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202 異世界で初めての引越しをしよう! その2

「なんか潰れた家から声がしたわ!お化け!?」


「そうね、こんな所から出て来る声なんてお化けに決まってます!」


「燃やすのじゃ!!」


 いやいやいや!確認しようよ!


「待て待て待て!生きてるぞ!燃やすんじゃないよ全く!」


 でっかい声がした。目の前の潰れた家の玄関にあった飛び石がいきなり開いたと思ったらそこからやけに下唇の分厚い男が出て来た。怒ってる様だな。腰に手を当ててぷんすかしてる。


 まあ気持ちは分かるけどさ。


「大きな声出さない方がいいんじゃ無かったですかね?」


「うっ!そうだった!あんたら、静かにしろ!そして燃やすなよ!」


 男は急に低い姿勢になりキョロキョロしながら口に指を当てしーってやった。


 何だかアクションのでかい人だな。コントみたい。


『おいっすー!(おーっす!)

 返事が小さいぞ!もう一度元気良くー、

 おいっすーーー!(おーーーっす!)

 静かにしろーここは戦場だーー!』ってやつ。土曜八時の国民的番組。


「なんだ?お前今なんか変な事考えただろ?」


「怒っちゃやーよ!」


 ユリが肘を前に突き出して逆水平チョップみたいなポーズをした。


 どうやらユリも同じ印象を持ったみたいだな。


「怒っては無いが、魔物が来たら面倒だから厳しく行くから。お前さん達は何者だい?」


「ぼく達は旅の者ですが、妻が身重で何処かへ定住しようと思っているのです。森を抜けたらこの集落が見えたので寄ってみたんですが…」


 ぼくは周囲を見渡す。


「一体何があったんですか?」


 男は悲しそうに肩を落とし話し始める。いちいちリアクションでかいな。


「いやね、数ヶ月前位から村に魔物が押し寄せて来る様になったんだよ。以前は遠巻きにゴブリンが数体見つかる位だったんだけどよ。昨日は40体位来た!村の人口より多いよ。死んじゃうから!」


「んで、どうして家が潰れてるの?」


「潰れた家には来ない事が分かったから潰した。まあ一部屋だけ潰さずにそこで生活してる。他のとこもそうじゃないかな?」


 まじか!凄い前向きな受け身!


