16話 お泊り会の午前中
ダイニングに置いてあるテレビに雄太がゲーム機を接続する。
数多くあるソフトをテーブルの上に乗せて、雄太と武彦はゲームに熱中する。
渚とひまりは仏壇のある部屋にある家具の中に、なぜか自分達の大きなバックからお泊り用の衣服を畳んで入れている。
ひまりだけでなく、渚も少し多めに衣類を持ってきたようだ。
バスタオルまで持ってきている。
「光輝の部屋がこんなにきれいだとは思わなかったの。バスタオルも置いていくから、後からでも自由に使ってね」
渚とひまりは衣装タンスを開けて、光輝の衣類を1つずつ丁寧に折り畳んで、入れ直していく。
なぜかとても楽しそうだ。
光輝の衣装タンスの中は、ひまりと渚の手によって、次々と入れ替えられ、整理整頓されていく。
「下着類と衣類が一緒に入ってるわよ。衣類はきちんと仕分けしないとダメよ。タオルまで
一緒に入ってるし……やっぱり男の子ね」
渚はそんなことを言いながら、テキパキと光輝の衣類を片付けていく。
時々、ひまりが光輝のパンツを広げているのを見て驚いている。
恥ずかしくて止めようとするが、ひまりが背中に隠してしまう。
「下着類は恥ずかしいから、そのままにしておいて。後から自分でキチンとするからさ」
「そう言って、光輝って絶対に片付けないんだよ。今日は皆が来るから大掃除したのを私は知ってるもん」
ひまりには大掃除をしていたことを学校で話していた。
ひまりは嬉しそうに、光輝の衣服を開いては体に当てて「大きい」と笑顔になって、畳み直す。
衣類の整理が終わると、女性陣はキッチンへ向かう。
すると、ひまりは自分のバックの中から砥石を取り出して、テーブルの上に置く。
渚は目を輝かせて、砥石を手に取る。
「これは名工の砥石ね。これで砥げば包丁が素晴らしく切れるようになるわ。早速、包丁を砥がしてちょうだい」
キッチンの下から包丁を取り出して、砥石に少し水をかけて、丁寧に包丁を砥いでいく。
その姿は真剣で、額から汗を流している。
光輝は一瞬だけ、昔テレビで見たことのある、『必殺仕事人』のワンシーンを思い出した。
渚は包丁を砥ぐのに忙しい。
ひまりが暇になってしまったようで、仏壇の置いてある部屋の中へと入っていく。
しばらくすると、白のニットのカーデガンに、花柄のスカートに着替えたひまりが現れた。
普段は元気で明るいひまりだが、上品な洋服もよく似合う。
次に部屋の中へ入っていって、オフショルの服にミニスカートを合わせた可愛い服を着ている。
あまりに暇になったひまりは、1人でファッションショーを始めたようだ。
それにしても、こんなに服を持ってきてどうするつもりだ。
そして、薄ピンク色のネグリジェに素足という格好で、恥ずかしそうに部屋から、顔を真っ赤にして出てくる。
思わず、光輝の目が点になった。
雄太と武彦もゲームをするのを忘れてガン見している。
渚も包丁を砥ぐのを止めて、慌ててひまりを部屋の中へ連れていく。
「おい……見たか。すごいセクシーな姿だったな……俺はこの瞬間を忘れない」
「俺も今日は来て、良かったと痛感している。猛烈に感動だ」
武彦と雄太が大声で騒いでいる。
光輝は意識が真っ白のなって思考不能だ。
あれは寝る時に着る服だろうか……あまりにもセクシーすぎる。
高校生男子の前で着るものではない。
「ひまり……この服は見せちゃダメでしょう。光輝だけに見せたらいいの。他の男子に見せてどうするの」
「だって……光輝に早く見てほしかったんだもん。渚のほうがセクシーなネグリジェ持ってるじゃん」
あれ以上の破壊力のあるネグリジェを渚は持っているのか。
それを聞いた雄太と武彦は、大きくガッツポーズをして、少しうれし泣きしている。
「もう、ファッションショーは終わりにしてね。きちんと片付けるのよ。せっかく畳んできれいにしてあったのに、また部屋の中が服でいっぱいじゃない。自分で片付けてね」
仏壇の部屋から渚の説教が聞こえる。
ひまりが渚に小さい声で「ごめんなさい」と謝っている声が聞こえる。
なんだか渚とひまりの立ち位置がわかったような気がする。
渚は本当の意味で、ひまりの保護者をしてきたんだろう。
部屋から出てきたひまりは、顔を赤くして、光輝の傍まで歩いてくると、一緒にテーブルの椅子に座る。
「ちょっと、やりすぎちゃった」
「そうみたいだな。今度からは渚のいうことをよく聞くんだぞ」
「うん。渚って普段はおっとりしているけど、怒ると怖いの」
なんだかわかるような気がする。
渚はしっかり者だ。
今も真剣に包丁を砥いでいる姿は職人そのものだ。
冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注いで、それぞれ皆に配る。
皆はそれぞれに自分の楽しみを見つけて、くつろいでくれているようだ。
「2人共、暇だったら、スーパーに買い物に行ってちょうだい。お昼ご飯を作らないといけないから」
そういえば昼食のことを忘れていた。
別に皆で外食してもいいと光輝は思った。
「今、砥いだばかりの包丁の切れ味を試したいの。お昼は簡単なものを私が作るわ」
渚はそう言って、包丁を握りしめてニッコリと笑んだ。
その姿を見て光輝は何も言えず、ひまりを連れてスーパーに行くことになった。




