2話 特等席
私立三雲高校の2年生にあがった学生達は掲示板の前に立って、自分達の教室を探し出す。
高賀光輝は2年A組の教室へ入り、暫定的に決められた席に座る。
しばらくすると、掲示板に群がっていた生徒達が全員、教室の中へ入って、暫定の席へと座る。
教壇には新しく担任になった小室陽子先生が立っている。
「さて、これから、お前達が2年A組の生徒と決まった。私としては、平和で何もなく平穏に2年生の生活を謳歌してほしいと思っている。まずは席替えをしようと思う。だれか司会をしてくれると助かる」
1人の男子生徒が挙手して、席から立ち上がった。
そして教壇へ向かう。
小室先生は教壇から離れて、窓際で様子を見ている。
男子生徒は人を魅了する笑顔を浮かべて自己紹介をする。
かなりのイケメンだ。
「僕の名前は平田浩平と言う。クラスの皆と早く仲良くなりたいと思っている。名前を覚えてほしくて、教壇に立ちました」
女子達は浩平の甘いマスクを見ると、静かになって顔を赤く染めている。
すでに浩平は多くの女子達を味方につけたようだ。
「僕1人だと大変だから、後1人、アシスタントをしてくれる人がいると助かる」
「私がやるわ」
1人のポニーテールの美少女が教壇にあがる。
「私の名前は香内凛香と言うわ。皆、よろしくね」
凛香はかなりの美少女だ。今まで騒いでいた男子たちも、黙って凛香を見ている。
すると窓際で見守っていた小室先生が、忘れていたかのように重要なことを話し始める。
「この席替えは、1学期の間は変わらないからな。1度決まったら、1学期の間は我慢してもらう」
1学期中、席替えが行われないなんて、1年生の時はなかった。
1年生の時は1カ月に1回は席替えがあったからだ。
その言葉を聞いて、男女問わず生徒達にブーイングが起こる。
「どの席に座りたいか、皆、色々と思っていると思う。だから公平にクジで決めたいと思う。恨みっこなしの1発勝負だ。これなら異論はないだろう。運が良いか、運が悪いかだけだから」
浩平はそう言って、皆の答えを待つ。
生徒達はまだ多少のブーイングはあったものの、浩平のクジをするという提案に反対しなかった。
凛香は段ボールの中にクジを折りたたんで入れていく。
これで1学期の明暗がわかれると言っても過言ではない。
光輝はあまりクジ運がよくない。どうせ、良い席には座れないだろうと思う。
それでも、絶対に教壇の前の席にだけはなりたくないと思う。
教壇の前に座ると、教師から全てが丸見えだからだ。
出来上がったクジは段ボール箱へ入れられて、右端の列からクジを引いていくことになった。
教壇の前だけは避けますようにと祈りながら、光輝もクジを引く。
黒板に座席表が書かれていて、ランダムに書かれている。
クジだけではなく、黒板に書かれている数字も運試しだ。
光輝が引いた番号は18番。
黒板の座席表を見ると、窓際の列の一番後ろの席だった。特等席と呼ばれる最良の席だ。
光輝は小さくガッツポーズをして喜んだ。
「座席が決まったら、それぞれ席に移動してください。これは運で決まったんだから、後から取り消しはないよ。自分の席を確かめて、移動してね」
浩平が教壇で爽やかに笑って、自分も教壇から降りて、座席の移動をする。
凛香も浩平の行動に続いて教壇をおりる。
窓際の列の1番後ろの席なんて、光輝のような影の薄い生徒にとっては、まさに特等席といえる。
すぐに席に移動して、席に座って周りを見回す。
クジ運が悪かった生徒達は、不平を言いながらも席に移っていく様子が見える。
そうならなかったことを光輝は喜ぶ。
日頃、くじ運が悪かったが、こんな時にラッキーが出た。
隣の席に茶髪のミディアムゆるふわカールの女子が座る。
隣から甘くて良い香りが漂ってくる。
顔を見ると、目元は涼やかな切れ長の二重、茶色の瞳、長い量の多いまつげ、きれいな鼻筋に、ぽってりした
甘い唇。透き通った色白の肌。胸も大きく、モデル体型だ。
絶世の美少女の顔が飛び込んできた。
1年生の時にすでに学年NO.1ギャルとして有名だった苑田ひまりが笑顔を向けて座っていた。
「君って、1年の時C組だった、高賀光輝だよね。少し影が薄いって噂だったけど、ちゃんと影あるじゃん。私はひまり。これから気軽にひまりって呼んでね。私も光輝って呼ぶからさ。仲良くしようね」
その言葉を聞いて、周りの男子生徒の視線が光輝に集まってくる。
できれば目立ちたくない。
「俺はひっそりしているほうが好きだから、そっとしておいてくれると嬉しいな」
「せっかく、隣になれたんじゃん。仲良くなろうよ。ねー……仲良くしよ」
上目遣いで瞳をウルウルと潤ませて、お願い事を言われると……だれでも受けて入れてしまうだろうが。
美少女というのは、こういう点を使うのが上手い。
光輝は少しズルいと思った。
それほどにひまりのポーズが可愛すぎる。
「俺に迷惑かからない範囲なら仲良くしよう」
「やったね! 以前から光輝には興味があったんだ」
始めて同じクラスになったはずなんだけど……なぜ、自分のような影の薄い男子を知っているんだ。
光輝の中で疑問が広がる。
「俺も仲間にいれてくれよ」
ドスの効いた声が光輝の前の席から聞こえる。
鋭い視線が光輝をとらえている。
「俺の名前は新井雄太だ。よろしくな」
新井雄太と言えば1年A組で問題児として有名だった男子だ。
この時点で、光輝のひっそりと暮らしていく計画は1時間も経たずに崩壊した。
 




