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プロローグ

 数日前、世界は闇に覆われてしまった。人界であるこの世界と魔界とを繋ぐ果てしなく分厚い結界が崩壊したためであった。


「——よって、世界中を脅威に晒すであろう魔王及びその手下共を撲滅させてほしい。 頼めるな、偉大なる騎士団(ナイツ=グレイト)——」


 世界随一の力を持つバスタリア王国の王は七人の騎士に向かい命令をした。


 それに対して膝をつき忠誠を誓う団長が決意の固まった険しい顔で答えを紡ぐ。


「お任せください。 我らが世のため、その命を必ず果たして見せましょうぞ」


 こうして俺の所属する偉大なる騎士団は魔王討伐の大任を果たすため行動を起こした。






 あれから少しばかりの時が流れ、偉大なる騎士団は魔王の手下共と交戦を繰り広げていた。


「ふ、人界の民がこれほどまでやるとは……な。 魔王様に仕える最高位大四魔人の一人エレジガルドも本気を出さざるをえないようだな」


 残すは相当な魔力を秘めている魔人一人だった。


「……マジかよ。 これで魔王じゃないって」


 しかし、俺はそう呟いてしまっていた。人に似た姿をしていたエレジガルドという魔人は今や討伐困難とされるドラゴンと類似するものになっていた。


 あれを従える魔王という存在は一体どれほど強いというのか。


「ケイン、余計なことは考えるな。 目の前の敵だけに意識を向けろ」

「わかってます、団長」


 大剣を軽々と振り回し多くの敵を薙ぎ払ってきた団長と俺。この場にはその他の団員はいなかった。


 策士、エレジガルドが騎士団を分散させるように指揮を取っていたのだろう。


「みんなが来るまで何とか持ち堪え……」


 俺はエレジガルドを見据えながら団長に軽く耳打ちをしていたが、途中から声が出なくなっていた。


「ケイン! 上だ!!」


 消えたのだ。ドラゴンと同等の大きさを持つ肉体が一瞬で。


「……っ!?」


 頭が理解するまで時間がかかり、団長の言葉を自分のものにするまで少しのラグが発生してしまった。


 頭上より隕石の如く落ちてきたエレジガルド。俺は寸前で回避行動をしたものの右腕に凄まじい衝撃が走った。


「大丈夫かケイン!! ……なっ」


 無事に攻撃を回避した団長は俺の元に駆け寄ってきた。そして、俺の右腕を見て言葉を失う。


「大丈夫……です。 団長、少しの油断が命取りです。 心配は無用です」

「ああ、だが死ぬなよ」


 口ではそう言ったが膝より先が形状を変えている事実に何かを吐き出してしまいそうになる。


 ……無理だ。無理な話じゃないか。あれが魔王ならまだわかる。魔王はあれよりも強いのか?


 バカバカしい、俺は偉大なる騎士団の一人だぞ。


 どんな大国に対してもたった七人でそれを圧倒する偉大なる騎士団。バスタリア王国に住う民はこの騎士団があってこそ平和を謳歌することが出来ている。


 誰も騎士団が敗北する姿など想像したことはないだろう。主君が王も。


「あああ!!」

「ケイン!?」


 俺は飛び込んだ。未だに動こうとはしないエレジガルドに刃を突き立てるために。


 俺の剣の矛先が寸で届く所まで来た時、エレジガルドがその図体をあり得ないほど速く動かし再び空高く飛び立とうとする。


「逃すか」


 何度も言うが俺は偉大なる騎士団の一人だ。反撃すべき技ぐらい持ち合わせている。


「ウィンド! ファイアバースト!」


 二つの魔法を掛け合わせた俺の技。俺は飛んで体を捻ると同時に風魔法を使い物凄い速さで回転する。回転力が十分高まったその時、火炎爆発魔法で自分でも把握できないほどのスピードで空高々と打ち上げられる。


