなんて。どなたかしら?」

現れたのは歳若い少女だった。おそらくまだ未成年。……というか学生だ。学校の制服を着ている。随分と汚れていて洗わずにずっと着たままなのが窺える。

何者かと尋ねようとしたところで、先にウェールズが口を開いた。顔面蒼白で、震える唇で、掠れた声で、その名を呼んだ。


「……エリー?」

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