23話 お泊り会、ひまりと2人
雄太、武彦、渚の3人は昼食を食べて、15時には自分達の家に帰っていった。
3人が帰る時に光輝とひまりも一緒に家を出て、家の近くにある公園のベンチに座っている。
ひまりは荷物の全てを光輝の隣の部屋の洋服タンスに入れたまま、帰りは手ぶらだ。
本気で、荷物を全て光輝の家に置いていくとは思わなかった。
「早く光輝と一緒に住みたいな……私、光輝の家が気に入ちゃった」
「おいおい……俺達、まだ付き合ってもいないんだぞ」
軽くたしなめるが、ひまりは全然、気にしていない。
光輝の隣に座って、体を寄り添わせている。
「別に今は答えをもらわなくてもいいもん……それ以上の光輝の気持ちをいっぱいもらってるから」
ひまりは嬉しそうに腕に手を回して、頭を光輝の肩に置く。
「私が絶対に光輝を離さないもん……ずっと一緒にいるんだから」
「こんな俺のどこが良いんだろうな? 自分ではわからないな」
「全部……全部が大好きなの……それでいいの」
ひまりは口から甘い吐息を漏らす。
公園に昼下がりの陽光が差し込んでくる。
ひまりの茶髪のミディアムの髪が、陽光に照らされて輝いている。
寄り添っているひまりの体から良い香りが漂う。
「このまま時間が止まっちゃえばいいのに……そうなったら、ずっと光輝と一緒でしょ」
返答に困ることを言う。
まだ、光輝としては、ひまりとのことを決めていないのに。
しかし、自分でも徐々にひまりに心を開きかけているのを実感する。
確かに光輝はひまりに惹かれている。
「私が安心して甘えられるのは光輝だけ……光輝は受け入れてくれるもの」
今日は休みだし、皆も帰ったのだから、ひまりが好きなだけ甘えさせておこう。
学校でここまで甘えられても困るし、恥ずかしいからな。
「喉は乾かないか?」
「うん……少し乾いたかも……」
光輝はベンチから立ち上がると公園に設置されている自動販売機から、オレンジジュースとコーラを買って、
ひまりにオレンジジュースを手渡す。
オレンジジュースのペットボトルのフタを取って、ひまりが小さな口でコクコクと飲んでいく。
とても美味しそうだ。
光輝もコーラのペットボトルのフタを取って、一気に飲む。
「美味しい」
「美味いな」
2人でオレンジジュースとコーラを飲み干して、ごみ箱に入れて、公園を出る。
それから2人で手をつないで、三雲高校の校門を目指して、道路を歩く。
このあたりの道路は狭く、歩道がついていない。
車道側を光輝が歩いて、2人で寄り添う。
「今度、私の家に遊びに来て……お父様とお母様にも光輝のことを紹介したいの」
「それはきちんとひまりと付き合うようになってからな。俺にも心の準備が必要だから」
「うん……それでいいよ。お父様もお母様も、きっと光輝のことを気に入ると思うから、安心してね」
いきなり、ご両親に会ってほしいと言われて、光輝は内心焦る。
女子のご両親に会うなんてことは、今まで考えたこともなかった。
こんなにも緊張するものだったのか。
できれば会わずにすませたいと思うが、ひまりの嬉しそうな笑顔を見て、何も言えない。
校門に着くと、まだ迎えのリムジンが到着していない。
「そういえばスマホで迎えを呼んであるよな?」
「ううん……今からスマホで迎えを呼ぶね」
既に迎えを呼んでいると思っていたのに、ひまりは今から連絡するという。
「だって、少しでも長く光輝と一緒にいたかったんだもん」
その言葉を聞いて、光輝は何も言えなくなった。
後30分から1時間、家に帰るのが遅くなっても、別に家で何かをする用事はない。
「休みの学校って興味ない? 中へ入ってみようよ」
そういえば休日の学校の中へ入ったことがない。
少し興味がある。
ひまりと手をつないで、2人で三雲高校の校門をくぐる。
中に入ると閑散としていて、生徒達も疎らだ。
たぶん部活に来た生徒達だろう。
そのまま、校舎の中へ入って、中庭に出る。
「お前達、休みだというのに何をしているんだ?」
声をかけられて振り返ると、小室先生がホースを持って水を撒いていた。
「先生こそ、中庭で何をしてるんですか?」
「今日は日差しがきついだろう。だから中庭の花壇に水を撒いていたのだ。これも立派な教師の仕事だ」
教師の仕事も色々とあるみたいだ。
ひまりと光輝は楽しそうに花壇に水を撒いている小室先生をジッと見る。
「別に楽しんでいるわけではないぞ。私は花が好きなだけだ。それよりも2人共、休みの日にどうした?」
「近くを通ったから、休日の学校を観察しようと思いまして」
「お前達……忘れていると思うが、ゴールデンウィークが終わると中間考査のテストが始まるぞ。テスト準備はできているのか?」
そういえば中間考査のテストが迫っている。
ひまりが、中間考査と聞いて息を詰まらせている。
完全にそのことを忘れていたようだ。
「休日に2人でイチャつくのは勝手だが、休日でも学校では禁止だからな。そのことは覚えておくように」
「「はーい」」
「わかったら、家に帰れ。私もまだ仕事がある。お前達のように暇ではないのだ。教師も労働者だからな」
小室先生は水のホースを光輝達に向けて、水を撒いてくる。
仕方なく、光輝とひまりは手をつないで、中庭を出て校門へ向かった。
校門を出ると、ひまりを迎えに来たリムジンが止まっており、家令の柴田さんが立っていた。
「お迎えに参りました。お父様から光輝様にご伝言がございます。今度、暇な時に家に遊びにくるようにと、申されておりました」
「今度……暇な時に都合が合えば、伺いますとお伝えください」
いきなり、ひまりのお父さんが登場するのは勘弁してもらいたい。
まだ、付き合ってもいないのだから、挨拶にいくのもおかしな話だ。
ひまりは嬉しそうに手を叩いて、喜んでいる。
「じゃあ……光輝……私、帰るね」
「ああ……家に帰ったら、ちゃんと勉強するんだぞ。小室先生も言っていただろう」
「うん。わかった。家に帰ったら、すぐに光輝に連絡する」
全く小室先生が言っていたことは無視されている。
ひまりは、いきなり光輝の胸に駆け込んでくると、首に手を回して、頬に軽くキスをする。
そして、照れたように顔を真っ赤にして、リムジンの中へ乗り込んだ。
柴田さんが運転席に乗り込むとリムジンは静かに走り去っていった。
光輝はリムジンが小さくなるまで、校門の前で見守り続けた。