 剣の矛先は回転し、それを炎の風が纏っている。


「貫け!」


 その攻撃は目に見えない速さを持つエレジガルドを見事に捉えてその胸部に衝突する。


「ああああぁぁぁ!!!」


 これでどんな城も魔物も貫いてきた。俺が持てる最高の技だ。


 回転は少しずつ弱まり、纏っていた炎の風が消えていく。


「……中々やるではないか」

「……!?」


 貫けばその後見える景色は雲一つない空。だが視界にはどうしてもエレジガルドが存在していた。


「褒美をやろう」


 直後俺は地に叩きつけられた。長城を思わせる強固な鱗を装備した尾によって。


 言葉にならない激痛がこの身を走る。まだ意識があるのが不思議なくらいの激痛だ。


 目を確かに開けているにも関わらずエレジガルドが無数に分裂して見えてしまう中で俺は溢す。


「………これが、運命の時代」


 人の力では抗えない終焉がやってくる。それがこの世界の運命。


「……ここまでか。 頑張ればどうにかなると思ったんだけどな」


 俺はその運命をこの世界に生まれ落ちる前から知っていた。そしてその運命に抗える術も。






 異世界転生。ひょんなことで命を落としてしまった俺はその事象と同じものを体験した。


 どこが上でどこが下なのか何が何だかわからない空間にいた俺にある映像のようなものが流れ込んできた。


 それが転生先の運命とそれに抗うための術だと理解するまで大した時間は必要なかった。


 だが、俺は乗り気にはなれなかった。誰に指図されるわけでもなく、何処とも知らない世界の運命を押し付けられたのだ。


 それに抗うための術が本当にどうしようもなく———






 俺はこんな窮地でのうのうと考えに耽っていたことに気づく。こうしてはいられないと重く痛む身体を持ち上げて立ち上がる。


 しかし、それからの一歩を踏み出すことが出来なかった。


「くそ、限界か……」


 多くの汗を垂れ流しエレジガルドの攻撃を確かに凌いでいた団長は大剣を手放した。あの団長が時間稼ぎすらロクにすることが出来ない。


「……ん? なんだまだ生きていたのか」

「け、ケイン!? もう退け!!」

「……馬鹿な人界の民め」


 心配は無用だと言ったじゃないか団長。


「しまっ!?」


 団長は一瞬エレジガルドから意識を逸らしてしまった。それは当然命取りとなる行動だった。


 エレジガルドの攻撃をもろに受けて団長は膝をつき、血反吐で地面を赤く染める。


「……まだだ」


 それでも団長は立ち上がった。他の団員が倒せるはずもないとわかっていながらも。


 それからも何度もエレジガルドの攻撃を凌ぐ。しかし、その都度少しづつ体勢が低くなっていく。


「楽しませてくれるではないか。最後に名を聞いてやろう」

「………」


 エレジガルドの猛攻が止まり、団長は再び膝をついてしまう。


 すでに何も喋ることが出来ないほどに疲弊していた。


「惜しい。その名を語れるほどであれば、このエレジガルドの記憶にも残るというのに」

偉大なる騎士団(ナイツ=グレイト)……団長……グラファ・エンテセシス……」

「……冷める。お前などには聞いておらん」


 俺は団長の横に立ちその名を口にした。バスタリア王国の最強の騎士の名を。


「貴方は俺の憧れだ」


 心の底からそう思う。異世界転生をしてから二十年。誰よりも強くなるべく地獄を耐えてきた。


 それでも追いつかなかった団員の皆、そして団長。


 俺は誇りに思う。この運命を知らず、ただ民を守るためだけにこれほどまでの力を得たのだから。俺とは比べものにならないほど地獄を見たに決まっている。



「だから、本当にすまない———」

「……ケイ……ン———」



 俺は左手に持った剣を団長の背中から胸を貫通するように突き刺した。


「……!? お前は何をしている……仲間ではないのか?」

「………」


 この運命に抗える術。



 それは俺だけのユニークスキル同胞喰いだ。

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