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4話 ひまりの想い

 ひまりが抱擁の力を緩めて、体を離す。

顔は真っ赤になっていて、とても恥ずかしそうに体をモジモジしている。

恥ずかしいのはこちらも同じだ。


 クラスの生徒達がこれからの様子をじっと見守っている。

その中を浩平と凛香が歩いてきた。



「ひまり、座席で良い席になったからと言って、隣の人に抱き着いてはダメだよ」


「人前で何をしてるのよ。クラスのことも少しは考えてよ。皆、大騒ぎしてるじゃない。これだとクラスがまとまらないのよ。困るのは浩平でしょう」


「僕のことはどうでもいいんだ。一体、何があったのか教えてほしいな」



 雄太も武彦も黙ったまま、浩平と凛香のことを無視する。

もしかすると2人共、浩平と凛香のことが苦手というか、嫌いなのかもしれない。

まだ抱擁された感触が体に伝わって、上手く言葉が出て来ない。

ひまりが顔を赤くしながら、浩平のほうへ顔を向ける。



「ごめんね。隣が光輝だったから嬉しくって……つい抱き着ちゃったの。ただそれだけ……他には騒いでないよ」


「なぜ? となりが光輝だと嬉しいのかな? 君はクラスでも注目されている女子なんだけど?」


「他人が私のことをどう見ていようが、そんなこと私、知らないよ。私は光輝が好きなだけ……それでいいじゃん」



 ひまりが自分のことを好き……そのことを今、聞いたんですけど……

その言葉を聞いて、雄太、武彦、その他のクラスの男子の自分を見る目に殺気がこもって怖い。

ひまりはそのことに全く気付いていないようだ。



「学年NO.1ギャルのひまりくんに好きな男子がいるとは思わなかったよ。隣に好きな男子がきたので、少し騒いでしまったというわけか……これからは自重してほしい。よろしくお願いするよ」


「私も気づいたら、抱き着いてて……ちょっと恥ずかしかったから、皆の前ではやめておくわ」



 遠くの窓際から小室先生がこちらを見ている。

すこし困った顔で笑っている。



「不純異性交遊は校則違反だからな……学校の中では自重しろよ」



 クラスの皆は小室先生の言葉を聞いて大笑いする。

クラスを支配していた妙な緊張感が薄れていくのがわかる。

小室先生もクラスの雰囲気を変えるために発言してくれたのだろう。

しかし、完全に小室先生には勘違いされてしまったようだ。


 まだ、ひまりに自分の意思を伝えていない。

でも何といえばいいのだろう。

相手は絶世の美少女だ。

こんな美少女に言い寄られれば、誰でも少しは良い気分になってしまう。

まだ女子と付き合ったことがないし……今まで女子と付き合うという前提で生きてこなかった。

できれば考える時間というか……心の準備ができる時間というか……お互いを知り合う時間がほしい。



「光輝も、これから大変になると思うけれど、頑張ってね。何が問題が起こったら、いつでも相談してくれ。君の問題はクラスの問題でもあるからね」


 そう言って、浩平と凛香は自分達の席へと戻っていった。

ひまりも胸に手を置いて、深呼吸をして自分の席に座る。



「さっき……言ったこと……遊びじゃないから」


「うん……」


「答えをもらえたら嬉しいな」


「急にひまりのような美少女から好きと言われても、正直に言えば信じられない感覚だよ。頭の中がパニックで何も考えつかない……少し待ってもらえないかな。少しだけ頭を整理したいんだ」



 その言葉を聞いて、ひまりが泣きそうな顔になり、目に涙を浮かべている。

振られたと勘違いしているようだ。



「私のこと嫌い?」


「外見で言えば好きだよ……でも、まだ初めて隣になったばかりだし……内面の性格も知らないし……外見だけで女子のことを判断するのは、女子に対して失礼だと思うんだ。だから内面も知っていきたい……そのうえで判断したいんだ……この答えじゃダメかな」



 ひまりはシャツの袖で涙を拭いて、すぐに笑顔を取り戻す。

その笑顔は朝日に照らされた花が開いたように美しい。



「ダメじゃないよ。全然ダメじゃない。その答えを聞けただけで十分だよ。これからは私の内面や性格を見ていってね。私、絶対に光輝好みの女子になるから」



 手をグーに握って、気合をいれている。

そして、不思議そうにひまりが顔を眺めてくる。



「聞くのを忘れてたんだけど……光輝の好きなタイプの女性って、どんな感じだろう? 教えてくれない?」


「今まで女子を好きになったことがないからわからない。たぶん、好きになった女子がタイプだと思う」



 今まで女子と普通に会話したことはあまりない。

委員会の役員や、何か必要な時だけ会話したくらいだ。

女子から近寄って来られた記憶もない。

自分でも考えながら情けなくなってきた。



「私、光輝の女子友達、第1号でいいのかな……第1号いただきまーす。連絡先の交換をしよう。スマホ出して」



 ひまりは嬉しそうに、小さくガッツポーズをする。

そして、スマホを取り出すと、連絡先を交換する。

スマホは買っていたけど、誰にも連絡先を聞かれたことはなかった。

スマホに初めて、ひまりが登録された。



「これで夜でも連絡できるね……いっぱい連絡しちゃうんだから……エヘヘ」



 ひまりは太陽のような向日葵のように微笑んだ。

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