229 異世界にヒーローを爆誕させよう! その4
趣味回その2です。
「戦鬼ヴェアリスじゃなくて、異世界戦鬼ヴェアリスですから。」
「ぐぅぅ…それ今いるのか?…」
「重要です!」
「わ、分かった…ヴェアリスよ。我にはもう時間が…無い…頼む…我を倒せ……これ以上…主の名を…汚したく無い……」
赤虎は異世界戦鬼の部分を略してしまった。ちくしょう。しかし主か…赤虎ってもしかしたら…
「言われずともそうしましょう。あなたの身体は既に呪いと魔素で構成されていますね。こうなると解呪も出来ない。」
「わ…分かっているじゃないか…頼んだぞ……」
赤虎の目から光が消え、ただ吠えるだけの獣となった。
「グワアアッ!!!」
赤虎は残った腕を振り回して攻撃して来る。8メートルある巨体から繰り出されるパンチはかなり強力だ!
クロスアームで防御!
受け止めるぼくの腕が軋む。踏ん張る足元が崩れて床がひび割れた。
ぼくの体力値は10,000を超えてるのにかなり堪えるなぁ。赤虎のパワーは中々だ。
「とう!」
振りかぶるパンチに掌底を当てて逸らし、バランスを崩したボディにパンチを入れる。赤虎の身体がくの字に曲がり前屈みになった所で飛び膝蹴りを顎に入れた。
後ろに跳ね飛ぶ赤虎。それでも耐える。
「グオオオッ!」
赤虎のタックル。肩で受け止めるが流石の巨体にぼくは跳ね飛ばされた。
跳ね飛ばされた先はビルの開口部。危ない!
「くっ!まだだ!」
ぼくは収納から空間に石材を取り出した。それを腕でアッパー気味に殴り付け床に着地した。
空は飛べるけど今スキル発動するととんでもない威力になりそう。こういうピンチを想定した訓練もしなきゃならないな。
赤虎は間髪入れずに向かって来る。慢心は無い様だ。確実にぼくの息の根を止めに来てる。
「負けるか!とう!」
向かって来る赤虎をジャンピング回し蹴りで迎撃した。赤虎の頭部が吹き飛ぶ!着地した所で足にローキックを放つ。
赤虎の脚が砕けた。それでも倒れない!流石だ!
しかし勢いは殺した。ぼくは赤虎の腕を掴み自分の方に思い切り引っ張る。その勢いを利用し腹に蹴りを入れて空中に飛ばし、瞬歩を利用して上空に移動、両腕を振り上げて下に打ち下ろす。落ちて行く赤虎を再度瞬歩で追い抜き下から掌底で腹を打つ!
よし!瞬歩は上手く使えた。流石の赤虎もよろめき蹲った。
「今だ!とうっ!」
ぼくは空高く飛び上がり、飛行で空中に身体を固定、飛び蹴りの体勢を取る。腕を身体の前でクロスして溜め、一気に腕を拡げる事で推進力に変える。
「必殺!ヴェアリスクラーーーッシュ!!」
身体から金色のエネルギーが溢れ出し、脚の魔石に集まる。空を切り裂いた所が虹色のラインで染まる。脚が黄金色に染まり炎の様に燃え上がる!!
赤虎は立ち上がり、胸を張った。その大きな身体の胸板をぼくの脚が貫く!
「グアアアアアアアァァァッッ!!!……み、見事なり!」
スライディングの様な姿勢で着地。立ち上がり赤虎を見た。
赤虎の胸に穴が空き、そこからバキバキとヒビが入り始める。朽ち始めた身体から黒いモヤが立ち上り霧散して行く。ぼくを見据える目には再度感情が読み取れる。
意識が戻った様だ。
「ヴェアリスよ…」
ぼくは答える。
「ヒーロです。この姿は戦う姿。ぼくの名前はヒーロです。あなたの主、ユウジロウと同じ日本から来た異世界人です。」
赤虎は驚いた様な顔をしてぼくを見た。でもすぐに顔から訝を消し、晴れやかな顔になった。
「我を呪いから解放してくれた事に感謝する。むぅ、貴様から我が同志の魂を感じる。そうか、同志達は貴様を認めたのか。偉大なる戦士ヒーロよ、我も貴様を認めよう。これを以て貴様との戦いに応える。」
赤虎は口から黄色い玉を取り出しぼくにひょいと投げつけた。
「あなたの同志も立派な方でしたよ。彼の仲間の1人は人化してぼくの妻になりましたけどね。」
「ふふふ、流石は主の同郷者、ぶっ飛んでいるであるな…だが!」
赤虎はヒビが入りボロボロになった身体にグッと力を入れた。
「我は主の剣!誰にも害されん!我を打ち負かしたのはヴェアリスだが、我は誰にも害されん!!」
そのまま後ろに向かって後退って行く。
「ヒーロ…いや、ヴェアリスよ!さらばだ!主様、さらばです。勇者様に栄光あれーーっ!!」
赤虎はそのままビルから仰向けに飛び降りた。
ドガアアアァァァン!!
