31話 体育祭の練習①
これから体育の授業は、体育祭の練習に当てられることになった。
今回の体育の授業は男子は騎馬戦と棒倒しの練習となった。
浩平は、男子生徒の指導に余念がない。
特に騎馬戦の馬の配置にはこだわりを持っているようだ。
なぜか雄太と武彦の騎馬の上に、光輝が騎手に選ばれていた。
なぜ光輝が騎手かと浩平に問いかけたところ、「いつもの影の薄さを発揮してもらう」と言われてしまった。
浩平としては嫌味を言っているつもりだろう。
しかし、光輝は妙に納得してしまった。
騎馬戦と棒倒しは、この体育祭でも男子の花形だ。
浩平としては絶対に負けるわけにはいかない。
何回も騎馬のフォーメーションを確かめて、動きをチェックする。
「騎手はきちんと騎馬に命令を出して、騎馬を誘導すること。騎馬は騎手を落とさないように、きっちりと騎手を守ってくれよ」
騎馬の動きをみながら浩平が的確な指示を飛ばす。
騎馬戦では周りを囲まれれば、騎手の鉢巻きを取られる確率が高くなる。
だから騎馬の単独行動は危険だ。
きちんとしたフォーメーションと連携プレイが要求される。
浩平は全体を見回しながら、次々に新しいフォーメーションに挑戦していく。
どのフォーメーションが良いのか探っているのだろう。
指示される度に騎馬の生徒達は大幅に動かなくてはならない。
「指示するのもいいが、俺達、騎馬のことも考えてくれ……もう足腰がガクガクしてきたぞ」
「俺も膝が笑ってきた……もう限界だ」
浩平がフォーメーションを確かめている間に、騎馬になっていた生徒達は体力を無くして倒れていく。
3名の男子で1名の男子を抱えて、激しく動きまわっている。
体力の消耗もかなりのものだろう。
「ごめんな……俺が重くて……」
「別に光輝が重いわけじゃない。騎手の中では軽いほうだと思う。ただ騎馬は体力の消耗が激しいんだ」
武彦がそう言って笑ってくれる。
雄太はまだ、余裕がありそうで、立ち上がって膝を屈伸させて、体の調子を整えている。
さすがは運動部。
それから後も、少し休憩を挟みつつ、騎馬戦の練習を行っていく。
浩平は、騎馬戦のフォーメーションを見ながら、色々な陣形を試していく。
「騎馬戦に勝つには、相手の陣形を見ながら、自分達の陣形も変えて、有利に戦っていく必要がある。陣形によって勝者となるか、敗者となるか決まるといってもいいな。もっと勉強が必要だ」
陣形の勉強は机の上でしてほしい。
実践練習で付き合わされている生徒達の身にもなってほしい。
最後に試合形式の騎馬合戦を行った。
一方は凸型の陣形で、もう一方は両翼に広がる陣形だ。
凸型の陣形は大将の騎馬を守るには適しているが、攻めるには不向きな防衛の陣形だ。
両翼に開いた陣形は、1対1の騎馬戦に持ち込みやすく攻撃に適している陣形といえるが、大将騎馬が孤立してしまう可能性があり、危険なことがわかった。
「よし、理想的な陣形を思いついた。凸型から横2列型の陣形が良いと思う。これから、それで練習する」
やっと浩平が納得のいく発言を漏らした。
それを合図にして騎馬の練習が終わった。
◇
「騎馬戦の練習が終わったら、棒倒しの練習に切り替えるぞ」
今日の体育の授業はいつもよりもハードだ。
生徒からブーイングが飛ぶが、それを体育教師は無視する。
どうも体育教師は騎馬戦と棒倒しが好きなような気がする。
これから棒倒しの練習だ。
棒倒しの根本の防衛役には雄太と浩平が受け持つことになった。
2人共、体力があり、細マッチョだからだ。
武彦と光輝は遊撃に回ることとなった。
棒を倒さずに支えながら、浩平が攻撃部隊の動きを見て的確に指示を出していく。
「もっと早く攻めないと、味方の棒が危なくなるぞ。1人の生徒に2人から3人で攻めていけ。1点突破をするんだ。目標をバラバラにして動くな」
浩平の横から雄太の声も飛ぶ。
「弱い場所から攻めていけばいいんだよ。強い奴は囲んで引きずり倒せ。時間をかけるな」
こういう時だけは、雄太も浩平と意見が一致し、息がぴったりだ。
何回も練習している間に棒倒しの要領も段々と上手くなってきている。
あとは体育祭当日まで練習を繰り返すしかない。
今回の体育の授業のは騎馬戦の練習と棒倒しの練習だったので、男子生徒達は体育の授業が終わるとクタクタになってしまった。そのままグラウンドにへたり込んでしまう生徒達も多い。
光輝もグラウンドでへたり込んでいると、ひまりが水筒とタオルを持って走ってきた。
そして、光輝の隣へ座る。
「今日の体育の授業……大変だね。騎馬戦や棒倒しって危険なんでしょう?」
「十分に練習をしているから、怪我をする心配はないと思うよ」
「これ麦茶、後から雄太達と分けて飲んで……それと光輝専用のタオルを持ってきたよ」
「ありがとう……喉がカラカラで動けなかったんだ。汗と埃でタオルは汚れるけどいいのか?」
「うん……気にしないで」
光輝はひまりからタオルを受け取ると、首の周りの汗を拭きとる。
そして、水筒のフタを開けて、一気に麦茶を喉へ流し込む。
冷えた麦茶が喉を通って美味しい。
「ひまり……ありがとう」
光輝は顔を汗を拭きながら、ひまりに向かって微笑んだ。
それを見て、ひまりも嬉しそうに微笑む。




