021 異世界で食料を手に入れよう! その1
門から出て真っ直ぐ谷間に向かって歩く。7、8分くらいの所で予想通り川に着いた。塔から見たら谷間の様に見えたけど、実際は川幅4メートル位の小川だ。川の周囲は少しだけ木々が無く、緩やかなカーブを描いていて所謂河川敷の様になっている。増水したらここも水に浸かるんだろうなと予想した。
「木が高いから谷間に見えたけど、着いてみたら普通の川だわね。」
「そだね。水も綺麗だし沸かせば飲料水になるだろうな。」
「ねえ、ヒロくん川の釣り好きだったじゃない。何とかならないの?」
奥さんがお魚を所望されておられる。やってみるかな。
「分かった。なんか道具でも作ってみるよ。」
川幅4メートルなら延べ竿で充分だ。その辺に生えてる葦の様な草木を数本取り、錬金でひとつに纏めて圧縮精製してみた。長さ2.5メートル、振り回すといい感じでしなる。
「いいね。少し胴が柔らかいからここだけ強くしよう。」
竿の中央部分に追加の葦を錬金で合成、太さを揃えてみたらいい感じの先調子な竿が出来た。
次はラインだな。これは先程のドラゴン鱗溶かしが利用出来そうだ。
普段使い様に数枚寄り分けていたドラゴンの鱗を1枚出して粘土状に溶かし、紡いで0.5ミリ程の太さの糸にしていく。ドラゴンの鱗みたいな強度があるものから作った糸なら切れたり捻れたりしにくいだろうし、なにせ素材がこれしかない。
ついでに針も鱗で作った。竿の胴やグリップにも鱗糸を巻き付けてみた。渋い焦茶のボディに赤黒い鱗糸がポイントになってなかなかカッコイイデザインに仕上がったよ。
毛針を作ってみたい。その辺りに鳥の羽根とか落ちてないかな?フライや毛針のタイイングに興味はあったけどやった事はない。良い機会だからやってみよう。
チラッと見た所いい素材は無さそうだ。仕方が無いから鱗で作ろう。鱗を溶かして掌で薄く潰す様に錬成したら手の皺が転写されて虫の羽根みたいになったので、カゲロウの様な毛針を作った。針の胴体に鱗製の糸を巻いて羽根を固定、なんとドラゴン鱗100%の毛針が完成した。
「ユリ、出来たよ」
彼女に竿を渡す。
「えっ?ヒロくんが釣るんでしょ?」
「折角の異世界フィッシングなんだから楽しもうよ。釣具を作ったんだから後は釣って貰えたら道具として100点でしょ。」
「んーわかったやってみます。どうやるの?」
「水がザーッと流れてる所に虫が落ちちゃって溺れてしまうのを狙う魚、ってのを想定して釣ってみよう。あの岩の流れがある所の上辺りを狙って針を飛ばしてみて。」
向こう岸に近い辺りにいい感じな岩が飛び出てる所があるからそこを狙ってもらう。
「少し振りかぶって鞭を打つように竿をしならせながら振ったら綺麗に飛ぶよ。」
ユリは少し及び腰になりながらも竿を振る。ピュっといい音がして糸が弧を描きながら飛んでいき、毛針が静かに着水した。
「おっ、うまい!」
ほぼ予定通りに飛んだ。ユリに釣りの才能が有るのかも知れない。ま、まさか釣りスキルが有るのかも??
(主、いい加減自分の能力を理解して欲しい。主の作った竿からラインから毛針に至るまで全て秘宝級の完成度。釣りの腕から取り込みまで全てに於いて補正が掛かっている)
えーなんだつまらん。
(つまらんじゃない!阿呆か!古龍製の釣り道具なんかあってたまるか!)
"先生、言っても無駄です労力が惜しいです。この人バカなんですから"
やばいまた涙が出て来た。
「あっ」
ユリが叫んだ。どうやら何かヒットしたらしい。見るとまるで目をバッテンにした様な表情のユリが物凄くしなった竿を引っ張っている。
「ユリ大丈夫か?」
「うーん最初は物凄く引いたからびっくりしたけど、今はただ重いだけになっちゃった。」
「釣り上げれそうかい?」
「最後に引っ張り上げるのは無理かな〜」
「わかった。取り込みはぼくがやるよ。」
ラインは3メートル位しかないからすぐに上がって来るだろう。水面をよく見たら魚の様なものがユラユラ引っ張られて来ているのが見える。
水が綺麗だからかな?良く見える。
あれ?
これは…
ダバッと水面に上がった魚。地球で言うイワナやカワウオの様な形だ。所謂鱒というやつね。ただ…
「なんじゃこりゃデカすぎるだろ!」
その魚の体長なんと2メートル超え!こりゃイトウだよ。いや色は白っぽいからイトウでは無さそうだけど、とにかく大きい。
因みにイトウは全身に斑模様があり、婚姻色は真っ赤になる。
こんなものどこに居たんだよ。
「ヒロく〜ん」
「あ、はいはい取り込むね。」
エラに手を掛けて引き上げる。口や頭にウニみたいな棘のある姿。沢山突き出ているけど何の為の棘なんだろう?
そう思ってラインを握った途端、棘が引っ込み口元に向かって縮んでいく。そして残ったのはあの毛針。
こ、これはいかん。これは釣具じゃないぞ武器だ。多分この毛針は魚に喰われた瞬間攻撃を仕掛けたんだ。頭の中にあれだけの棘が刺されば当然ながら瞬殺。活け締めだ。
「ひ、ヒロく〜ん」
今度はなんだ?
「どうしたの?」
「わたし、なんかレベルが上がったみたい…」