落ちた所から火柱が上がる。それは勇者ユウジロウの右腕として生き、数奇な運命に翻弄されながらも最後に誇りを取り戻した猛将赤虎の最後だった。
「強敵だった…ぼくは君との戦いを忘れない…」
ぼくは立ち上る煙を見つめ、そう心に誓った。
「ヒロくんいつまで黄昏てるのよもう。ほんと好きなんだからぁ。」
「ヒーロさんカッコイイですよ。流石私達の旦那様ですね!」
「ヒーロは強いのぅ!堪らんのぅ!キュンキュンくるのじゃ!」
ああ、台無しだ…
ぼくは元の姿に戻り服を着る。
そして振り向くと、みんな部屋にいた。あの兵士さんもツノ男もいるな。
「みんな、いつから居たの?」
「この男がビンタされて5回転を決めた所から居たわよ。」
最初からじゃん!
「ユーリが面白そうだから隠れて見てようって言ったんです。」
「面白かったわよ。」
「笑ってくれよ。厨二魂溢れる君の旦那を笑いものにしてくれよ。そして殺してくれぇ。」
さ、流石に恥ずかしい。
「いやいやヒーロよ、戦いっぷりは凄まじかったのじゃよ。ぶえありすとか言うネーミングセンスはよく分からんがの。何故ヒーロじゃいかんのかの?」
「ヴェアリスだし!気分だよ。変身ってカッコイイじゃん。フラウだってフェンリル形態と人形態あるじゃん。変身したらやっぱりヒーローネームで呼んで欲しいし。」
「妾は人型で強くなりたいからヒーロの戦い方は好きじゃ。」
そっか、フラウはあのヌンチャクを使って戦うつもりなんだったね。
「蹴りが凄かったですね。でも何故ヒーロさんは武器を使わないのですか?そう言えば普段から剣とか槍はおろか、盾すら持たないですよね。」
チュールはぼくのバトルスタイルに疑問がある様だ。
「んー、他の人の考えは尊重するけど、ぼくはあんまり剣や槍が好きじゃないんだよね。棍棒とか鎌とかマイナー武器って素敵じゃん。」
全ては浪漫。ぼく異世界最強装備はスコップとバールだと思ってる。剣とかはベタなんだよ。
「あの赤い虎は勇者のテイムモンスターなんですってね。もちゃちゃんに聞いたわ。」
ユリが聞いてくる。
「そんな口振りだったから聞いてみたらそうだって言ってたよ。色々気になる事も言ってたから調べてみないとなぁ。」
「何言ってたの?」
「赤虎の口振りは、勇者がまだ生きてる様な感じだったんだよ。死の間際にもさらばだって言ってた。彼ならお傍に参りますとか言いそうだったからね。気になった。」
「なるほどね。」
今考えても仕方が無いんだけどね。うーん、勇者が生きているとしたらきっと…いやいや、今考えない様にしよう。今は帝国の問題を解決する方が先だ。
もちゃがぼくの所にやって来て膝を着く。
「主、我が腑甲斐無いばかりにお手間を取らせたにゃ。どんな罰でも受けるにゃ。」
「まさか!罰なんて無いよ。良く頑張ったね。お疲れ様。」
もちゃの頭をポンポンして労った。
「しかし主、あの戦う前の口上と舞踏は何ですかにゃ?あれは何だか魂が揺さぶられたにゃ!」
おっ!もちゃ分かってるじゃん!
「あれはね、天に召した女性と地に眠る親友、そして助けを求める人の声に応えた1人の男が発した魂の叫びなんだよ。ポーズはね、ぼくが考えたんだけど、直線的な動きを交差させたり手を前に出したり顔に近付ける事で相手の視野を動かし強い威圧を放つ方法で、見栄って言うんだ。見栄を切るとカッコイイんだよ。」
「なるほど、勉強になりますな!」
何故か帝国の兵隊さんが釣れた!ぼくともちゃと兵隊さんだけが盛り上がり、女性陣からは生暖かい物が発せられているが無視だ。
浪漫だからね!
やっとヒーロが改造人間っぽく戦えました。チャンスがあったらまたやりたいです。興味の無い方は
…嫁ズと一緒に生暖かい目で見てやって下さい。
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