35話 体育祭②
障害物競争が始まった。
障害物競争の選手は網の下を潜り、平均台の上を走り、麻袋に両足を突っ込んで走って、懸命に競技を
こなしていく。
途中で転倒する生徒も続出し、体育祭を大いに盛り上げた。
障害物競争が行われている最中に、借り物競争へ参加する生徒達は集合場所に呼ばれて、武彦も集合場所へ走っていった。
武彦は3番目の走者として、借り物競争の列に並んでいる。
武彦の順番が回ってきて、スタート地点に立つ。
良いスタートをきり、借り物のクジが入っている箱に1番で到着する。
そして、クジを引いて武彦は顔を真っ青にする。
係員に何か抗議しているが、何を言っているのか光輝の場所までは届かない。
係員は笑って武彦の抗議に手を振って却下する。
武彦はトラックから離れ、クラスまで戻ってくると、クラスで一番控えめで、あまり目立たことのない、倉木若菜と言う女生徒にクジを見せている。
若菜は驚いた顔をした後に、顔を真っ赤にして硬直している。
その手を武彦は強引に握って、若菜を連れてトラックに戻って、借り物競争の競技を続ける。
結果は3位。
3位の旗の元に武彦と若菜は2人で立っているが、2人共、なぜか顔を赤らめたまま俯いている。
借り物競争が終わって、クラスに戻ってくると、なぜか若菜は小走りに武彦から離れていった。
「若菜を連れ出して一体、何のクジを引いたんだ?」
「それがさ……クジの内容が「好意を持っている生徒」と書かれていたから若菜に頼んだんだ。俺……若菜のことが好きだったんだよ」
「ええ―――!」
「そんなの俺も全く聞いてねーぞ。若菜のことなんてほとんど知らねーし」
雄太が武彦の頭をヘッドロックして「全てを吐け」と叫んでいる。武彦は雄太から逃れようと必死だ。
「光輝も雄太も知らないだろうけど、若菜は眼鏡を外すと美少女なんだ。目立たないから知らなかっただろう。若菜は大人しいし控えめだけど、胸も大きいしスタイルもいいんだ。俺だけが気づいてたんだよ」
若菜の外見と佇まいを好きになったということか。
いきなり好意を持ってると言われた若菜のほうが驚いただろう。
今も三角座りをしたまま、両手で顔を覆っている。
ひまりが武彦の頭をコツンと叩く。
「それじゃあ、皆の前で若菜に告白したのと同じじゃん……若菜は大人しい子なんだよ……恥ずかしいにきまってるじゃん……武彦はもっと女子を大事にしないとダメ……私、若菜を励ましに行ってくる」
ひまりが渚を連れて、若菜の元へ走っていく。
そして若菜の隣に2人で座って、若菜を励ましている。
ひまりと渚が話しかけると、涙目になっていた若菜が無言で頷いている。
「ひまりと光輝も学年公認の仲だしさ……俺も早く彼女が欲しかったんだよ……良い機会だと思ってさ」
「お前、バカじゃねーの。皆の前で告白したようなもんじゃん。恥ずかしがって断られるぞ」
「ええ―――!」
武彦は雄太にまでバカにされて、その場にへたり込んで落ち込んでいる。
自業自得だと思う。
少しは武彦も反省したほうがいい。
ひまりと渚が若菜の元から戻ってきた。
「若菜……驚いてたわよ……どうしていいかわからないって。いきなり好きって言われたんだもん。混乱するのは当たり前だよ。でも武彦のことは嫌わないって。お友達にはなってくれるって言ってたわ」
「それは本当か? マジで友達になってくれるのか?」
「その代わり、あまり若菜をスケベな目でみないであげて、若菜は大人しくて、か弱い女子なんだから」
「ヨッシャァア―――!」
武彦はひまりからの答えを聞いて、喜んで雄たけびをあげてガッツポーズをとる。
そういう所をやめてくれと言われているんだけどな。
全く武彦には聞こえていないようだ。
「俺にもやっと春がやってきたかもしれねー。俺、頑張るからな」
武彦は舞い上がるように棒倒しの集合場所まで走っていった。




