8話 クラス委員
2年生になって1週間も経つとクラスでも一定のグループが出来上がってくる。
クラスでのまとめ役として浩平と凛香がおさまった。
さすがに浩平は学年NO.1のイケメンだけのことはある。
女子の人気も絶大で、クラスの過半数の女子が浩平を支持している。
男子でも最大グループを作っている。
女子では凛香を中心としたグループが1番大きい。
なによりも凛香のリーダシップの力が大きい。
光輝、雄太、武彦の3名は、3人グループと思われている。
ひまりと渚は2人グループだ。
しかし、ひまりも渚も男女共に人気が高く、グループを超えての交流が多い。
クラスの人気者としては、浩平や凛香と同等といえる。
浩平がひまりの元へ歩いてきた。
うしろには凛香が付き添っている。
「ひまり……もうそろそろ、渚と一緒に凛香のグループに入ってくれないかな。そうすれば凛香のグループが大きくなる」
「なぜグループを大きくしないといけないの? 意味わかんないし……仲の良い者同士でグループを作ればいいじゃない。私や渚には関係ないし」
「グループが大きくなると発言力も強くなるんだ。女子も1つにまとまったほうが良いと思うんだよ。クラスとしてはそのほうがまとめやすいから」
「そんなこと、私には興味はないし……勝手に浩平達がやってればいいんじゃない。私、知らないし」
浩平は困った顔をして凛香のほうを振り向く。
凛香が浩平の前に出て、ひまりに笑顔を見せる。
「ねえ、ひまり……まだ同じクラスになって1週間しか経っていない。私達、もっと仲良くなれると思うのよ。私と一緒のグループに入ってよ」
「凛香とは仲良くしてもいいけど、私は今のほうが気楽でいい。グループの話は断るね」
浩平が複雑な顔をして光輝を見る。
何かを訴えたそうにしている。
確かにクラスが1枚岩になることは良いことだと思う。
できれば自然とそうなったほうがいい。
「光輝からもひまり達に言ってくれないかな?」
「それは無理だな……俺、雄太、武彦の3人も3人グループみたいになっている、少数派だから。大きなグループには利点も多いだろうけど、強制されるものではないだろう」
「ほら、光輝も大きなグループに入る必要ないって言ってるじゃん。私は私らしくクラスでやっていければいい。誰にも束縛されたくないよ……グループになるとしたら、光輝達のグループと一緒になる。そうすれば5人組じゃん」
隣で聞いていた雄太が嬉しそうな顔をする。
武彦は身を乗り出して興奮している。
「そうだよ。ひまりと渚は俺達と一緒のグループになればいいな。美少女2人が一緒なら楽しいグループになるって」
武彦の狙いはそれか。
雄太も渚の名前に大きな反応をしている。
どうも雄太は渚のことが気になるらしい。
「俺もひまりの意見に賛成だ。これからの1年の間で色々なことがあると思う。その時、その時で自由にさせてもらうよ」
「それは俺の意見に賛成してもらえると思っていいのかな?」
「自分の意志で浩平達に賛成したい時は賛成するし、違うと思えば沈黙する。違う提案をする時があるかもしれない。先のことはあまり深く考えていないんだ」
「わかったよ。光輝達は中立ということにしておこう。手を結びたい時は、また話にくるよ」
そう言って、浩平と凛香は去っていった。
なぜ、浩平と凛香がひまり達を仲間に引き入れようとしたのか、原因がわからない。
ひまりに聞いても、わからないという答えが返ってくるだろう。
朝のHRが始まって、小室先生が教室に入ってきた。
小室先生は茶髪のミディアムヘアーで、少し吊り上がった目尻をしている。鼻筋のきれいな、美女だ。
小室先生に怒られたいという男子も2年生の中には多い。
「今日は1限目の授業を無しにして、クラスの色々な委員を決める。誰か司会と進行をしてくれ」
そう言って、小室先生は所定の窓際の場所に佇む。
小室先生と入れ替わるように浩平と凛香が教壇に立つ。
あの2人が今日は活発に動いていた原因はこれだったのか。
「これから各委員を決めていく。まず先に、このクラスのクラス委員長を決めたいと思う。立候補者、または推薦者がいれば挙手してほしい」
数名の男女が手を挙げて、クラス委員長に浩平と、副委員長に凛香を推薦する。
はじめから、この流れは仕組まれていたことなのだろう。
推薦者の言葉に迷いがない。
「推薦してもらってありがとう。僕達がクラス委員にふさわしいと思う人が挙手してほしい。過半数以上の挙手があれば、僕達で決定ということにするね」
それほどクラス委員長になりたければ、浩平と凛香がなればいいと思う。
余計なことを言って、こちらに飛び火することは避けたい。
光輝達も浩平と凛香のクラス委員に挙手する。
「過半数を大きく超えたので、クラス委員には僕と凛香がなります。皆の期待に応えられるように頑張るよ」
クラス委員長に浩平が決まり、クラス副委員長に凛香が決まった。
それから細々した各委員が決まっていく。
気づくと、各委員は浩平グループと凛香グループが押さえていた。
なるほど……全ての委員を浩平と凛香のグループで背負って、自分達の地盤を固めようというのか。
浩平はただのイケメンだけではなさそうだ。
「やったね……光輝……私達、何の委員にもならなかったよ。ラッキー」
ひまりは全く浩平の意図を見抜いていないようだ。
それはそれで平和かもしれない。
光輝は何も知らないフリをして、ひまりに微笑んだ。