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10話 体育の授業

 4限目が体育の授業だ。

学生の人数の都合もあり、2年B組との合同で体育の授業は行われている。

今日は2年B組との混合でチーム分けをされた、サッカーの試合だ。


 休憩中に体育のジャージに着替えて、運動場へ集合する。

男子がグラウンドを占拠するので、女子の授業はマラソンのようだ。


 多くの女子はマラソンもせずにフェンスにしがみついて、男子生徒を応援している。

光輝、雄太、武彦の3名は2年B組との混合グループの紅組になった。

浩平達のグループは白組だ。


 先生のホイッスルが鳴り、試合開始。


 さすがに雄太は陸上部だけあって足が速い。光輝はボールを蹴って雄太にボールを回す。

雄太は左サイドを突っ切って、相手チームのペナルティエリアまでボールを持っていく。

しかし3人のディフェンダーに囲まれて、仕方なく、ゴールエリア近くに駆け込んできていた武彦にパスを出す。

 パスは大きく外れて、武彦の頭上を抜けていく。



「雄太……パスは上手く出してくれよ……俺の頭を超えていったぞ」


「俺は走るのは得意だが、パスを出すのは苦手なんだから仕方がないだろう」



 ボールがゴールラインを超えたので、白組のボールとなる。


 サッカー部に所属している浩平にボールが集中する。

そのことがわかっているので、浩平に回ってくるパスをカットする。

浩平はパスをカットされる度に少しイラついた顔をする。


 中央でパスをカットして、縦にパスを出そうとするが、誰もまだ走り込んでいない。

しかたなく、自分でボールをもって中央を駆け走る。

浩平が体を寄せてきて、誰にもみられないように光輝の脇に拳をいれる。

そして足をひっかけるようにして、ボールを取り返す。



「これは本式の試合じゃない。ラフプレイの必要はないだろう」


「どんな試合でも本気を出すのが僕のスタイルだよ。特に君に負けるようなことはしたくない」



 そう言って、浩平は光輝からボールを奪い去っていった。

浩平の言っていた、特に光輝に負けたくない……その言葉が妙にひっかかる。


 互いに0対0のまま前半戦を折り返す。

互いにコートを入れ替えて試合開始。

光輝がボールを持つと執拗に浩平がマークしていくる。

それもラフプレイ、ギリギリのところを攻めてくる。

それでも必死にボールを守り、雄太へロングパスを通す。



「どうして俺に絡むんだ……浩平はクラスでも人気者だろう。俺に絡む理由はないはずだ」


「お前に俺の夢を教えてやるよ。俺はこの2年生で生徒会長選挙に立候補して生徒会長になるつもりだ」



 だからクラス委員長にもなって、クラス全体を引率しているのか。

これで浩平の秘密の1つがわかった。



「別に勝手に狙えばいいんじゃないか」


「俺は俺より上にいる人間が気に入らない。常に上に立っているのは俺だ」


「お前のような影が薄い者に、ひまりは似合わない。ひまりが似合う男子は俺だ。ひまりは俺の隣にいてこそ輝く」



 浩平が自己顕示欲で主張の強いタイプだということがわかった。

ひまりが不幸になる。

それだけは絶対にさせない。

こんな相手にひまりを任せるわけにはいかない。



「それはお前の勝手で傲慢な思いあがりだろう。ひまりの気持ちを全く無視しているぞ」


「クラスの中心で、常にトップの俺に惚れるのが、女子としての幸せなんだよ……それなのに、ひまりの奴は俺のことを無視する。そんなことが許されると思っているのか。絶対に許せない」



 ひまりが光輝に好意をもって近づいていることが気に入らないらしい。

それにしても浩平は全く、女子の気持ちを理解しようとしていないことに気づく。

浩平は常に自分に利益が回ってくるように、行動するタイプの人間らしい。



「お前がどんな人間かなんて、俺には関係ない。でも、ひまりを狙うのはやめてもらおうか。ひまりはお前のお飾りになるような女子じゃない。ひまりを泣かせるようなことがあれば許さないぞ」


「お前は、いつか、ひまりに愛想を尽かされて、捨てられる身なんだよ。そして、ひまりは俺の魅力の虜になるのさ」


「お前の妄想に付き合う気はないが、お前は1度敗北したほうがよい性格のようだな」


「お前みたいな実力も能力もない者が。俺に勝てるはずがないだろう。今日の試合も俺には勝てない」



 浩平と並走しながら、敵ゴールの近くへと走り込む。

パスを出す相手に困っていた、雄太が光輝にパスを出す。

浩平が光輝の肩に手をかけてジャンプしようとして、パスをカットしようとする。

光輝は体の力を抜いて、体を屈めて、浩平の邪魔をして、ボールの落下地点へ向かう。

そしてワンタッチでボールの勢いを抑えて、ボレーシュートを放つ。

ボールは弧を描いて、敵ゴールに吸い込まれる。



「お前がそういう性格なら、俺も容赦はしない。俺の仲間やひまり達に手を出すな。これは忠告だからな」


「それじゃあ、俺からも忠告しておこう。既にクラスは掌握した。俺に盾つかないほうがいいと言っておく」



 試合が再開される。ボールを持った光輝を執拗に浩平が妨害する。

激しいボディアタックまでしかけてくる。

それを光輝は体で弾き返して、浩平を驚かせる。


 途中で武彦にパスを通して、光輝はゴール前に走り込む。

武彦からのパスが光輝に飛んでくる。

浩平は光輝の前に立って、パスを通さないように壁になる。

その浩平の両肩に手を置いて、全身の力を使って、浩平の壁を崩して、パスを受け取る。

そしてドリブルで3回ボールにタッチして、キーパーのいない方向へシュートする。

ボールは敵のゴールに突き刺さる。


 体育の授業は2対0で光輝達のいる紅組が勝った。

フェンスの向こうから、ひまりが大きな声で声援している。



「やったねー! 光輝……2ゴール! 恰好いい……大好き―――!」



 崩れている浩平に向かって、光輝は声をかける。



「浩平が何をしようと勝手だよ。だから俺の仲間達には手をださないでくれ。ひまりのことは諦めろ」


「お前は何者なんだ? ただの影が薄い奴じゃなかったのか。今のところはお前の仲間と、ひまりには手を出さないと約束しておこう。お前が不気味だからな」



 体育の授業が終わって、グラウンドから出る。

ひまりが走ってきて、ジャンプして光輝を抱き寄せる。



「今日の光輝、すごく格好良かった。いつもとは別人みたいだった。いつもの光輝も好きだけど……恰好いい光輝も大好き」



 ひまりは天使のように輝いた笑顔を浮かべて、光輝を抱き寄せる。

優しくひまりの肩をポンポンと叩くと、ひまりは光輝の胸に顔を埋めた。

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