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168 異世界の悪意の声を聞いてみよう! その8

「ジーク、君の兄を返す訳には行かないよ。ぼく達はある目的を持って王都に来たんだ。それを果たす為に君の意見を聞きたいんだ。全部聞いたらぼく達も目的を話すよ。」


「分かった。私で良ければ答えるよ。」


 良かった。彼の気持ちが分かれば今後のぼく達の行動が取り易くなる。


「じゃ最初に、今回王都から兵士が沢山送り込まれた。君は知ってるかい?」


「う、うん、大体知ってるよ。ヒーロは分かってるから質問したんだろうから答えるよ。約2,000名の騎士達が死の森と言う場所を調査する為に向かったんだ。それ以上は知らないけど。」


「それについてどう思う?」


「どうって…王の判断だから何とも…」


「君の判断だったらどうしてた?」


「私だったらか。私はあまり争いが好きじゃ無いんだよ。だから出兵はさせたく無い。」


 なるほどね。ジークは今回の死の森派遣には加担してない様だ。


「さっき隣町に行ったら街に入るのに銀貨4枚も掛かったよ。高過ぎるとは思わないかい?」


「いや何の冗談なの?銀貨4枚なんて市民の3ヶ月分の収入じゃないか。間違いだよ。」


 どうやらジークには市民感覚はある様だ。


「いや、本当だ。どうやら騎士達が行く道すがらの街から物資を徴収したらしい。お陰で街中の物資が足りなくて物価が上がったんだ。」


「それじゃ街が潰れちゃう。王はどう言う指示を出したのかな?」


 うーむ、ジークは国政に参加していない様だ。王族ならある程度国政に対して発言していても良さそうなのに。じゃないと次期国王や幕僚を決める為の査定が出来無い。


「君は貴族だね。話し方や着ている物を見れば割と上級な貴族と見受けられる。兄上共々良い暮らしをしているんだろ?」


 ジークは眉を顰める。ちょっと嫌な質問だったな。


「確かに私達は平民よりも良い暮らしをしているよ。それは認める。だけどそれが幸せな事だとは限らないよ。」


「どう言う意味かな?」


「皆が皆貴族らしい態度をするのが当然とは思ってる訳では無いんだ。私は他人から物を奪うのは好きじゃ無いよ。無理強いするのもね。しかし、それは貴族らしくないと蔑まれるんだ。」


「言ってる意味が分からないな。」


「貴族は自分より下の立場の物を全て自分の物にする権利と義務がある、私はそう教えられて来た。そうしなければ貴族は平民よりも下に見られてしまうと。でも私はそう言うのが好きじゃない!嫌なんだ。」


 これは…この国は重症だ。


「兄はヒーロの奥様を奪いに来たのだろう?私には理解が出来無い!何故奪わなければならないんだ!その都度人々から怨嗟の目を向けられるのは人として嫌なんだよ!」


 ジークは大声で叫んだ。


 彼はその性格でこの国の中枢から嫌われているんだろう。彼を推す派閥は何とか彼にこの国の貴族らしさを身に付けさせたいと思って傲慢になる事を強要している様だな。


「済まないジーク、君に嫌な質問をしてしまったね。チュール、ジークに暖かい飲み物を出してくれないか?」


「はい、ヒーロさん。ホットミルクをお作りしましょう。」


 チュールはホールのカウンターに備え付けられているコンロの様な物の所へ行く。ぼくは窓を開け吊るしてあった彼の兄を空いている椅子に座らせる。


「さて、金髪お兄さん。起きて下さい。」


 ぼくは金髪の鼻をデコピンする。金髪はその勢いで椅子ごと後ろに倒れた。


「ふごおおっ!いったーい!な、何事だ!」


 金髪はキョロキョロしている。


「金髪お兄さん、あなたのお名前を聞かせて下さい。」


 金髪はぼくをボーッと見ていたけど突然ハッとして大きく目を見開いた。


「なっ何奴!下郎が!私を何と心得へぶしっ!」


 ビンタを食らわす。


「い、痛い!」


「名乗れサルが!」


「さ、サルだと!私に向かって何といはぶしっ!」


 ビンタを食らわす。


「ぼくを待たすなサル。名乗れ、フルネームだ。」


「ヒーロさん駄目だ!名を聞いてはいけない!それを聞いたらあなたは許されないんだ!」


 ジークがぼくを止めようとした。でもぼくはジークの目の前に人差し指を立てて発言を止める。


「大丈夫、分かっているんだよ。君達は王族だろ?ぼく達がここへ来た理由を話すよ。ぼく達はこの国の王をぶちのめしに来たのさ。責任を取らす為にね。地方では貴族や兵士が我が物顔で自己の都合をゴリ推している。そのせいでぼくが懇意にしている街が魔物に襲われ壊滅の危機に晒されたんだよ。」


「え?」


「死の森の近くにランスと言う街がある。そこの貴族共は我儘をしてぼくを怒らせたから殺した。でもね、彼等は国に復讐させると言ったんだよ。ぼくの家族を皆殺しだってね。更に2,000人の兵士が森に入って凶悪な魔物を傷付けた為怒った魔物はランスを襲撃した。それはどうやらこの国の権力者が自己の欲求を満たす為だけに行われたらしい。」


