ぶっつけ本番の戦い
A
『明らかに人工的に作られたものですね……』
レーベの声が通信で聞こえてくる。確かに、自然にできた洞穴などではないだろう。また、こんな目立たないところに入口を作ってカムフラージュまでしてあるということは、何かしらのやましい理由があるということだ。調査をしなければいけない。
『これより中に潜入し調査を開始する。一機ずつ順番に行くぞ』
入口はソーシャーク号が余裕で、グレートホワイト号とハンマーヘッド号がなんとか通れるぐらいの大きさだ。四機が縦に並んで進んでいく。
やがて広い空間に出る。少し薄暗いが、先日のMADの開発施設のような随分と立派な設備が充実しているのはわかる。防衛軍にもこれぐらいの……ってそれはもういいか。
全員戦闘機から降りてシャークガンを構える。すると、私たち全員を強力なライトが照らしだした。
MADの時はこちらが急襲した為に向こうはてんやわんやしていたが、今回私たちは丁重に迎えてもらえるようだ。きっと外で怪獣と戦闘していたところからずっと見ていたのだろう。
「ようこそ! 防衛軍精鋭部隊SHARKの皆さん!」
よく通るバリトンボイスで迎えてくれたのは、白衣に身を包んだ星人だった。手ぶらに見えるが、どうせすぐに私たちを攻撃できる仕掛けがされているのだろう。
「お前は何者だ!? この施設は何の為のものだ!?」
隊長が星人にシャークガンを向けながら問いかける。星人は質問を想定していたようにスラスラと答えた。
「私はラーク星から来たテキラ。ここは私が生物兵器の研究・開発をしていた施設だ」
「生物兵器だと……まさか、怪獣を!?」
「この星には怪獣と呼ばれる珍しい巨大生物がたくさん生息しているからな。それを兵器として利用できるようにして、まず手始めにこの星を侵略し、それから他の星にも侵攻するつもりだった」
「だった? つまり、計画は中止したということか?」
「中止ではない。少し変更した。本当はこの火山のマグマで怪獣を強化するつもりだったのだが、もっといい方法があることに気が付いてね。最近はずっとその研究をしていた。そして研究が形になったので計画を実行する為に邪魔なあの鳥怪獣を外に放ったわけだ」
「……? わからん、いったい怪獣を手放して何をするつもりなんだ?」
研究開発に疎い隊長は理解できなかったようなので、私が説明する。
「隊長、簡単ですよ。怪獣を強化できてもその怪獣が言うことを聞かなかったら意味がない。この場合は怪獣を強化する研究と怪獣を自由に操る研究をしなければならないんです。でも、怪獣ではなく最初から言うことを聞く、というよりも操る必要がない存在を強化するなら研究する内容も時間も省くことができるわけです。そう、誰よりも研究内容とその用途を理解している、自分自身を」
「っ!?」
「ほう、そちらの女性は話が早い。その通り、自分自身を強化した方が効率がいいと判断してからはそちらの研究のみを行って、ついに研究結果をお見せするときがきたのだ!」
そう言って、テキラは両腕を上に向かって大きく広げた。
すると、その行動が引き金になっていたのか、テキラの足元が赤く輝きだし、下からエネルギーらしきものがテキラに向かって流れ始めた。
「奴の足元かこの周囲のマシンのどれかが奴を強化するものだ! ウェールズは奴の足元を、他は周囲のマシンを狙え! 全員、攻撃開始!!」
「「「「はっ!!」」」」
全員がシャークガンを撃ち放つ。隊長の指示に従い射撃の得意なウェールズが狙いにくいテキラの足元を狙う。――が、しかし……
「奴の足元は特に何らかの装置というわけではないようです! いくら撃ち込んでもエネルギーの流れが止まりません!」
「周囲のマシンにはプロテクトがかかっています! シャークガンの攻撃が当たりません!」
「チッ! 流石にそう簡単にはいかないか」
