9話 1週間が経って
1限目が終わると浩平と凛香がひまりの元へやってきた。
「これからクラス委員長として頑張るよ」
「望みどおりにクラス委員長になれて良かったね。浩平でなければこのクラスはまとまらないし……適役だと思う」
「皆のためになるなら、それでいいんだ……これからも応援してほしい」
浩平は嬉しそうに笑顔で、右手を出して、ひまりに握手を求める。
クラスで人気者のひまりとは仲良くしていたいのだろう。
しかし、ひまりはそれを無視して、話を続ける。
「浩平がクラスのためにやっているなら応援するし……仲間には入らなくてごめんね」
「そのことならいいんだ。僕達のほうこそ急ぎ過ぎたんだと思うから」
「そう思ってくれると嬉しいな……私もクラスの皆と仲良くやっていきたいから」
「休憩時間にごめんね。何か頼みのある時はまたくるよ。」
そういって爽やかに笑って、浩平は凛香と共に自分のグループへと戻っていった。
ひまりは、その後ろ姿にむっかって、可愛い舌先を出して「ベー」という表情をする。
どうもひまりは浩平のことが苦手というか、嫌いなような感じがする。
どうしてそうなのかはわからない。
「なぜ、ひまりは浩平を警戒するんだ? 相手は学年NO.1イケメンだし、クラスのまとめ役もするぐらいに性格も頭も良いぞ?」
「嫌いっていうわけじゃないけど……何かイヤなの。あまり私に近寄ってほしくない。光輝と一緒にいると安心できて、まわりがフワッと幸せになるけど……浩平からはイヤな感じしか受けないから」
「そういうもんなのか」
「女の勘っていうのかな? 私も自分で言ってて、わからないし」
普段は勘で行動するタイプではないが、女性の勘はよく当たると聞いたことがある。
時には勘が正解の時もある。
「そういう勘は大事にしておいたほうがいいかもしれないね」
「私って、勘で生きているようなもんだから……エヘヘ」
雄太が隣で聞いていて、胸を張って、ひまりの意見に同調する。
「俺も勘でしか生きていないぜ。あまり頭が良くないからさ。それに勘のほうが良く当たるんだ」
「それって、勉強できないって自分から言ってることに気づいてる?」
武彦が雄太をからかう。
雄太は顔を赤くして、武彦につかみかかり、ヘッドロックをして武彦の口を黙らせる。
「私……少し呼び出しされているから、ちょっと待っててね……すぐに戻ってくるから」
ひまりはそう言い残してクラスから出ていった。
光輝、雄太、武彦の3名は手を振って見送る。
「たぶん、告白だぜ……光輝とのことがわかってから2日に1回は告白してくる男子が出てきてる。早く光輝がきちんとした答えをひまりにしないからだぞ」
2年生になった初日が過ぎてから、ひまりに対する、他の男子生徒のアタックが猛烈に始まった。
ひまりはイヤな顔1つせずに告白される場所へ行って、丁寧に断ってくるのが日課となっている。
やはり自分のようなモブのことを、ひまりが好きだと言ったことで、自分にもチャンスがあると妄想した男子も多かったのだろう。
ひまりに好意を持たれていることは理解した。自分もひまりのことは嫌いではない。むしろ好意的に思っている。
しかし、相手は学年NO.1美少女ギャルのひまりだ。
なかなか決心がつかない。
本当にこんな自分が彼氏になっていいものなのか、非常に悩んでしまう。
「ひまりって、ギャルだけど一途だから、光輝も安心して付き合ってやれよ」
「そうだぞ。ひまりは学年NO.1美少女ギャルなんだから、羨ましい話じゃないか」
雄太も武彦もいいたいことを言ってくる。
確かにこの1週間、ひまりのことを観察して、ひまりが意外と一途なことは理解した。
そして、光輝のこととなると、案外とマメな部分もあることもわかった。
性格も明るくて、元気で、皆から好かれる理由もわかる。
なぜ、そのような美少女ギャルが、光輝のようなモブのことを好きになったのかがわからない。
それがわからないから、悩んでいると言ってもいい。
光輝にとって不可解なのだ。
ひまりが息を切らせて、教室へと戻ってきた。
「お疲れ様……大丈夫か?」
「んん……人の好意を断らないといけないのは、少し負担かも。でも私には光輝がいるし、光輝しか見えないし……仕方ないよ」
「どう言って、告白を断ってきたのかな?」
「光輝のことが大好きだから、他の男子は見えませんって、はっきりと断ってきたよ」
告白を断られた男子は自分のことを恨んでいるだろうな……
自分の知らない間に、男子生徒から恨みが積み重なっていく現状に、光輝は頭を抱える。
「だって仕方ないじゃん……私は光輝だけが好きで……光輝のことだけを考えていたいの……他の男子のことなんて、考えられないし、考えたくないもん」
ストレートな発言をありがとう。
どうして、ここまでひまりに好かれたのか、自分でもわからないが……
「私が勝手に光輝のことを好きになったんだし……光輝はゆっくりと答えを出してくれればいいの」
ひまりは、そう言うと、椅子に座っている光輝に抱き着いて、体をギュッと抱きしめる。
それを見ていた教室の女子から黄色の声があがり、教室内は大騒ぎとなった。