 ん?フラウがぼくに向かっておいでおいでしてる。


「どうしたの?」


「この村に小鬼が湧くのはヒーロのせいじゃぞ。」


「な、なんでよ?」


「黒龍様が死んだからじゃ。黒龍様が魔物に人を襲わない様に指示しとったから小鬼は大人しかったんじゃろうの。」


 そういう事か。あの古龍は勇者の願いを聞き入れてたんだっけ。パイも幼いのに勇者の約定を知ってたもんね。


 でもさ、それならぼくらも襲わなかったら良かったのに!やっぱ龍は理不尽な存在なんだろうな。


 申し訳ないからちょっと手を貸しとこう。


「あのーチョーさん。」


「チョーさんって誰だよ!俺はチョーさんじゃないぞ!」


「あのですね、ぼく達はそれなりに強い冒険者なんですよ。出来る限りお手伝いして村を復興させたいと思ったんで、村の代表者を紹介して頂けないでしょうか?」


「お前達が?強い?冒険者?あーっはっは!いやーなかなか面白い冗談だな!はっはっは!」


 チョーさんは下唇を震わせながら笑う。


「いやいやいや、お前全然強そうじゃないし、女の子ばっかりだし、猫連れてるし、ね、猫!?なんで猫が居るんだ!?」


 今かい!まああんまり強そうには見えないのは理解するけどさ。


「じゃあ強さが証明出来たら紹介してくださいよ。」


「あー分かった分かった、あー面白かった。はいはい、んで、どうやって証明するんだ?」


「ヒーロさん、手っ取り早く魔物退治しましょう。早くしないと夜になります。」


 お昼ご飯食べてから1時間位経ったかな?もう15時位になるか。


「そうだね、ユリ、魔物寄せよろしく。」


「はいはーい。」


 ユリは魔力を高めて魔物を寄せる。


「お嬢さん、今何をしたんだ?」


「あー魔力を高めたら魔物は寄ってくるのよ。ダンジョンで弟子に特訓させた時やったから効果は抜群よ!」


 チョーさんは青い顔だ。唇も色が悪い。


「お前達、なんて事をしたんだ!魔物を呼ぶなんて馬鹿げてる!」


「いやいや、あなたが証明したら村長を紹介してくれるって言ったじゃないですか?」


「だからって魔物を呼ぶなんて!」


 ぼくは冷静に、無表情でチョーさんに話す。


「それなら初めから素直に村長を紹介してくれたら良かったんですよ。あなたはぼく達を舐めてかかった。これはあなたのミスです。他人を馬鹿にするのは今後止めた方が良いですね。」


 ぼくはみんなの方を向いて話し掛ける。


「とは言えこの村に被害を出しては駄目だ。みんな、出し惜しみせず綺麗に倒すんだよ。村の中に魔物の毛1本染み1つ残すな。」


「はーい。」


「了解です。」


「分かったのじゃ。」


「御意にゃ。」


「かしこまりましたにゃん。」


 みんな一気に戦闘態勢。ユリはポッドを空高く上昇させる。チュールは武装現象して村の端に飛んで行った。もちゃは両手の爪をジャキリと伸ばし、チュールと反対に移動する。フラウは…でっかいフェンリルになった!


「あ、あんた魔物だったのか!!」


「魔物とは失礼なやつじゃの。これでも神獣フェンリルの上位種じゃよ?」


 フラウは村の端まで走る。


「じゃ、ぼくはこっちかな?」


 入口に陣取った。


 少し待つとわらわらとゴブリン達がやって来た。


「みんな!わたしが数を減らすから寄って来たやつはよろしくね!」


「私は結界を張りますにゃん!」


 ユリともあから声が掛かったから手を上げて応えた。


 村の周囲に黄色いカーテンが掛かった。結界だ。


 突然空から無数の石礫が降り注ぐ。


「グギャッ!」


「ガペッ!」


 集まって来たゴブリン達は次々に青い体液を撒き散らして倒れて行く。


 後ろからはまだまだ魔物が集まって来て屍を乗り越える。だが地面に突き刺さった石礫が針の様に突き出てきた。


 バタバタと魔物が倒れて行く。恐ろしい魔法だな!


「ユリ、これってなんて言う魔法なの?」


「クラスター。」


「こら!!」


「大丈夫、範囲魔法だから解除したら消えちゃうわ。残留地雷にはならないから。」


 怖いなぁ。


「礫をソフトポイントにするのがコツなのよ。当たった時の破壊力が高いけど地面にあまりめり込まないの。んで、着弾衝撃を後方に押し出して針にするの。タイミングは次の圧力を感じたら自動で伸びるわ。」


 お、恐ろしい。うちの妻は効率良く獲物を狩る術を会得している様だ。


「ユーリ、私達にも獲物を残して下さい!」


 空を飛び回ってバシバシ魔物の首を飛ばすチュールの声が響く。こっちも怖いなぁ。


「妾は楽な方がいいのう。ユーリ、バンバンやって欲しいのじゃ。」


 フラウは口から氷の礫を打ち出し、魔物の額を撃ち抜いている。


「ぼくも遠距離武器欲しいなぁ。」


 本気で銃が欲しいわ。


 とりあえず拳で魔物を倒して行く。大型を見つけたら接近、近付いている間に指弾でゴブリンやオークを弾き、ボブゴブリンやオーガは拳だ。


「もちゃちゃんの方に大物が行ったわよ。コカトリスかな?」


 コカトリス、大型魔獣だ。雄鶏の頭部と身体、蛇の尻尾、竜の羽を持つ魔物でその嘴と爪にはウィルス型の毒を持つ。感染すると細胞が壊死を始め、まるで石化したかの様に固まり崩れる。


 まあうちの家族には聞かないけどね。完全レジストだから。


「もあ姉様、夕餉は唐揚げだにゃ。」


 もちゃが凄い速さでコカトリスの足元に潜り込み、きりもみしながらジャンプするとコカトリスはバラバラになって崩れた。


 昇龍拳だ。かっこいい!


