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62話 花火大会

 今日は光輝のアパートから自転車で1時間ほど離れた河川敷で花火大会が開かれる。

花火大会へ行きたいことを、ひまりが柴田さんに相談すると、ベンツに乗って柴田さんがアパートまで迎えに来てくれた。


 リムジンだと派手で目立つし、小回りが利かないと、ひまりが忠告していたが、まさかベンツで現れるとは思ってもみなかった。

ベンツでも大きいし、目立つと思う。


 今日のひまりの恰好は髪を結いあげ、薄ピンク色の浴衣を着て、とても色っぽい。

光輝はいつもの通り、Tシャツ姿にデニム姿だ。


 夜6時から花火大会が始まる。

今は夕暮れ時だが、花火会場に着いた頃は、道が混んでいるので夜になっているだろう。

ベンツに乗り込んで、柴田さんの運転で、花火会場の河川敷へ向かう。


 花火会場に近づくにつれて、段々と交通量が多くなり、とうとう1mも動かなくなった。



「お嬢様、残念ですが、ここからは車のほうが時間がかかります。歩いて行かれたほが早いと存じます」


「ありがとう。では、ここまででいいわ。帰る頃に連絡するから、柴田も花火を楽しんでちょうだい」


「はい。ありがとうございます」



 後部座席からひまりと光輝の2人は出て、河川敷の会場を目指して歩く。車道には露店が出ていて、イカ焼き、焼きそば、リンゴ飴など、色々な露天商が並んでいる。



「お腹空かないかい? 何か買っていかないと、河川敷には何も売っていないよ」


「うーん……少しお腹空いたかも……私、焼きそばがいい。浴衣を着てるから、あまり汚したくないし」



 焼きそばの露店へ行って、2人分の焼きそばのパックと箸をもらう。そして近くにあった自動販売機からコーラを2つ買って、1組にしてひまりに渡す。


 露天商の裏に回ると、ちょうど座るのに良い高さの壁があった。

2人でその壁に座って、焼きそばのパックを開ける。

焼きそばは焼きたてなので、とても美味しい。

コーラを飲みながら、焼きそばを食べる。

ひまりも、とても嬉しそうだ。



「外で食べる露天商の焼きそばって美味しいね。私……初めて路上で食べたし」


「路上で焼きそばを食べると、花火大会っていう感じが出てきて楽しくなるな。ひまりもそう思わないかい?」


「うん……私もそう思う」



 ひまりが嬉しそうな笑顔で焼きそばを食べる。

その顔がとても愛らしい。

毎日、ひまりの顔を見ているが、毎日、きれいで可愛いと思ってしまう。

これは誰にも話したことはない。

あまりにも恥ずかし過ぎる。


 焼きそばを食べ終わって、露店の裏にあったゴミ袋の中へパックと箸を入れる。

コーラはゴミ箱の缶入れに入れる。

ひまりはコーラを飲むのが遅いので、壁に座って行き交う人並みを眺める。


 すると雄太と武彦の2人が大騒ぎしながら、道路を歩いていく姿が見える。

今日は光輝には電話してこなかったが、2人共、花火大会に来ていたんだな。


 やっとひまりがコーラを飲み終えた。

コーラをゴミ箱に入れて、人混みの中へ入って河川敷を目指す。



「さっき、雄太と武彦を見たぞ。2人共、焦っているように歩いていったな」


「あれ? 今回は私達、何も誘われなかったし……何か怪しいし」



 やはり、ひまりも雄太と武彦の行動に違和感を持ったようだ。


防波堤へ近づくと花火が夜空に舞い上がった。

空に大きな花火が華のように咲く。



「きれい……」



 ひまりは少し立ち止まって、胸に手を当てて花火に見惚れている。

そんな可愛いひまりに光輝が見惚れる。

空の花火よりも、ひまりのほうが数倍きれいに見える。



「光輝……花火は空だし……何を見てたの」


「ああ……ごめん……ひまりを見ていて、見逃した」


「ダメじゃん……今度は一緒に見よ」



 防波堤を歩きながら、ひまりと2人で花火を見る。

花火は次々と打ちあがり、それを見ようと大勢の人々が立ち止まって大空を見る。

少し歩くと、防波堤から河川敷へ降りていく階段を見つける。

2人で階段を下りて河川敷を歩いていく。


 河川敷にも多くの露店が出ていて、露店が明るいので道を見つけるのは容易い。

少し道路から離れた場所へ立って、花火を見る。

そのほうが露店の明かりが届かず、花火がよく見える。


 花火は次々と打ちあがり、人々の歓声が聞こえる。

その中に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

武彦と雄太だ。

その声の方角へ歩いていくと、渚と若菜が浴衣姿で花火を見ていた。


 渚は紺色の浴衣を着て、シックで大人っぽい雰囲気をかもしだしている。

若菜は黄色の浴衣を着て、とても可愛らしい。



「あれ? 若菜と渚じゃん……どうして2人だけなの? 私……誘ってもらってないけど?」


「あれ? 光輝とひまり? 雄太と武彦の説明だと、2人とも忙しいから花火大会に来ないって聞いたわよ」



 近くにいた雄太と武彦が、光輝とひまりを見てマズイという顔をする。



「これはどういうことなの?」



 不思議に思った渚が笑みを深めて、雄太と武彦に接近する。



「だって、いつもひまりと光輝だけカップルってズルいだろう。今日はダブルデートにしようって武彦と相談して決めたんだよ」


「ダブルデート? 私達、花火大会に来ただけで、2人とデートのつもりはなかったよ」



 若菜が雄太と武彦に止めを刺す。



「2人共、気持ちはわかるけど……私達にまで嘘をつくなんて、それはダメね」



 渚からも注意を受け、雄太と武彦は体を小さくする。



「俺達とも合流できたんだし、これから皆で楽しく、花火大会をみればいいじゃないか」


「私達も別に気にしてないし……皆がいなかったら光輝と2人で花火を楽しんだだけだし」



 ひまりは今回のことを気にしていないと、雄太と武彦に助け舟を出す。

雄太と武彦の気持ちは少しは理解できる。

2人共、早く彼女がほしいのだ。

そして光輝とひまりのことが羨ましかったのだろう。



「そうね……ひまり達とも合流できたし、今回のことは帳消しにしてあげるわ。次からは私がひまり達に連絡するから」



 渚はそう言って、若菜と一緒に花火を見て楽しむ。

光輝とひまりも寄り添って花火を見て感激する。

雄太と武彦は、渚と若菜の隣に立って花火を楽しんだ。



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