私たちの手持ちの武器はシャークガン以外だと折りたたみ式のナイフぐらいしかない。当然そんな物ではプロテクトのかかったマシンの破壊など不可能なので、これ以上の威力の攻撃をするとしたら各自の機体に戻るしかない。
「全員、戦闘機に戻れ! もっと高威力の攻撃でプロテクトを破る!」
「もう遅い! 既に私の準備は完了した! 私の研究成果をとくと見るがいい!!」
テキラがそう叫ぶと同時に身体がみるみる大きくなっていく。このままだとこの施設が倒壊して、私たちは生き埋めになってしまう。
「全員早く機体に戻れ! ここから脱出するぞ!!」
全員がそれぞれの戦闘機に戻り急いで脱出する。テキラの身体はどんどん大きくなって、火山の火口から上半身がほとんど出てしまっていた。
単純に大きくなっただけではない。先程までのサイズだと不健康そうにやせ細った身体をしていたが、今は筋骨隆々のガッシリとしたガタイに変化している。あれがきっと火山のマグマを利用した強化とやらの成果なのだろう。ぜひ論文にして提出してほしい。
「全員、攻撃開始! 奴をここからどこにも行かせるな!」
テキラは手始めにこの星を侵略すると言っていた。ここを出て近くの街を滅ぼし、そこから開始するのだろう。
『機関銃、発射!』
『レーザービーム、発射!』
『ミサイル、発射!』
「電気ショック、発射!」
ソーシャーク一号のレーベが、ソーシャーク二号のティーレが、グレートホワイト号の砲手であるウェールズが、そしてハンマーヘッド号の私がそれそれの攻撃を放ち、テキラに直撃し爆煙が起こる。どれか一つぐらいは有効打があってほしいが……。
煙が晴れていき、そこには無傷のテキラが立っていた。
向こうが反撃の拳を振るってくるのを全機避けつつ、もう一度攻撃を加えてみるが結果は変わらなかった。
それから私のハンマーヘッド号に搭載していた他の特殊武器、冷凍ガス弾や麻酔薬も撃ち込んでみたが、やはり効果はなかった。
『クソッ! なんて頑丈な身体だ!』
苛立ったティーレが悪態をつく。気持ちはわかる。これでノーダメージということは、私たちに打つ手はないということだ。
――そう、これまでの私たちであれば。
まだ手はある。しかし、それは最終テストをしていない、安全に作動するかどうかわからないものだ。もし失敗すればテキラを倒せないどころか、ここでヘレナ以外のSHARKメンバーが全滅することを意味する。
しかし、このままではこの星は侵略される。敵はブレイダーのエネルギー回復を待ってなんてくれないだろうから。
『ちくしょう、俺のエネルギーが回復してさえいれば……』
ブレイダーの悔しそうな声が聞こえてくる。大事な場面で戦えないのが余程悔しいのだろう。
……本当に、今回はタイミングが悪い。
「隊長! みんな! 悪いんやけど、私に命預けてくれへんか?」
『八神?』
『『『副隊長?』』』
「今回このハンマーヘッド号を作る際に、他の機体とも連動するようにそれぞれの機体に手を加えてんねん! 奴を倒す為にはこの機能を使うしかない! せやけどこれ、最終テストしてないねん! せやから安全は保証できひん! 失敗したら死ぬかもしれん! そんな感じなんやけど、頼むわ!!」
私は皆に見えもしないのに頭を下げる。これでダメだったら本当にもう打つ手なしだ。
『僕は副隊長に賭けてみたいです』
最初にそう返答したのはウェールズだった。
『自分も構いません。どのみちこのままじゃ負けて終わりですから』
『右に同じです』
レーベとティーレも賛同してくれる。
あとは隊長だけだが……。
『……』
『隊長……』
『『隊長!!』』
しばしの逡巡の後、隊長は口を開いた。
『八神、隊長として命ずる。その新機能とやらで奴を、ラーク星人のテキラを倒せ!』
何かあった場合でも全部自分の責任にしたがる、隊長らしい返答だった。
「はっ! 必ずや成功させてみせます!」
――みんな私に賭けてくれた。なら、後は私が応えるだけだ!!
