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11話 会いたくない再会

 体育の授業が終わり着替えて、昼休憩となる。

この1週間はうまく慎吾と会わないで学食で食事ができている。


 その件については武彦と雄太も協力してくれている。

誰でも争いごとなど望んでいない。


 食券を買って、トレイに定食を持ってきてくれる係は武彦がしてくれている。

光輝はなるべく目立たない席を探して、座席を確保する役目だ。

雄太は常に学食内を見張ってくれている。


 目立たない座席に3人で座って、定食を食べる。

今日の日替わり定食は唐揚げ定食だ。

雄太が唐揚げを食べながら、今日の体育の授業を振り返る。



「今日の体育の授業、光輝のシュートすごかったな。今まで目立たない生徒だとは思えなかったぞ」


「目立たない生徒でも、時にはマグレがあるもんだよ。今日はちょっと調子が良かっただけさ」


「でもサッカー部に所属している浩平と当たり負けしていなかったぞ。今日の浩平はいつもより強引だったように思うんだけど」



 武彦の観察力はさすがに鋭い。

今日の浩平の動きを、冷静に分析している。



「浩平も少し熱くなって、空回りしてしまったんだろう。相手は素人だからな。普通にやれば浩平が勝つよ」


「それもそうだよな。浩平はサッカー部のエースFWだ。今日は調子がおかしかったんだろう」



 武彦は自分の観察結果を取り下げる。

浩平はサッカー部のエースだ。

通常で考えれば、光輝が浩平に勝てるはずがない。

すぐに考えを切り替えた。



「やべー! 慎吾だ!」



 食堂の入り口に向いている席に座っている雄太から声が漏れる。

そんな雑談をしていると、学食の中に慎吾が遅れて登場した。

いつもと学食に来る時間をずらしたようだ。

学食の座席を見回っている。


 雄太も顔を隠すようにして定食を食べる。

武彦も光輝も急いで食事を終わらせる。


 慎吾は通路の真ん中に仁王立ちに立ち、学食へ入ってくる生徒も、学食から出ていく生徒も見張っている。



「俺と雄太が返却口にトレイを置きにいくから、絶対に慎吾は話しかけてくるはずだ。その間に光輝は逃げてくれ」



 そういって、武彦が光輝のトレイも持って席から立ち上がる。

それと一緒に雄太も席から立ち上がって、2人でトレイの返却口へ向かう。


 すると案の定、慎吾は武彦と雄太を見つけて、返却口へ向かって歩いていく。

慎吾が武彦と雄太に話しかけている。

雄太がいつものように慎吾を挑発しているようだ。


 光輝はこのチャンスを逃すことなく、慎吾から離れた場所を通って食堂から抜け出す。

そして後ろを振り返ると、慎吾と雄太が胸倉をつかみ合っている姿が見えた。

いつも挑発し合うだけの2人なのに、今日は過熱しすぎたようだ。

武彦が割って入ろとするが、慎吾の手に押されて、後ずさる。



「2人共、ここが学食だということを思い出せ。公の場での暴力行為は停学につながるぞ」



 光輝は雄太達の所へ戻って、慎吾の腕をつかんで、雄太の胸倉から手を外させる。



「やっと出てきたか。1週間もコソコソとしやがって、探すの苦労したんだ。少し脅してみたら出てきたか」


「それで1週間も探して、一体、俺に何の用なんだ? 俺から慎吾には全く用はないんだけどな」


「お前に用がなくても、俺はお前に用がある。ひまりのことだ……やはり納得がいかない。お前のようなひ弱な男子にひまりは不釣り合いだ」



 それは体格が良くて、筋肉隆々で、腕っぷしもいい慎吾こそが、ひまりの彼氏に相応しいと言っているようなものだ。

ひまりを誰にも渡したくないのだろう。

それにしても、ひまりは厄介な者達ばかりに好かれているように思うのは、光輝だけだろうか。



「それを決めるのは、ひまりの気持ちだろう。俺からひまりに迫ったわけじゃないぞ。勘違いするな」


「この世は強い男がモテるんだ。それが男女の性質なんだ」


「お前、小さい頃から、モテたことないだろう」



 思わず武彦が慎吾の言葉に突っ込む。

その言葉を聞いて、慎吾は俯いたまま、顔を真っ赤にして厳つい顔を深める。

武彦はその顔にビビッて、雄太の後ろに逃げ込む。

慎吾は武彦から視線を外して、光輝を睨む。




「放課後に校舎裏の空き地へ来い。そこで決着をつけてやる。お前にはひまりは不似合いだ」


「俺が逃げたらどうする?」


「お前が逃げたら、2年A組のクラスへ突撃してでもお前を捕まえる。もう手段を選ばん」


「わかった。逃げないでおこう。ただ場所だけ変えてくれ。放課後に自転車置き場でいいか?」


「場所など、どこでもいい。お前がボロボロになるだけだからな」



 確かに筋肉隆々のマッチョである慎吾を相手に喧嘩をしたら、光輝はボロボロになるだろう。

見た目だけで判断すれば、誰でもそう判断する。

光輝でもそう思う。



「逃げるなよ。本気でクラスへ乗り込むからな」


「わかった。逃げない」



 光輝からの言葉を聞いて満足したのか、慎吾は学食から出ていった。

気が付くと、学食にいた生徒達の視線は、光輝達に集中していた。

光輝達が去った後に、噂話になるだろう。


 学食から教室へ向けて廊下を歩く。

武彦と雄太が心配して、光輝に声をかける。



「やっぱり逃げたほうがいいんじゃないのか。教室に乗り込まれても浩平達が何とかしてくれるよ」


「逃げなくていいだろう。俺も一緒に自転車置き場に行ってやる。2人がかりなら慎吾だって楽勝だぜ」


「2人共、今日のことは誰にも黙っておいてくれ。そして助っ人はいらない。俺だけで自転車置き場へ行く。このことは絶対にひまりには内緒にしてほしい」



 ひまりに聞かれれば絶対について来ると言い張る。

そして、ひまりが来れば、この問題はまた解決せずに長引くことになる。

それは本意ではない。



「雄太も黙って、ついてくるなよ。武彦……雄太を絶対に来させないでくれ。巻き込みたくない」



 本当は慎吾の相手などしたくない。

しかし相手が逃がしてくれない。

これは仕方がないことなのだろう。

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