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12話 呼び出し

 放課後に入り、早くに勉強道具を片付けて、かばんを持って席を立とうとする。

すると、ひまりに服の裾を引っ張られた。



「今日はいつもより急いで帰ろうとしているように見えるんだけど?」


「ああ……今日は少しだけ用事があってね。少し急いでるんだ。ひまり……また明日な」



 ジッとひまりは光輝の様子を観察する。

それも疑いを持った眼差しだ。

ひまりの勘が働いているのだろうか。



「今日はおかしいもん。いつもなら、ひまり達と少しお話して、それから雄太や武彦と一緒に学校を出るじゃん。それなのに、今日は1人で帰ろうとするなんて、絶対に変」


「だから用事だって言ってるじゃないか。嘘はついてないぞ」



 慎吾に会うのも立派な用事だ。

嘘はついていない。

光輝はまっすぐにひまりの瞳を見て話す。



「今日は、急ぎの用があるんだってさ。俺達も昼休憩の時に聞いていたんだよ」



 武彦がナイスアシストをしてくれる。

武彦と雄太の役目はひまりを無事に下校させることだ。

ひまりを巻き込みたくないから。



「俺も昼休憩の時に聞いたわ。今まで忘れてたけどさ」



 雄太も無表情で武彦の言葉に合わせる。

それでも、何か不満そうにして、ひまりは光輝の服の裾を離さない。

ひまりの隣の席になってから、こんなひまりは初めてだ。



「そんなことを言って、光輝を困らせるもんじゃないわよ。嫌われたらイヤでしょう」



 渚が帰る用意をすませて、ひまりの席まで歩いてきた。

渚はいつものおっとりした口調で、ひまりに注意する。



「こんなことで光輝は私のこと嫌ったりしないもん」



 ひまりは頬を膨らませて、渚に抗議する。



「私がひまりの相手をしているから、光輝くんは用事があるんでしょう。早く帰ったほうがいいわよ」



 渚がひまりの相手をしてくれると言う。

武彦と雄太もついている。

後のことを任せて、光輝は教室を出る。

その姿を、納得できないという顔をして、ひまりは見送った。







 自転車置き場に着くと、既に慎吾が待っていた。



「少し、遅れて申し訳ない。それで2人きりになったわけだけど、食堂での話の続きをしようか」



 光輝は制服のブレザーを脱いで、近くにあった自転車にひっかける。



「ひまりから手を引け。そうすれば痛い目に遭わせない」


「何度も同じことを言ってるけど、俺から言い寄っているわけじゃない。ひまりから俺に近寄ってくるだけだ」



 今では隣の席同士ということで、仲良くしているひまりだが、光輝から話しかけたことはほとんどない。

休憩時間なども、なるべく2人っきりにならないようにして、雄太や武彦とも一緒に過ごしている。



「それだとしても、お前が断ればいいだろう。お前のような影の薄い男子が、ひまりに近づかれること自体が奇跡だ。とても信じられん」


「そこは俺も同意見だな。俺のような影の薄い男子のどこが良いのか、ひまりでないとわからないけどさ」



 光輝のような、今まで小・中・高と影が薄かった男子としては、ひまりが何を考えているかは不明だ。

そういう意味では慎吾が納得できない理由も理解できる。

だから、自転車置き場まで逃げずにきた。



「このまま、俺のいうことを聞いて、ひまりが近くに来ても避けるようにしろ」


「それはイヤだね。俺は誰かに命令されて動くのが大嫌いなんだ」


「それなら仕方がない。腕ずくでも言うことを聞いてもらう」



 慎吾は光輝のシャツの胸倉をつかんで、吊し上げようとする。

光輝は慎吾の手首の関節を極めて、上に持ち上げられないように耐える。


 慎吾の右拳がうなりをあげて、光輝の右顔を殴りつける。

光輝は拳が当たる前に左に首を回転させて、顔に当たる瞬間を和らげる。


 慎吾はそのままの体勢で、光輝の鳩尾へ膝蹴りを叩き込もうとする。

膝蹴りが入る瞬間に、少し体を浮かせて、衝撃を和らげる。


 慎吾が胸倉を離して、右拳で光輝の左頬を殴り飛ばす。

光輝は右拳が当たる瞬間に、自分から派手に吹き飛んで、地面に転がる。



「何を派手に転がっている。お前、何か武術をやっているな。今も自分で飛んだだろう」


「少しだけ、小さい頃に爺ちゃんに仕込まれただけさ。武術は習っていない」



 嘘はついていない。

光輝は正式な道場に通ったことはない。



「おもしろいな……ただ、影が薄いだけの男と思っていたのに……少しは見直したぞ」


「見直してくれた、ついでに……もう喧嘩をするのを止めないか?」


「面白くなってきたのだから、止められるか」



 慎吾は真正面から光輝の首をつかみかかってくる。

光輝はその腕をつかんで、一瞬のうちに肘を捻ねる。

そして、手を添えて、遠心力を使って、慎吾を投げ飛ばす。

慎吾は仰向けに地面に転がされる。


 倒れている慎吾の腕を捻って、手首の関節を極める。

そして、慎吾をうつぶせにして、肩の付け根から腕を極めていき、身動きをとれなくする。

その一連の動作は、淀みがなく、スムーズで慎吾は抵抗もできなかった。


 光輝は慎吾の腕を捻り上げる。

これ以上、捻ると、肩が脱臼することになる。

慎吾はあまりの痛さに地面をタップする。



「わかった……お前の勝ちだ……もう俺はお前を過少評価しない。ひまりに近づいても文句は言わない」


「そんな言葉を俺が信じられないね。なぜ、校舎裏でなく、自転車置き場を選んだと思う」



 慎吾は倒れたまま荒い息をしている。



「自転車置き場には盗難防止のために、学校側が監視カメラを設置している。この現場もばっちりと映っている。お前は先に俺に暴力を振るった。俺は仕方なく、それを取り押さえた。正当防衛の現場が映っている」


「お前はそれが狙いで、最初に俺の暴力を受けていたというのか」


「後は、学校側が監視カメラを解析すれば、それが証拠になるだろう。もう陰で暴力を振るうことはできないぞ」



 これで慎吾の暴力に怯える学生は少なくなるだろう。

慎吾と光輝は学校からの呼び出し決定ではあるが。



「光輝……なぜ、光輝が慎吾を倒してるの? 状況がわかんないんだけど?」



 ひまりが慌てて、光輝の元へ走ってくる。

その後ろから雄太と武彦も追いかけてくる。

遠くに渚の姿もある。


 武彦も雄太もひまりの説得に失敗したようだ。

慎吾を倒している光輝の姿を見て、2人とも驚いた顔をしている。

ひまりは何も言わずに、光輝の所まで歩いてくると、光輝に抱き着いた。

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