「みんな、脱出レバーの横にもう一個レバーが増えてるやろ? そのレバーを前に倒して! それから私の指定した位置に移動して!」
みんなの機体のスイッチが入ったのをモニターで確認し、それから各自へ移動の指示を出す。
まず、ハンマーヘッド号を主軸として、後ろにグレートホワイト号、右にソーシャーク一号、左にソーシャーク二号のフォーメーションに並ぶ。
それぞれが所定の位置についたところで、私はハンマーヘッド号のオートプログラムを起動させた。
「オート・ディフォーメーション・コンバインプログラム、始動!!」
『『『『うぉっ!』』』』
みんないきなり機体が自動制御に切り替わったのでビックリしているが、こんなところで驚いてもらっては困る。凄いのはここからなのだから。
各自の機体がそれぞれに変形し始める。ソーシャーク一号は右腕に、ソーシャーク二号は左腕に、グレートホワイト号は下半身に、ハンマーヘッド号は上半身となり、各機体がハンマーヘッド号に接続していく。
最後にハンマーヘッド号のコクピット後部が開いてスペースが空き、各機体からそれぞれの操縦席が移動してきて空いたスペースに収まっていく。
完成したのは一機の人型ロボット、私の発明品の中でも間違いなく最高傑作だ。
「完成! シャークナイト!!」
これが私の、いや、SHARKの切り札。各機体バラバラの時には出せなかったパワー、そして瞬間火力が出せるのだ。
「シャークナイト……」
「「すげぇ……」」
「MADの事件の後、何を夢中になって作っているのかと思えば、こんな事を企んでいたとは……」
みんながそれぞれの感想を漏らしているが、今は戦闘中である。合体ロボに興奮するのは後にしてもらいたい。
「っしゃあ! 行くで!!」
シャークナイトを前進させて、テキラに向かっていく。対峙したテキラがこちらに殴りかかってきたので、その拳を弾いて逆にシャークナイトで殴りかかる……と言っても、腕の先はソーシャーク号の機首にあたる部分なので、拳ではなく真っ直ぐに伸びたブレードでの攻撃になる。
さらに、左腕も右腕と同じ作りになっているので、腕を交互に振るうことで左右のブレードでの連撃となる。
「ツインブレードストライク!!」
しっかりと考えておいた技名を叫んで攻撃する。そして、合体前は効かなかったこちらの攻撃が今度は確実に効いているように、テキラは数歩よろよろと後退し、攻撃を受けたところを押さえていた。
よし、パワーはこちらの方が上だ!
もういっちょ同じ攻撃をお見舞いしようと思ったら、今度は距離をとって隠し持っていた銃で攻撃してきた。接近戦は不利だと悟ったのだろう。
だがしかし! このシャークナイトは遠距離攻撃にも対応しているのだ!
まず両腕のブレードを収納する。そして胸部にあるハンマーヘッド号の機首から金槌部分を外し、右手に装備する。
しっかりと敵に狙いをつけて、レーザービームと機関銃を同時発射する。
「ハンマーヘッドキャノン、ファイア!!」
レーザービームと機関銃が全弾命中したテキラは相当なダメージを受けたようだ。ふらつきながら、こちらに背を向け逃走を図ろうと……いや違う。こちらが攻撃しづらくなる近くの街に行こうとしてるのか。
――だがそうはさせない!
猛スピードで回り込んでテキラの横から体当たりをする。テキラの身体はあっさりと吹っ飛んでしまった。
テキラがフラフラと起き上がろうとする間に、こちらはトドメを刺すべく準備する。
ハンマーヘッドキャノンにグレートホワイト号とハンマーヘッド号の尾翼を接続してシャークナイト最強の武器、シャークアローが完成する。
「さぁ、これ食らったらもう助からへんで。覚悟しいや」
シャークアローのトリガーを引き、シャークナイト最大の必殺技を放つ為にエネルギーを溜める。
「エネルギーチャージ完了。みんな、凄い反動がくるはずやからしっかり捕まっといて!」
みんなに注意を促して、必殺技を放つ。
「シャークナイト……ブレイカァァァァァァッ!!!!!!」
凄まじい轟音と共に放ったシャークナイトブレイカーは、チャージしたエネルギーを一気に放つ技だ。これまでのSHARKの兵器にはなかった、瞬間的に莫大な火力を出せる技なのである。
「……これで終わりなのか……」
これが、ラーク星人テキラの最後の言葉だった。
「終わったぁ」
なんとか無事にミッション完了である。ぶっつけ本番だったシャークナイトへの合体と戦闘が成功してくれて本当に助かった。
「副隊長、流石です! 僕、感動しました!」
ウェールズが大袈裟に叫ぶ。
「「シャークナイト、新しい俺たちの力か」」
レーベとティーレが感慨深いとばかりに呟く。
「さて、後はあの施設をじっくりと再調査して……」
勝利の余韻に浸る間もなくこの後の段取りを組んでいる隊長は流石だと思う。
『なぁ、あおい。ちょっと確認したいんだが……』
「なんや、ブレイダー」
話しかけてきたブレイダーが非常に気まずそうなので、内容がとても気になるところだ。
『確かSHARKのKはKnightsだって前に言ってたよな』
「せやな。それがどうかしたん?」
『シャークナイトって、ナイトが被ってないか?』
「あんた、それ今聞くようなことか?」
せっかく勝利の喜びを噛み締めているのだから、水を差さないでもらいたいものである。
「名前なんてな、響きが格好良ければなんでもええねん」




