1話 プロローグ
密閉された部屋の中へ警官隊が突入した。
部屋の中には椅子に括り付けられている少女が1人泣いている。
犯人は警官から盗んだ拳銃を所持していて、突入してきた警官隊にむかって銃口を向けている。
「落ち着け。お前の誘拐は失敗に終わった。このまま観念して投降しろ。そのほうが罪が軽くなるぞ」
警官隊の1人が犯人の説得に声をあげる。
犯人は警官隊のほうを向いたまま身動きができない。
その間に、警官隊の中から男女1名ずつが、静かに足音を消して、犯人の背後に回る。
そして椅子に括り付けられている女の子の縄を急いで外す。
女の子はさるぐつわをされていたが、今、それを外して、女の子に騒がれてもマズイ。
警官隊の男女は椅子から女の子を解放し、女性警官が優しく抱き上げる。
「もう大丈夫だからね。落ち着いてね。大きな声を出してはダメ。守れるかな」
女の子は素直に首を縦に頷いた。
その落ち着いている様子を確かめてから、少女のさるぐつわの紐を外していく。
さるぐつわが外れると、女の子は安心したのか、女性警官の胸で泣き始めた。
その声を聞いて、犯人が少女のほうを振り向く。
既に男女の警官に少女が助けられた後だとわかると、犯人は冷静さを失って狼狽する。
少女めがけて、拳銃を発砲した。
男性警官は両手を広げて、女性警官と女の子を身を挺して守る。
そして喉に致命傷の1発をもらう。
男性警官はその場で両手を広げたまま、大の字のまま倒れた。
女性警官は女の子を背中に隠して、自分も携帯していた拳銃を抜いて、犯人に発砲する。
犯人も女性警官に向かって発砲する。
犯人の腕から拳銃が弾き飛ばされる。
体は防弾チョッキで防いでいたが、顔面は防げていない。
女性警官の右顔面が銃撃によって吹きとぶ。
それでも女性警官は少女を守るようにして、体全身で少女を守る。
警官隊達は、拳銃を失った、犯人を羽交い絞めにして拘束する。
捕らえられた犯人の顔から、観念の表情がにじみ出る。
「ひまりちゃんに怪我がなくてよかったわ。私にもひまりちゃんと同い年の息子がいるの。ひまりちゃんを守れてよかったわ」
そう言ったのを最後に女性警官は目をつむって何も言わなくなった。
先に大の字に倒れた男性警察官は喉から血を吹き出させて、そのまま倒れている。
ひまりは女性警察官に抱き着いて泣きじゃくる。
それを他の女性警察官が引き離して、他の警察官の元へと連れて行く。
「あの警察官の2人は大丈夫なの?」
「これから救急車がくるから大丈夫よ」
女性警察官はひまりを落ち着かせようと声をかけるが、顔から涙があふれている。
ひまりでも、あの女性警官が助からないだろうことが伝わってくる。
「ひまりが捕まらなかったら、こんなことにならなかったんだよね」
「ひまりちゃんが悪いんじゃない。あの犯人が悪いんだよ」
ひまりは大勢の警察官に守られながら、銃撃戦の現場を離れた。
ひまりが7歳の時の出来事だった。