 ジークも金髪も喋らない。


「さて問題です。人間が人間を自分達のルールを利用して害した場合、反対の人間がその人間をこっちのルールで害してはいけないと本当に言えるでしょうか?」


「良い筈が無い!王子である私に何人も逆らってはならないのだ!」


 金髪、あんたは本当に馬鹿で助かるよ。


「分かった。サルの言い分は尤もだ。じゃあ今から王を殺しに行きます。」


「な、何故そうなるのですかヒーロさん!」


 ジークがテーブルに手を付き立ち上がる。ちょっと震えている様だ。


「ジーク、君の兄は自分達のルールが正しいと主張したんだよ。それは聞いたね?ならぼくはぼくのルールで行動する。ぼくのルールはぼくの家族と友を愛してくれる人達には出来るだけ大きな恩義を返し、傷付けようとする人達は即殲滅、シンプルだろ?」


 今までずっとそうしてきたんだ。あの古龍だって話し合いしてくれたら逃げ回らずに謝れたんだ。ギルドから派遣された冒険者だって襲わなければ仲良くなれた。あの公爵もその息子の冒険者達も他人に優しければ死なずに済んだ。フェンリル達だって騎士達だってあの街のゴロツキだってゴブリン衛兵だって、ちゃんと会話して分かり合えたらこんな事にはならなかったんだよ。


「ジークさん、はいどうぞ。飲み易い様にぬるめにしましたからね。」


 チュールがジークにホットミルクを渡す。ジークはふぅと溜息をついてホットミルクを飲んだ。


「ありがとうございます。温かいですね。少し落ち着きました。」


「ジークさん、ヒーロさんは冷たいでしょうか?」


 ジークはチュールの顔を見つめ、ぼくを見た。


「苛烈な方ではあります。でも彼の行動原理は全て他人の為なんですね。私の知らない考え方ですが、正直共感を覚えます。」


「シグルドよ、それは間違いだ。我等王家に纏わる人々は高貴なのだ。血の色が違うのだよ。そこの男が語っているのは一般論、王家の考えでは無いのだ。」


 金髪はそう言ってジークを窘めた。やっとギャーギャー言わなくなったな。


「青い血、と言うやつですね?だから王制や貴族制度は退廃し、消えていったのです。本来の貴族が持つ義務と責任とは、領民や庇護下にある者達に対する特権を持つ者として全ての人の規範となる事で保たれる義務と責任なんですよ。それはとても難しい。何故なら人間はとても弱いからです。特権は人を狂わす。特権を得ようとして人は狂うんです。」


「我等王家の者が狂っていると言うのか!?」


「ええ、狂っている。あなたを見れば分かります。人の妻を欲しがり、拒否されたら他人を貶めて満足しようとし、上手くいかなかったら喚き散らす。まるでゴブリンだ。先程門の所で似た様な輩に会いましたよ。20人程度潰してきました。まあ全員再起不能でしょうね。仲良く右膝を粉砕して来ました。」


「な、何の話だ?」


「衛兵の様なゴブリンを退治したと言う話です。ああ、討伐証明もありますよ。」


 ぼくはテーブルに先程手に入れた耳を投げた。


「う、うわああああ!」


「みみ、み、耳だ!人の耳だ!」


 ジークと金髪は椅子から転げ落ちた。


「チュール、ぼくはもう少し冷静に話し合えると思ってこの街に来たんだよ。」


「はい、知ってます。ヒーロさんは元々優しいですから。」


「でもね、ここまで話にならないとは思わなかったんだ!なんだこの国は!こんな物が地上にあったらぼくの子供達が幸せに暮らせない!」


 ああ、もう駄目だ。姿が保てそうに無い。


「ひ、ヒーロ!身体から煙が!大丈夫ですか!?」


 ジークがぼくの異変に気付く。


「うん無理、スキルのお陰で冷静ではあるんだけど、魂からの怒りが抑えきれないんだ。」


 ああ…皮膚が溶ける。


 力が噴き出す!


 ぼくはジークに声を掛ける。


「ジーク、君はこの国の希望だ。君ならこの国を正しい方向に向ける事が出来る。チュール、彼にぼく達の部屋の鍵を渡してあげてくれ。ジークは今日ここに泊まるんだ。明日になったら忙しいよ。たっぷり眠って備えてくれ。」


「ヒーロ…そのお姿は…」


「ば、化け物だ…」


「あら、ヒーロさんのこの美しいお姿を化け物だなんて。あなたの心は汚れているんですよ。愛する人の為、隣人の為、他人の為と考え行動する人達はヒーロさんのこのお姿を見ると美しさや勇ましさを感じる筈なのです。ジークさん、あなたはヒーロさんのお姿がおぞましく見えますか?」


 チュールはジークに問い掛ける。確かにユリやチュール、サーラさん、ギャバン達やオリバーはこの姿を恐れなかった。何故か美しさや力強さを感じていた。


「おぞましくは見えません。怖さは無いのです。でも身体の奥底から震えが来て止まらないのですよ!」


「ジークさん、あなたは正しいのです。それは畏怖と言う物ですよ。今の気持ちを忘れないで下さいね。」


 チュールはジークに部屋の鍵を渡した。


「ヒーロさん、行きましょう。あなたの心の平穏は保たれるべきです。今夜終わらせましょう。」


「行こう、チュール。お前も来るんだ。」


「ひ、ひいいいい!」


 漆黒のボディに身を包んだぼくは金髪の首を掴み、チュールを伴って窓から空へ飛び立った。

ヒーロさん変身完了!やっと先へ進めます( ´›ω‹`)


次回閑話を挟んでやっとユーリさんの番です。楽しいユリさんワールド全開です!

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