53話 香織と凛香
香織が転校してきてから、1週間が経った。
香織の明るく、元気な性格で、クラスの皆とすぐにうち解けていった。
主張も強い香織は女子達の間でも頭角を現し、香織グループのようなものまで、できつつある。
朝から凛香が光輝のほうへ向かって歩いて来る。
いつもよりも険しい顔をしている。
何か問題でも起きたのだろうか。
「光輝……あなたの幼馴染のことで話があるんだけど」
「香織のことか? いったいどうしたんだ?」
「私の言うことを聞かないの。時には反論もされるわ。このままでは、このクラスの女子が分裂する可能性もあるの。今まで私達は1枚岩で頑張ってきたのに……彼女にかき回されるのは迷惑よ」
「それなら香織に直接言えばいいじゃないか。俺に言ってもどうしようもないぞ」
「幼馴染なんだから一言くらいは注意できるでしょう」
香織の幼馴染だからと言って、なんでも光輝が注意できるものでもない。
それに今回は香織は、それほどの問題を起こしていない。
凛香はどうにかしろと、険しい顔で迫って来るが、光輝にはどうしようもない問題だ。
「その件では、香織を注意することはできない。話し合いは香織としてくれ」
「期末考査も近いのよ。クラスの成績が下がったら、クラス委員としての私の立場がないわ」
「うまく香織と付き合っていけばいいだろう。期末考査の結果がどうなるかは個人個人の成果だ」
「あなたのグループには雄太がいたわね。絶対に赤点を取らせないでね」
とうとう期末考査テストの時期がやってきたか。
浩平に言われると思っていたが、先に凛香から言われてしまった。
雄太の件はどうすればいいだろうか。
また、ファミレスで勉強会をして目立つのはイヤだな。
隣で聞いていたひまりが不愉快な顔で凛香を見る。
「中間考査も雄太は赤点取ってないし……こちらは仲良くやってるし……凛香に言われることなんてない」
「あら? 私はクラスの点数が落ちないように注意しているだけよ。点数が落ちなければいいの」
「だから、そういう所が世話焼きのお節介やって言うとるんや」
凛香の後ろまで歩いてきていた、香織が凛香に言い放った。
「クラス委員ですから、クラスの生徒達全員に気配りするのは当たり前のことでしょう。それを世話焼きのお節介なんて言わないでちょうだい」
「あんたが従えてるグループにだけ注意してたらええやん。あたしや光輝達はあんたのグループやない。大きなお世話や。放っておいてや」
「私はクラス委員なので、対象はクラス全員なんの。私は忙しいからこれで失礼するわ」
凛香は香織を睨みつけて、そのまま自分達のグループへ去っていった。
「なんやのん。あの態度……超ムカつくんやけど……テストで0点とったろか」
「そんなことをしても香織が損をするだけだよ。香織も少しは冷静になってくれ」
雄太と武彦が何も知らずに登校してきた。
そして自分達の席に座る。
香織はまだ腹が立つらしく、雄太の頭を無言で叩く。
「朝からいきなりなんだよ。なぜ、俺が香織に叩かれないといけないんだよ」
「そこに頭があったからや」
「なんだよ、それ。スゲー理不尽を感じるぞ」
「あんた凛香から聞いたけど、赤点ギリギリなんやて? 今回の期末考査は大丈夫なんやろな?」
いつもなら慌てるはずの雄太がニヤリと笑って、鞄の中から教科書を取り出して皆に見せる。
その自信満々の姿に少し、ひまりと香織も引いている。
「実はさ、俺の教科書……毎回、渚に重要な所を蛍光マーカーで引いてもらってるんだ。それに要点も教科書に書き込んでもらってるんだぜ。テストに出そうな所もマークしてもらってる。だからテスト勉強はバッチリだぜ」
渚……俺達の知らない所で、そんな苦労をしてくれていたのか。
さすがは才女。
これなら毎回、ファミレスで勉強会をする必要もない。
雄太が自慢気に香織に教科書を見せる。
「ほんまや。きっちりと教科書に書き込んでくれとるわ。この通りに覚えたら、赤点は取らんやろう」
「渚が俺のために特別にしてくれてるんだぜ。俺だけ特別なんだぜ」
「それだけ特別にアホということやろう。渚も苦労するわ」
皆が隠していた事実をズバリと言い当てる香織。
雄太はアホという言葉に傷ついたのだろうか……静かになって教科書を机の中へ入れる。
そして香織の顔を見る。
「香織、偉そうなことを言ってるけど……お前は勉強は大丈夫なのかよ。赤点だったら笑ってやるからな」
「あたしはこの学校へ転校してきたんやで。もちろん編入試験も受けとるし……勉強は得意なほうや。あんたとは違う……赤点なんて絶対に取れへんわ」
その言葉を聞いて雄太が悔しそうな顔をする。
武彦が雄太にこっそりと声をかける。
「香織に口喧嘩で勝とうとするな。凛香でさえ、口喧嘩で香織には負けてるんだ。俺達が敵う相手じゃねー」
「武彦……きっちりと声聞こえとんで。あんただけ特別にあたしが勉強を教えたろか」
武彦は必死に首を、激しく横に振る。
その姿が面白かったのか、香織の目が輝く。
「武彦、からかったら面白そうやな。武彦……本気で勉強を教えたるわ」
「俺は赤点大丈夫だから……俺にかまわずにいてくれ……絡むなら光輝だけにしてくれ」
「光輝にはひまりがおるから、絡みにくいんよ。あんたならフリーやからええやん」
そう言って、香織は武彦の腕を引っ張って、武彦は引きずられるように連れていかれた。
光輝とひまりと雄太は、それを呆然と見送るしかなかった。




