17話 スーパーへ
ひまりと手をつないで近所のスーパーまで歩いていく。
距離にして10分の場所にスーパーがある。
カートの上にカゴを乗せて、光輝が押して、ひまりは光輝の隣について歩く。
部屋を出る前に、渚が書いてくれた、買い出しのメモを見て、2人でカゴの中へ食料を入れていく。
ひまりはスーパーが珍しいらしく、色々な商品を触っては棚の中へ戻していく。
とても楽しそうだ。
「スーパーは楽しいか?」
「あまりスーパーに来たことがないの。全て家政婦さんがしてくれるから」
さすがは芸能一家。
家令もいれば、家政婦もいるのか。
ひまりがスーパーを珍しがる理由もわかる。
そう思いながら、光輝は棚に置いてある奥から商品を出してカゴの中へ入れる。
その姿を見て、ひまりは不思議そうな顔をしている。
「なぜ、さっきから棚の奥から商品を出してくるの?」
「ああ、それはな……棚の前に置いてある商品のほうが賞味期限が切れるのが早いんだ。ほらシールが貼ってあるだろう。日にちが違うのがわかるだろう」
「あ……本当だ。賞味期限の日付が違う。スゴイ……光輝って主夫になれるよ」
別に将来、主夫になる予定はない。
これは婆ちゃんから教わった知恵だ。
商品は店員によって、前に出されていくから、新しい商品は奥に置かれると教えてもらった。
婆ちゃんもよく、商品を棚の奥から出してきてたよな。
思わず婆ちゃんのことを思い出す。
「それじゃあ、光輝ってお爺ちゃんとお婆ちゃんに育てられたの?」
「ああ……そうだ。中学校まで別の土地で暮らしていた。高校になって、三雲高校に合格したから引っ越して
きたんだ」
「三雲高校に合格していなかったら?」
三雲高校に合格していなかったら、祖父母の家の近くの高校を入試していただろう。
そうなっていれば、今のように、ひまりと出会うこともなかったのか。
「まだ祖父母の家で暮らしていたかもしれないな」
「じゃあ、私達が出会えたのは、すごい偶然なんだね」
「そうだな」
「運命の赤い糸で私達って結ばれているのよ」
ひまりは目をキラキラと輝かせて、胸に手を持っていって、感極まっている。
運命の赤い糸って、少し古くないか。
なぜ、ひまりにそんな知識があるんだ?
「柴田に昔、教えてもらったの。結婚できる人とは、運命の赤い糸で結ばれているんだって」
なるほど……あの白髪の紳士がひまりに教えたのか。
光輝は妙に納得した。
柴田という家令とひまりは仲が良さそうだ。
ひまりが珍しそうにスーパーの中を眺めているので、光輝は全ての棚を見てまわることになった。
「今のスーパーってすごいね。炊飯器まで売ってるよ。電子レンジも置いてあった」
そういえば、炊飯器や電子レンジは普通は電気屋で買うものだ。
鍋やフライパンも売っているし。
今のスーパーは何でも置いているな。
便利でいいけど。
「光輝……冷たいアイスが食べたいの……買ってもいいかな?」
「ああ……今日、朝は涼しかったけど、暑くなってきたもんな……アイスを買おう」
「あれ? 私の知らないアイスばっかり……楽しい」
「それは良かったな……一緒に選ぼう」
ひまりと2人でアイスコーナーを回って、一緒のアイスを選んだ。
チョコレートバニラアイスだ。
それをカゴの中へ入れる。
レジにカートを運んで、カウンターの上にカゴを乗せる。
店員の女性が商品をバーコードに通していく。
素早く丁寧に、商品をカゴの中へ戻す。
財布を取り出して支払いを済ませて、レシートをもらう。
カゴをカーゴの上に戻して、荷物を入れるテーブルまで運んでいく。
光輝は手早く、丁寧に商品をビニール袋の中へ入れていく。
それをひまりは不思議そうな顔をしてジーっと見ている。
「光輝の入れ方が変。何か法則性でもあるの?」
「ああ……袋へ入れる時は重たくて大きいものから先にいれるんだ。なるべく形の整っているものがいい」
そう言いながら、光輝は丁寧に商品を袋にいれて見せる。
隣でひまりが小さく手を叩いて、笑顔になっている。
「すごーい……やっぱり光輝って主夫になれるよ」
「俺は大学を卒業したら、自分で働くつもりだ。主夫を目指しているわけじゃない」
2つの袋を両手に持って、スーパーを出る。
そして、袋の中からアイスを取り出して、ひまりに渡す。
ひまりは嬉しそうに、アイスの袋を破いて、中のアイスを小さな口に頬張る。
「つめたーい……美味しい」
「ああ……美味しいな」
光輝とひまりは家の近くにある公園に寄って、ベンチに座ってアイスを食べる。
陽光が差してきて、体が暑くなっているので、アイスがとても美味しい。
「なんだか、今日は休日を満喫してるって感じ」
「そうだな……こんな、まったりとした日もいいな」
ひまりは嬉しそうに光輝の体に寄り添って、頭を光輝の肩に置く。
そのまま、黙って、2人でアイスを食べる。
その時間がとても楽しい。
アイスを食べ終わってからも少しの間、2人はそのままの姿勢で春の日差しを楽しむ。
「さあ、渚が待ってるから、家に帰ろうか」
「うん」
光輝は両手に2つの袋を持っているので、いつものようにひまりと手をつなげない。
ひまりは光輝の腕に手を回して、寄り添うようにして顔を赤らめて、嬉しそうだ。
その笑顔は天使のようにキラキラとしていた。




