031 異世界で衣食住を極めたいので素材を採取しよう! その4
ゴーレムの居た部屋は縦横30メートル位の正方形で、壁面に5メートル角位の凹みがズラリ並んでいた。どうやらあのゴーレムはここに配置されていたようだ。
天井にも2ヶ所窪みがあり、そこから銅色のゴーレムが降ってきたようだな。
そして中央には1メートル角の祭壇があり、壁の1面にドアがある。アダマンタイトゴーレムはここに立っていたと推測。誰かがあのドアから入ってきてアダマンタイトゴーレムを見つけ、寄ってきた所で周囲からミスリルゴーレムが襲いかかるシステムかな?
更にそこのドアにはドアノブ等の開ける装置が無い。どうやって開けるのだろうか?
とりあえずドアの一部を再構築と作製で変化させノブを作り、開けてみる。
「何かいるかな?」
ドアから頭をひょいと出した途端、真っ赤な炎に襲われた。
「うわぁぁぁ…っと、あー炎に耐性あったんだったわ。びっくりしたなぁ。」
身体にはダメージ無しだが心に若干のダメージを受けたよ。帰ったらユリに慰めてもらおう。その前にキッチンやお風呂作って喜んで貰えたら慰め効果に補正が掛かるかもしれないな。よし、頑張ろう。
"マスター!巫山戯る暇無いですよ!接敵!来ます!"
見ると3つ首で4つ足の大きな犬のような生き物が!な、なんじゃこりゃ?
(ケルベロス 希少度:希少級
地獄の門番と異名を持つ高レベルモンスター。それぞれの頭部が意思を持つ。動きが素早く、業火を操る事が出来る。地獄の門番と言われるが実際地獄を護っている訳ではなく、見た相手を必ず死に追い込むと言われる程の凶悪さから『地獄の門を通過させる為にある存在』としての比喩である。)
うそーん。またもメジャーモンスター。とりあえず部屋に戻ろう。
部屋に戻ったけどドアノブが無いということはストライカーもない。どうやらこのドアは部屋の外からは入り放題なドアの様だ。当然ケルベロスも部屋に入って来る。そりゃそうか。
まあ今のボディなら倒せるかもしれない。先手必勝だ!ぼくはまず右側に向かって走り、ケルベロスが反応して飛び掛って来ようとした瞬間に瞬歩で左側に移動して左側のケルベロスの頭を殴り付ける。
「ぐばぁっ!」
左頭が吹き飛んだ。多分倒せたと思う。傍から見ればドラゴンメタルボディにモノを言わせた攻撃に見えるだろうな。でも攻撃と防御は基本攻撃側に決定権があるとぼくは思っている。右側に回り込む事で相手はそちらに反応し、自分の間合いにする為に行動するだろう。しかし、あくまで攻撃はぼくの意思だ。相手が動き出した瞬間に違う場所に行けば、もう相手はそちらに反応出来ない。動き出してしまえば死に体なのだ。無防備な部分にリスクなく攻撃を仕掛ける。
ドラゴンボディだけじゃ無いんだよ。頭も使ってますから。
でも、死に体になったのはお互い様だった様だ。
ケルベロスの頭部を爆砕させた直後、突然ぼくの左肩がもぎ取られた。ケルベロスの別の頭部から攻撃を受けたのだ。攻撃後の無防備な所を狙われた。只じゃやられてくれない。流石は異形の雄と言う所。
何とか腕は繋がっているがもう使い物にはならないな。痛みは凄いが慣れとは恐ろしいもので知っている痛みなら対して行動に影響する事は無い。何事も経験ですね。
肩自体は無くなってしまったので錬金による復元は出来ないが、血を止めたり痛みを遮断したりして対応はした。
しかしこのまま戦闘を続行したらまた同じ様にダメージを負ってしまうだろうな。考えてみれば3対1のハンデキャップマッチだったんだ。次の接触で頭を1つ潰しても、もう1つでカウンターを受けてしまうかも知れないし、それが致命的なダメージになってしまうかも知れない。
ふう、落ち着け。
あくまで攻撃。攻撃こそが最大の防御なんだ。ぼくは再度右側に回り込む。ケルベロスは反応するが掛かって来ない。これが先程のゴーレムとは違う熟達した経験と言うやつだ。でも…
ぼくは一気に近付く。そして上段からの攻撃を仕掛ける…と見せ掛けるため、右側のケルベロヘッドの耳辺りを凝視しながら飛び上がる動作をする。ケルベロヘッド右はぼくを迎え撃つため大きく威嚇する様に口を開け牙を剥く。センターケルベロはぼくの次手を読み対応する為か気配を消す様に静かに構えている。
瞬歩を利用してケルベロヘッド右の更に右下に移動、そこから開かれた口の中に潰れた左腕を突っ込み舌を握る。視界の谷間からの攻撃。ケルベロヘッドには見えなかっただろうな。
「ギャニン!」
ケルベロヘッド右が悲鳴を上げて口を閉じる。その牙を利用してぼくは自分の左腕を切断、瞬歩でセンターケルベロの左上方に移動して、前宙からの踵落とし!
ガパンッ!
割れるような音がしてセンターケルベロの頭蓋骨が砕け散る。目が飛び出し鼻から白い液体を飛び散らかせながらセンターケルベロは沈黙した。
右ヘッドからの反撃は無い。
複数の相手と対峙しても、そのシチュエーションを1対1にする為の手段を尽くす。その為の左腕。
そのまま右ヘッドの後頭部に飛び付き、残ったぼくの右手の指を強く尖らせ首筋に突き刺す。
「ゥガワウッ、ガフッ、ガフ」
右ヘッドが嫌々をする様に首を振りながら何かを言おうとしている。しかし口を開けない。ぼくの残した左手は右ヘッドの口の中で舌を握り潰しながら硬直している筈だ。
ぼくは何度も首筋に手刀を突き刺した。硬い指先が何度も突き刺さる。次第にケルベロスの胴体が前傾していき、遂に地に伏せた。
(主よ、貴方の前の世界での職業はバトルマスターか何かだったのか?何なのだあの戦い方は?鬼か?使用不能な左腕すら攻撃手段にするとかちょっとヤバすぎるのではないか?前世が鬼だったのか?)
ふっふっふ、先生、ぼくは只のオタクのサラリーマンだよ。流石に前の身体ではこんなことは出来なかったよ。でもね、今なら出来るんだ。あくまでぼくが持ってる理論を実践しただけだよ。それが出来る身体があるからね。
(その理論とは?)
サッカーやバスケットのフェイント技術に関する知識、3方からの包囲を各個撃破で倒す知識、犬の舌は口の筋肉に連動している為弱点であると言う知識、踵や手刀はかなりの強度や硬さを持っていると言う知識…
ぼくは声に出して先生に答えた。
「究極理論、名付けて『マンガケンポー』だ!!」
次回は妻目線です。