「ヒロくん、大物よ。ドラゴンっぽいわ。」


 土煙を上げながら亀の様な姿が近付いて来る。体高5メートル程の岩山から頭と手足、尻尾が飛び出た姿。


「アースドラゴンってとこかな?」


 アースドラゴン、大型竜種。亀の様な姿をしてるけど爪はある牙はある暴れん坊。亀の甲羅はアダマンタイトと同じ硬度で、アダマンタイトより魔力親和が高い。アダマンタイトとミスリルの良いとこ取りみたいな材質だ。


 そして、


「おらぁっ!!」


 ぼくはアースドラゴンの背中に飛び上がり、甲羅を思い切り殴り付ける!甲羅にはビキビキに罅が入った。


 すると、手足頭尻尾が甲羅の中にスポっと入ってしまった。


 これだもん。


 アースドラゴンはピンチになると甲羅に潜り込み魔力を高める。すると甲羅はますます硬くなり、罅はどんどん塞がっていく。


「めんどくさっ!」


 仕方ないからぼくは腕の仕込み刃を出し、肩を肩甲骨からグルグル回す。


 零距離戦闘術だ。腕の刃を扱うに当たり、1番効率良い格闘術を考えた結果これが1番しっくり来た。


 腕に付いている刃物って、案外使いにくいんだよ。リーチは短くなるし側面攻撃だしね。じゃあ何故そんな武器を使うかって?


 浪漫だよ?当然でしょ。


 零距離戦闘術は肩甲骨をぐにゃぐにゃさせて相手をいなしたり鞭の様にしならせて意表を付いたり武器を叩き落としたり絡めとったり、攻撃プラス攻撃補助プラス回避プラス無効化させる、格闘技と言うよりは本当に戦闘術だ。更に大きなメリットが、肩の動き分リーチが伸び、体幹の回転も利用する為側面攻撃に強い。


 軍隊や自衛隊も研修する位実践的な技なんだよ。


 ぼくは腕を揺らしながら腕の外側で弾く様に刃を回す。


 アースドラゴンの甲羅の側面を腕の刃で撫でる様に殴る様に切り付ける。


 音も無く甲羅に穴が空いていき、緑色の体液が噴出する。どんどん甲羅を掘り腕を回し肩を回し身体を揺らしながら進んで行く。


 反対側に出てきた時、既にアースドラゴンは絶命していた。


「主のマンガケンポーの真髄だにゃ!素晴らしいにゃ!今の動きは我にも利用出来そうだにゃ!!」


 もちゃがやけに嬉しそうだな。


 流石に一方的な蹂躙劇は魔物に恐怖を与えたのかみんな逃げ出し、既に動く魔物は居なくなってたよ。


「ふう、お疲れ様。」


「ヒーロは無茶苦茶強いのう!あの甲羅を砂を掘る様に切り裂いて行きおった!妾のご主人様に相応しいのじゃ!死の森の頂点に君臨しておるようじゃの!」


「ヒーロさんは本気を出したらやばいですから。いつもみたいにニコニコして大人しくしていたら良いのですよ。」


「て言うか、わざわざ切らなくても錬金術でなんとでもなるでしょ?わたしの旦那様は色々試したがるから目が離せないわ。ふふふ。」


 うーん、褒められてるよね?


「これでいいですか?チョーさん。あれ?チョーさん?」


 チョーさんはいつの間にか居なくなってたよ。

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