5話 噂は風のごとく
噂は疾風のごとく、休憩時間の間に2年生全体に広がっていった。
どんな噂かというと……学年NO.1ギャルのひまりが……モブな光輝に告白したという噂だ。
その告白に光輝が待ったをかけた所は噂になっていない。
それだけでも助かったと思う。
2年生の1学期初日。
はじめはクラスに友達ができるか不安だったが、
それどころではなくなった。
運が良いことに近くの席の雄太と武彦とは友達になることができた。
雄太も怒りっぽい奴だが、裏表がない性格で、悪い奴ではない。
武彦はいつも冗談ばかり言って、雄太をからかっているが、根は優しく良い奴だ。
昼休憩になった。
光輝は弁当派ではないので、学食へ食べにいくことになった。
雄太と武彦も学食派のようで、3人で一緒に食べに行く。
ひまりは机の中から小さなお弁当箱を出して、こちらを見ている。
本当は一緒に学食に行きたそうだ。
「俺は弁当を持っていないから、ひまりと一緒に食べられない……学食へ行ってくるよ」
「私もお弁当を食べ終わったら、学食に行くから……学食で待っててね」
ひまりはお弁当を早く食べ終わって、学食まで追いかけてくるつもりらしい。
昼休憩の時間ぐらいは、ゆっくりと過ごしたい。
ひまりが学食にくれば、目立つ。
また大騒ぎになったら大変だ。
「ゆっくりと食べていていいからね。学食で食べ終わったら、クラスに戻ってくるから」
「本当? 早く帰ってきてね。早く帰ってこないと、本当に学食に行くから」
ひまりの顔は笑顔だが、瞳が本気だ。
早く学食から戻ってくることにしよう。
「ひまり……そんなに最初から男子を縛ると逃げられるわよ。すこしは自由にさせてあげなさいね」
きれいな栗色のカールのロングストレートをなびかせて、清楚な雰囲気の美少女が現れた。
確か……名前は遠藤渚。廊下側の列に座っている女子だ。
「光輝くん、はじめまして。私は渚。ひまりの親友を一応しているわ。あなたのことは1年の時から知ってるわ。ひまりがいつも話していたもの」
1年生の時から美少女に見られていたなんて、全く気づかなかった。
こんなモブな自分を見ても楽しくないだろうと思う。
「ひまりの相手は私がしているわ。ゆっくりと学食に行ってね」
「……ありがとう」
後のことを渚に頼んで、雄太、武彦の2名と一緒に学食へ向かう。
学食へ行く間の廊下でも、不思議な顔をして、顔をチラ見してくる学生が多い。
それだけ噂が流れているということだろう。
学食に入って、食券を買って、トレイを持って学生の列に並ぼうとすると、いきなり目の前に大柄な男子が仁王立ちに立っている。
「慎吾……そこどけよ。列に並ぶ邪魔だろうが」
「雄太か……今日はお前に用はない」
大柄の男子と雄太は知り合いのようだが、仲が悪いようだ。
大柄な男子は雄太を無視して、光輝をじっと睨みつける。
「俺は2年C組の佐々木慎吾だ。お前がひまりと噂になっている男か? あの噂は本当か?」
佐々木慎吾は大柄な男子で、身長185cmを超えているだろう。
何か格闘技でもしているのか、シャツの上からでも筋肉隆々なのがわかる。
多分だが、佐々木慎吾はひまりのことが好きなんだろう。
だから今回の噂の件で、怒っているのだろうと見当をつける。
「どんな噂が流れているのか、俺は知らないし。俺には関係ない」
「ひまりがお前に告白したという噂が流れている。それは本当か?」
あれを告白というのだろうか。
確かに好きとひまりから聞いたが、そこから先を聞いていない。
その前に、頭を整理する時間をもらったんだった。
「あまり変な噂を信じないほうがいい。ひまりに失礼だろう。ひまりは美少女だよ……俺とは釣り合わない」
「そうだ。ひまりは美少女だ。だから告白する者も絶えない。だが今まで1度もひまりから好きな男子の話を誰も聞いたことがない」
「まだ決まった男子はいないかもしれないよ。思春期の女子の心なんて明日になったら変わっているもんさ」
その言葉を聞いて慎吾は腕を組んで真剣に悩んでいる。
こんな言葉に乗せられるなんて、腕力はあるが、頭は脳筋かもしれない。
雄太は納得いかないような顔をしているが、武彦は少し安心した顔をしている。
学食の列に並んで、慎吾だけを残していく。
トレイの上に日替わり定食を乗せて、空いている席に座る。
まだ、慎吾は立ったまま動かずに、その場で悩んでいる。
雄太はそんな慎吾の姿を見て鼻を鳴らす。
「あいつはひまりのことになると頭が変になるんだ……あの脳筋は」
「雄太、慎吾とは知り合いなのか?」
「あいつは空手部所属で、いつもクラスでボス面している奴なんだ。俺はそれが気に入らなくて、何回か喧嘩しそうになったことがある……俺は偉そうな男子は嫌いなんだよ」
「雄太もクラスでは十分に威張っているようにみえるけどね」
武彦が余計なことを言ったばかりに、隣にいた雄太からヘッドロックを受ける。
武彦から悲鳴があがる。
マイペースな二人だ。
日替わり定食を食べ終わって雑談をしていると、隣の空席に誰かがスーッと座った。
良い香りが漂ってくる。
振り返るとニッコリと微笑んだひまりが座っている。
「待ちきれなくて……来ちゃった」
慎吾のほうを見ると、慎吾もこちらを見ていて、目が合ってしまった。
とても気まずい。
慎吾がドシドシと足音を立てて近寄ってくる。
それに気がついて、ひまりが慎吾に無邪気に手を振る。
慎吾は顔を赤くして少しだけ手を振り返す。