39話 過去の真実
体育祭は学年総合1位という輝かしい成績でA組は終わった。
教室内は大騒ぎとなり、皆は大盛り上がりだ。
珍しく浩平に「ありがとう」という言葉をもらうこととなった。
その夜にひまりから急な連絡が入った。
ひまりのお父様である伊集院秀樹に光輝の活躍を自慢したところ、
伊集院秀樹は喜んで、是非、家で体育祭の祝いをしたいと言っているということだ。
体育祭の次の日は代休なので、光輝としてはすることもない。
家で1日、疲れを取るつもりでいたのだが、伊集院秀樹からの申し出を断るわけにもいかない。
《わかった……明日の夕方にひまりの家に行けばいいんだな》
《うん……夕方に光輝を迎えにいくから、それまで待っててね……私、明日が楽しみ》
そう言って、ひまりとの会話を終えた。
ひまりの家ではどんなご馳走がでてくるのだろうか。
◇
夕方に家の近くまでリムジンに迎えに来てもらい、後部座席に乗ってひまりの家に向かう。
リムジンの中でひまりはずっと光輝に寄り添っている。
「だって、体育祭の時は皆がいるから、そんなに抱き着けなかったし……あんまり寄り添えなかったし……今、光輝に甘えておかないと、甘える時間がないし……」
それがひまりの言い分らしい。
ひまりらしいと言えばひまりらしい。
光輝はひまりの髪を優しくなでる。
するとひまりは気持ちよさそうに目を伏せる。
ひまりの家に着いて、今日は食堂に通された。
食堂のテーブルにはフカヒレ、北京ダック、ローストビーフなどの高級料理が並べられている。
光輝は家政婦に案内されるままに席に座る。
もちろん隣にひまりも座る。
すこし時間が経った頃に、和風姿の伊集院秀樹が食堂に入ってきた。
そして光輝達の対面の席に座る。
「体育祭では大活躍だったとひまりが自慢していたよ。さすが高賀さんの息子さんだけある」
「お褒めにあずかり、ありがとうございます。俺の両親も運動神経は良かったんですか?」
「君のご両親は2人共、警察官だったのだから……それも特殊部隊の警官だった。運動神経は良いに決まっている」
光輝は初めて、自分の両親が特殊部隊に所属していた警官であることを知った。
やはり、ひまりの父親である伊集院秀樹のほうが、光輝よりも、自分の両親について詳しそうだ。
「俺の両親はどんな両親だったんですか?」
「2人共、仲睦まじい夫婦だった。常に特殊部隊の中でも2人一緒に行動していることが多かった」
「なぜ、ひまりのお父さんが、俺の両親のことについて詳しいんですか。前に来た時も不思議だったんです」
伊集院秀樹は渋い顔になって、話していいものか考えている様子だった。
時折、ひまりを見て腕を組んで悩んでいる。
「こうして光輝くんとも、ひまりは仲良くなった。そろそろ真実を話したほうがいいだろう。このまま黙っていても仕方ないだろう。今日は真実を伝えるとしよう。ひまりも真剣に聞きなさい」
光輝に寄り添っていたひまりも父親の真剣な声で、緊張したようだ。
「実はひまりが7歳の時に誘拐するぞと、脅迫電話が入った。はじめは悪戯だと思っていたが、気持ち悪いので警察に相談した。その時に家に派遣された警察官が光輝くんのご両親2人だった。ひまりのことをよく可愛がってくれる2人で、ひまりもよく懐いていた」
「犯人は現金目当てに本当にひまりを誘拐した。警護をしていた君のご両親2人は深く責任を感じていた。2人共、家に泊まって警戒していたのだからショックも大きかっただろう」
光輝の両親はひまりの誘拐を阻止するために、ひまりの家に泊りがけで警護していたのか。
ひまりは、この話を聞いたのは初めてなようで、少し顔を青ざめている。
「犯人は何年も前から、使用人として、私の家に潜り込んでいた者だった。素性もわかっていたので、警察も警戒が緩んでしまった。そこを狙われた」
何年も使用人として潜伏していたなら、信頼も厚く、伊集院秀樹も警察官も犯人を特定することが難しかったことは理解できる。金のためなら何年間も計画を立てる犯人もいる。
「ひまりは港地区にある廃倉庫の一室に囚われていた。特殊部隊の警官が何名も倉庫を取り囲み、犯人が絶対に逃げられないようにして、部屋の一室へ飛び込んだ。その突入部隊の中に光輝くんのご両親も一緒だった」
たぶん父さんと母さんはひまりのことが好きだったんだ。よく懐いてくれている幼児だし、幼少の時の光輝とダブってみていたのかもしれない。これはあくまで光輝の想像だが。
「犯人は拳銃を所持していて、ひまりにとって非常に危険な状態だった。それを君のご両親2人が突入してひまりを保護した。その時にアクシデントが起きた。ここから先は君にもひまりにも聞かせたくない」
ここまで聞いておいて、後を聞かなければ納得できない。
それに両親にまつわることは、光輝は何でも聞いておきたかった。
伊集院秀樹は涙を流して、光輝に頭を下げた。
「2人はひまりを保護したが、その時に犯人の銃口の前に立つことになってしまった。防犯ヘルメットは開けたままだった。今でも防犯ヘルメットさえ閉めていれば、君のご両親は助かっていたかもしれないと思うと、悔やんでしかたがない」
「父と母は防犯ヘルメットを開けたまま、犯人の銃口の前に立ったんですか?」
「ああ……そうだ。これは私の想像だが……ひまりを保護した時に、銃口を向けられて、とっさに防犯ヘルメットを下せなかったのだと思っている……そして君のご両親は犯人の銃弾によって命を失った。それでも警官隊が突入してくるまで、ひまりを守ってくれた恩人だ。だから君のご両親に謝りたい。そして、ひまりを助けてくれてありがとうと今でも言いたかった」
光輝はそれを聞いて、初めて両親が何をして命を落としたのかを知った。
まさか、ひまりが幼少時代に誘拐され、ひまりを守るために、自分の命を引き換えにしているとは思わなかった。
それを聞いた、ひまりは一言も何も言えず、体を両腕で抱えて震えている。
何か嫌なことを思いだしたらしい。
唇が紫色になっていて、何かを口の中で呟いている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……死なないで……死なないで……私を1人にしないで」
光輝はひまりを心配して、体を抱き寄せて、背中をなでて、落ち着かせようとするが、ひまりは発作状態寸前の状態だ。
「伊集院さん、両親のことを教えてくれてありがとうございます。ひまりの様子が変です。ひまりにはショックが大きかったと思います」
「ひまりにも本当の話をしたのは、これが初めてだ。ショックを受けて当然だ。少し部屋でひまりは休ませよう。柴田、ひまりを自室へ連れていって、少し様子を見ていてくれ」
家令の柴田さんは頭を深々と下げて一礼をすると、ひまりを抱き上げて、食堂から姿を消した。




