013 異世界で住む所を作ろう! その3
「ユリ、大丈夫か?」
ぼくは彼女の傍に行き肩を揺すりながら声を掛けた。胸元が上下に揺れている。呼吸はしているようだ。手足は傷もなく先程の浄化の作用かさほど汚れも目立たない。
薄い空色のブラウスに黒のジーンズ、白地に緑の模様が入ったスニーカー。変わりなさそうだな。
前髪を眉下で切りそろえたストレートのボブカットにも変化なし。髪とか焼けてたら可哀想だもの。
ていうか、変化無さすぎじゃないの?
まぁ変化無いのならぼくが身体の9割を失ってまで助けた甲斐はあったな。
なんて思いながら彼女の顔を眺めていたら、彼女が薄ら目を開けた。
「ヒロくん…おはようございます。」
「はい、おはようございます。どこか痛いとこない?」
「んーとりあえずお腹減ったかな。」
「はは、そうだね。ここがどこかは分かんないけどとりあえず食べるもの探さないと。コンビニとかあればいいなぁ。」
大丈夫そうだ。良かったよぅ。
安堵からか涙が出そうになるのを誤魔化すため軽口を叩きながら次の目的を決めてみる。現状に意識が行き過ぎるとパニックになるかもしれない。お腹が空いたくらいが丁度いいね。
ぼくはキョロキョロ辺りを見渡した。広い草原。太陽は真上。よく見ると少し離れた所から木が生えてて森になっている所がある。
「あっちに森のような所があるよ。何か食べるものとか水場とかあるかもしれない。起き上がれるなら一緒に行ってみてもいいけど、どうする?」
聞いてはいるものの彼女がひとりで待ってると言うはずが無いことは想定した上の質問。森へ行く選択しかない質問で彼女の行動を導く。できる限り目立たない日陰のある所へ行かなければ体力を奪われたり他の生き物に狙われたりとリスクが高まりそうだ。
「置いていく気なんかないんでしょ?一緒に行くわ。」
彼女は意外とあっさり答えた。冷静だな。もっと「一体ここはどこなのよ!?」「あのドラゴンどこ行ったのよ!?」「あんたホントにヒロくんなの!?」なんて騒ぎ立てるかなと思ったよ。
もしかしたら、彼女もここが異世界ってこと分かってて、ステータスさんとか鑑定先生とかと話してるのかもしれないな。
でもとりあえず彼女から話を切り出されるまで黙っておくとしよう。まずは身体を休める所を探すのが先決です。
「じゃ、行ってみよう。」
ぼくが歩き出すと彼女も後ろを着いてくる。妊婦さんなんであまり無理を掛けちゃいけないのでゆっくり歩こう。手とか繋いでみよっかなぁ。
ぼくは手を繋いで歩くの嫌いじゃないんだけど、彼女はあんまり好きじゃないらしい。若いときならまだしもアラサーでイチャコラとか他人に見せたくないそうだ。
まあまぼくもわざわざ見せたいとは思わないけど二人が幸せならちょっとくらいイチャイチャしてもいいんではないだろうか?いやいやイチャイチャしたい訳じゃないんだよ。イチャイチャチャンスを他人の目を理由に不意にするのは勿体ないというか、違うんじゃないかなというか…
急に左腕に柔らかい感触を受けた。
「ねぇ、ヒロくん」
えっ?彼女が腕を組んできた!有り得ん。腕を組むなんていうイチャイチャイベントは超高難度クエストなんですけど。大型飛竜3体連続討伐はHR上限解放されてないぼくにとってかなりの難易度なんですけど!!
「あのね、わたしどこか変わった所、無い?」
変わった所だらけですぅ。そんなに積極的な感じの人ではなかったですぅ。結婚前も結婚しても、同性の友達みたいに一緒にいた2人なんですぅ。互いの主義主張ややりたい事を尊重し合う仲でいようねって話したんですぅ!
「どどどどうかなー変わったような変わらないようなーよく分からないようなー。」
「ヒロくん何照れてるのよ。やっぱり見た目が変わったら惚れ直したりしちゃうわけ??くふふ。」
照れてないしぃ?惚れ直すとか意味わかんないしぃ?見た目が変わろうが変わるまいが奥さんラブは変わらないしぃ?…ん?
見た目?そういえば彼女の顔が、すこーし幼く見える。なんか肌の血色がいいし、目尻がちょっと上がって引き締まってるような気がする。
「言われて見れば少し若返ったような風に見えるよ。」
「やっぱりそう!?」
彼女は嬉しそうな顔をしながらさらにぼくの腕を強く抱き寄せた。
「なんかさー異世界転移ボーナス?みたいな感じで若返ったのよ〜。そろそろスキンケアにも変化を付けなきゃと思ってたからさぁ…めっちゃラッキーよね」
あ、彼女はここが異世界って知ってるんだ。
「いやー異世界転移した時点でラッキーかどうかに疑問があると思う。」
「まぁそこはもう気にしても始まらないでしょ。とりあえず貴方がいるんならわたしは大丈夫。それに…」
ん?
「もうじき3人だし、ね。」
そうだ、彼女のお腹にはぼく達の子供がいる。急激な環境の変化について行くのがやっとで大事なことを忘れていた。今日のご飯だけじゃない、これからの生活を考えなくてはいけない。身重の彼女はどんどん行動に制限が掛かってくるし、数ヵ月後には出産、その後の育児も控えている。
それも、この異世界で、だ。
ぼくは家族のために自重するのを止めようと思います。




